■東大基金で「畑と森を再生する糸状菌活性化」プロジェクトスタート。寄付者からの応援メッセージが大きな励みに。

--最近、腸内フローラも含めて、微生物に対しての関心が数年前と比べると高まってきている気がしているのですが、微生物が温暖化対策にまでつながるということなんですね。そういった研究をなさっていて、研究には予算が必要だと思うのですが、東京大学だから予算が潤沢にあるのかな、とも思うのですが…東大基金で行われているプロジェクト「畑と森を再生する糸状菌活性化」についてご紹介いただけますか?

宮沢先生)
はい。予算はそんなに潤沢ではなくて、東大基金にお世話になっていて、プロジェクトをスタートしてから、応援メッセージをたくさんいただいて、心から嬉しくて。応援されるってこんなに嬉しいことなんだ、と感じながら研究しているのですが、研究を通してこういう(フリップを見せながら)美味しい野菜が作れるようになるようになります。これは全く肥料を入れてないのですが、一株1キロの青梗菜とか、この大きさのレタスができてしまったり。

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何を入れたら糸状菌が増えるかという研究の一つでは、このように90リットルくらいのポットを土に埋めて試験をする、ということをやっているわけなんですが、…(フリップを見せながら)なぜそうしているかというと、試験圃場なので、色々な資材を大量に撒いてしまうと土壌が変わって、後の人が試験で使えなくなってしまうので。これにより、いかに土の中の糸状菌を活性化させて、人間にとっても収量が上がって、しかも美味しくなって、地域全体にとっても生態系がうまく循環するような農場にしていけるか?ということを…畑もそうですし、森の方でもサンプルを取りたいと思っているんです。そのために基金を立ち上げさせていただいています。

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--なるほどね。確かに大学から研究予算をもらうというのは当然ありがたいことだけれど、おっしゃるように基金の力というのは、こういう応援を受け取ったんだというメッセージの力というか、基金の力というのはとても大事だと私も思います。そうしたたくさんの声に支えられて、またご研究が「菌」という小さなものに支えられている、というのも素敵だなぁというようにも思います。

さて、ここからは皆さんからの質問を受けたいと思っています。
「糸状菌は土壌環境によって左右されますか?」


宮沢先生)
土壌環境、今は水分状況を変えて試験を行ったのですが、水分状況を変えるといっても人工的に雨をふらせることはできないので、そこまで大きな違いはない、というのは出ています。場所が違うとバイオマスの差、糸状菌がもともとどれだけいるか、というもともとの差があるので、それによる差は出ています。

--宮沢先生の研究は研究室ではなく、野外でやるので、研究環境に晒されながら、というのは難しもあるし、それがリアルであるといえばリアルですよね。

宮沢先生)
研究室でやるのも大事なんですけれど、研究室でやったらできたものを外でやったら全然効果がなかった、という研究をたくさん見てきているので、初めから効果があるかどうかというのを見るために外でやるようにしています。

--それでも研究室でやると環境のパラメータをコントロールできて、どこにどういう効果があったかというのが見えると思うのですけれど、屋外でやるとコントロールが難しいのではないですか。

宮沢先生)
コントロールするとなるとすでに制限がかかっているので、そこで出たデータというのを、メカニズムを見るにはいいと思うのですが、それが本当に現象として起こるかどうかというのを確認した上での研究室だと思うので、私はどちらかというとこれまでやられていたのと逆方向で、まずは屋外で実施してからと考えてやっています。外でやるのは大変なのですけれど。


--「家庭で糸状菌を取り入れるためにはどうしたら良いのでしょうか?」

宮沢先生)
そうですね。篤農家の方は生産者としてやってらっしゃる方もいますが、実はこの嚢胞は草の根的に広まっていて、一緒に研究させていただいてたり、教えてくださる方もいらっしゃるのですが、例えば、色々な有機物…雑草でもいいし木質チップでもいいし生ゴミでもいいですけれど、それで畝を高く作ってその上にマルチをして、しばらく糸状菌が生育するまで待ってから植え付ける、ということを教えてらっしゃる方がいます。それで色々な方が成功されているので、そういうところにもこれからデータを取りに行きたいなと思っています。そこで土の中で何が起きているのか、見てみたいと思っています。まだ手をつけられていないところなんですけれども。

--糸状菌といっても、当然色々な種類があるのだと思うのですけれど、土壌を回復させるのに効果のある糸状菌と違うものとは選別できるのですか?

宮沢先生)
それが全くわかっていないんです。昨年から初めて試験圃場でどういう時に糸状菌が増えて、どういう風に糸状菌が増えて、それと植物とどういう連携になっているのかというのを解析し始めたところで、本当にまだこれからのことなんです。

--なるほどそうですか。家庭でもコンポストみたいなことにするといいのかな?と想像するのですけれど…そうすると家庭のプランターとかにも使えるはずですよね。

宮沢先生)
今までのコンポストの概念というものは、分解されやすくって肥料になるようなものをコンポスト化して堆肥にして畑に入れるという考え方だったのですけれど、そうなると糸状菌ではなくてバクテリアが増えるんですね。バクテリアは増殖も速いし、すぐに有機物を分解してしまいます。養分としては供給されるけれど、有機肥料みたいなもので、土の中の糸状菌をブーストさせるような働きはないんです。

--あ、そうなんですか。それはバクテリアと糸状菌が生きるためにコンピートしているということですか?

