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迫田 章義教授、工藤 一秋教授、立間 徹教授、石井 和之准教授

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迫田 章義 生産技術研究所教授 専門分野:環境・化学工学

研究テーマ:持続可能な地域農業・水環境・バイオマス産業の融合のためのシステムと技術の開発、環境技術への応用のための吸着分離プロセスの開発、新規カーボンナノ材料の合成と応用

工藤 一秋 生産技術研究所教授 専門分野:機能性分子合成

研究テーマ:水系溶媒中で機能する固相担持ペプチド不斉触媒の開発、機能性交互共重合ポリイミドの合成と物性評価、ペプチドの自己集合を利用した分子素子の開発


立間 徹 生産技術研究所教授 専門分野:電気化学デバイス

研究テーマ:金属ナノ粒子を用いたプラズモン光電気化学デバイスの開発、新規光電気化学材料・技術の開発と応用など

石井 和之 生産技術研究所准教授 専門分野:機能性錯体化学

研究テーマ:新規有機-無機複合材料の開発、光機能性金属錯体の開発、機能性フタロシアニン錯体の開発


プロフィール
迫田 章義
学歴:昭和54年3月 東京大学工学部化学工学科卒業、昭和59年3月東京大学大学院工学系研究科化学工学専門課程博士課程修了・学位取得(工学博士)
職歴:昭和59年4月東京理科大学理工学部・助手、昭和62年8月ミシガン大学・博士研究員、平成元年10月東京大学生産技術研究所・助手、平成12年7月より現職

工藤 一秋
学歴:昭和63年3月 東京大学工学部工業化学科卒業、平成5年3月東京大学大学院工学系研究科合成化学専門課程博士課程修了・学位取得(博士(工学))
職歴:平成5年4月東京工業大学資源化学研究所・助手、平成8年7月東京大学生産技術研究所・講師、平成9年10月カリフォルニア工科大学・客員研究員、平成11年9月東京大学生産技術研究所・助教授、平成19年9月より現職

立間 徹
学歴:昭和63年東京大学工学部卒業、平成2年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、平成4年東京大学大学院工学系研究科博士課程中退、平成5年博士(工学)(東京大学))
職歴:平成年東京農工大学工学部・助手、平成10年東京大学大学院工学系研究科・講師、平成12年助教授、平成13年東京大学生産技術研究所・助教授、平成20年より現職

石井 和之
学歴:平成3年3月東北大学理学部卒業、平成8年3月東北大学大学院理学研究科博士課程後期課程修了・学位取得(博士(理学))
職歴:平成8年4月東北大学大学院理学研究科・助手、平成18年4月東京大学生産技術研究所・助教授、平成19年4月より現職

震災後「化学の分野でできることはないか」と研究者有志が集まった

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石井 和之准教授

―今回の研究開発に至ったきっかけについて。

立間:3月11日の震災後、3月中に研究者の間で「化学の分野で貢献できることはないか」という話が出てきました。特に石井准教授は茨城県出身で、東北大学にも在籍していたので、それらの地域が被災している現状に対し、何かできないかという強い思いがあったようです。4月には有志が集まり、具体的に話し合いを行いました。

問題のテーマとして、初めは津波による汚泥の被害、塩害なども考えていたのですが、やはり放射性物質による汚染が問題としては大きく、また我々としても貢献できる余地があるのではないかと。なかでも、土壌汚染の除去に貢献できれば、避難住民の方の帰宅や、農業の再開にも貢献できるのではないかと考え、土壌における放射線物質の除去をテーマとしました。その時の有志の中で、中心メンバーとなったのがこの4名です。

石井准教授は錯体化学(さくたいかがく)を専門とし、金属イオンを中心とした物質を扱っています。プルシアンブルーも錯体の一種ですが、これを作ったり布に付着させるということを中心に行いました。工藤教授は有機化学が専門です。有機物である布の繊維の処理や、プルシアンブルーを布に付着させることなどを担当しました。

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立間 徹教授

私(立間教授)は電気化学が専門ですが、これは電子やイオンのやりとりに関する化学です。イオンや電子のやりとりによって、プルシアンブルーをより良くするための研究をしています。迫田教授はこのプロジェクトのリーダーです。化学工学が専門で、元々水や土壌などを研究していたので、土からセシウムイオンを剥がしたり、布に吸着させるというプロセスの開発を担当しています。この4人や、ほかの研究者も含めて、それぞれが得意な分野を活かしてこのプロジェクトを行っています。

迫田:僕の場合は、初めに飯舘に入って見た光景が動機のすべてですね。通常なら田植えをしている時期だったのですが、峠一つ越えたらもう荒野なんです。飯舘村の村長にもお会いして、現状を目の当たりにすると、『これは見て見ぬふりはできない。』と。その感情が先に来ましたね。

