はじめに
「東京大学」と聞くと、本郷キャンパスの赤門や安田講堂を思い浮かべる方が多いかもしれません。
でも、しばらく電車に揺られて千葉県柏市まで足を伸ばすと、「科学の未来」がぎゅっと詰まったもうひとつの東大ワールドが広がっています。
それが、最先端研究の拠点・東京大学柏キャンパスです。
今回、2025年10月24日(金)・25日(土)に開催された「東京大学柏キャンパス一般公開2025」に足を運び、キャンパスの雰囲気や研究施設の様子を見学してきました。学生ファンドレイジングサポーターの伊藤がお届けします!
いざ、柏キャンパスへ
柏キャンパスとは
柏キャンパスは本郷キャンパスから電車でおよそ1時間のところにあります。緑に囲まれた静かな環境のなかに、宇宙線研究所、物性研究所、大気海洋研究所、カブリ数物連携宇宙研究機構、新領域創成科学研究科など、東大を代表する研究拠点が集まっています。
それぞれの研究棟では、宇宙・物質・地球環境・海と空...と、テーマもスケールもさまざまな研究が進行中。キャンパスを歩いているだけで、
「ここではどんな研究をしているんだろう?」
と、次々と想像がふくらんでいく場所です。
一棟一棟に個性があり、キャンパス全体がまるで「巨大な科学ミュージアム」のような雰囲気をまとっているのが柏キャンパスの魅力でした。
柏キャンパス一般公開2025
そんな柏キャンパスが年に一度、まるごと「ひらかれる」特別な2日間が一般公開です。
2025年は10月24日(金)・25日(土)の開催。参加費は無料で、事前申込なしで入ることのできる企画も多く、子どもから大人まで誰でも気軽に最先端の研究に触れられるイベントになっていました。
普段はなかなか入ることのできない研究室や大型の実験装置も特別に公開され、
● 研究者によるポスター発表
● 実験・観測のデモンストレーション
● トークイベントやミニレクチャー
● 親子で楽しめるワークショップ
など、内容盛りだくさん。最終的に2日間の来場者数がのべ8,800名を超えるほどの大盛況となったそうです。
当日のキャンパスの様子
緑あふれるキャンパスに足を踏み入れた瞬間、聞こえてきたのは子供たちの笑い声です。学校の見学でしょうか、小学生のグループが研究棟から連れ立って楽しそうに出てきます。
周りを見渡せば、子ども連れの家族、中高生、大学生、そして社会人まで、幅広い世代がキャンパスを行き交っていました。
広大なキャンパスのあちこちに見どころが点在。研究棟ごとに工夫を凝らした体験コーナーなども用意されており「次はあっちも見てみたい」とつい足早になってしまいます。
Chapter 1. カブリ数物連携宇宙研究機構へ
カブリ数物連携宇宙研究機構とは?
「宇宙はいつ始まり、なぜ私たちはここにいて、この先どこへ向かうのか」
人類がずっと抱えてきたこの問いに、本気で立ち向かっている場所が、柏キャンパスの一角にあります。
それが、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)です。ここでは、数学・物理学・天文学という異なる分野の研究者たちが、宇宙の成り立ちや暗黒物質・暗黒エネルギーの正体に迫るために連携し、「宇宙と物質の起源」という人類規模の謎に挑んでいます。
2007年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)として採択されて発足し、わずか5年でカブリ財団の冠研究所に選ばれた、日本初・世界で16番目の「Kavli研究所」。世界中からトップレベルの研究者が集まっており、公用語は英語です。さらに「毎年1か月以上の海外での研究」が義務づけられ、日常的に世界とつながりながら研究を進める、徹底したグローバル拠点です。
単に「優秀な研究者が集まっている」だけではなく、
宇宙の謎 × 学問の垣根を超えた連携 × 世界中の頭脳
という3つの要素をあわせもつ、きわめて野心的な研究所だと感じました。
いざ、研究棟ツアーへ
Kavli IPMUの研究棟は外から見ると一見シンプルな建物ですが、中に入ると印象がガラリと変わります。普段は入ることのできない研究棟をめぐる特別ツアーに参加してきました。
設計のコンセプトは「対話の空間」。エレベーターで3階にあがると、建物の中心に巨大な吹き抜け空間「藤原交流広場」が現れます。その周囲をぐるりと取り囲むのは、3層にわたって螺旋状に並ぶ77室の研究室。
