2015年09月30日(水)
梶田 隆章 教授
宇宙線研究所 所長
専門分野:ニュートリノ実験・重力波観測
梶田隆章教授、ノーベル物理学賞受賞、おめでとうございます!
この教員に関連する東京大学基金プロジェクト:
子ども時代から真剣に進路を考えていたわけではありませんが、少しずつ物理に、素粒子に興味がわき、興味にしたがってここまで進んできました。原理から物事を考え説明するところに惹かれて、学部では物理を学ぶことを選びました。私は他の大学から大学院で東大に進学したのですが、当時はインターネットも使えない時代だったので、実は研究内容をそこまで深く調べたうえで小柴先生の研究室を選んだというわけではないのですよ。大学から出された募集要項の研究室の研究内容の紹介の1、2行を読んで進学先を決めた、という感じで、「絶対この研究室でなければ」と思っていたわけではありませんでした。
私が進学した頃、研究室ではまさにカミオカンデの準備が進められており、修士2年の終わり頃から実際の建設が始まりました。
カミオカンデはきわめて成功した実験ですが、国から大きな支援を受けたプロジェクトではありませんでした。小柴先生を始めとする研究者の「これがやりたい!」という思いから、主要なメンバーによるお金集めからスタートしたものでした。当初の実験チームは十数人程度の小規模だったので、当時まだ大学院生だった私でもプロジェクト全体を見渡すことができたという意味で非常によい環境だったと思います。小柴先生も細かいことについてあれこれ言う先生でなかったので、わりと好きなようにさせてもらえました。また、神岡という場所は、冬になれば雪深い、これまで生活したことのないようなところだったので、場所的にも気に入っていました。当時は神岡鉱山のアパート2世帯分を借りて実験をしていたのですが、そこではデータ解析などはできなかったので、観測データはすべて東京へ送って、私達も東京に戻って解析をしたりと、東京と神岡を行ったり来たりの生活でした。その時のデータ解析を元に博士論文を書きましたし、この時期が私の研究者としてのスタートとなったと思います。
その後、1991年にスーパーカミオカンデのプロジェクトが国に認められ、建設に5年かかり、1996年に観測データを取り始めました。十数人で草の根的に進めていたカミオカンデの時と異なり、国の大きな予算がつき、装置の規模はおおよそ20倍、約120人もの共同研究者が一緒に実験を進めるような形になりました。国に認められたプロジェクトとして、しっかりと成果を出さなければいけないという責任も負うことになりました。
小柴先生がノーベル賞を受賞されたことは当然ととらえていました。先生の受賞理由(宇宙ニュートリノ観測)は物理学において非常に重要な課題だったので、受賞は当然、単にいつ受賞されるかの問題だと思っていました。
先生は、大きな流れをつかむというか、重要な研究の芽を見いだすことができる研究者でいらっしゃいます。カミオカンデでの観測が始まって数ヶ月で、先生は太陽ニュートリノ観測の重要性からカミオカンデの改造と、スーパーカミオカンデの提案をされました。そのスーパーカミオカンデは20年近く経った現在も世界的に大活躍しています。我々は小柴先生のつかんだ流れに乗っていただけという感じもしますね。
宇宙線研究所では1990年代半ばから、重力波を将来的に取り組むべき最も重要な研究テーマと位置づけていました。それから20年近く経って2010年、KAGRA建設がスタートしました。私は2008年に宇宙線研究所長に着任し、所長として研究所の重要課題をスタートさせることができたわけですが、所長としてただ外から眺めているだけというわけにはいかないだろうという思いから、研究者としてもこのプロジェクトに参画することとなりました。もちろん研究の重要性にも惹かれてのことです。スーパーカミオカンデもKAGRAも100人を超えるようなチームで進めています。そこには、大学、国を超えた大きな組織を作って、それを動かし、まとめ上げる、といった大変さがあります。大規模組織を作って一つのプロジェクトに取り組むという点は、他の分野の研究の手法とは少し異なるように思います。
建設開始から5年が経ちますが、2015年度中にはレーザー干渉計をテスト的に運転したいと思っています。2017年度中の本格観測、つまりKAGRAの装置の主要な部分すべてを動かしての観測開始を目指していますが、スイッチを入れればすぐ設計通りに動くというものではありません。装置が設計感度を出せるまで数年かかると見込まれるので、具体的な成果が出るには、更に数年要するかもしれません。設計感度が出てくれば、現在の天文データに基づく予想では、年10回程度の重力波の観測ができると考えています。
