第二十三回:先輩から後輩への恩送り 若手運動会OBの想い

2022年04月13日(水)

頑張っている後輩を応援する方法の一つとして、寄付を選択されている若い方もたくさんいらっしゃいます。どんな方がどのような想いでご寄付をされたか、みなさんにお届けしたいと思います。

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小田部幹(こたべ・かん)様
卒業学部(研究科):2016年教養学部学際科学科地理・空間コース卒業
当時の所属部活&役職:運動会ラグビー部 マネジメント担当
取材時点のご所属:国立大学法人東京大学本部学生支援課
座右の銘:生きてこそ

南谷恵吾(みなみたに・けいご)様
卒業学部(研究科):2015年教育学部教育学研究科比較教育社会学コース卒業
当時の所属部活&役職:運動会応援部吹奏楽団 吹奏楽団責任者
取材時点のご所属:食品メーカー
座右の銘:運否天賦

宗岡均(むねおか・ひとし)様
卒業学部(研究科):2015年新領域創成科学研究科物質系専攻博士課程修了(博士(科学))
所属部活&役職:漕艇部 主将
取材時点のご所属:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 助教
座右の銘:今に集中

彼らが運動部に入部した経緯、さまざまな喜び、葛藤が詰まった大学時代の思い出。

小田部氏:中学時代に父親の影響でラグビーを始めたのですが、進学した高校にはラグビー部がなく、大学生になったらもう一度やりたいと思っていました。どうせやるのであれば真剣に取り組もうと思い、運動会のラグビー部に入部したのですが、週6日練習があり、とにかくしんどくて、甘く考えていたことに気づかされました(笑)。授業、アルバイト、ラグビー等、どれも真剣にやろうとしたのですが、キャパシティオーバーとなり、どれも中途半端に……。

3年生から始めた就職活動でも特にアピールできるような成果が語れず、あえなく撃沈です。その結果、就職浪人することを決め、1年間留年することにしました。ところが、取らなければいけない授業がほとんどなかったため、逆にラグビーの部活動に集中できるように。最後の秋シーズンでは、一軍であるAチームのメンバーとして4試合に出場できました。「小田部―、行けー!!」とチームメンバーが応援してくれて、嬉しかったですね。ただし、すごい選手が揃っていましたから、その4試合以外はほぼBチームに常駐するヒラ部員だったのですが(笑)。そして現在は、東大の事務職員として働かせてもらっております。駒場の学生支援の窓口にはよく伺って、とてもお世話になりました。その経験が入職動機の一つになったと思います。

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4年秋、漸く初めてAチームでのスタメン出場を果たした対抗戦Bグループ成蹊大学戦(右側の黒色のヘッドキャップでタックルをしているのが小田部氏)
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現役最終戦、引退試合となった京都大学との定期戦(Bチームでの出場。赤いハンドスパッツを着用しているのが小田部氏)


南谷氏:なるほど。私の場合は「大学に入ったら、何か新しいことをしたい」と考えていました。サークル勧誘活動をしている「テント列」を見に行ったときに初めて応援部の存在を知り、「この部活はなんだ?どうして学ランを着ているんだ?」と驚いたのを覚えています(笑)。ゆえに当初は少し気持ちが引き気味だったのですが、先輩部員に詳しく話を聞いてみると、運動部の応援や吹奏楽、マーチングをする部であることがわかり、興味がわきました。その後、野球の応援を見学させてもらったのですが、先輩部員の方々の様子がとても楽しそうで。もともと音楽が好きでしたし、吹奏楽なら楽器の演奏を学べ、新しいことが始められるじゃないかと考え入部を決めました。「東大応援部」という名前の響きもかっこよかったですし(笑)。