広場のどこにいても上の階・下の階の様子まで自然と目に入ってきて、「誰がどこで、何をしているのか」がふわっと伝わってきます。この「らせん構造」には、メンバー全員が上下関係なく対等であること、そして分野や国籍の壁を越えて出会いと議論が生まれてほしい、という願いが込められているのだそうです。
この建物は、完成以来、日本建築学会賞やBCS賞など名だたる賞を受賞しており、建築そのものも「世界レベルの研究所」にふさわしいクオリティ。中央の広場にたたずんでいるだけでワクワクしてきます。


お茶の時間から生まれる新発見
Kavli IPMUの一日でもっともドラマチックな時間は、午後3時かもしれません。
この時間になると、研究室にこもっていた研究者たちが一斉に手を止め、藤原交流広場に集まってきます。目的はただひとつ———ティータイムです。
飲み物とクッキーを片手に、暗黒物質や超新星のふるまい、最新の観測装置の話題まで、あらゆるテーマが飛び交います。この「全員参加のお茶の時間」はただの雑談に見えて、じつは新しい研究アイデアや共同研究が次々と生まれる「研究者同士の交流タイム」です。
実際、このティータイムの雑談から研究が動き出し、その成果が著名な科学誌『Science』に掲載されるまでに至った例もあるそうです。
今回、運良くティータイムの時間に居合わせることができました。コーヒー片手に黒板を囲み、わきあいあいと談笑している研究者たちの姿を見ていると、もしかしたら新しい研究が生まれる瞬間に立ち会えているのかもしれない、と胸が熱くなってきます。
「日本発アインシュタイン」を生む場所として
そんなKavli IPMUを支えている東京大学基金のプロジェクトがあります。その名も
「日本発アインシュタイン:カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)」
最先端の物理・天文・数学の連携で宇宙の謎に迫り、ここから未来のアインシュタイン級の才能を育てていく———そんなビジョンのもと、教育・研究・国際交流など多様な活動が支えられています。
柏キャンパスの一角で、壮大な宇宙の問いに真正面から挑むこの場所は、
「宇宙研究のフロンティア」であると同時に、 「次の世代の研究者たちを育てるための場所」でもあるのです。
映画の世界のようでワクワクしました。
Chapter 2. 大気海洋研究所へ
大気海洋研究所とは?
Kavli IPMUからしばらく歩いたところには、「大気」と「海」をまとめて相手にしている研究拠点、大気海洋研究所(AORI)、通称「大海研」があります。
まず驚くのは、その研究フィールドの広さ。
学術研究船「白鳳丸」「新青丸」、深海潜水支援船「よこすか」など、世界中を航海する船に学生や研究者が乗り込み、広大な海の上で観測・実験・授業までこなしています。まさに「航海する研究室」ですね。
大海研では航海の様子を見ることができる公式インスタグラムを運営しており、船上での日常を垣間見ることができます。
Instagram「研究航海日誌」
さらに2011年の東日本大震災以降は、三陸沿岸での復興教育プロジェクト「海と希望の学校」など、地域と一緒に海を学ぶ取り組みも継続中。研究だけでなく、「海とともに生きる社会をどうつくるか」にも本気で向き合っている研究所です。
沿岸センター活動支援プロジェクト
世界各地から持ち帰ってくるサンプル
大気海洋研究所のフィールドは、まさに地球まるごと。
研究船は、南の暖かい海から極地の氷に閉ざされた海まで航海し、その旅の途中で海水やプランクトン、さらには極地の海氷までも採取して持ち帰ります。
パチパチとはじける気泡には遥か昔の空気が閉じ込められているのだそう。
聞くだけでワクワクしてきます。
飼育室を見学
研究棟の奥へ進むと、ちょっとわくわくするエリアにたどり着きます。そう、飼育室です。
筆者が見学した部屋には大きな水槽がいくつも並び、その中をトラザメたちが悠々と泳いでいました。ゆっくりと周回する姿は優雅でありながらどこか可愛らしく、つい時間を忘れて見入ってしまいます。
水槽の前では、研究所の学生がトラザメへの愛をたっぷり語ってくれました。超音波でサメの体内を調べ、繁殖メカニズムを解明しているとのことで、孵化したばかりの赤ちゃんザメを見ることもできました。
まるで水族館のようなワクワク感と知的好奇心が同居する、不思議で贅沢な空間でした。


バイオロギングってなに?
