
東京大学農学生命科学研究科附属演習林北海道演習林は、北方林業と林学の研究・教育を目的として明治32(1899)年に設立されました。昭和33(1958)年から60年以上にわたり、「林分施業法(りんぶんせぎょうほう)」と呼ばれる森林の特性や天然力を尊重したきめ細かな方法で、他に類例の無い長期的かつ大規模な天然林施業が行われています。演習林内には国の天然記念物に指定されているクマゲラをはじめ希少な動植物が生息し、森林生態系の保全と再生可能な木材資源利用との調和・両立が図られています。
北海道演習林は令和6(2024)年10月に創設125周年を迎えます。この記念すべき節目の年を祝うとともに、さらなる発展に向けて、「北海道演習林創設125周年記念事業」の実施を企画いたしました。本事業を通じて、これまでの歩みを振り返り、多様な媒体により記録にとどめ、国内外へと発信してまいります。森林の持続的な利用と生物多様性の保全、脱炭素社会の未来構築に向け、率先して貢献していく所存です。皆さまからの力強いご支援をお寄せくださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属演習林北海道演習林
林長 尾張 敏章
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林は、森林や樹木、林業に関する基礎的・応用的研究を行うとともに、森林を学習する学生たちに教育の場を提供することを目的として設置されました。最初の演習林が千葉県清澄に1894(明治27)年に設置されて以来、今日までに100年以上の歴史を有するに至っています。現在、演習林は全国7ヶ所に設置され、その総面積は東京山手線内面積の5つ分に当たる32,300 haにおよんでいます。
東京大学演習林では100年以上の長きにわたり、数多くの教職員の手によって森林を良好に維持・管理しながら、人工林や天然林の樹木の成長、森林に暮らす動植物、気象や水文等に関する調査・観測データを蓄積し続け、多くの教育や研究の場面で活用されてきました。また、演習林が保有する豊かな森林は学内外を問わず多くの教育者や研究者によって求められ、教育研究フィールドとして利用され続けています。近年では、社会的な要請により、演習林の長い歴史の中で培った知識・経験を社会教育を通じて広く普及するとともに、自治体や地元地域との連携にも力を入れるなど、多方面で活動しています。
森林は環境を維持する公益機能と、木材を生産する経済機能の2つを合わせ持っています。 その機能は、人の取り扱い方次第で内容が変化していきますが、正しい森林管理を行えば、2つの機能とも将来に向かってより発展するはずだと「林分施業法(りんぶんせぎょうほう)」では考えています。 林分とは読んで字のごとしで、いろいろな状態の森林を似たもの同士に分けるということです。 そして、そのタイプごとに最も相応しいと考えられる取り扱いをしていきます。
北海道演習林がある富良野地方は、北方系の針葉樹と温帯系の広葉樹が混ざり合う北方針広混交林帯に位置しています。 しかし、全ての地域で針葉樹と広葉樹が均等に混ざり合っているわけではなく、注意深く観察すると針葉樹が多いところ広葉樹が多いところと様々な森林があります。 「林分施業法」で、いろいろな状態の森林を分ける時に最も重要となる因子は、次代を担うであろう小中径木(更新木)がきちんと準備されているか否かです。 更新木が十分にある森林は、収穫作業(木材生産)だけを行ないます。 それに対して、更新木が不十分な森林は、更新木を得るための補助的な作業(植栽など)を行なう必要があります。 この更新木の状況による大きなタイプ分けを基本として、さらに優占する樹種や森林の成立過程などに応じて森林を分類していきます。 具体的には、林分ごとにその現況を知るため一定面積内の一本一本の樹木の種類と太さを調査します。図は調査によって作成された施業図面の一部です。 その結果から、林分が改良(健全度、成長、形質)されるように心がけて伐採する木を一本一本決定していきます。
森林はその姿を常に変化させていきます。 「林分施業法」の基本的な考えは変わりませんが、その運用は森林に合わせて変化します。 森林という様々な要素からなる集合体を人が節度を持って有効利用するには、臨機応変な柔軟性こそが重要だと考えています。 北海道演習林では、これからも時代に即した「林分施業法」の研究と実践を進めて行きます。
