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荒川 泰彦教授

写真:荒川 泰彦教授
荒川 泰彦教授

東京大学先端科学技術研究センター教授
2006.1.31更新
研究テーマ
  • ナノ構造を用いて光子や電子を完全に制御するための物理学研究
  • 量子ドットレーザなど次世代フォトニックデバイスの開発研究
  • 量子暗号通信・量子コンピューター用デバイスの基礎研究
  • 有機半導体・分子デバイス(フレキシブルエレクトロニクス)の研究
プロフィール
1952年愛知県生まれ。1980年東京大学工学系研究科電気工学専門課程修了。その後、東京大学生産技術研究所や同先端科学技術研究センター助教授を経て、1993年生産技術研究所教授に就任。1999年から先端科学技術研究センター教授。現在、同ナノエレクトロニクス連携研究センター長も兼任している。1984年から1996年の間は米国カルフォルニア工科大学客員研究員として在外研究。量子ドットの提唱者として半導体ナノ技術やナノデバイスの研究で世界をリードする。江崎玲於奈賞、IEEE William Streifer賞などをはじめ多くの賞を受賞している。情報科学者の妻、本学2年生の息子と小学校4年生の4人家族。数少ない休日は家族と過ごすことが楽しみ。
  • 東京大学先端科学技術研究センター教授
  • 東京大学生産技術研究所教授
  • ナノエレクトロニクス連携研究センター長

技術と科学の融合が生み出す
新たな「ナノテクノロジー」

今はよく「ナノテクノロジーの時代」と言われていますが、その研究範囲は非常に広く多岐に渡っています。そもそも「ナノ」というのは、10のマイナス9乗を意味します。「ナノテクノロジー」は、原子や分子を一つから数百個分の長さを基本単位とした構造を組み上げて新しい世界を創るという科学技術です。特に、私たちは、ナノメートル単位の非常に微細な物質構造を人工的に作り出し、そこに新しい機能を発現させ、新たな概念を構築するといった発展を目指しています。

例えば「カーボンナノチューブ」という、炭素が管状態になった物質があります。あれは材料学の研究者が、炭素物質を顕微鏡で観察しているときに、偶然発見したものです。しかし、今やさまざまな種類のカーボンナノチューブを人工的に作製することが可能になっています。近い将来、カーボンナノチューブは、LSIの配線に使ったり、トランジスタの基本構造やディスプレイあるいは燃料電池に応用されるなど、社会の至るところで、形を変えながら利用されると思われます。材料や構造の発見と、それを利用する技術のキャッチボールが、ナノテクノロジーを発展させてきたわけです。

このナノテクノロジーを駆使すれば、新しい物理現象を生みだすことが可能となります。例えば、ノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈博士は、1960年代の終わりに超薄膜構造を周期的に積み上げた半導体超格子を提案し、この構造を用い電子を人工的に制御することで、新しい物理現象や機能を創出できることを示しました。この場合は、「自然を対象にした科学」というよりもむしろ、「人工構造」を創出し科学するという方が、実態にあっているかもしれません。

電子の動きを自由に制御する
「量子ドット」という新構造を提案

実は、私の大学院時代の専門は「通信理論」でした。しかし周囲の勧めや今風に言えば「社会に貢献するモノ作りがしたい」という思いがあり、本学の専任講師への就任を機にデバイス研究に足を踏み入れることにしました。当時(1980年頃)は、半導体超格子に関する基礎科学技術がきわめて進展した時期です。携帯電話や衛星放送の受信機などに応用されている性能の高い新型トランジスタもこの時期に誕生しました。また光通信やDVDに用いられている量子井戸レーザも同様です。半導体技術が大きく進歩し、ほぼ完全な真空状態を生成する分子線結晶成長装置など、高度な研究機器も登場してきた時代です。

自然界の中では、電子は原子核の周囲を周り、原子に動きが制限された状態でいます。同じ状況を半導体で実現したいと思ったのですね。具体的には10ナノメーターぐらいの3次元空間に閉じ込め、人工原子状態を作り出すことです。それが「量子ドット(量子箱)」という新しい発想です。私どもが発想したのは1982年のことです。

しかし、3次元方向での電子状態の制御は本当に可能なのか。そもそも3次元の超微小構造をどう作り上げるのか。たとえ構造ができたとしても安定性を保つことができるのか。まだまだ多くの課題があり、「量子ドット」の構造は、学会からも疑いの目で見られました。理論的には可能だけれど、誰も実現できない。私も当時は「21世紀に実現できればいいかもしれない」といった、長期的視点で考えていました。

ところが1990年に入って、状況が変わりました。2種類の半導体を上手に結晶成長させると、量子ドットが自然に形成されるという現象を利用することで、「量子ドット」の作製が可能になったのです。テーブルの上に水滴をたらすと水玉が表面張力などによって形成されますね。あれに似た原理です。これによって、電子を自由にハンドリングすることが可能になり、さらに、量子ドットに閉じ込められた多数の電子のエネルギーが同一発光することで、高性能な半導体レーザーを作ることができるようになりました。ブロードバンドの高性能超高速光源としての利用や量子力学の原理を用いた通信やコンピューターのための新しいデバイスの開発など、今後ナノテクノロジーはIT社会に広く寄与すると確信しています。

産業界との二人三脚。
カギとなるのは「ビジョンの共有」と「役割分担」

企業にも基礎研究所があり、基礎研究からアプリケーションの開発まで、企業が一貫してすべてをやっていた時代がありました。大学は、さらにその基礎の研究を行いながら学生を企業に供給するだけで十分という雰囲気。お互いの取り組みに大きなギャップがありました。

ところが1990年代に入り、景気や社会情勢が大きく変化。企業の経営戦略は「研究」よりも「事業重視」に大きくシフトし、次々と基礎研究所が実質なくなりました。事業活動には当然利益が必要ですから、信頼性のある製品を世の中に出して、売らなくてはなりません。しかしその時点で、目の前に存在するマーケットやターゲットしか視野に入らなくなります。未知なる可能性や新しい価値を見出し、提示するのが、我々大学にいる研究者の本来の役割になってくるわけです。

しかし我々はいわば「研究の専門家」であり、売れる製品かどうかの見極めはできません。学術的価値の高いものが売れるとは限らないわけで、すべてを担うことはできません。ですから、ビジョンを共有しながら、基礎研究から市場化による社会への還元までの流れを、企業と大学が役割分担しつつ進めてゆく。相互補完していくのが、一つの理想的な形だと思っています。

例えば今年、東京大学ナノエレクトロニクス連携研究センターは、シャープと組んで、フレキシブルエレクトロニクスの共同研究を行う「東大シャープラボ」を立ち上げました。東大の学術の蓄積や研究手法とシャープの技術や商品開発力を融合するのが目的ですが、内容としては、決して短期的な開発研究ではなく10~20年後を見据えた基礎研究が中心です。うまく役割分担をしながら、一緒になって一つの大きな目標を追っていきたいですね。

国立大学法人化や産学連携の動きなど、大学のあり方は大きく変貌を遂げています。大学全入時代も迫っている中で、それぞれの大学が個性を発揮することが期待されています。グローバル化により高校生も国際的な視点を持つようになってきました。東京大学は、受験生の偏差値が高いことにあぐらをかくことなく、日本を代表する大学として、さらに強い国際的競争力をつけることも必要になるでしょう。そのためにも、最先端で魅力にあふれ、周囲に刺激を与えるような研究を続け、成果を出していきたいと思います。

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※肩書きはインタビュー当時のものです。

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