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十倉 好紀教授

写真:十倉 好紀教授
十倉 好紀教授

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授
2007.1.31更新
研究テーマ
物性物理学、応用物理学
  • 「強相関電子物性」
  • 次世代フォトニクス材料など
プロフィール
1976年3月 東京大学工学部物理工学科、1981年3月同大学大学院工学系研究科物理工学専攻 博士課程修了。東京大学工学部物理工学科助手、講師を経て、1986年同大学理学部物理学科の助教授に就任。1995年4月、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授に就任。2001年4月からは、産業技術総合研究所 強相関電子技術研究センターのセンター長も務める。仁科記念賞、朝日賞など豊富な受賞歴があり、2003年には、一連の物性物理学研究の業績が評価され、紫綬褒章を受章。ノーベル賞候補に挙がるなど、物性物理の研究分野における世界的リーダーの1人。
  • 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授
  • 産業技術総合研究所強相関電子技術研究センター長

「人類を救うヒーローになりたい」。
そして少年は、研究者を目指した

小学生の頃、伝記に出てくるようなヒーローに憧れていました。なかでも、研究者によるウイルスの発見によって、人類の命を救ったというような話に感動しましたね。未知の領域を開拓し、人類の発展のために貢献する。そのような研究者の姿が私にとって一番のヒーロー像でした。ですから「将来は立派な学者になりたい。学者といえば物理だ」と常に思っていました。

でも、大学に入って3年間はつまらなかったですね。自分の夢を叶えるには勉強しなきゃならない。でも、勉強は難しいしおもしろくない。しかも周りにいるのは、自分より優秀な人間ばかり。正直言って、研究者になるのは難しいかもしれないと思いました。ところが研究室に入った途端、勉強が楽しくなり始めたのです。

研究室に入ると、理論だけではなく実践が中心になります。自分が手を動かして、実際にいろいろな研究をしてみると、新しい発見に出合えるものなんですね。「この分野に関しては、ひょっとしたら世界中で、一番自分が詳しく知っているのではないか」。研究者なら誰しもが、そう思える瞬間があるはずです。

それは、非常に小さく狭い世界での話かもしれません。しかし、コツコツ一生懸命頑張れば、世紀の大発見をするチャンスもある。尊敬する先生方よりも先に、それを自分が手にするかもしれない。そのための手段と考えれば、勉強も苦になりません。どんなにつらくても、それを上回る楽しさが待っていると、私は実感することができたからです。

特に物理科学の世界は、社会の産業構造や人々の生活様式を、革命的に変えるようなことが起こりえます。レーザー、コンピュータ、半導体なども、根本原理はすべて物理の世界。基礎的な研究を重ねつつも、それが結果的に社会との大きな接点につながっていく。
それが、この学問の大きな魅力の一つだと私は思います。

複数の電子の動きを制御をする
「強相関電子系」の魅力と可能性

当時の主な研究テーマは、半導体の光物性でした。半導体に光を当てたときの現象やその変化、半導体の物性変化などを調べることが中心です。私は自らの関心でどんどんテーマを広げていくタイプの人間で、その後は、ポリアセチレンのようなポリマーや有機化合物など、当時としてはフロンティア領域の研究を手がけるようになり、やがて「強相関電子系」や物性研究に取り組むようになりました。

一般的に電子とは、光や音と同じような一種の波動だと考えられています。しかし、例えば電子の量を膨大に増やしてみると、電子自身が持つマイナスの電荷によって、波動ではなくまるで粒子のような振る舞いを見せます。つまり、電子同士の動きが互いに制御され、自由に動けなくなってしまうのです。このような、電子同士が互いに強い相互関係を持つ電子集団を「強相関電子系」と呼んでいます。

強相関電子は、外部からの刺激によって制御することが可能です。例えば、磁場・電場や光はもちろん、電子数の増減によっても、相関の強弱は変化します。すると電子の性質も大きく変化。絶縁体から金属に変化したり、固体・液体、液晶化などの相転移が起こります。本当に一瞬で、劇的な物性変化が起こるんですよね。これが画期的な物性や機能の発見へつながっていくのです。

例えば強相関電子の集団を利用すると、磁場によって電気抵抗を1000分の1にまで激減させる「超巨大磁場抵抗」や、かなりの高温状態において、電気抵抗が消失する「高温超伝導」などの現象を引き起こすことができます。こういった現象は、新しいエレクトロニクスを生み出す新たな原理として、企業から大きな注目を集めています。

私が取り組んでいる一つに、電子のスピン構造に関する研究があります。磁石など、固体中の磁性を主に担っているのは電子のスピン。このスピンの方向や傾き、空間的配置を自由に操ることができれば、新たな磁気電子特性、磁気光学特性を発現させることが可能です。そこで、まずは理論的に設計された新たな物質を作り出し、それにさまざまな外部刺激に与え、その現象変化に関する研究を重ねています。結果次第では、超高速かつ大容量の次世代情報処理技術への応用・展開が可能になるでしょう。

また強相関電子は、熱を電気に変える熱電効果が高いと言われています。それがうまく証明され、実用化することができれば、効率よく空気を冷たくすることが可能なクーラーを製造できるかもしれません。コンプレッサーも不要、フロンも不要ですから、これほど便利なものはないでしょうね。

効率重視・近視眼的な発想は不要
大切なのは「未知の世界への好奇心」

半導体物理学の長い歴史の中では、固体中にあたかも1個の電子が存在するかのような仮定の中で、いかに波動をコントロールするかといった研究がされてきました。しかし、もともと電子は内部自由度を持つ系ですから、多数の電子が示す多様性に関心が向くのは、科学技術の必然ともいえるでしょう。「強相関効果という、新しい原理に基づいた科学技術を創ろう」。そう意欲を燃やしている人も、私の他にもたくさんいます。

それにも関わらず、私たち人類は、その中のごくわずかな効果しか利用できていません。もちろん、理論上では可能なこともたくさんあります。しかし、そう簡単に解明することも、実用化することもできません。そのために世界中の研究者たちは、知恵をしぼり、日々研究を重ねているわけです。

血税を使って研究する以上、成果に対する責任は常に感じています。しかし残念ながら、常に成功するとは限りません。長年の勘のようなものが働いて、どんなに自信を持ってやった研究だとしても、最終的にはやってみないとわからない世界です。もし失敗したとしても、その結果を次に活かすべく、好奇心を持って常に挑戦し続けるのが研究者のあるべき姿だと思います。

無限の可能性を探るためには、常識の範囲を超えるような発想や着眼点もバカにできません。研究者同士が活発に議論し、会話を楽しめるような、多少の「遊び」は必要だと思います。あとは、過去の論文を読んだりすることでしょうね。昔に比べて今は研究スピードがかなり上がっていますが、効率重視・近視眼的な姿勢では、成果を出すのは難しいでしょう。

指導する学生たちにも、それと同じことが言えます。研究は、自らの意思や興味・好奇心などに導かれて行うものです。だからといって「放っておけば何とかなる」というのは、指導側の怠慢に過ぎません。長期的視点から個々人の興味・関心を探り、モチベーションを維持し、それを高めるようサポートすることが大切だと思っています。

オススメ コラム

「坂の上の雲」(司馬遼太郎)
歴史小説が好きで、司馬遼太郎作品はほぼすべて読んでいるという十倉先生。「学術論文などは、徹底的にムダを省き、明確な論理展開を求められる文章。それに比べると歴史小説以外の書籍は、論理が不明確なものが多く、あまりおもしろさも感じない」と、物理学者らしいコメントをいただいた。

※肩書きはインタビュー当時のものです。

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