本プロジェクトでは、現状治療が困難である大腸癌腹膜播種の克服をめざして、新しい抗癌剤治療である腹腔内化学療法についての臨床試験を実施し、治療法として確立することを目的としています。
腹膜播種を伴う癌については腹腔内化学療法が有効であることが、胃癌や卵巣癌において報告されています。また、腹膜播種を伴う大腸癌に対しても第I相試験の結果から腹腔内パクリタキセル投与の有効性が期待されています。
しかしながら、パクリタキセルは販売から25年以上経っており、薬価が下がってしまっていることや後発品が複数存在することから製薬企業の協力が得られない状況です。また、公的資金の審査では、製薬企業との協力体制が重要な評価基準となっていることから、現状では獲得が困難な状況です。このため、第II相試験は医師主導治験として実施する必要がありますが、医師主導治験には試験の品質管理のために多大な費用がかかるため、東京大学基金に基金プロジェクトを設置し、試験の実施のためにご支援いただければと考えております。
医学部附属病院 大腸・肛門外科
教授 石原聡一郎
大腸癌は癌の中で最も罹患率が高く、近年増加傾向にあり、特に女性では癌による死因の第1位となっていますが、手術による治療効果が高く、肝臓や肺に転移があったとしても手術により切除できれば完治できる可能性があります。また、大腸癌に対する化学療法の進歩は著しく、手術による切除ができない場合でも、2年以上の生存が期待できます。
このように、手術や化学療法による効果が期待できる大腸癌においても、腹膜への転移(腹膜播種)がある場合は治療が難しくなります。理由の一つとして腹膜播種は早期発見が難しく手術のできない状況にまで進行して発見されることが多いことが挙げられます。また、通常の化学療法である点滴から静脈への投与では腹膜播種の病巣まで薬剤が届きにくく、化学療法による治療効果の低いことが問題となっています。
そこで、腹膜播種の病巣により多くの薬剤を到達させるため、腹腔内に直接薬剤を投与するという発想に至りました。腹腔内にパクリタキセルという抗癌剤を投与する臨床試験を進めるにあたり、これまで東京大学基金に設置した「スキルス胃癌、膵癌、大腸癌に対する腹腔内化学療法の研究開発」プロジェクトを通じて多くのご支援をいただいてきました。おかげさまで、第I相試験として、必要数の患者様に腹腔内パクリタキセル投与の自主臨床試験を行い、安全性が確認されました。顕著に効果があった例も見受けられ、化学療法の効果が期待できる結果となりました。次のステップとして第Ⅱ相医師主導治験(iPac-02試験)を開始し、大腸癌の腹膜播種を有する患者様を対象として、標準的な化学療法と腹腔内化学療法を併用する治療法の治験を実施するために、大腸癌に絞った本基金を設置し、ご支援をお願いする次第です。なお、既に第一段階の臨床試験を行い、安全性が確認できましたので、今回、第二段階の臨床試験として、38名の患者様にご参加いただき、その効果と副作用の評価をする予定です。
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治験の詳細は臨床研究等提出・公開システム(jRCT)をご覧ください。
東京大学腫瘍外科ホームページにも記載があります。
<大腸癌の腹膜播種に対する腹腔内化学療法の研究開発基金>
<大腸癌の腹膜播種に対する腹腔内化学療法の研究開発基金>
<大腸癌の腹膜播種に対する腹腔内化学療法の研究開発基金>
<大腸癌の腹膜播種に対する腹腔内化学療法の研究開発基金>