■「糸状菌」の可能性をチャレンジングに探るために、やはり研究が必要。

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--糸状菌という言葉の、「糸」の文字に、あ、なるほどね、と思ったのですが、家ではカビが生えているのを見つけたりしますが、糸状菌という良い働きをするということについて、カビが嫌いな人にもわかるように説明するとどうなりますか?

宮沢先生)
生態系の中で、植物は作る側にいる。植物は全ての生命体にいろいろなものを供給してくれています。ただ、植物だけしかこの世界にいなかったら、作るだけでそれを分解するものがいない。植物はいらないものを落とし、それを分解してくれるのは糸状菌を含む微生物。彼らがいなかったらこの地球は成り立っていない。家の中でカビを見つけたら、クリーニングしてくれて、地球を循環させてくれて、ありがとう、と思ってもらえると。

--汚い、というイメージがあると思うのですが、それは正しくないのですね?

宮沢先生)
もちろん、毒を発生させるものもあるので、それは食べてはいけないのですけれど。こういう話を農家の方としていても、カビとか糸状菌は病原菌のイメージが強いので、そういうものを増やしてはダメなのではないか?という話をよくいただきます。私たちは畑の中の糸状菌を増やすことで団粒化を促進して、大きな美味しい野菜を作ろうとしているのですけれど、畑の中に木質の、木のチップを入れることで糸状菌を全体的に増やすことができるということが最近わかってきたんです。そうすると病原菌が蔓延るのではなく、いろんな菌が増えていき、多様性が生まれて、病原菌だけが蔓延るということがなくなり、かえって病原菌を抑えられるようになる。

--人間社会ですと、成長するとそこに注目も集まるし、お金もそこに集まるけれど分解されない成長というのはない、ということですね?

宮沢先生)
成長するとして、作る人だけがいても、使う人がいなくて循環しなければ、やがて止まってしまう。

--そういうことなのですね。チャレンジは何でしょう…。生産者の方がこれまでやったことがないということもあって、うまくいけばいいんでしょうけれど、例えばうまくいかなかったらどうしてくれるんだ?という方にどうやって説得していくのですか?

宮沢先生)
そのために研究が必要だと思っているんですね。篤農家の方はそれでうまくやっているけれど、同じように真似したら同じようにできますか?というとそうではないので、研究が必要。
農業に限らず、できる人はマニュアル化できないような直感力というか、今これをやるべき、ということがサクッとわかってしまう。それをじゃあどうやってマニュアル化していくか、が本当に難しい。
なので、今うまくいっている圃場の状況を分析することで、こうするとうまくいくんだ、ということを解明していこうとしている。そのために色々な地域で試してみて、これを入れると、どういう菌の組成になり、その時に植物はどんな反応をして、というデータを積み重ねていくことで、マニュアル化まで行かないかもしれないですけれど、こういう条件ならできます、というのが見えてくるかな、と思ってやっています。

--要するに研究というのはデータを集め、そのデータというのはたまたまできたのではなく、こういう条件であればできます、というのをクリアにしていく、ということだと思うのですけれど、今、現状の研究の中ではどのようなデータがあると拡大できると考えられますか?

宮沢先生)
土の中の微生物ってまだまだわかっていないことが多くて。研究でよくやられるのは、特定の機能を持つ菌の研究。それはそれで素晴らしい研究なのですけれど…。ではその菌を接種すればどの畑でもうまくいくかというとそんなことはなくて、やはりその土地土地によってその菌叢が違っています。土着の菌叢というのは、その場所に適応している菌が残っているということなので、それを使いたいと思っているんです。それをいかに増やしていくか、どうやって増やすのか?色々なメソッドがあるんですが、どんな条件が一番合うのかを今見つけようとして試験しています。

--データというのは、とる環境によって異なると思うのですけれど、日本の気候とか、全部含めて見ておられると思うのですが、それを例えば…私はアフリカにもすごく関心を持っているのですけれど、全く異なる地域で、例えば日本で研究開発しているものがアフリカで使えるのか?逆にアフリカでとったデータが日本でも応用できるのか?そういったケーススタディはあるのですか?世界各地でどういう動きがあるのですか?

宮沢先生)
まだ世界には行っていないのですが、実はそもそもこの糸状菌を増やすんだとおっしゃっていた篤農家の方はブラジルの方なんです。ブラジルではかなりうまくいくんですけれど、じゃあそれが日本でうまくいくか…ブラジルの日系の方で日本いらして教えていらしたのですけれど、誰もうまく行かなくて。うまくいき始めた方が気がついたのは、日本は水が多すぎる。雨が多すぎるとおっしゃっていて。糸状菌は空気が必要なので、長雨で水浸しになってしまうと死んでしまう。なので、それを避けるように水はけをすごく良くして空気を確保するということがまず一つ目。それもそれが本当にそうなのか、今試験場で確かめようとしています。

--なるほどね。でも、当然逆に水がないとそれはだめ、ということですよね。

宮沢先生)
そうですね。ただ、カラカラなように見えても、実は土の中というのは、そこにいる微生物の体の中に水分が保持されているんです。面白いんですけれど、昔農場実習でやっていた実験で、農場の土を採ってきて105度で乾燥させるんですね。そうすると、どれだけ水分を含んでいたかがわかります。乾燥した土にもう一回その分量の水分を入れると元の土に戻るか?というのをやるんですけれど、全然戻らない。最初ふわふわしていた湿ったくらいの土だったのが、乾燥させた後に同じ量の水をたすとビチャビチャになるんですよ。

--ええー。それはどういう現象なんですか?

宮沢先生)
その水は微生物の体の中に閉じ込められていたんですね。土をビチャビチャにするような量ではなかったのですけれど、105度で熱して乾燥させると微生物は全部死んでしまうので、ただの水が土に合わさるだけになってビチャビチャになってしまう。土の中には何億何兆という微生物がいるので、そのボディの中に水が溜められています。実際に農家さんのところではすごく乾燥しているように見える土でも植物はちゃんと育っていて、要するに微生物が死んだり生まれたりしている隙間にも微生物から放出されている水があって、もちろん純粋に水も必要なんですけれど、その水がなくなった時には微生物が死んだり生まれたりする隙間に放出されている水が使われているんじゃないかと思っているんです。
そういう意味でも、糸状菌を増やしたり土の中の微生物を増やすことがすごく重要なんじゃないかと考えているんです。気候変動についてもそうなんですけれど。