宮沢先生)
そうですね。バクテリアの方は分解するのを得意としていて増殖も速く、糸状菌の方はもともと森の方にたくさんいるんですけれど、木質などバクテリアがなかなかアタックできないようなものをゆっくりゆっくり増殖しながら分解していくもので、土の生態系が全然変わってくるんですね。
今までの普通の概念の堆肥というと、今までの農法とあまり変わらなくて、糸状菌はというと堆肥ではなく、これまで使われていなかった木質チップのような、森の中で落ちてくるような資材を畑に戻す働きをするというものなんですね。
もう少し大きな循環の話をすると、もし畑で何かを栽培するときに、木質チップを入れて糸状菌を増やすことが有効なのであれば、森と畑をセットにすることで、森で取れた木質チップを畑に還元する。畑から取れたものを人間が食べてその生ゴミが出たり糞尿が出たりしたら、それをコンポスト化して今度はそれを森に返す、という循環ができると森の生育速度も速くなる。今、木質チップだけでなく、いろんな資源が、バイオ炭なども研究が盛んなんですけれども、森で取れる木質をバイオ炭にして土の中に入れることで、J-クレジットと言う形でCO2を土の中に半永久的に入れることができる。しかも森をどんどん育てるということになるので、木質資材をどんどん取れるようになる。そういう循環を作れたらいいなと思っているんです。

--面白いですね。これまでの概念で言うと、森林を切り倒して畑を作る、と言うのが畑の考え方だったと思うのですけれど、実は人間との共生だけでなくて、森と畑が共生できる、そのほうが豊かになる、品質が上がるって…。なかなか面白いですね。

宮沢先生)
古代の都市、アマゾンでものすごく豊かな土壌が発見されたんですけれど、そこは都市に住んでいる人たちから出るゴミが土に入っていて、熱帯なのにものすごく肥沃な土壌ができている。そこにはバイオ炭もたくさん入っていて、実はそこからバイオ炭の研究が広まったんですけれど、この古代の例のように、人が生活することで地球環境を壊すのではなく、より豊かな土壌を作り出していくことができる可能性があると思っています。そのためにはバイオ炭を作り出す森や、人が生活するところと畑がセットになっているというのが、未来の循環型の都市システムになったらいいなと思うんです。

--それはいいですね。素晴らしいですね。そして、次の質問にいきたいと思います。
「将来の世界的な食物問題に対して、糸状菌は救世主になるといえますでしょうか?」

宮沢先生)
今のところ、はっきりと「そうなります」とはまだ言えないですけれど、そうなるかどうかを一生懸命研究しているところなんです。ただ、データによって糸状菌がいることで土の団粒化が進んでいることや、カーボンをどんどん蓄積していくこともわかっているし、それによって植物が根を深く生やすことができることもわかってきているので、本当に人が少し手を加えることで、イグニッションみたいに木質チップを入れることで、畑もそうなんですけれど、糸状菌が優先的に生育するような環境に持っていくことができる。それによってどんどん改善が進み、畑もそうだし森もそうなんですけれど、地域全体の土壌環境が良くなって、それが水圏まで繋がっていき生態系のシステムができていく。そうやって生態系を壊すのではなくて、生態系を豊かにしながら人間が暮らしていくことができたら、将来に向けて食料問題とか、持続的に人が地球上でちゃんと動物として役割を果たしていける一つの大きなキーになるんじゃないかな?と思っています。

--糸状菌が成長のため、生きるために必要な成分は、当然有機物と水分だと思うんですけれど、カーボンを土に入れる、と仰っていましたけれど、それはCO2を吸収しているんですか。

宮沢先生)
そうではなくて、普通の農耕地ではバクテリアが優先しているのですが、糸状菌はバクテリアに比べて体を構成する物質のうちカーボンの含有率が高いんです。ということは糸状菌がそこに生息しているだけで、バクテリアが優勢なところに比べるとカーボンの含有率が上がると言うことですね。

--なるほど、そのカーボンがどこからきているかというと木材からということですね。

では、次の質問です。「糸状菌を用いて育成した野菜の風味に特徴はあるのでしょうか?」

宮沢先生)
私がこの研究を本当にやろうと思ったきっかけが、ある農家さんの畑でとれた野菜だったんです。ハウスの中で木質チップをたくさん入れて野菜を育てていらっしゃる農家さんの小松菜とほうれん草をいただいたんですけれど、それがすごくおいしくて、いくらでも食べられると思ったんですね。でも、それはその場で採っているのを見て食べているから、プラシーボ効果なのかなと思ったんです。その時は出張だったのでホテルに泊まったんですけれども、翌朝、喋りながら朝食を食べていて、サラダを食べたら箸が止まったんです、美味しすぎて。富山県だったんですけれど、富山県ってどこで食べても野菜が美味しいのかと思って、ホテルの方にこの野菜はどこのですか、と聞いたら、その前日に伺った畑のハウス野菜だったんです。それくらい違うんです。これをどうやってデータ化できるか?と言うのは難しいのですが、美味しかったんです。

--へぇ、美味しい、というのはどんな感じなんですか?

宮沢先生)
いくらでも食べられるんです。私がよく使う言葉が清々しい。美味しいというよりも食べたら元気になる感じ。曖昧な表現でデータ化できないんですけれども、普段人と話しながら食べていて箸が止まるほど美味しいって、野菜でそんな経験なかったもので。多分何かがあるんだろうと思いました。