■人間が生態系の中で創造的に持続的な社会システムを作っていけるか?それぞれの場所でどうデザインしていくか?考える活動も生まれている中で、糸状菌の研究はオリジナリティが高い。

--次に「パーマカルチャーについて教えてください。」

宮沢先生)
パーマカルチャーというのは造語で、パーマネントという「永久の」「永続的な」という意味と、アグリカルチャー「農業」、そしてカルチャー、「文化」というのをがっちゃんこした言葉。色々な定義の仕方があるのですが、地球の資源が有限な中で、どうやって人が生態系の中で創造的に、昔の生活に戻ればもちろん持続的なわけですが、昔に戻るわけではなく、今の知識や知恵や技術を統合しながら、いかに持続的な農業のシステム、人の生きていく社会のシステムを作っていくか?と言うのを考え実行していくことをパーマカルチャーと言っています。なので、これがパーマカルチャーです、と言うモデルがあるわけではなく、場所によって資源も違うし、システムも違うので、それぞれの場所でどうやってデザインしていくか?という「デザイン」を非常に重視しているものなんです。

--それは、パーマカルチャーの学会とかパーマカルチャー協会とかいうのがあるのですか?

宮沢先生)
パーマカルチャーは、もともとオーストラリアの学部生の卒論から始まっています。最初にコンセプトがあって、それをひろめたビル・モリソンさんというすごくカリスマ的な方がいらして、その講義を受けた人がみんなパーマカルチャーの活動家になった、という流れなんですけれど。元々はそういうことから始まっていて、そういう組織も作られています。

--糸状菌の研究について、先ほどブラジルから始まったとおっしゃっていましたけれど、これは世界の色々なところで研究されているものなんですか?あるいは、日本の糸状菌研究の特徴があるとしたら、何なのでしょうか?

宮沢先生)
うーん、世界でそんなに研究されているかというと、そこまででもないんです、糸状菌の中でも色んな糸状菌があって…。今まで注目されてきたのは、植物と共生する糸状菌で、それは菌根菌(キンコンキン)と呼ばれるものなのですけれど、それはもう働きがわかっているんです。そうではない、木質を分解する方の糸状菌は、分解するということはわかっていたのですが、それが土の中にいる・いないで植物の生育にどういう影響があるか?そもそも今は畑に糸状菌はそんなにいないので、その影響についてはあまり知られていない。ただ木質チップを入れる、と言う研究はされていて、そうすると糸状菌が増えると言うことはわかっている…と言うのが今の段階です。

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--そういう意味では、宮沢先生の研究によって、日本が世界の糸状菌研究のリーダーシップを取る…と言うとビジネスっぽいですが、世界に発信していくという可能性はありえると言うことですか?

宮沢先生)
はい。オリジナリティは非常に高いと思います。

--なるほど、そうなんですね。よくわかりました。次の質問ですが、
「微生物ネットワーク農法、と言うのを聞いたことがあるのですが、糸状菌と関係ありますか?」


宮沢先生)
私自身は微生物ネットワーク農法というのはわからないのですけれど、先ほどお話しした通り、特定の微生物を入れると言うことではなく、土地の微生物同士のネットワークを活用すると言うことだと思うので、同じような考え方なのだと思います。

--いわゆる「テロワール」みたいなことなんでしょうかね…。ありがとうございます。
さて、本当に色々なお話をわかりやすく、そして大変に興味深い、この分野では先端の話をお伺いさせていただき、本当にありがとうございます。みなさんからもたくさんのご意見、ご質問をいただきありがとうございます。

最後に先生からメッセージをいただけますでしょうか


宮沢先生)
今日は早口で色々とお話をしたんですけれども、この研究はまだ始まったばかりで、学生もすごく興味を持ってくれて問い合わせもすごく多いのですけれど、何しろ研究資金がない…。色々な圃場に行って研究するのに交通費だけでもとてもかかってしまうんです。もちろん東大の中にも農場はあるんですけれど、例えば木質チップを入れる、バイオ炭を大量に入れる、といった試験を一度やってしまうと、その後はそこを誰も使えなくなってしまうので、なかなかできないんですね。そうすると、どうしてもできるところに出かけていって、何度も往復しながら試験を行うということになるので、現在東大基金の方で寄付をいただいている、と言うのはとても励みになっています。

--今回の糸状菌、まぁ微生物ですよね。そういう意味では、先ほどの話にもありましたけれども寄付と言うのはある意味では、大きな政府予算に比べると微力な小さな存在だと思うんですけれど、それが一つの価値観をもった「予算」と言うお金ではなくて、色々な思いがあるということは、そこには多様性があって、多様な微力なお金がそうやって集まってこのような研究を支えると言うのは、とても意義があるのではないかと私は思います。とても興味深い話で、環境関係でよくSave the Planetと言うのがあるのですが、あれは正解じゃないなと思っていて。なぜならPlanetは残ると思うんですよね。そこに、人類が豊かに幸せに生活できますか?ということが問われるのだと思うので、ある意味では、Save the people on the planetというのを我々は目指すべきなのでは無いかと思っています。その中で食料の問題。それは効率を求めるだけだと色々な意味で土壌を傷めつけていた、ということをきちんと学びながら、解決する力を我々は持っている、ということを、今日の宮沢先生のお話をお伺いして確認することができました。本当に今日はありがとうございました。

宮沢先生)
ありがとうございます。