―先生のこれまでの歩みや研究テーマなどを 教えていただけますでしょうか。―国際ワクチンデザイン・センターの 概要や活動趣旨について教えてください。15研究者インタビュー私は横浜市立大学医学部を卒業後、臨床医になりました。3年半ほど、大学病院や市立病院などに勤務しましたが、ほとんどがER※1や、ICU※2での仕事です。患者さんの心臓や呼吸器などの機能を回復させ、命を救うことが使命なわけですが、残念ながら亡くなってしまう方々の多くは感染症が原因でした。その仕事を続けているうちに、より多くの命を救うためには、感染症や免疫の研究をすべきなのでは?と思うようになり、大学院に戻ることにしたのです。そして、大学院の制度を活用して、私はアメリカ合衆国の政府機関FDA※3に留学する道を選択。マラリアに対するDNAワクチンの研究からスタートし、2年後にはFDAの職員となって、ワクチンの審査業務に携わることになりました。以降5年間ほど、膨大な提出資料と格闘しながらワクチンの安全性をチェックする審査業務に従事したのですが、当時はこの仕事にまったく満足していませんでした。その後、やはり感染症や免疫に関する研究をしたいという思いが募り、日本に帰国して免疫学の第一人者である審良静男先生(大阪大学)に師事しました。振り返ると20年以上ワクチンの研究開発にかかわってきましたが、FDA勤務時代の審査業務によって、英語能力の向上と“ワクチンの安全性”を見極める目を養えたことが、今の私の大きな武器になっています。私の専門は、ワクチンを構成する3つの要素のうちの一つ「アジュヴァント」(アジュバントとも)の研究です。3要素について、わかりやすく説明します。①生体に免疫反応を起こさせる「抗原」、②体内の免疫応答が起こる場所へとコントロールする「デリバリーシステム」、③ワクチンの有効成分の作用を補助、増強する「アジュヴァント」です。私は“ワクチンの調味料”と呼んでいますが、ワクチンの安全性を大きく左右するのが「アジュヴァント」です。ワクチンは高い安全性が求められる予防的医薬品になります。自動車にたとえれば、利用者の命を守るシートベルト、エアバッグのようなものでしょうか。事故にあってから後悔しても遅いのと同様、ワクチンも感染して重症化してから後悔しても遅い、という意味でよく似た意味合いでたとえさせてもらっています。今から10年ほど前、医科学研究所の組織内に設置されたのが「国際粘膜ワクチン開発研究センター」で、私は2019年に同センター長に就任。そして、同センターのリニューアルを進めていた矢先、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックが発生しました。ご存じのとおり、アメリカ、イギリス、中国、ロシアの4カ国が歴史上例を見ないスピードで新型コロナのワクチン開発に成功し、我が国はその輸入に頼るという残念な構図となったわけです。結果、国内では「なぜ日本研究者インタビュー次■■■■■ッ■■100日以内■安全■国産■■■■■「■■■■」■■若手人材■育成■■■近未来ワクチンデザインプロジェクト石井 健 教授東京大学・医科学研究所・ワクチン科学分野 教授同研究所・国際ワクチン・デザインセンター センター長
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