科学技術は障害のある人々の生活を豊かにする大きな可能性を秘めています。その一方で、専門家が目指すものと、障害のある人々が望むものが時にすれ違うことがあります。たとえば以前の専門家は身体障害者の体を健常者の体に近づけることを目指していましたが、身体障害者たちは建物や道具、制度などの社会環境をアクセス可能にすることを望みました。
車椅子の人が街で階段に行く手を遮られたとします。以前は動かない脚に問題あると考えられていましたが、最近ではそこにエレベーターがない社会に問題があるという考え方が出てきました。もちろん、世の中のすべての階段にエレベーターを設置するのは現実的ではありません。しかし、ちょっと視点を変えると今まで気が付かなかった解決策が見えてくることがあります。
私自身、脳性麻痺による肢体障害がある車椅子の小児科医ですが、障害を抱える人々がもっと高等教育を受け、もっと社会で活躍できる環境を実現するために、「当事者研究」や「インクルーシブアカデミアプロジェクト」「共同創造」など様々な研究や活動をしています。たとえば、「当事者研究」とは、従来は研究の対象であったり、サービスを受ける側だった障害者が、障害を抱える【当事者】だからこそわかる課題を発見し、当事者だからこその視点で、同じような困り事を抱える仲間たちと一緒に解決策を研究する日本初の研究実践です。
障害を抱えるもっと多くの人々が、実験等の実技を伴うSTEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)の分野を含め、高等教育に進めるようになる、社会で活躍できる、研究を続けられる、そんな社会になるにはどのような課題と解決策があるのか。これらの試みは国連のSDGsが掲げる「誰ひとり置き去りにしない社会」の実現にも大きく貢献することが期待されます
このような新しい試みには従来の予算だけではなく、柔軟に対応できる皆様のご寄付による財源の多様化が必要です。ぜひ皆様の応援をよろしくお願い申し上げます。
〔当事者研究〕
当事者研究は2001年に北海道の浦河町にある「浦河べてるの家」で行われていた精神障害をもつ人々の「自分助け」の技法に由来します。自閉スペクトラム症や依存症、身体障害等なんらかの「困り事」をもつ人々が、他者(医者や研究者)から研究される対象やサービスを提供される対象ではなく、当事者ならではの視点で自らの困りごとを研究し課題を解決するユニークな研究実践です。当事者ならではの視点で課題を見つけ、従来の専門家のサポートも得つつ解決策を見つけていきます。
〔インクルーシブアカデミアプロジェクト〕(IAP)
障害等の困りごとを抱える学生や研究者が活躍するには「構造的環境」と「文化的環境」を整える必要があります。とくにSTEMと総称される理工系では実験や実習が伴い、たとえば車椅子からは試薬が入った棚に手が届かない、緊急シャワーの把手に手が届かない、など構造的環境の改善が重要です。具体的には、モデルとなるラボを当事者視点でデザインしたり、国内外の文献調査と視察、インタビュー調査を踏まえ、ガイドラインや事例集を作成し体系化していきます。さらに、多様性を受け容れ創造性につなげられる研究室のリーダーを育成するために、当事者研究のノウハウを応用したプログラムを開発し、キャンパスの文化を変えていきます。
〔共同創造〕
人類に幸せをもたらすはずの科学技術は、専門家のみが探求するのではなく、当事者参画のもとで推進されるべきとの問題意識が「研究の共同創造」(co-production of research)というキーワードで世界中で共有されつつあります。科学技術の恩恵を享受するであろう当事者を含む市民が、研究費の配分、仮説の提示、実験、分析、結果の解釈など、様々な段階で専門家とともに研究を進めます。2018年10月に科学誌「Nature」で特集が組まれるなど、国際的にも注目されている手法です。
〔ハンブルリーダーシップ〕
昔から「リーダーシップ」といえば「黙って私についてこい」的な強い指揮官をイメージしがちです。しかし、多様なバックグラウンドや個性からなる複雑な社会では、それだけでは十分ではありません。むしろ謙虚(humble)な気持ちで自分の困り事や失敗を認めつつ、チームメンバーの強みを引き出し、チーム全員が当事者として取り組む、そんなハンブルリーダーが必要とされています。障害者や健常者がお互い尊重し合い支え合う社会を目指す当事者研究から生まれたハンブルリーダーシップは企業の職場だけではなくトップアスリートのチームビルディングにも有効です。
熊谷准教授(左)と研究パートナーの並木准教授(IAP担当)(右)
なんらかの困り事をもつ人々が社会で活躍する構造的・文化的環境を整えようとするこれらの新しい研究活動は、従来の予算で不足する部分、使途の制約があり従来の予算では執行できな部分がどうしても出てきます。皆様のご寄付で支えていただければ幸いです。
構造的環境づくり
・重たいドアの自動ドア化あるいは開閉しやすい折り戸化
・昇降機の設置とその維持費
・感覚過敏に配慮した照明器具
・身体に障害があっても座りやすい椅子
・点字プリンターや立体コピー機等の支援機器
・手話通訳者やノートテイカー等の人的支援
・当事者研究者(ユーザーリサーチャー)の研究補助
文化的環境づくり
・共同創造が進む英国等海外との連携
・教員や学生にダイバーシティ&インクルージョンを学んでもらう教材作成
・当事者研究者、障害学生、一般学生の交流会(障害学生メンター制度)
・当事者研究ワークショップやシンポジウムの開催
・寄付者限定イベント「熊谷先生とお話しする会」
※これらは例であり、ご寄付の集まり具合に応じて適宜必要な使途に活用させていただきます。
※ご無理のない範囲で継続的なご支援をお願いします。〔寄付方法と寄付金額〕⇒「毎月支援する」
薬品を浴びたときの緊急シャワーに手が届かない、洗眼器の角度が変えられない
<障害のある学生や研究者の活躍応援基金>
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