卒業までの4年間は、まさに“部活漬け”の日々でした。平日は授業を終えた後に練習し、週末は運動部の応援ということも多かったため、正直、頑張ろうと思っていた勉強も人並み程度でなんとか。応援部は他の運動部とは違って、トーナメントで優勝するなど輝かしい結果が残るわけでもありません。ただ、4年次には吹奏楽団の団長を務めさせていただき、応援部のおかげでとても充実した大学生活を送れたと感謝しています。また、就職活動も無難に終え、希望する企業に入社することができました。

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吹奏楽団ではパーカッションを担当していた南谷氏
学ランを着て太鼓をたたく様子
入部のきっかけともなった神宮球場で演奏する南谷氏

宗岡氏:私の入部動機は、南谷さんと似ているかもしれません。入学前から、大学生活では「これを頑張った」といえる何かに出合いたいと考えていました。運動好きだったので打ち込めるスポーツを探し、東大を卒業した父親からは「漕艇部はどうだ?」と。自分は背が高いこともあって、アメリカンフットボール部やラグビー部からも声をかけていただきました。最後まで漕艇部とアメフト部と迷ったのですが、調べてみるとボートの競技は全力を出す時間が7分程度で、それが自分の身体的特性にもあっていると判断し、漕艇部を選びました。

1年次は勉強も面白くて、部活を辞めようかと悩みましたが、2年次でトップクルーに選ばれたことから部活に打ち込む覚悟を決めました。しかし、いわずもがな、勉強はおろそかに(笑)。3年次は、一つ上の代が強かったこともあり、本気で日本一を取りにいこうと一丸になって取り組むことができ、非常に楽しかったですね。4年次になり自分がキャプテンを務めるようになってからは、なかなかチーム全体のビルドアップができず苦しみ、悩みました。しかも最後のレース直前に私を含めた6人が新型インフルエンザに感染。結果は散々でした……。そんなこともあって、大学院時代の2年間は、強い代をつくれなかった罪滅ぼしの気持ちから漕艇部のコーチとして後輩の指導に努めました。その後、博士課程に進み、博士号を取得。5年間の事業会社勤務を経て、2021年の春、大学の研究室に戻ってきたという流れです。

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漕艇部の活動場所である戸田公園で練習する様子
ユニフォームを着た学生3人
引退レースとなった全日本選手権を漕ぎ終えた直後の舵手付きペアのクルー(宗岡氏:左)

部活のOB会費以外で現役学生を支援する方法――それが東京大学基金への寄付だった。

南谷氏:現役生のころは東大基金の存在自体を知らなかったのですが、応援部創部70周年記念行事の際に基金の案内があり、そこで初めてOB会費以外に運動会を支援できるルートがあることを知りました。応援部は学ランや楽器など備品が多く、運営維持にけっこうお金がかかります。大学3、4年生のころ、部活の会計報告を見て、自分たちの活動はOB会費に支えられていることに気づきました。

今は新型コロナ下なのでわかりませんが、私たちの時代には、OB会報誌を手渡しに行く「OBまわり」の際に、食事をご馳走になったり、お話を聞かせてもらったりする機会がありました。また、卒業後数年のOB・OGからは、野球の応援などの後に食事をご馳走してもらうこともよくありました。ただ、その後はみなさん仕事が忙しくなったり、結婚して家庭を持たれたりして、OB・OG活動から離れていってしまいます。私自身は、OB会費をしっかり払っていたのですが、それ以外の支援もしたい、できる方法があることを知り、基金に寄付をすることにしました。

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応援部の魅力について語ってくださった南谷氏


宗岡氏:そうなんですよね。漕艇部も同じ状況で、みなさん卒業後数年は積極的にOB活動を行ってくれるのですが、20代後半〜30代で低調になり、40代以降で仕事や時間に余裕がでてくると再び参加してくれるようになります。特に定年後の先輩方はよく来てくれますね。そういったOBの方々の支援があったからこそ、現役生の時代は練習に打ち込めたという側面があったわけです。もちろん、私もOB会費は毎年払っていますが、あるとき東大基金を経由することで、運動会と大学に分けて寄付ができることを知りました。そもそも部活は大学の許可を受けて活動するもの。

