東京大学先端科学技術研究センターの鈴木俊貴准教授は、シジュウカラという身近な鳥が独自の「言葉」を持つことを世界で初めて証明し、「動物言語学」という新しい学問を2023年に創設した。その研究は世界中から注目を集め、人間と自然の関係を見つめ直すきっかけを与えている。今回は、鈴木先生に研究の魅力、寄付の使い道、そして研究者としての歩みについて伺った。（全２回の２回目）

【前編】
「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴准教授は“世界唯一”の「動物言語学」研究室を2023年に創設し、
東京大学で何を追求しているのか？　を読む

既存の枠に収まらない学問

——今回のインタビューでぜひお聞きしたいのが、寄付についてです。なぜ寄付を必要としているのでしょうか。

　一番の理由は、動物言語学がまだ新しい学問だということです。私が動物言語学研究室を立ち上げたのが2023年で、世界中にまだ動物言語学の分野は東京大学にしかないんです。毎年のように国際学会に基調講演で呼ばれるなど注目はされているのですが、まだ例えば動物言語学の枠での助成金は全くありません。

——世界で唯一の分野だからこそ、既存の枠組みでは支援が難しいということですね。

　そうなんです。一番近いところだと生態学などがあるのですが、新しい種類の動物を研究する、しかも新しいユニークな方法で研究するとなると、なかなか既存の学問の枠に収まりにくい。既存の学問の枠に収まらないということは、助成金も取りにくいんです。

　例えばモモンガの言語に関する研究はほとんど寄付金のおかげで継続できています。これまでまだ成果が出ていないような動物にも目を向けて解き明かすことができる、それはほかの研究費ではできないところなので、皆さんのご支援によって、言葉の分かる動物がどんどん増えていくんです。

——新しい動物の研究にも挑戦できるということですね。

　はい。それと同時に、そういった研究を通して動物の言葉を解き明かすための枠組みがどんどんしっかりとしたものに変わってきている。動物言語学を、シジュウカラだけじゃなくていろんな動物にもその枠組みを広げていきたい。将来いつか人間が動物の言葉が分かるような未来が来るんじゃないかと思っています。そのスタートアップ的な今の時期に、皆さんのご寄付を使わせていただいているというのが現状です。

超音波の会話を録音することも

——具体的に寄付はどのように使われているのでしょうか。

　主に出張費と研究機材に使わせていただいています。いろんな動物で言葉の力を研究するためには、それぞれの環境に入っていって研究する必要があります。そのためには出張するためのお金も必要だし、滞在する時の研究費も必要です。

——フィールドワークには、それなりの費用がかかるわけですね。

　そうなんです。それだけじゃなくて、例えば鳴き声を録音するための機械も必要です。中には超音波を出して会話している動物もいて、今学生たちと進めているのはネズミとかモモンガの研究なんですけれども、彼らは超音波で会話していることがわかってきました。

　超音波を録音したり、それを聞かせてみるためには、普通に売っているようなレコーダーとかスピーカーではうまくいかなくて、専用の研究機材が必要になります。

——どのくらいの費用がかかるものなのでしょうか。

　具体的な金額でいうと、超音波を録音する録音機は1台10万円くらいから100万円ほどかかるものまであって、それが何台も必要になります。超音波でないレコーダーも10万円以上はしますし、ビデオカメラも15万円以上はかかります。高いんです……。

——高額な機材が必要なんですね。他にはどのような使い道がありますか。

　学生の滞在費もあります。例えば台湾や北海道で研究している学生がいますが、200日ぐらい、ほぼ住んでいるぐらい現地にいるんです。できるだけ安宿に泊まるようにしていますし、大学の演習林施設があったらそこを利用するなど、お金はとにかく節約するんですけれども、やっぱり宿泊費とか交通費にはお金がかかります。

　研究室の人数も増えてきています。うちの研究室ではみんな違う対象を研究するようにしているので、それぞれに機材や滞在費が必要になります。

長いスパンで動物の言葉を解き明かすために

——なぜ国からの助成金だけでは難しいのか、もう少し詳しく教えていただけますか。

　いくつか理由があります。まず、誰もきちんと研究をしたことのない新しい動物の研究を始める時は、どうやって研究すればいいのか分からない状態からスタートします。本当に成果が出るか分からないようなものに対して、なかなか助成金は下りにくい。それに、試行錯誤の時間も必要になる。しかし、国からの助成金はほとんど3年や4年で成果を出す必要があり、期限が短いんです。

——3年、4年という期限は、動物言語学の研究には短すぎるのでしょうか。

　そうなんです。私もシジュウカラの言葉を解き明かすのに20年ですから。とても時間がかかることなんです。

　たとえば5年続けてもある動物の言葉が分からないからといって、それを研究室のテーマから外すわけにはいかない。そこに新しい発見が絶対隠れているんです。だから、その研究の礎を学生には作ってほしい。そのために寄付金はとても重要な存在です。

——研究には長期的な視野が必要なのですね。

　最初に何かを解き明かすときに一番時間がかかるし、どれくらい時間がかかるかなんて分からない。これまで成果のない動物をやるっていうと、ゼロからのスタートになるんです。そのための機材とか宿泊費とか、国からの競争的な研究費では賄えない部分を、寄付金がカバーしてくれています。

　寄付金は「繰り越せる」というのがとても大事なことです。継続的に続けられるし、研究者も学生もある程度の安心感を持って研究に取り組める。これは補助金にない、とてもありがたいポイントです。

人間があらゆる動物の言葉がわかる未来へ

——最後に、寄付を考えている方、そしてこれまでご支援くださった方へメッセージをお願いします。

　これまで寄付してくださった方々には、本当に感謝しています。どうもありがとうございます。皆さんのご寄付を無駄にしないように有効に活用させていただいて、新しい発見をまた発表できるようにがんばりますので、ご期待ください。

——寄付を迷っている方には、どのようなメッセージがありますか。

　寄付を迷っている方については、いろいろな事情があると思いますので、無理をしていただく必要はありません。特にお子さんからの寄付もたまにいただいていてとてもありがたいのですが、子どもにとっての1000円と、大人にとっての1000円は価値が違います。だから子どものみなさんは、そのお金を使って自分で動物観察をしてくれたら、寄付以上に嬉しいです。

——どうもありがとうございます。

　皆さんのご支援によって、言葉の分かる動物がどんどん増えていくだけでなく、動物の言葉を解き明かすための枠組みがどんどんしっかりとしたものになっていきます。将来いつか人間があらゆる動物の言葉が分かるような未来が来る、それが本当の意味での人間と自然の共生を生むと思います。そのような未来を実現するために、引き続きご支援いただければ幸いです。

（文＝二瓶仁志）

【前編】
「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴准教授は“世界唯一”の「動物言語学」研究室を2023年に創設し、
東京大学で何を追求しているのか？　を読む

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