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浅島 誠教授

写真:浅島 誠教授
浅島 誠教授

東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授
2007.1.31更新
研究テーマ
発生生物学
  • 「卵から幼生への形づくり」~実験形態学から分子生物学
  • 器官形成の発生生物学
  • 細胞の増殖と分化の分子生物学的研究
プロフィール
1944年新潟県生まれ。昭和42年 東京教育大学理学部卒業。昭和47年東京大学理学系大学院博士課程修了(理学博士)。ドイツ・ベルリン自由大学分子生物学研究所研究員、横浜市立大学文理学部助教授、教授を経て、平成5年に出身校である東京大学に戻り、教養学部教授に就任。平成8年には東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授に就任。平成15年2月から平成17年2月まで総合文化研究科長・教養学部長。地元は新潟県佐渡市。幼い頃、絶滅寸前のトキの美しさに感動。トキを絶滅させたくないという強い思いと、種の保存に関する興味が、生物学者への原点。

大学時代に読んだ本をきっかけに
生涯の研究テーマを見つける

幼い頃から、昆虫や植物採集が大好きでした。卵が孵化しておたまじゃくしになり、やがてカエルになる。その発生過程を見て、幼心に「生物はうまくできている」と驚いたものです。さまざまな生物に触れ、その理由を考えるだけで、ワクワクしましたね。次第に生物学への興味は高まっていきました。

大学卒業後は、その楽しさ、おもしろさを伝える手段として、高校教師を目指しました。ところが生徒が求めるのは、受験対策の勉強ばかり。教育現場では、おもしろい授業よりも「わかる授業」が求められていました。でもそれは、私のやりたいことじゃない。そこで私は教師の道を諦め、科学者の道を選びました。

ちょうどその頃、『発生生理学への道』というシュペーマンの自伝を読み、深い感銘を受けました。彼は1924年に、卵から親への形づくりや器官形成において、卵の中にすでに形ができているのではなく、発生の過程で形づくりのセンターが未分化な細胞に働きかけてできることをみつけ、形成体(オーガナイザー)の存在を明らかにしました。しかし、未分化細胞に作用する「誘導物質」の存在は、多くの人々の研究にもかかわらず証明されていない…。私は「これだ!」と思いました。何としてもそれを発見したい。今思えば、私はこの時、生涯の研究テーマに出会えたのです。

しかし、世界中の生物学者が50年以上かけても、結果が出ていない大きなテーマです。当然、周囲は猛反対でした。しかし諦めきれない。「一生を棒に振ることになるかもしれない。でもどうしてもやりたいなら、やってみろ」。そんな指導教官からの励ましの言葉を受け、私はまずドイツ・ベルリン自由大学へ渡独。2年半研究をした後日本に帰国し、横浜市立大学の助教授に就任しました。ここで「誘導物質」の存在を求めて、15年以上に及ぶ研究生活を送ることになるのです。

世界中の生物学者が探し求めた
「アクチビン」という誘導物質を発見

横浜市立大学には大学院がなかったため、助手もいない、大学院生もいない、研究費もないという状況。でもその分、研究に必要な「自由な時間」に非常に恵まれました。授業を終え、たった1人で研究する日々。カエルの皮膚、骨髄、ヒーラー細胞、ニワトリ胚、フナの浮袋など、研究に使った物質は100種類以上。そこから物質を抽出し、濃度や温度、組み合わせを変えるなど、ありとあらゆる実験を重ねました。

その間、指導教官や科学者仲間からは、「もう止めた方がいい」と何度もアドバイスされました。そんな私のことを心配してくれたからです。「誘導物質は存在しないのではないか」。学会や科学者の間ではそんな雰囲気があり、学会に出席しても全く見向きもされない。しかし私は、全く気にしませんでした。誰が何といおうと、誘導物質の存在は、私の中では確信に近い信念だったからです。

