~第1回 新たな寄付のかたちで東京大学に託す未来【後編】~

2024年07月17日(水)

創立150周年を起点に次の150年を目指す未来の歩みを見すえて、これまでご寄付によって東京大学を支えてくださった寄付者と総長との対話をとおして、東京大学への応援・共感の輪を広げていく「総長×寄付者ダイアログ」。

第1回は、「IT化・デジタル化」「SDGs」という社会貢献の軸を据え、様々な取り組みを実践されている日本住宅ローン株式会社の安藤直広社長(1989年法学部卒)をお迎えし、東京大学への新しい寄付のかたちにご賛同いただいた経緯や想いについて、対話形式で語りあいます。
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写真左から、岩坪威 医学系研究科神経病理学分野教授、安藤直広 日本住宅ローン株式会社社長、藤井輝夫 総長、中村宏 大学院情報理工学系研究科長・教授。(プロフィールは記事下に掲載)

東京大学150周年は、さまざまな人たちと、
これからの150年をともに考え、切り拓くきっかけに。

藤井総長:私ども東京大学は3年後の2027年に150周年を迎えます。この150年は、近代国家としての日本が歩んできた150年でもあります。
現在、150周年に向けて様々な事業を進めているところですが、大学の中だけで祝うのではなく、むしろ学外の皆さんや卒業生の皆さんと一緒になって祝いたい、皆さんとともに150年を振り返り、今後の150年のあり方を考える。そんなきっかけにしたいと考えています。

 
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それと同時に、私自身は、皆さんとの対話を通して、「こういうことをしたら良いのではないか?」というアイデアを考え、実行していきたいと思っています。今後の日本の状況を考えると、例えば、少子高齢化が進んでいく中で、シニアの方々を社会としてどう支えていくのか、といった課題が多くあります。それらの課題を担う若い人たちをどう育てていくか、そのような観点からも大学として様々なことに取り組みたいと考えています。そこで私たちは、これを実現するための新しい基金『UTokyo NEXT150』 を作り、皆様と一緒に次の150年のために何ができるかを考えたいと願っております。本学の卒業生でもある安藤社長に、この点についてもぜひお考えをお聞かせいただければと思います。


 

循環型で前向きなモデルづくりで、次世代に明るい未来を。

安藤社長:まずは150周年おめでとうございます。卒業生としても本当にうれしく思います。 実は弊社も、これからの次世代に向けて社会貢献という軸で新しいことを考えていこうとしており、プロジェクトといわれる研究開発的なものが、弊社内だけで60以上同時並行で走っております。

 
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例えばその中で二つご紹介すると、一つは、住宅ローンの融資はお客さんの信用や年収等によって融資金額等決めさせていただくのですが、できれば将来的には住宅そのものの価値で融資したいと考えています。極端に言うと、どなたが買われようとも住宅が良ければ我々としてはしっかりとしたお金を出しますと。
その裏付けとなる心としては、お客様自身が何らかの形で住み換えたくなった、あるいは返すことが困難になったという場合、家を返していただければその住宅ローンは無しでかまいませんという発想で、我々がその住宅を一旦引き取り、そしてそれを株主であるハウスメーカーの方に戻してリノベーション等をして、また新築同様にして売り出すということをすると、どんどん住宅が循環する形で最後まで資源を使っていける。いわゆるスクラップアンドビルドではなく、一つ家を建てたらずっとそれが永続的に使われていくという構想は、SDGs的な目線でも良いことだと思っているので、家を持ちたい方が、自分の年収等に関係なくサブスク感覚で住みたい家に住める方法の研究開発に取り組んでおります。
もう一つは、VRやメタバース技術を活用して、人間同様にお客様の対応をするプロジェクトです。人間よりデジタルの方がむしろ良いというお客様も今後増えてくると思います。シニアの方であれば、デジタル技術でより手厚いサポートがマンツーマンで出来るかもしれないので、そういった対応がどこまでできるかの検討をプロジェクトで研究しています。
ただ、もちろん我々でできるプロジェクトと言っても所詮60ですので…無限の優秀な人材がいらっしゃる東大で、より多様な研究をしていただきたいという思いもありますので、自由な発想の中で、自由に使っていただけるよう我々は寄付をさせていただこうと。日本が閉塞的になっているという話がありましたが、ちょうど今が一番苦しい時なのではと思います。
また突き抜けた技術が発明、発見されれば、ここから新しい未来が生まれる可能性もあると思っており、そういうことを発見できるのは、やはり若い方なんだろうと思います。若い方がそういった研究開発がしっかりできて、あるいは我々が人材育成をして支えてあげれば、結果いいものが生まれて、それが次世代の人にとって役立つものとなる。それが一番の我々にとっての大きな社会貢献だと思っています。これからも是非東大に期待しています。

