2026年02月19日(木)
創立150周年を起点に次の150年を目指す未来の歩みを見すえ、
これまでご寄付によって東京大学を支えてくださった寄付者と総長との対話をとおして、
東京大学への応援・共感の輪を広げていく「総長×寄付者ダイアログ」。
第4回は、住宅・都市分野としては本学初となるエンダウメント型研究組織(※注釈1)「東京大学住宅都市再生研究センター」の新設にあたり、多大なるご寄付を賜った大和ハウス工業株式会社の芳井敬一会長と村田誉之副社長(1977年本学工学部卒)をお迎えし、本センター設立の背景や、共に取り組んでいくべき社会課題などについて、対話形式で語り合います。
(*本鼎談は、2025年9月29日に行われた記者会見後に実施されました)

写真左から芳井会長、藤井総長、村田副社長
藤井総長:
東京大学住宅都市再生研究センター(以下、住宅都市再生研究センター)は、現代社会が抱える住宅・都市再生の諸問題の解決を目指して設立されました。
日本では、人口減少や高齢化が進展し、老朽化した住宅団地、都市部でも進む空き家化、交通・インフラの劣化などの問題が顕著になってきています。更には気候変動への対処や社会的包摂なども重要な課題と認識されるなか、私達は、それらの問題・課題に対応することを念頭に、住まいとまちづくりのあり方を考えていかなければなりません。本センターは、住宅市街地や都市の再生デザインに係る各研究分野を横断した新たな学術領域の形成、住宅都市マネジメント分野における技術革新の促進、そしてそれらにまつわる政策の構想・制度設計を使命としています。
「都市や住宅の再生をどのようにデザインしていくか」というテーマを考える際には、暮らしの質を高めることと、環境負荷を抑えることという2つの価値の両立が必要です。しかし、快適さを追求すればエネルギー消費が増え、逆に環境負荷を低減させようとすれば快適性が損なわれる。バランスをどのように取っていくかが核心的な課題です。
この“再生デザイン”は、「人間中心」「循環」「包摂」「レジリエンス」という4つの柱で考える必要があると思いますが、この点も踏まえつつ“現場の視点”から、快適な暮らしと環境負荷低減を両立させていくためには、どのような発想や取り組みが求められるのかをお聞かせいただけますでしょうか。
村田副社長:
まず挙げるとすれば、やはり“技術の進化”だと思います。近年、住宅や都市をめぐる環境関連技術は急速に進歩しています。例えば、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に代表される省エネ建築、IoTを活用したスマートハウス、都市全体をデジタル空間で再現して最適化を図るデジタルツインのような取り組みなど、現場では新しい技術が次々に実装されています。こうした技術を積極的に取り入れていくことが、これからの都市・住宅再生において最も重要であると感じています。
新しい技術が“暮らし”に導入されることにより、人々は各自の生活のなかで、エネルギー消費の見える化や、快適性の変化を体験・実感できます。自分事として、暮らしや環境を考える習慣がつけば、社会全体のあり方にも自然と意識が向くようになるのではないでしょうか。
芳井会長:
私もやはり、出発点は“人の暮らし”だと思います。都市や住宅の再生を考えるうえで“人間中心”の発想は欠かせません。もちろん、資源やエネルギーの循環、脱炭素や再生可能エネルギーの活用など、環境への配慮も重要です。しかし、それらもすべて“人の暮らしをどう豊かにするか”という軸の上にあるべきです。
大和ハウス工業は、1962年より全国61カ所で大規模戸建住宅団地「ネオポリス」を開発してきましたが、50年以上経過した団地の多くは少子高齢化や将来的な空き家・空き地の増加、建物の老朽化など様々な課題を抱えています。そこで当社では今、郊外型既存戸建住宅団地の再耕(再生)事業として「リブネスタウンプロジェクト」に取り組んでいます。実は、これらの住宅団地は高齢者の居住比率が高く、住民の方々が新しい取り組みを体験・実感できるまでに費やせる時間には限りがある。だからこそ、「いかに早くその方々に喜んでいただけるか」を、常に念頭において計画を進めています。
都市や住宅の再生には長期的な視点が欠かせませんが、そのなかで長期的・中期的な成果を着実に積み重ねていくことが重要だと考えます。例えば、再生エネルギーの活用やまちづくりの仕組みづくりといった大きなテーマも大切ですが、まずは「今ここに暮らす人々の生活の質をどう高めるか」に、真正面から向き合うことが出発点になると思うのです。そうした小さな積み重ねが、やがて地域の“再耕(再生)”につながっていく――私はそのように考えています。
藤井総長:
ショッキングなことに、OECDなどのレポートにおいて、日本では社会的孤立が過去20年以上にわたり深刻な社会課題として取り扱われ、特に若年・退職後男性で問題が顕著であると示されています。芳井会長のお話にもありましたが、住宅団地などで進む高齢化をそのままにしておくと、社会的孤立がいっそう深刻化してしまうのではないかと懸念しています。住宅や都市の再生を進めるうえで、都市部における住環境や地域コミュニティのあり方は、今後ますます重要になってくるように思います。この社会的孤立の問題にどのように向き合うべきか、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。
芳井会長:
これはもう、基本的には“人と人とのつながり”しかないと思います。どのようにして人がつながり、また、どうやってつなげていくか――そこが何よりも大切です。例えば、自治会が機能し始め、人と人がつながり、子どもたちともつながり、それぞれが自分の役割を通じて関わり合うようになる。そうした“つながりの仕組み”をいかに考えて支えていくかが、孤立を防ぐためのカギだと思います。
一方で「この街、いいな」と思ってもらえる瞬間があれば、人は自然とつながっていくものです。東京大学でも、創立150周年のテーマ「響存-かえりみる、生み出す、つながる」という言葉を掲げておられますよね。地域においても同様で、“人がつながるための仕掛け”をどう生み出していくか、それがこれからのまちづくりにおいて非常に重要な要素になると感じています。
藤井総長:
やはり何か共通の思いを共有し、そのつながりのなかから新しい価値を生み出していくことが大切だと感じます。住宅や都市の再生、そしてまちづくりを考える際にも、単に物理的な再構築を目指すのではなく、そこに暮らす人々の思いや営みをどう結び合わせていくかが重要ですね。
住宅都市再生研究センターが描く未来像は、“生活者価値の最大化”と“環境・社会・経済の最適化”を両立する“再生デザイン”の実現です。そのためには、研究分野はもとより、技術や制度といった枠組みも超えて、人・地域・企業・行政が共に思いを共有し、連携していくことが求められるでしょう。まさに、こうした新しい都市・住宅のあり方を、皆さまと共に考え、議論を深めていければと思います。
藤井総長:
エンダウメント型研究組織としての長期安定性のもと、挑戦的なテーマに継続投資できるのが住宅都市再生研究センターの特徴であり強みです。欧米、特にアメリカの大学ではエンダウメントによって大学が自ら重要と考えるテーマに長期的に取り組み、社会と共に発展させる仕組みを確立しています。こうした枠組みは、大学と企業・地域が持続的に協働していくうえで非常に有効です。今回、このエンダウメント型でのご支援を決めていただいた経緯、そしてその背景にあるお考えについて、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。
芳井会長:
当社では 2015 年より、新たな“まちの魅力”を創出し、既存住民と新たに流入する住民が安心して快適に過ごせるまちを“再耕”するプロジェクトに挑戦しております。このたびの住宅都市再生研究センター新設・協創のきっかけは、この取り組み実績を評価いただけたからであると考えております。
前述の、住宅団地で発生している住民の高齢化や都市インフラ劣化などの課題は、日本の住宅団地だけでなく、今や世界中の先進国が抱える住宅市街地の課題です。こうした社会課題の解決は、“ゴールのない挑戦”だと思います。一つの課題を乗り越えれば次の新しい課題が必ず現れる。社会の要請が変化し、時代の要望が更新されていく以上、私たちも絶えず進化し続けなければなりません。そうした意味で、持続や継続という考え方は、まちづくりにおいても、そして研究においても極めて重要です。創業者・石橋信夫も、「継続は力なり」とよく申しておりましたが、まさにその言葉どおりです。社会の変化を先取りし、次へ、また次へと進化していく――その歩みを止めない姿勢こそが私たちの企業活動の原点であり、今回のエンダウメント型研究組織への共感にもつながっています。
村田副社長:
私も、同じ思いです。住宅や都市の再生というのは、“終わりのないテーマ”です。数年で何らかの成果が出て完結するといったものではなく、時代と共に新しい課題が次々に現れてくるでしょう。気候変動や少子高齢化のほかにも、都市部での住宅費高騰や世帯数の減少といった課題を解決していく方法としてのアフォーダブル住宅や既存住宅のストック活用、アーバンエコシステムの構築など………社会構造の変化や人々の価値観の転換に合わせ、住宅都市マネジメント分野の技術革新が進むことは間違いありません。
私たち企業は、そうした変化に適応しながら社会と共に進化していく責任があります。企業のアセットは「現場」「オペレーション」「データ」といった“実践知”にありますが、それを“大学の知”と往復させることで、実証から制度設計、さらには標準化までを一気通貫で進めることができる。まさに産学がそれぞれの強みを持ち寄り、持続的に連携していくことで、社会に根づく新しい価値を創出していけるのではないかと感じています。