※ 林種区分図(51林班)
一見、手つかずの森のようですが、実は過去60年間に計6回の択伐(抜き伐り)が行われています。10~15年に一度、森林蓄積(森林を構成する樹木の体積)の7~17%に相当する量の樹木が伐採されてきました。
※画像は、林種区分図(51林班)と同じ箇所
林分状況の調査に基づき、伐採を行う箇所のイメージ
※赤い色の箇所が伐採する樹木
※イメージ図は、林種区分図(51林班)と同じ箇所
■125周年記念誌の出版
創設以来125年に及ぶ北海道演習林の変遷を写真とともに振り返ります。北海道演習林を利用して行われた多数の研究実績を目録として取りまとめ、主要な研究成果を要約して紹介します。
■125周年記念写真・動画アーカイブ集の製作
北海道演習林に保管されている写真・動画を整理・編集し、森林とその管理方法、主要な撹乱イベントとその影響など、125年間の変遷を記録にとどめます。また、現在の森林の様子や森林管理の方法などを幅広く撮影し、未来に伝えるための資料とします。
■英文書籍の出版
「Integrative Forest Management and Silviculture: Harmonizing Conservation and Production」を仮題とする本書では、北海道演習林が1958年から実践してきた自然に根ざした森林管理手法(林分施業法)を主に紹介します。世界の林業が自然に根ざした管理方法に移行しつつある今、60年以上続く林分施業法のもとでの森林管理は国際的にも有用な事例となりえます。
■記念式典・講演会の開催
2024年10月11~12日(予定)に創設125周年記念式典、講演会、見学会等を開催します。
2023年12月05日(火)
倉本聰
富良野東大演習林の面積22,717ヘクタール。
林道の総距離942キロ。
その森の中からどろ亀さんこと高橋延清先生は、ワンカップ大関片手にヌッと現われた。先生の提唱された林分施業法が評価され、前年先生は退官されて、小さな山小屋を建ててもらい、そこを拠点に連日演習林をさまよっておられた。
クラさん、こゝに3つの沼があり、そこに三種類のオタマジャクシがいる。暇になったからこゝ二年程、そのオタマジャクシの観察をしてるンだ。といってもオレはオタマジャクシには素人だ。なんにも判らんからとりあえずそいつらに名前をつけた。上の沼にいるのが田中サン。向うの沼の一族が斉藤サン。この先の沼のが吉田サン。そいつらが蛙になるまでを二年間じっくり見学した。そのうちどうしても判らんことが出てきたから、町の図書館へ下りて中学の参考書程度の本で調べた。イヤイヤ疑問が全部解けた。そもそも田中サン、斉藤サン、吉田サンの本名がやっと判った。参考書にいくつか小さな間違いがあるのも発見した。
どろ亀さんのこの研究態度に、いたく感動した。いやしくも先生は東大名誉教授である。その大先生が書物から入らず、実地から入って二年を費やし、その後初めて参考書に戻っている。この仙人は本物だと思い、僕は先生を心の師と仰いだ。
先生が最晩年初めて遭遇し、ひどく感動されたというカツラの谷がある。
その谷が見たくて案内してもらった。
その谷の霊気に魅了された。
以後何年もその谷に通っている。
殆んどカツラだけのシンとした谷である。
原始の森とはこういうのを云うのだろう。
先生は生前仰っておられた。今度生れ変るときはオレはトドマツサンに生れ変りたい。僕はカツラに生まれ変りたいと思っている。カツラに生れ変って、あの森厳の中に育ち時折谷の向うのトドマツ林から、風にのってきこえてくるトドマツサンの呟きを聞きたい。
どんどん速くなる人の世界の時計から距離をおき、太古から変わらぬ森の時計の、ゆったりした速度にこの身を置きたい。
どろ亀さんが残した豊かな富良野の森と、森づくりの哲学を未来へと繋いでいってほしい。心から応援しています。
本プロジェクトは2020年9月30日をもって寄付募集を終了いたしました。 後継プロジェクト「東京大学附属図書館支援プロジェクト」もどうぞよろしくお願いいたします。
新図書館計画「アカデミック・コモンズ」
募集終了
<北海道演習林創設125周年記念支援基金>
<北海道演習林創設125周年記念支援基金>
<北海道演習林創設125周年記念支援基金>