はじめに
駒場Ⅰキャンパス(1・2年生が主に通うキャンパス)から徒歩15分ほどの場所にある駒場Ⅱキャンパス。
そこは先端科学技術研究センターと生産技術研究所が所在する大規模な研究施設で、駒場リサーチキャンパスと呼ばれています。2025年5月30日から31日にかけて、駒場リサーチキャンパスではキャンパス公開が行われていました。その様子を学生ファンドレイジングサポーター、まきがレポートします!
いざ、駒場リサーチキャンパスへ
5月31日。あいにくの雨でしたが、お子様連れの方や学生さん、ご年配の方々で大賑わいでした。会場内へ一歩入ると、そこには最先端の研究施設が広がっています。研究や企業の事業内容を紹介したポスターだけでなく、お子様も楽しめるような出し物が揃っていました。

イチョウの葉を模した紙片に、「もしかする未来」を書き、吊り下げていきます。
巻研究室「海中底ロボット展示」
関連プロジェクト:
Full Ocean Depth EX基金
まず初めに生産技術研究所へ。巻研究室は、ロボティクスと高度な情報処理を基盤とした海中底探査ロボットの研究・開発に取り組んでいます。展示スペースの中に入ると、いかにも最先端なロボットがずらりと並んでいました。

展示されていたロボットは全て人間の操作を必要とせず自律的に行動するAUV(自律型無人探査機)であり、氷に覆われた極域の海で海氷の下に潜りこむことができるタイプなど、さまざまな種類がありました。用途も多岐にわたり、たとえば、海底地形の解析ではロボットに搭載されたソナーが詳細な3次元地形データを取得していることが紹介されていました。また、生物の生態調査においては、高精度なソナーや人工知能を駆使して、深海生物の行動や生息環境を非侵襲的に記録できることがわかりました。
さらに、研究室内のポスター展示からは、こうした技術が地球温暖化による海洋環境の変化のモニタリングや、水産資源の持続的な管理など、私たちが直面する社会的課題の解決にも活用されていることを知りました。まさに未来のための技術であり、今後ますます重要性が増していくのだろうと実感しました。
そのような巻研究室は、Full Ocean Depth EX基金を設置しています。この基金は、深海機器の研究開発を推進するとともに、産業化に貢献することを目指しています。最先端のロボットが未知の深海へ挑み、その成果が社会に還元されていく未来には、大きな期待が寄せられます。

卵がとろとろで美味しかったです!
森章研究室「生物多様性・生態系サービスに関する研究」
午後は先端科学技術研究センターへ。森章研究室のポスター展示にお邪魔しました。
森研究室では、森林を中心とした陸域の生態系について、野外調査を主軸とした研究を行っています。研究のキーワードは、「生物多様性」、生態系が自然に与える影響のプロセスである「生態系機能」、そして生態系からの恵みである「生態系サービス」の3つです。ポスターでは、知床の森林を対象にした実地調査の事例が紹介されており、多様な動植物がどのように共存し、それが森林全体の機能にどのように貢献しているかが具体的に示されていました。
こうした研究は、自然環境の保全と人間社会の持続可能性を両立させるうえで極めて重要であり、科学的知見に基づき社会のあり方を考える上で不可欠だと感じました。
また、森章研究室が設置した「ネイチャーポジティブ基金」についての展示もありました。生物多様性の低下は巡り巡って経済活動の停滞や人類の生存基盤の脆弱化につながること、そして近年注目されている「ネイチャーポジティブ」という概念について学ぶことができました。これは、自然の損失を食い止めて回復へと転じさせ、2020年と比べて2030年までに自然をプラスの状態に転換し、2050年までに自然を完全に回復させることを目指す国際的な目標です。
この展示を通して、自然資本の保全が未来社会にとって不可欠な課題であることを強く実感しました。研究と社会的なアクションが結びつくこのような取り組みに、今後も注目していきたいと思います。

非常にわかりやすくまとめられており、生態学初心者の私でも理解することができました。
風洞見学へ
最後は1号館にある風洞を見学してきました。風洞とは、人工的に風を発生させて、航空機などに対する空気の流れを再現・観測する装置です。スキージャンプ選手のトレーニング実験にも使われています。昭和4年(1929年)に帝国大学航空研究所風洞部の設備として建設され、当時は日本最大規模の装置でした。過去には航空機だけでなく、鉄道や自動二輪車、アンテナなどを使った実験が行われていました。
直径が3メートルもあり、その圧倒的な大きさに思わず息を呑みました。印象的だったのは、その風洞が木製であったことです。現在の多くの実験装置が金属や合成素材で作られている中で、木でできた風洞には温かみとともに、長年にわたり使われてきた歴史と重みを感じました。単なる研究機器というだけでなく、工学の歩みを物語る貴重な存在として深く印象に残りました。
東大先端研・風洞ミュージアム設立基金では、この歴史ある風洞を伝え、多様な人々が交わることのできるミュージアムの創出を目指しています。ミュージアムは風洞だけでなく、当時の研究者の想いや、先端研の歴史などを伝える施設となる予定です。歴史ある風洞や研究者たちの想いを未来へつなぎながら、研究者、企業、地域の人々がともに語らい、交流できるミュージアムが生まれるのだと思うと、とても楽しみです。

最後に
今回の駒場リサーチキャンパス公開では、最先端のロボット工学や生態系研究、そして長い歴史を持つ風洞設備など、多岐にわたる分野の研究に触れることができました。それぞれの展示からは、技術の進歩が自然環境の保全や社会課題の解決にどのように貢献しているのか、そして研究の成果が実社会にどうつながっていくのかを、具体的に学ぶことができました。
駒場リサーチキャンパスでのこの貴重な体験を通して、科学技術や学術研究が持つ可能性を改めて感じました。学生ファンドレイジングサポーターとして、今後もこうした魅力を発信していければと思います。