建設中の意外な難しさもあります。地下の方が地上よりも地面の振動が百倍、千倍小さい(揺れがない)ため、観測に有利ということから地下の設置が進められているのですが、地下水が思った以上にポタポタ落ちています。地下の工事に限らずこのようなプロジェクトでは予想外のことも多いので、試行錯誤しながら工事を進めてきました。
課題はいくらでもあるといえます。可能な限り完璧な装置を作るためには、装置に必要な様々なものすべてを完璧なまでに調整する必要があるからです。巨大な装置ですが一つ一つはとても繊細で、装置の技術的難易度も非常に高いです。装置に求められる精度の高さを達成するには、研究者だけでは不可能で、技術者や工事関係者、関連企業、実に多くの人がプロジェクトに関わっているといえます。KAGRAと同規模の重力波望遠鏡は、アメリカ、ヨーロッパでも建設が進んでいます。その世界的な競争の中で遅れをとらないよう、総力を挙げて取り組んでいかなければなりません。
KAGRAは「重力波」という波動現象をとらえることを目指していますが、私は、KAGRAによる重力波の検出は、重力波を使ったサイエンスを進めるための第一歩だと思っています。
重力波がどういうところから来るかというと、例えば超新星爆発。それから超新星爆発の後、中心に中性子星という非常に小さくて重い星が残りますが、中性子星の連星(お互いの周りを回る星)は重力波を出して近づき合い、最後には合体してブラックホールができると考えられているので、その合体の信号をとらえてブラックホール誕生の瞬間を見たい。
こうした現象はこれまでの観測方法ではとらえることができませんでした。ブラックホールは光さえ出さない天体なので、光を使って観測はできません。ブラックホールの周りの研究では、ブラックホールに落ち込んでいく物質の放射の観測がこれまでも行われていますが、ブラックホールそのものは重力波で観測するしかありません。また、超新星爆発については、星の中心が重さでつぶれて中性子星ができることがわかっていますが、光で見える超新星爆発は星が壊れて1日くらい経ってから光ったものを見るので、1日経ってからでは本質的な情報がないのです。重力波で星がつぶれる瞬間を直接観測すれば、超新星爆発で何が起こったのか見えます。
このようにいろいろな形で、強い重力が関わる現象がこの宇宙にはたくさんあるので、重力波の観測によって、過去の宇宙、また宇宙生成の瞬間まで、今までは知ることのできなかった宇宙の姿を明らかにできると考えています。
重力波検出によって、宇宙の理解が全く別の角度から始まる。それは人類の知的財産という意味でものすごく重要なステップになるはずです。
やはりサイエンスが重要だと思うからですね。人類社会にとって広く共有されるべき結果が明らかにされるはずだと信じているからです。重力波というのは、簡単に言えば、私たちが存在するこの空間自体が伸びたり縮んだりしていることを証明するということでもあります。空間に対する概念がこれまで私たちが日常思っているものとは少し違うということを広く知ってもらいたいし、またブラックホールの直接観測のようなことも私たち人類にとって重要なことだと思います。その思いで日々取り組んでいます。
国の財政が厳しい中でサポートしていただいているわけですので、プロジェクトの内容や進捗状況を可能な限りお知らせしていかなければと思っています。また、先の長いプロジェクトですので、寄附という形でも応援をしていただけたら、とても嬉しいですね。観測が始まってしまうと、実験室は立入禁止となってしまいますので、その前に現地での見学会なども計画したいです。
広報の面では、とくに若い人に理解してもらいたいと思っています。理科離れとか博士課程に進む学生が減っていると言われますが、KAGRAのような基礎科学の研究は、人類の知の地平線を拡大する仕事で、それに関わるのは非常にやりがいがあると思います。私が若い頃に感じた研究の面白さを、若い世代にも感じ取ってもらいたいと思っています。
大勢の方のエールを支えに、KAGRAをなるべく早く本格稼働させ、重力波を見つけて、重力波天文学を創成、発展させていきたいと思います。
KAGRAプロジェクトに支援をして、ノーベル物理学賞受賞の梶田教授にお祝いメッセージを贈りませんか?
※肩書きはインタビュー当時のものです。