Myストーリー : 鈴木 由宇様

2011年04月28日(木)

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エンジニアの使命

鈴木 由宇様(すずき よしたか)

構造計画研究所 勤務
2008年 東京大学大学院 工学系研究科航空宇宙工学専攻 修士卒

予測的中!

大学では人工衛星の故障診断を研究した。普段の業務では、そこで学んだデータマイニングという手法をマーケティングに応用して人間行動から得られたデータの分析や、人間行動のシミュレーションを行っている。
2010年7月に大学での研究が応用できる仕事がきた。大規模構造物の時系列データから故障可能性のある箇所を事前に検知する。故障箇所は突然変形するが、既存データを調べて類似パターンを見付ければ事前に検知できる。人間の目では微妙な違いは見抜けず、データ量も膨大だ。それをコンピューターで見付ける。必死になって知恵を絞り、時間方向で足りないデータをどう補うか考えた。空間方向のデータを最大限活用し、社内の耐震技術の専門家と協業し、見事検知は高い確率で成功した。やりがいのある仕事だった。
 

宇宙の声

父が航空自衛官だったので空を飛ぶことには興味があった。航空宇宙工学の勉強ができる大学ということで東大を受験したが1年目は残念ながら失敗し、21世紀初の浪人生になってしまった。
2003年、大学2年の夏に中須賀(真一教授)研を見学に行った。大学初の衛星CubeSatをロシアで打ち上げた直後でみな興奮していた。宇宙から衛星の声が聞こえると騒いでいた。「東大にこんな研究室があるんだ。行くしかない。」と思った。顔を覚えてもらうために「何か手伝わせてほしい」と頼み込み、シミュレーターの操作からスタートした。授業に行きながら研究室に通い無事4年の時に入ることができた。
 

ロケット愛好家と人工衛星

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4年の時に研究室の同期と米国に行った(写真左端が私)。場所はネバダ州の砂漠。1年に1度ARLISSというイベントで、アメリカのロケット愛好家が集まる。高度4kmまでロケットを打ち上げ、そこに載せたCanSatと呼ばれる小型の人工衛星の模型をパラシュートで落として目的地点に向かって走らせ正確性を競う。写真ではみな笑っているが3日間ろくに寝ていない。私は通信・回路設計を担当した。疲れるとイライラしてお互いの仕事に文句を付ける。エンジニアには技術力だけでなくチームワークが重要だと思った。
実際に宇宙まで行くPRISMという衛星も作った。宇宙で、望遠鏡が付いたカメラと小型のカメラを使って撮った地球の画像を、アマチュア無線を使ってダウンロードする。実験のために午前0時集合とか、あまり後輩にはまねさせたくない学生時代だったが、チームで働く能力と思想を養えた。

エンジニアの使命

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学問知を社会に役立てるのが当社の仕事。当社の社是が「産学ブリッジ」。これを御題目ではなく個人レベル、部レベル、会社レベルで実現したい。エンジニアの使命は学問知を人間の暮らしに役立てることだ。自分は研究者にはなれないかもしれない。ただ、実社会の問題に対して「この問題にはこの分野のアルゴリズムが使える」など、応用分野の目先を変えることによりピタッとお客のニーズにはまる研究ユニットの適用・応用を提案できる。また、お客のニーズの聞きだしや提案を有効に行うために、東大講師の一色正彦先生の下「交渉学」をシャドーワークとして学び、日々研さんしている。
自分の目標は新しい理論をどんどん世の中で使っていくことだ。西成(活裕)先生は「理学があって工学があって実学があるがそれぞれの間にギャップがある。工学を飛ばして理学と実学を結び付けたら面白い。」と言われる。自分も工学を勉強しているが、理学にも近付きたい。具体的には統計学を究めたい。そうしていけば世界が広がると思っている。

尊敬する先生たち

一人は恩師である中須賀先生。「宇宙に行くのはお金が掛かる。だからコストは安くしないといけないし、外部に向かって研究目的を明確に説明できなければならない。」エンジニアリング思想の軸を教えてくれた。もう一人は西成先生。「実学に対して理学を当てはめる」「観察するとはどういうことか」「シミュレーションとはどういうことか」などなどの方法論を教えてくれた。
私は研究者とエンジニアの間に位置するエンジニアリングコンサルタントになりたい。その意味でフォン・ブラウンや、はやぶさの川口淳一郎先生を尊敬している。彼らは工学の理論にたけている。そしてどちらも大きなプロジェクトをまとめ上げる力を持っている。
 

大学への寄付

寄付するきっかけになったのは東京大学渉外本部の安藤晴夫氏との出会い。当社のオフィスで社外の人との朝食会を上司が主催しており、自分は世話役をやっていた。そこで安藤氏が「東大は他大学に比べて寄付が少ない」という話をされ、初めて大学への寄付を考えた。大学時代に研究のためのお金が少なくて苦労した。自分を育ててくれた東京大学に恩返しをしたいと思う。その上司が常々言っている通り、人とのご縁を大切にしたい。今はまだ28歳で1回に寄付できる額は小さいが、積み重ねるとどんどん大きくなる。コンスタントに寄付をすることは大事だと思う。また寄付だけでなく、有形無形の貢献ができたら望外の喜びである。

聞き手:廣瀬 聡(渉外本部シニアディレクター)
※肩書きはインタビュー当時のものです。