藤井総長:ありがとうございます。まさに今おっしゃられたように、住宅を持つということについても、今の若いファミリーにとっては重いことだと思います。先に触れた少子化についても、経済的な見通しが暗い故にそうならざるを得ないという事情もあると思います。安藤社長が仰るように、社会全体が循環型で前向きにやっていけるようなモデルになると、様々な側面で活性化して、未来が明るくなるのではという印象を、今お話を伺って持ちました。私たちは若い世代が前向きに考えられる社会を創っていく必要があると思いますし、そのために皆さんとできることがありましたら、ぜひご一緒させていただきたいと思います。

寄付によって、東大が「良い場をつくる」。
その場が、人を育み、人をつなぎ、社会をより良くするイノベーティブな循環を生む。

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UTokyo Compassが掲げる3つの視点

中村研究科長・教授: 150周年について思うところとしては、総長のビジョン「UTokyo Compass」で、知を極める、人を育む、それから場を作るということが掲げられていますが、この「場を作る」というのが非常に大事だと思っています。
私自身、やはり自分は東京大学という場に育ててもらえたなと、ここにいるからこそいろいろな人と繋がれるという思いがあります。私の研究は、多くの企業の方が参加されているメタバースラウンジ(※3)で、多様な方が自由に議論している。様々な興味と素養を持った方が集まるということが大前提で、そこに場を作るということが非常に大事だと思っています。しかしながら場を作るには費用もかかり…そういったことに関して、社会貢献として自由に活用してほしいという思いでいただくご寄付は非常にありがたいと思っております。
我々は良い場を提供する。良い場というのは、別に建物を作るというわけではなくて、多様な人が流動して入ってきて出ていく、人と人がつながれるような場。そういう意味では、東京大学は非常にいい場だという気がしています。 社会貢献の理解がある方に寄付していただき、それを活用して、人を育て、これからも社会を良くしていくのが我々のミッションだと私も思っております。

安藤社長:メタバースラウンジは本当にありがたく、実は実際に某ITシステム系企業と我々がそこで話が盛り上がり、とあるビジネスに結びつきつつある話もあるので、いい場をご提供いただいているなと思っております。
(※3)東京大学バーチャルリアリティ教育研究センターが2023年6月に設立した、メタバースの情報提供や取り組みに関する情報共有を行い、メタバースを積極的に活用した未来の社会の在り方について議論するための場

藤井総長:「場を作る」という視点には、大学という存在がいろんな人と人や組織と組織をつないでいくという考えがあります。これまでの、どちらかというと敷居が高くてなかなか近寄りがたかった大学のイメージを払拭して、むしろオープンにいろんな人がつながれる、そういう存在になろうということを私たちはUTokyo Compassの中で考えています。まさに東京大学を、他社と繋がる場としてご活用いただいているということですね。

安藤社長:実際成果が上がりつつあるので、本当にありがたいと思います。

 