現役生のころは、しょっちゅう大学の合宿所にこもっていました。つまり大学からも、かなりの支援を受けていたということです。東大基金に寄付をすることで、部活と大学の両方に恩返しができることがわかり、今では毎年継続的に基金に寄付をしています。クレジットカードを使った定期寄付を選べば、寄付の振り込み忘れを防げるのでそうしています。本当は、自分の現役時代に支援をしてくれたOBの方々に直接恩返しできればいいのですが、それは現実的ではありません。でも、今の現役生の活動を支援し、育成をサポートすることは、結果的に東京大学と漕艇部を愛しているOBの方々への恩返しにもなる。いわゆる“恩送り”の考え方です。

小田部氏:恩送り、いいですね! ラグビー部のOBの中には、社会に出られて成功し、全国紙の記事で紹介されたり、多額の寄付をされるような著名人も多々いらっしゃいます。私が現役生のころ、ラグビー部員の一員であるというだけで、そういった方々に食事をご馳走してもらうなど、さまざまな支援を受けていて、OBがとてもかっこよく思えたことを覚えています。自分はそういった方々のように大成し、一度に多額の寄付をすることはできません。ただ、地道な支援はできます。

私は今、東大職員として働いていますが、職員の場合、給与天引きで基金への寄付ができる。その仕組みを知ってから、毎月1500円ずつ東大基金への寄付を続けています。そして昨年、ようやく総額が10万円に達しました。とても小さくゆっくりとした支援ではありますが、現役生のころに憧れていた先輩方に少しだけ近づけた気がしますし、ちっぽけな自分でもラグビー部への貢献ができたと感じています。ラグビー部は、大学時代の自分に大切な居場所を与えてくれました。大好きな東大ラグビー部の部員はもちろん、東大のすべての学生たちに幸せな学生生活を過ごしてほしい。そのためにも、自分はキャンパスで見かける“面倒見のいいおっちゃん”のような存在になりたいと思っています(笑)。
 

寄付をしたことで生まれた、母校、そして所属していた部活との新たな絆。

宗岡氏:寄付という行為には、さまざまな側面・意味があります。たとえば、大学や部活とのつながりを保てることです。東京から離れて暮らしていても、現役生と直接のやり取りがなくても、寄付をしていれば現役生の役に立てていると感じることができる。また、学生時代の感情を呼び起こしてくれるというメリットもありますね。現役生のころの自分は、かなり情熱的に部活に取り組んでいました。もちろん今の研究活動や生活を頑張っていないというわけではありません(笑)。

でも、目標や志を見失いそうになるとき、定期的にあのころの熱い気持ちを思い出すことができることは、私にとって非常に大きな意味があるんです。漕艇部ではOB会費を納めているOBに対して、部からメールで毎月活動報告が届きます。PDF2枚くらいの報告書ですが、新型コロナ禍で部活自体ができない時期も工夫して練習を続けたり、活動再開を大学に訴えたりしていたことなどを知りました。最近は、駒場東大前駅のホームに新規部員勧誘の大きな看板も出しています。綺麗なライトブルーの川でのボートをとらえた写真なのですが、ぜひ見ていただきたい。苦しい状況下でも、現役生たちが一所懸命活動をしていることがわかり、「自分ももっと頑張らなければ」と身が引き締まります。
 

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今の学生の活動を見て励まされているという宗岡氏


小田部氏:私も大学とラグビー部にお世話になった身として、自分にできる恩返しをしたいという強い思いがありました。そのために、現役生に東大に入ってよかったと思える学生生活を送ってほしいと考え、東大職員という働き方を選んだわけです。それに寄付を続けることで、その初心を思い起こすことができますし、部活とも「つながっている」という感覚を維持することができています。

