2024年05月13日(月)
株式会社日本コンピューティングシステム
1992年創業。コンピュータおよびネットワークシステムの研究開発、製造、販売を事業とする。顧客のニーズに合わせた受注生産販売をコンピュータ黎明期から展開してきた業界の老舗。
2021年、創業者の岩本修が逝去、鮎川悦子が代表取締役に就任した。
(写真左から、東京大学総合研究博物館 西秋良宏館長、株式会社日本コンピューティングシステム 岩渕正良様、鮎川様、並木亜紀都様。遺影は創業者の岩本修様)
──まずは、御社と東京大学との関わりをお聞かせいただけますか。
「東京大学さんとは、創業当時からお付き合いがあります。PCクラスタコンソーシアム(PCCC)では石川裕先生にお世話になっていました。検証や研究に弊社のマシンを使っていただいていたんです。そのご縁で、東大の学生さんにアルバイトに来てもらったりもして。
また、十数年前のことですが、弊社の前社長で創業者の岩本修が、東大病院(東京大学医学部附属病院)に入院したことがありまして。そんなご縁もありました」
──今回のご寄付は、岩本前社長のご希望だそうですね。
「そうなんです。岩本は2021年に逝去したのですが、公私ともにお世話になった東京大学に寄付をしたいと生前から申しておりました。
岩本は哲学を学んでいたこともあり、世の中のためにとか、人間はどうすべきかとか、そういうことをよく言っていました。また、彼には子どもがいませんでしたから、身内に限らず、何か社会貢献をしたいという気持ちがきっとあったのではないかと。たとえば学術に役立ててほしいとか、経済的な問題で修学できない方の援助になればとか、そんな想いがあったんだと思います」
──岩本前社長が急逝されて、鮎川さんが2代目の代表取締役に就任されましたね。
「はい。私は1992年の創業当時に入社しました。30年ほど勤続しましたので、そろそろリタイアすべく、退職するのも実は決まっていたんですよ。だから前社長の他界も、私の社長就任も、まったく夢にも思っておらず……。それで、会社もバタバタして大変だったんですが、2022年秋、ちょうど一周忌のタイミングで東京大学さんにご相談をしました。
前社長からは、東大に寄付したいという以外に、具体的な考えを聞いているわけではありませんでした。ですので、お世話になったところに寄付させてもらうのがいいのかしら、くらいの気持ちでいたんです」
──今回のご寄付の経緯を伺ったところ、岩本前社長の想いを継ぐようなかたちにしたいということでしたね。
「名前と本人の心意を残す記念基金を立てるのが最善ではと思い、ご提案いただいたエンダウメント型の寄付を決めました。また、岩本個人の想いだけでなく、企業全体としての想いも世に示すことができる方法を、と考えました」
──奇しくも当時、ウクライナの侵攻を受けての「東京大学緊急人道支援基金」が立ち上がったところでもありました。そこで、緊急な人道支援と、恒常的メセナへの支援、そのどちらにも寄与できるご提案をさせていただきました(※)。
※個別で基金を立て、元本を取り崩さず、運用益にて恒久的にご支援をしていただくという仕組み
「はい、大学のほうで一番役に立つかたちで活用いただくのが最善と思いましたし、大学が自律的に予算をとって活動するための、とてもいいシステムだと思いました。そして今回、支援先の一つとして「東京大学コレクション未来基金」を選びました」
──「東京大学コレクション未来基金」プロジェクトのスタートを支えていただいて本当にありがとうございます。今日は西秋良宏館長の案内で博物館を見学していただきましたが、いかがでしたか。
「非常に面白くて、もう少し時間が欲しかったですね」
西秋良宏館長による企画展の説明と、
それをお聞きになる日本コンピューティングシステムの皆様
──多くの方に見ていただくというアカデミアの姿勢を崩したくないという館長の想いもあり、この博物館は入場無料にしているため、ご支援に支えられてこそ成立しています。
「そうですよね。私たちも正直、寄付しておしまい、ではないですけれど、前社長との約束をひとつ果たしたんだ、というほどの心持ちだったんです。でも、こうして実際に見せていただくことで、私たちがどこにどう貢献できたのかを具体的にイメージできますし、人生で初めて目にするようなものをたくさん見せていただいたので(笑)、またお邪魔したいなという思いも湧きました。一方的に寄付して終わりではなく、双方向の関係が続いていくというのは発見でしたね。
私たちの会社も近所ですし、博物館にはぜひまた伺いたいと思います。世界中でいろいろなことが起こっていますが、人類の文化の発展というのは不可欠ですよね。そのための力添えになるのは嬉しいこと。私たちにできることを、今後もさせていただければと思っています」
聞き手:担当ファンドレイザー
ライター:野村美丘(photopicnic)
編集:東京大学基金事務局