東大から始まる、パブリック・プライベート・パートナーシップのかたち

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岩坪教授:東大150年を迎え、「社会とのつながりの場を作る」という非常に重要なお話が出ました。
私どもバイオメディカル領域でも、達成しなければいけない目標は非常に巨大なものになってきています。そうするとアカデミアだけでは不可能で、また製薬を含めた産業界だけでも達成できない。国が目標を立ててもそれだけでは実現できない。横文字でパブリック・プライベート・パートナーシップ(PPP)という考え方ややり方があらゆる分野で広がってきています。これを東大もいろんな場で先取りをしていただいていると強く感じています。我々も附属病院の「早期・探索開発推進室」などの部署でPPPの取り組みをしておりますし、工学系をはじめ、様々な先駆的な取り組みが進んでおります。
寄付をいただくと、研究の自由度が非常に増しますし、研究の場も拡大します。また、研究のある程度の事業化を皆で一緒に考えていくこともできる。これもPPPの大きな方向性です。今後様々な形、レベルで社会と東大がつながり広がっていくということが期待されますし、その先駆的な事例を生み出すことのできる大きな一歩であると思います。

藤井総長:私たちも、そのような人々がつながれる場を作っていく取組みを、長く継続的に続けていきたいと考えています。しかしながら、ご存知のように、国からの補助金等は、概ねそれぞれの目的に応じて使い切ることが基本で年限が決まっていますので、その意味でも今回のようにご寄付を通じて継続的にご支援いただけることは非常にありがたいお話です。
本学としても継続的な財源のあり方について話し合いを重ね、特に大学独自基金を活用する「エンダウメント型」(※4)の財務経営を検討してまいりました。エンダウメントを整備すれば、継続的に活動経費を生み出すことができます。この新しい仕組みを大学の中でも根付かせていきたいと考えているところです。
今回、岩坪先生の研究に頂戴しているような新しい方式のご寄付についても、ぜひアイデアをいただきながら一緒に創りあげていただくことができればありがたいと思っています。
(※4)東京大学は、自律的かつ持続的な事業推進を可能とするため、寄付金を運用して活用する「エンダウメント型財務経営」を目指しています。これにより、新たな研究組織の機動的設置、学部・大学院生等への継続的な経済支援、さらには卓越した研究者の世界水準の処遇が可能になることも期待できます。

安藤社長:素晴らしい研究開発をする時に、お金が制約になってしまうのは非常に悲しいことだと思いますので、我々ができることは微力ではありますが、今後も継続してご協力ご支援できればと思います。
私自身、社会人になってから、青臭いのですが、やはり社会で役に立ちたいという思いの中でずっとやってきております。今後も東大と一緒になって、日本がより発展するような、もっと言えば世界が発展するような何かをできるよう、少しでも役に立てればというのが一番の願いです。

藤井総長、中村研究科長・教授、岩坪教授:ありがとうございました。

< プロフィール >

安藤 直広 (あんどう なおひろ)様
安藤 直広 (あんどう なおひろ)様

1989年 法学部卒業
1999年 米国カリフォルニア 大学 バークレー校、経営学 修士 MBA
2006年より 日本住宅ローン株式会社 代表執行役
日本住宅ローン株式会社

藤井 輝夫 (ふじい てるお)総長
藤井 輝夫 (ふじい てるお)総長

1988年 工学部船舶工学科卒業
1993年 大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻博士課程修了(工学)
専門は応用マイクロ流体システム、海中工学
東京大学生産技術研究所長、同理事・副学長等を経て、2021年より東京大学第31代総長に就任(現在に至る)

中村 宏 (なかむら ひろし)大学院情報理工学系研究科長・教授
中村 宏 (なかむら ひろし)大学院情報理工学系研究科長・教授

1985年 工学部電子工学科卒業
1990年 大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了
専門は計算機工学、高品質コンピューティング
2024年より 大学院情報理工学系研究科長

岩坪 威 (いわつぼ たけし)医学系研究科神経病理学分野教授
岩坪 威 (いわつぼ たけし)医学系研究科神経病理学分野教授

1984年 医学部卒業
1998年 大学院薬学系研究科教授
2007年 大学院医学系研究科神経病理学分野教授
専門はアルツハイマー病、神経病理学、神経内科学

    ※肩書は対談当時のものです

※肩書は対談当時のものです

取材・文・編集:東京大学基金事務局