南谷氏:お二人とは違って、私は継続的に寄付をしているわけではありませんが、創部70周年の際に、私の寄付分を含めて多くの資金が集まったと聞いています。現役生から「新しい応援旗をつくりました! 」と報告が届いたとき、彼らの活動の役に立ったことがわかり、とてもうれしかったです。思い返してみると、自分の現役時代は買い換え資金が捻出できず、古い楽器を使い続けなければならないなど、活動費の収支を見るたびに悩みました。ですがこうやって、寄付によって自分が現役生のころにできなかったことを、今の現役生が実現できている――寄付をして本当によかったと思っています。

※OB会で応援旗布、東大基金で旗関係用具を購入

さまざまある支援のなかで、寄付という応援が生み出すメリット。

小田部氏:運動会の現役生支援には、食事をご馳走したり、お米やプロテインを提供したり、就職先となる企業を紹介したりするなど、さまざまな方法があります。ですが、ラグビーという競技自体、戦術の高度化を含めて進化していますし、また、新型コロナ禍という社会の変化もあって、それが必ずしも今の彼らのニーズにマッチしているとは限りません。しかし、自由に使える資金があれば、現役生が自らの判断で用途を決められる。寄付にはそんなメリットがあると考えています。
 

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寄付することで東大職員になった初心を思い出せるという小田部氏


宗岡氏:小田部さんに同感します。やはり、クリエイティブなことは現場にいる人ほど思いつきやすいので、私も現場の発想に任せることは大事だと思います。ただし、使い途については毎年きちんと決算をして、内容を支援者に報告することを忘れないでほしい。もちろん大学生ですから認識が甘く、さまざまな失敗をしてしまうこともあるでしょう。それでも目的や意図をしっかり決めて行ったことであれば、その失敗は彼らにとっていい経験になると思っています。

私が大学院時代に漕艇部のコーチをしていたころ、ある年配のOBの方とよくご一緒しており、その方は「大学の部活の本質は人材育成である」とおっしゃっていました。勝利することが本来の目的ではなく、勝利を目指すことで人材が育つのだと。今はその意味がよくわかります。そういった人材育成の場を確保するためには、まず部活を存続させなければいけません。ちなみに、新艇を一艘購入すると数百万円かかり、ほかの用具も値段が高い。使えるお金が少ないと現在のレベルの活動は維持できなくなります。また、資金が豊富なほかの大学と設備面で差がついてしまうのはかわいそうです。ぜひ上手に寄付を活用して、活動を続けてほしいと思います。
 

寄付をしたことへの感想、OB・OGへのメッセージ。

宗岡氏:東大は国立大ということもあって、そもそも寄付を必要としていることに気づいていないOB・OGが多いのかもしれません。寄付は、誰にでもできる母校応援の方法です。各人のお財布事情にもよりますが、ぜひ検討していただきたいです。

南谷氏:私は創部70周年のイベントを通して東大基金の存在を知りましたが、まだまだ基金の存在自体を知らないOB・OGも多いと思います。東大のよき伝統を未来に引き継いでもらうために、OB・OGができる最適の支援が寄付だと思います。一人でも多くのOB・OGにご賛同いただけるとうれしいです。

小田部氏:東大には多様な寄付のチャネルがあり、東大卒業生以外でも、自分の興味関心のある研究などに支援ができます。そもそも寄付という行為は、する側も、してもらった側も豊かな気持ちにしてくれるもの。皆さまからのご寄付を、一東大職員としてもお待ちしております。

 

 

小田部様・南谷様・宗岡様からのメッセージ

 

 

東京大学運動会紹介

東京大学の運動部は、明治19年の社団法人帝国大学運動会(現一般財団法人東京大学運動会)の設立以来、各種スポーツにおいて我が国の運動会競技の草分けとして活躍してきた。その後、年月を経るにつれ運動部の数は増え、本学運動会には総務部のほかに47の運動部(2022年3月現在)が加入し、活動を続けている。
資金面でその活動を下支えしているのが、運動会現役部員および一般学生からの会費を基にした運動会からの部費支援と、OB・OGからの寄付である。

 

構成:菊池 徳行(株式会社ハイキックス)
   にしみねひろこ