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玄田 有史助教授

写真:玄田 有史助教授
玄田 有史助教授

東京大学社会科学研究所助教授
2006.1.31更新
研究テーマ
  • 若年無業者についての研究
  • 学校における職業教育についての研究
  • 労働市場での雇用創出メカニズムの研究
プロフィール
1964年島根県生まれ。1988年東京大学経済学部卒業。東京大学大学院経済学研究科第II種博士課程を4年で退学、1992年に学習院大学経済学部専任講師。その後、助教授、教授などを経て、2002年より現職。2002年に経済学博士(大阪大学)。「仕事のなかの曖昧な不安」(中央公論新社、2001年、日経・経済図書文化賞受賞、サントリー学芸賞受賞)、「ジョブクリエイション」(日本経済新聞社、2004年、エコノミスト賞、労働関係図書優秀賞)「働く過剰」(NTT出版、2005年)など、若者や雇用に関する著書多数。労働政策審議会能力開発分科会委員、経済財政諮問会議専門委員なども現在務める。データを用いた実証分析の他、企業や自立支援組織などへの調査なども実施。ちなみに、仕事をする目的は楽しい「打ち上げ」をするためだとか。

研究にひたむきな指導教師の
背中を見て、研究者を志す

もともと数学が好きだったんです。複雑な経済現象を、数学的な論理展開で明快に解き明かしていく過程に興味がありました。安易な解釈を吹き飛ばすような経済学の奥深さも魅力。でも、まさか自分が学者になるとは、学生の頃は夢にも思いませんでした。大学院に進学したときも、優秀な先輩や仲間のなかで、自分はこれから大丈夫なんだろうかと、かなり焦ったりしました。

その当時、日本は好景気でバブル経済に向かっている頃。労働経済上の深刻なテーマといえば「働きすぎ」ぐらい。そんな環境の中で、学部生時代のゼミの先生で大学院でも指導教官としてお世話になった石川経夫先生(1998年故人)は、日本の社会に密かにすすみつつある「二重構造」の存在をいち早く指摘していました。それは今でいう「下層」「下流」と「上流」といった社会の分段化が進みつつあることに警鐘を鳴らすような先駆的な研究でした。先生の姿は、仮にその時代のなかで誰も見向きもしないとしても、時代を超えて重要な問題の解明を愚直なまでに真剣に考えるのが経済学だとその生き方で示されました。

私は先生ほど誠実な研究者にはゼッタイになれないです。周囲からはっきりと「研究者には向いていない」と言われたこともありました。むしろ気遣いなどは、ホテルなどのサービス業に向いているらしいです(笑)。私にはよくわかりませんが、でもそれが本当に私自身の特性だとすれば、それを活かした学者になりたいですね。そうすれば学者として希少価値もあるし、おもしろい研究もできるかもしれません。それが結果として、何か社会に役立つ力になればいいと思っています。

若者問題の裏に潜む
社会や経済の構造に着目

15年ぐらい前から、フリーターという言葉が流行り始めました。失業や転職する若者が増え、世間では若者の「意識の低さ」「意欲の弱さ」などのせいだと言われました。私はそれが嫌だなという感覚があったんです。経済学的に考えれば、若者が非正社員になるのは、個人の特性や資質に関わるのではなく、社会の構造や経済のしくみが生み出した結果にすぎない。そんなふうに考えるのは、社会で起こっている現象に対して、個人の意識や性格などのせいだと安易に決めつけてはいけないという教育を、私が受けてきたからだと思います。

今取り組んでいる「希望」や「ニート」の問題にしても、よく「それは個人の心の問題」と言われます。でも、果たして本当にそれだけなのでしょうか。若者の失業に関しては、中高年の雇用を守ることを目的に、若者の働く機会が奪われている現状もあるんです。ニートに関しても、「人づきあい」が自分は出来ないと感じさせる何らかの社会状況があるのかもしれない。「即戦力」を求め、人材育成の責任を果たそうとしない社会にも問題がある。

かつて、男女共同参画に関する政府の委員をしていたこともありますが、女性の雇用問題に関しても、女性は「すぐ辞める」とか「働く意欲が低い」といった、ステレオタイプの決めつけが、そこにも根深くあることを実感しました。繰り返しますが、個人の意識、意欲、能力などだけで、社会問題を語ることは出来ません。だからこそ、十分な調査や研究を積み重ねて原因を探り、新たな提言をしていくことが大切だと考えています。

「わからないこと」に対して
タフである人材を育てたい

今は研究者であるとともに、教育者の立場ですから、目の前にいる学生をいかに育てるかが一番の使命だと感じています。研究者になるにせよ、社会に出るにせよ、大切なのは「わからないこと」へのタフネス(たくましさ)を持った人材を育成することが大学人の一人としての使命だと思っています。「わからないこと」に対するタフネスを持った人材とは、困難な壁に直面してもすぐに逃げ出さないで、粘り強く問題にファイトできるための基本が身についている人のことです。

最近、大学に求めるものとして、卒業後にすぐ企業で通用する実践的な資格や技能を持った即戦力の輩出が挙げられることがあります。しかし、個人的には、社会ですぐ通用する「即戦力人材」を市場に供給することが大学教育の目的ではないと確信しています。

大学4年間の知識・経験だけで通用するほど、社会は甘くはない。むしろ社会で本当に必要とされるのは、困難な問題を前にして、逃げずに良い意味でジタバタできる力です。簡単には理解できないようなレベルの高い授業の中で、それを理解したいと学生が動機付けされ、必死で教授に食らいついてくる。大学はそんな場であるべきだと思いますし、東大はそんな授業を受けるチャンスの宝庫だと思います。

ありがたいことに大学は、研究にしても人材育成についても、「時間をかけて育てること」がある程度許されている場だとも思います。そのお返しとして、社会の動きを捉えながら、将来を見据えた普遍的なテーマに取り組み、成果を地道に出していければと思っています。例えば、私の所属する社会科学研究所が今取り組んでいる「希望学」の原点もそこにあります(詳しくはホームページをご覧ください)。社会現象の表面だけではなく、社会の声なき声をつかむために、いろいろな人と触れ合うこと。仮説・調査・検証を地道に繰り返し、社会に対して常に問題提起をして、解決のための提言をしていくこと。それが私たちの「社会へ提供できる価値」だと思っています。

オススメ コラム

『自分の中に毒を持て』(青春出版社)
芸術家・岡本太郎さんが亡くなる3年前に出版された本。
自分の人生を振り返って、「迷ったときにはリスクのあるほうに挑戦しろ」と訴えかける熱いメッセージ。
「元気や自信がなくなったときに読むといいですよ。私も20代のとき岡本太郎の作品や本には励まされました」との推薦の言葉。

※肩書きはインタビュー当時のものです。

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