そしてついに、未分化細胞を形づくるセンターである脊索に導く「アクチビン」(たんぱく質の一種)の存在を発見したのです。1989年のオランダの国際学会での発表後、イギリスやアメリカなど海外の科学者たちが追試験を実施し、その存在が実証されました。小さな日本という国の、たった1人の科学者の成果を世界中が受け入れてくれること、自分の研究成果が日付とともに残ることは、非常にうれしいものでした。

さらに長い研究生活の中で、私には新たな夢ができていました。誘導物質を利用し、未分化細胞から心臓や筋肉などの臓器を生成することです。「筋肉のような複雑な器官が、単一たんぱく質からできるはずがない」。そう言われたこともありましたが、その後の研究によって、試験管の中で22個の人工器官形成に成功しました。これらは生体移植も可能であり、正常に機能することが明らかになっています。
将来的には、基礎科学を更に深めて移植医療への応用も視野に入ってくるでしょう。

研究活動は一種の知的冒険。
自らの意思で楽しむことが大切

細かな研究を続ければ続けるほど、さまざまな生物の複雑な現象に出合います。それは非常に微細で美しく、一種の芸術ともいえるものでしょう。役に立つかどうかではなく、それを純粋におもしろいと思える感性。それが、生物学者には必要です。それをきっかけにして、生物の持つ特殊性・普遍性を分子レベルで理解することが、結果的にヒトという生命体への新たな理解につながっていきます。ですから、基礎研究というものは非常に重要なのです。

私は早くから自分なりのテーマに出合えた上に、結果を出すこともできました。しかし結果を出せるかどうかは、一種の運もありますし、研究分野にもよるでしょう。ですから、最終的に結果は関係ないと思います。次世代に受け継がれ、そこに少しでも寄与でき、基礎事実を築くことができるならば十分という考え方もあると思います。

先端かつ最新の研究テーマを追うことも、悪いことではありません。しかし私はそれを本物の科学とは思いません。研究活動は、一種の知的冒険です。根源的なことに興味を持ち、自分のアイディアや感性を最大限に発揮しながら、世の中を見ていくこと。最新の技術・情報を駆使しながら、何を解決すべきかを自らの頭で考えること。それが真の科学者の姿です。自分で夢を持って、楽しく研究することが必要だと思います。その楽しさを、次の世代に伝えたいと思っています。

母校としての愛着を持てるかどうか。
重要なのは「教員と学生の信頼関係」

大学というのは、研究機関であると同時に、学生の「学び舎」です。「この大学で学べてよかった」「大学によって自分は育てられた」という卒業生を何人出せるのか。社会に出て失敗をしたとき、苦しんだとき、自然と「戻りたい」と思える場所であるかどうか。その実現に必要なのは、教員と学生の信頼関係だと思います。

もちろん、最も大切なのは学生の「学ぼう」とする意思です。しかし、学生の意欲を高められるかどうかは、教員の力量でもあります。「この先生から学びたい」「このおもしろい授業を受けないのは、自分がソンをする」。そう学生に思わせられるかどうか。自分の授業に誇りを持ち、研究の楽しさを学生に伝えられるよう、私を始め大学の教員は努力する必要があると思っています。

東京大学は日本の最高学府として、「真のエリート」を育成・輩出してきました。しかしどこかで「東京大学の学生は優秀だから、放っておいても問題ない」という甘えが、私たち教員の中にあったような気もします。学生に対する対応やケアが手薄だったのかもしれません。母校としての愛着が持てるような環境作りと教育内容を整えることも、今後の大学改革において重要な点の一つだと思います。

オススメ コラム

『種の起源』 チャールズ ダーウィン(岩波書房)
進化論を確立させたチャールズ ダーウィンの著作。読んだことはなくても、聞いたことがない人はいないはず。「物事をよく見て、いろいろな知識を網羅し、自然科学分野にとどまらず、社会的にも文化的にもさまざまなものの見方をしていることがわかります。ぜひ1度、読んでみてください」との推薦コメント。

※肩書きはインタビュー当時のものです。

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