■設置の趣旨
先端科学技術研究センター (先端研) の1号館には、戦前より日本の航空工学研究を支えた巨大な木製風洞が、当時の完全な姿のまま残されています。
重要航空遺産であるこの風洞は、かつてこの地にあった東京帝国大学・航空研究所のDNAを受け継ぐ、日本の航空機開発の歴史を象徴するものです。
この極めて重要な施設を擁する先端研の使命として、1号館を、「風洞ミュージアム」を中心とした、学内外の様々な人々が集える新しい場所に変革していくことを、企図しています。
歴史を肌で感じることのできる博物館であると同時に、先端研の現在そして未来の研究にも触れられる空間であり、研究者・企業・地域の皆様が共に語らうことのできるサロンであり、そして社会課題解決のための研究実践の場ともなるような場所を目指します 。
■先端研と風洞の歴史
先端研の起源は、1918年に設立された東京帝国大学附属航空研究所にさかのぼります。当時、航空機に関する研究は、先端研究そのものでした。当初、越中島にあった航空研究所は、関東大震災を契機に1930年9月に農学部敷地西端(今の駒場第Ⅱキャンパス)に移転しました。
この移転により、日本の航空史において重要な役割を果たす木製風洞(通称:3m風洞)が建設されました。この風洞は、「航続距離世界記録」(1938年)を作った航研長距離機や先の大戦後、日本のメーカー(日本航空機製造)が初めて開発した旅客機YS-11の設計に関わった場所であり、日本の航空史を語る上で極めて重要な歴史的研究施設です。2019年には日本航空協会によって「重要航空遺産」として認定されました。
■風洞ミュージアムをつくり、航空研究所の歴史を未来へつなぐ場に
先端研は、この風洞と風洞が入る1号館を整備し、社会課題解決のハブとしての場を構築します。
かつて、航空機開発の最先端研究を支えた風洞施設を多くの方々に安全に観ていただき当時の研究者の意気込みを感じることのできるミュージアムとしてリニューアルします。
そして、そこには先端研のこれまでの歩みを示す資料館、研究者同士、研究者と企業、地域の方など、先端研に関わってくださる個人、法人と語らうことのできる多目的空間、多様な人々が集うことのできる研究環境の整備(例:宗教に関係なく祈ることができるスペースの設置、また、障がいを抱える方々が短時間働けるカフェの設置等)を企図しています。
「学術の発展と社会の変化から生じる新たな課題に挑戦し、人間と社会に向かう先端科学技術の新領域を開拓する」という使命に沿った、先端研ならではのアプローチで1号館を活用します。
先端研は2027年に40周年を迎えます。
この節目に向けて、さらには2037年の50周年も目指して、教育・研究の進化、インフラ整備、人財の確保、企業・地域・地方との連携を強化し、人々の暮らしや社会をより良くするための研究を加速度的に推進して参ります。
そのような先端研の未来と、歴史が接続する特別な場所の創出に向けて、皆様の温かいご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
皆様からのご寄付は、1号館整備のために大切に遣わせていただきます。
具体的には
最大風速は、1秒間に60メートル、世界記録の偉業を成し遂げた航研機や日本初の旅客機YS-11の空力特性、パラボラアンテナや高圧電線の風圧を調べる実験、スキーのジャンプ(オリンピック出場)選手のトレーニング実験を含む数々の実験が行われました。
以下、過去に実験が行われた事例(抜粋)をご紹介します。
・航研機(航空研究所長距離機)
・A-26(キー77)
・自動車1/5模型
・ YS-11 ※
・東海道新幹線
・磁気浮上鉄道
・自動二輪車
・ロケット低速時の空力特性
・大阪世界万博の建物の風圧
・高層ビルの風圧及び周辺の気流
(富士フィルム東京本社ビル・日本不動産銀行ビル等)
・大日蓮華山大石寺正本堂模型の風圧
・レーダードームの風圧試験
(富士山頂レーダー・鹿島宇宙船レーダー・野辺山天文台)
・チョモランマ登山中における耐風試験
・アメリカズカップ・ヨット
・ジャンプの飛躍
・スキージャンプトレーニング
(アプローチ・テイクオフ・フライト)
※YS-11(ワイエス いちいち)
第二次世界大戦後、7年間の航空に関する活動禁止を経て初めて国内メーカーが開発(設計・生産)した国産旅客機
木製風洞が誕生させた航研機は赤い翼が特徴的である。
東京帝国大学航空研究所が昭和13年(1938)に設計し制作指導した航研機は、同年5月13日~15日にかけて、国際航空連盟(FAI)規定の周回航続世界記録(11651.01㎞)と10,000㎞コース上の平均速度(186.197㎞/h)の国際記録を樹立した。
「歴史と未来をつなぐ風のトンネル」
風のトンネルと書く風洞とは、航空機にかかる荷重や空気の流れを計測・観測するための装置です。文字通りトンネルの中に空気の流れをつくり、その中に航空機の模型を設置し、様々な実験を行います。
現在でも航空機開発、自動車開発など様々な場面で使われる風洞ですが、先端研1号館に鎮座する巨大な木製風洞が、昭和5年当時から果たしてきた役割の大きさは、計り知れません。昭和13年に世界記録を打ち立てた航研機(航研長距離機)や、YS‐11など、まさに日本の航空史そのものの結晶が、この風洞に詰まっていると言えると思います。
現役を退いたこの風洞を未来に残すために、この基金が立ち上がりました。
構想する「風洞ミュージアム」では、来訪された皆様が、圧倒的な歴史を肌で感じながら、同時に、先端研が推進する未来に向けた様々な研究にも触れることができる、唯一無二の施設を目指します。
扉をあけた瞬間、100年前にタイムスリップしたような空間でありながら、いたる所に最先端の研究が散りばめられた、歴史と未来が共存するような異空間。 昭和初期から残る什器をそのまま使った、最先端研究の展示。歴史ある施設であるからこその、サイエンスの研究と、芸術や文化が共に息づくような空間。圧倒され、楽しみながら、先端研を色々な角度から体験してもらえるような施設になればと願っております。
<東大先端研・風洞ミュージアム設立基金>
<東大先端研・風洞ミュージアム設立基金>
<東大先端研・風洞ミュージアム設立基金>
<東大先端研・風洞ミュージアム設立基金>