次に足を運んだのは、バイオロギングの展示。聞き慣れない言葉かもしれませんが、やっていることはとてもシンプルで、そしてちょっとワクワクします。
バイオロギングとは、野生の動物に小さな記録計(センサー)をつけて、
● どのくらいの深さまで潜ったのか
● どんなルートで移動しているのか
● どのタイミングでどれくらい体を動かしているのか
といった情報を、長い時間をかけて記録していく手法です。
対象は、海鳥、ウミガメ、クジラなどさまざま。センサーや小型カメラを組み合わせることで、「動物の目線」で世界を見ることができます。
ユニークなグッズ
この日の展示では関連グッズも配布されていました。たとえば、動物の生態がコンパクトにまとまったカードはまるでミニサイズの図鑑のよう。イラストがかわいらしく、コレクションしたくなるような素敵なデザインです。筆者は思わず全種類もらってしまいました。


研究者が語る苦労と基金の支え
今回、展示ブースで研究者の方とお話しすることができました。
自然を相手にする研究のため、そもそもサンプル自体がなかなか集まらないことが一番の悩みなのだそう。動物の行動を追うには「何年もかけてやっと見えてくる世界」があり、短期の研究費だけではとてもまかないきれない———だからこそ、息の長い支援が必要なんです、という言葉がとても印象的でした。
こうした背景から東京大学基金のなかに設けられたのが「バイオロギング支援基金」です。寄付によって長期的な研究が可能になり、より深く広い研究活動ができるようになります。
お話を聞きながら、「データを1つとるために何年も海に通い続ける」研究の大変さだけでなく、海と生きものに向き合う研究者の強い情熱を感じました。
大気海洋研究所うみそら基金について
大気海洋研究所には、もうひとつ心に残る名前の基金があります。
その名も「大気海洋研究所うみそら基金」。
「地球上のすべての生きものにとって大切な、かけがえのない『海』と『空』を守り継ぐ」———そんな思いから生まれた基金で、寄付は研究所の活動全般に活用されます。
具体的には、
●修士・博士課程の学生への支援
●若手研究者・ポスドクの研究費サポート
●分析装置や飼育水槽など、研究インフラの整備・更新
といった形で、さまざまな研究だけでなく次世代の人材育成を支えています。
海も空も、短期間では変化が見えにくい世界なのだそうです。ときには10年、20年といった時間をかけて、ようやく「変化の兆し」がデータとして現れてくるとのこと。そうした長期的な挑戦を続けていくために、安定した長期の支援=基金の存在が欠かせないといいます。
最後に
今回の取材はまさに「宇宙から深海まで」を旅するような体験でした。カブリ数物連携宇宙研究機構では宇宙の謎に挑む研究者の議論を間近で見ることができ、大気海洋研究所では海と空をフィールドにしたダイナミックな研究と、生きものたちのリアルな息づかいに触れることができました。
また、こうした最先端の研究が寄付によって支えられていることも印象的でした。新しいアイデアに挑戦するための研究費、長期的な観測を続けるための体制づくり、次の世代を担う学生や若手研究者への支援———どれも「今すぐ結果が出るもの」ではありませんが、未来の社会を形づくるために欠かせない土台です。
この記事を通じて、東大の研究現場のおもしろさだけでなく「寄付がどのように活かされているのか」も伝わっていたら嬉しいです。これからも、こうした現場の空気感をお届けしながら、東大の挑戦と、それを支える基金のストーリーを発信していきたいと思います。学生ファンドレイジングサポーターの伊藤がお届けしました!
今回紹介した基金
今回ご紹介した研究や活動は、いずれも東京大学基金を通じたご寄付に支えられています。
記事を読み終えた今、「こういう研究が続いてほしいな」「宇宙や海の研究を、ちょっとだけでも応援してみたいな」と心のどこかで思ってくださった方は、ぜひ以下のプロジェクトページをご覧ください。
内容を知っていただくだけでも、「研究を支える側」に一歩近づくことになります。そして、もし「いいな」「応援したいな」とかんじるプロジェクトがあれば、そのときはぜひ、ご自身のペースでご寄付をご検討いただければ幸いです。いずれもオンラインで、少額からご支援いただけます。
文言を引用したサイトなど
● 事務局(柏地区共通事務センター)による事後報告記事
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z1921_00002.html
● 文科省/日本学術振興 のカブリ数物連携宇宙研究機構に関する報告書
https://www.jsps.go.jp/file/storage/general/j-toplevel/data/08_followup/H28reports/FY2016_KavliIPMU_10th%20report_j.pdf
● カブリ数物連携宇宙研究機構による紹介記事
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00062.html