芳井会長:
当社が東京大学とご一緒することを決めたのも、まさにそうした思いからです。あらゆる学問領域をつなぐ力があること、国際的な発信力とネットワークを通じて日本発の知見を世界に広げていけること、中立的な評価機関としての信頼性を備えていること――こうした強みを持つ東京大学と協働することで、住宅都市再生に関わる“新たな学問領域の開拓や融合”が、さらに広がっていくことを大変楽しみにしています。
藤井総長:
東大が提供できる価値は、「共通言語」「共通指標」「共通実験場」の3条件を整えて、“知と現場を同期させるハブ機能”となることです。工学、情報学、公共政策学といった様々な学知を束ね、エビデンスに基づく合意形成を主導していくことも可能です。芳井会長からお示しいただいたように、東大が「横断知」「第三者性」「国際発信」を担い、企業が「現場実装とスケール」を担う。両者一体で“社会実装エンジン”としての役割を果たしていくことが、協創の意義。この取り組みによって、イノベーションのリードタイムを短縮し、公共性に奉仕する高い成果を生み出していきたいですね。
藤井総長:
今回のように、エンダウメント型という仕組みのもとで協働できることを大変意義深く感じています。短期的な成果を追求するだけでなく、中長期的な視野で社会課題に取り組める環境が整うことで、特に若い研究者にとっては、安定した基盤のもとで挑戦的なテーマに取り組み、自らの研究を育てていける場になるでしょう。こうした機会をいただけたことを、心から感謝しております。
私たちとしましては、住宅市街地や都市の再生デザインに関わる分野横断的な新たな学術領域の形成、住宅都市マネジメント分野の技術革新の促進、そして政策の構想や制度設計、および研究によるエビデンスを基にした政府関連機関への提言にも積極的に取り組んでまいりたいと思います。またこれらを、国内のみならず海外にも広く発信していきます。住宅都市の再生とマネジメントは、一つの組織だけで完結できるものではありません。多様なステークホルダーが互いに理解し、納得したうえで進めることが必要です。社会に実装される都市再生のかたちを描くために、住宅都市再生研究センターを、関係者への呼びかけや意見の集約、政府提言の発信を担う場としても、機能させていきたいと思います。
少し話題は変わりますが、大和ハウス工業様は、これまで多くのトラックレコード(実績)を積み重ねておられます。そうした“現場に根ざした知見”を可能な範囲で活用させていただけますと、またそれが次の社会的価値の創出へとつながっていくのではと期待しております。
芳井会長:
当社は、意外なトラックレコードを持っているんですよ。例えば、グループ会社では、ホームセンターやホテルも運営しています。それらの事業を通じて、日々、地域で暮らす高齢の方々や多様な世代の行動を間近に見る機会が得られます。人々がどのように動き、どう暮らしを楽しもうとしているのか――そのリアルな生活の“動線”を把握できることも、当社の大切な資産です。そうした現場の知見を共有することで、よりリアルな住宅や都市の再生をご発想いただけるのではないかと考えています。
村田副社長:
また、私たちは、これまで開発・管理してきた住宅団地のデータを記録として残しています。どんな方が住み、世代やライフスタイルはどのように移り変わってきたのか。その変遷も含めて、膨大な記録が蓄積されているのです。こうした居住者データや地域の変化の記録は、単なる履歴ではなく、将来のまちづくりや住宅再生を考えるうえで大きな財産だと思っています。現場で培ってきた知見とデータを組み合わせることで、より実証的な研究や政策提言にも貢献できるのではないでしょうか。
藤井総長:
そういう意味では、建物などハードウェアの再生だけでなく、コミュニティというソフトの側面も非常に重要ですね。先ほども話に出ましたが、住民同士がどのようにつながり、支え合いながら暮らしていけるかという仕掛け・仕組みづくりも、都市や住宅の再生を考えるうえで欠かせない視点でしょう。ハードとソフトをうまく融合させて、新たな都市の姿を描いていきたいですね。村田様から、技術革新の部分を含めて、今後の見通しをお聞かせいただけますでしょうか。
村田副社長:
技術革新という点では、まさに今、動き始めたところだと思います。私たちは、大規模戸建住宅団地「ネオポリス」に関する40数年分の情報を保有しています。さらには、これから新たに蓄積されていくデータも加えれば、より長期的・実証的な研究が可能になるでしょう。私たちとしても、そうした研究活動に積極的に貢献していきたいと思っていますし、逆に大学の皆さまから刺激をいただく場面も多いはずです。産学が互いに刺激し合いながら、新しい都市・住宅のあり方を探っていけることを大いに期待しています。