「1平方メートルあたり500円」低コストを実現した「除染布」とは。

―「除染布」というイメージは研究のどの段階で生まれたのか。

石井:セシウムを吸着できるものとして「クラウンエーテル」という物質があるんですね。そこで初めは、有機合成を専門としている工藤教授が、クラウンエーテルを使ったセシウム吸着材というものを作りました。しかし有機物を使用していることで費用と手間がかかり、大量生産に向かないようだとわかりました。同時並行で、私の方ではプルシアンブルーを使用する方法を研究していたのですが、パっと撒いて吸着するまでは良いのですが、吸着したあといかにうまく回収するかが課題になりました。これは皆で議論して考えたのですが、「タオルはどうか?」と。非常に薄い濃度のセシウムが非常に広範囲に広がっているという状況において、「広範囲に広がり、かつ回収しやすいもの」という形態を考えると、「布」がいいのではないかと。

これは実際の物ですけれど(除染布を広げる)2011年の6月ぐらいにはできていて、理論上これで吸着することはわかっていたのですが、現地で使えるものになるまでは、発表しても混乱を招くだけだろうと。そこで迫田教授のアレンジで、飯舘村で実証実験を重ねた結果、この度、使用できるものとして発表することになりました。

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工藤 一秋教授

工藤:生産技術研究所の特徴として、異なる専門分野でも研究者が集まりやすいという雰囲気があるので、それぞれの専門を活かして、こういう研究ができたのだと思います。

立間:普段から横断的な共同研究が多いので、そうした環境が活かされたということがあると思います。迫田:この生産技術研究所では多々ある話ですよ。

―「除染布」一枚当たりのコストは?

石井:布代がほとんどですね。1メートル四方で500円ぐらい。青く染めるのは数十円程度なので、布代をもっと安くすれば、300円程度にできるかと思います。

飯舘村から帰る直前、一枚のタオルから放射性物質を検出

―「除染布」の開発までに苦労したことは?

石井:現在起きていることなので、急ピッチで実験を行わなければならなかった点です。また現地での実験では、研究室にあるものを持ち込むということはできませんから、ホームセンターで鍋を買ってきたり、ホットプレートを買ってきたり。通常の研究環境とは異なった状況下で、結果を出さなければならなかったという点ですね。

―「除染布」の開発ができたときはどのように感じたか。

石井:プルシアンブルーは、溶液Aと溶液Bを混ぜるだけでできるんですね。この布を溶液Aにつけて、溶液Bにつけるだけで、ぱっと青く染まって、それがセシウムをよく吸うとわかったときには驚きました。それから飯舘村に行って実験をしたときですね。研究室での実験で吸うのはわかっていたのですが、現地で実験をしたとき、初めは全然駄目だったんですよ。帰る直前に、仕掛けておいたうちの一つの布を取り出してみたら、多量の放射線物質が検出されたということがわかって、そのときはやはり感動しましたね。あれがなかったらそれから先に進まなかったかもしれないですね。

―いまも研究は続いているのか。

立間:もちろんです。いまは福島県を中心に活動していますが、特に石井准教授は頻繁に現地に行っていますね。

企業、自治体、海外からの問い合わせも除染方法の新たな選択肢として

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迫田 章義教授

―「除染布」の開発のネクストステップについて。

迫田:農林水産省も大規模に除染活動をしているが、この研究チームが行えることしては実証実験であると思います。除染の規模や予算を考えると道のりは遠いけれども、研究に着手している以上途中で諦めることはできない。国が行う除染というのは環境省の管轄であるが、農地の除染については農林水産省が方法A、方法B、方法Cというものを環境省に提案し、かつ環境省が独自に方法D、方法Eも併せて検討するという仕組みになっているらしい。この方法のA~Eのいずれかに選ばれないと国が行う除染の方法として活用されないわけです。他方で国の指定地域ではなく、自治体が独自に除染を行う場合には別になるわけですね。こういう所で使用してもらう方法になるのか、国のA~Eの方法になるのかは、今後進めてみないとわからないですが。どの方法を選択するについては、色々な意見があると思いますが、僕らは技術開発を行うのが務めだと思っています。

立間:一つ選択肢を増やしたい、という思いはあります。現場では様々なニーズがあると思いますが、誰が使うにしても、どこかのニーズには合うものと考えて、選択肢を提供するというのが我々の考えです

―「除染布」開発の反響について。

石井:いろいろ問い合わせが来ています。企業からこの布を作りたいという問い合わせや、自治体、漁協からもこれを使えないかと。また海外からも問い合わせがありますね。また掲載された新聞からも、反響が大きいのでさらに情報が欲しいという連絡もありました。予想していたよりも大きな反響に驚いている部分はあるのですが、報道によりこのような技術があることを広く知って頂くことができたので、さらになる改良を行って除染に貢献していきたいですね。


    ※肩書きはインタビュー当時のものです。

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