藤井総長:
ありがとうございます。ぜひ、そうしたデータも活用させていただければ幸いです。学術と産業の連携によって、貴重なエビデンス(データ等)に基づく提言を国内外に発信し、それによって社会変革の基盤づくりにも貢献できるよう努力して参りたいと思います。
藤井総長:
東京大学は、2027年に創立150周年を迎えます。この年月は、日本の近現代国家の歩みそのものと重なっています。鉄道、郵便、警察など多くの社会制度が同じく約150年前に誕生し、日本社会の基盤が形づくられました。したがって東京大学の150周年を、単なる一大学の祝い事というよりは、社会全体で「この150年を振り返り、次の150年をどう築いていくか」を考える契機にしたいと私たちは考えています。
住宅都市の再生デザインは、まさに未来へとつながるテーマです。これまでの都市や住宅のあり方を見つめ直し、新たな技術や価値観を取り込みながら、次の時代にふさわしいまちの姿を構想していく――そうした挑戦を社会と共に進めていきたいと思います。150周年を迎えるにあたり、ぜひ大和ハウス工業様から、東京大学に期待することや未来へ向けた応援メッセージをいただければ幸いです。
芳井会長:
私は“東京大学の価値”というものを、もっと大きな視点で捉えるべきではないかと思っております。日本を代表するトップの大学ですから、日本国内だけではなく世界規模で活躍できる人材をたくさん輩出し、世界から「東京大学はすごい」と評価されるような存在感を示していく必要があるのではないでしょうか。すでにそのような評価を受けている研究者や研究分野も多くありますが、「私たちはこういうことをしています」「社会のためにこのような取り組みを行っています」といった発信は、まだまだ広げていく余地があるように感じます。私自身、海外事業を担当する立場から見ても、東京大学には“日本を背負う大学”としての誇りと自負を持ち、世界に向けた発信力をさらに高めていってほしいと強く願っています。
村田副社長:
“産学連携”“産官学連携”という言葉はよく耳にしますが、本当の意味で協働できている事例は、まだそれほど多くないように感じます。今回の取り組みには、まさにその実現への期待があります。東京大学は“知の巨人”ともいえる存在ですが、実務の現場を知る機会はそう多くはありません。逆に、私たち企業の側は、もっと大学に近づき、研究や教育に関わっていく必要があると思っています。お互いが歩み寄り、そこに“官”が加わって一つのテーマに集中して取り組む――そうした真の連携が生まれるきっかけになることを願っていますし、私たち自身、その一翼を担っていきたいと考えます。
藤井総長:
東京大学は、創立150周年に向けて「エンダウメント型経営への転換」を掲げて様々な取り組みを進めています。そのなかで、本センターが設立されたことは大変意義があるとあらためて感じます。ぜひ、しっかりと動かしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
(注釈1)
エンダウメント型研究組織とは/東京大学は、世界の公共性に奉仕する大学として自律的かつ持続的な創造活動を拡大するため、新しい大学モデルの確立に向けたさまざまな改革を進めています。この改革の一つとして、柔軟で機動的な財務運営に資する、大学独自基金(エンダウメント)の拡大を目指し、運用益を事業に活用し恒久的な財源とする仕組みとしてエンダウメント型経営を推進することといたしました。「エンダウメント型研究組織」は、これに基づく組織として位置づけられるものです。エンダウメントの運用益を、新たな研究組織の機動的設置に活用することで永続的な活動を可能にします。
構成・文:佐藤裕子(株式会社ハイキックス)
1981年 中央大学文学部卒業
1990年4月 大和ハウス工業株式会社 入社
海外事業部長、東京本店長などを経て、2019年6月より代表取締役社長 CEO兼COOに就任、2025年4月より現職(現在に至る)
本学工学部建築学科卒業
1977年 大成建設株式会社 入社
2009年 大成建設ハウジング株式会社 代表取締役社長
2021年 大和ハウス工業株式会社 取締役副社長 技術統括本部長 (現在に至る)
1988年 工学部船舶工学科卒業
1993年 大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻博士課程修了(工学)
専門は応用マイクロ流体システム、海中工学
東京大学生産技術研究所長、同理事・副学長等を経て、2021年より東京大学第31代総長に就任(現在に至る)
※肩書は対談当時のものです
本鼎談の収録は、大和ハウス工業株式会社からの寄付により建設された東京大学大学院情報学環の「ユビキタスコンピューティング」分野における教育・研究施設ダイワユビキタス学術研究館1Fカフェにておこないました。