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第一回 : 葉山 莞児様

写真:葉山 莞児様
葉山 莞児(はやま・かんじ)
大成建設株式会社 代表取締役会長
1937年1月1日生
神奈川県出身。1960年(昭和35年)東京大学工学部土木学科卒。大成建設株式会社入社。85年、営業本部営業部長。87年、取締役。89年、常務。93年、専務。97年、代表取締役副社長。01年、代表取締役社長。今年4月より、社長職を山内隆司取締役専務にバトンタッチし、自らは会長に就任。若き日に柔道で鍛えた体力派。毎日ダンベルで身体を鍛え、月1回は山歩きに出かけている。
寄付者紹介
この4月、大成建設会長に就任した葉山莞児氏。柔道に打ち込んでいた東大工学部時代は文系理系を問わず幅広い学友と交流し、卒業後の社会人生活に大変役立ったという。
70歳にしてなお、気力横溢する葉山氏に、学生時代の思い出や寄付者としての東大への期待をうかがった。

大学時代の思い出は「お金がなかったこと」ばかり

七徳堂:本郷キャンパス武道場

私が東大生だったのは、昭和30年代前半。もう約50年前になりますね。大学時代の思い出というと、お金がなくて困ったことばかりが浮かんできます。実家が厚木だったので、「家が近いから」という理由で追分寮には入れなかったんです。だから追分寮の近所の3畳一間に下宿してね。3畳だから布団を片付けないと食事するスペースも勉強するスペースもない。実家が農家だから米はたくさん送ってもらってたんですよ。部屋は米袋だらけ。米に付く「こくぞうむし」という虫が部屋中にいたね。

朝、大学に行く前に、研いだ米を入れた飯ごうを下宿のおばさんに渡しておくんです。夕飯用に炊いておいてもらうためにね。毎日、講義が終わると、2時から6時くらいまで柔道の練習。それから家庭教師のアルバイトに行く。下宿に戻ってくるのは9時過ぎでそれから夕飯。飯ごうの飯を食べる。でも、下宿のおばさんがよく炊くのを忘れるんだよね。そういう時は疲れて帰ってきても飯がない。あれは辛かったな。

私が所属していた柔道部は1年に3ヶ月くらい合宿するんですよ。夏休みも含めて。夏休みは朝と夕方に練習するんだけど、昼間はやることがない。だから、みんなで上野の動物園に行ってずっとサルばかり見ていた。映画館にも行ったな。銭湯もぜいたくなレクリエーションでしたね。当時、下宿と大学を都電で往復すると25円かかったんですが、そこを歩くことで、お金を浮かせて、昼食代に充てていました。それでも特に苦しいとは思いませんでしたよ。今、思えば、みんな貧乏だったからね。中にはリッチな学生もいたけど、ほとんどの学生は貧乏だったね。

いつの時代にも、若い人は「最近の若い者は……」と言われますね。そう言われていた若者もいつかは歳をとって「最近の若い者は……」と言う。だからといって、若者がどんどん駄目になっているなんてことはないわけです。私ももう70歳になりましたが、今の若い人達の中には、これからの日本を託していける人がちゃんといると思いますよ。

私が母校・東大に寄付をした理由は……

大学を卒業して大成建設に入ってからも、学生時代の集まりだとか、土木学会の集会だとか、そういうものには出席していました。特に懐かしがるわけではないけれど、社会人になってからも頭の片隅に「大学」という存在があったな。特に3畳一間の下宿には愛着があったので、社会人になってからも度々、遊びに行きました。今でも行きますよ。もう下宿屋はやっていなくて、お孫さんの代になっているんだけど、女房を連れて行って一緒に食事したりしています。

会社に入るとね、東大出身者はなぜか、東大卒であることを言いたがらないことが多いんだね。どの企業に行ってもそうらしい。一匹狼であることを好むんですね。だからと言って、噛み付くタイプでもない。我が社にいる東大の後輩を見ていると、あまりハングリー精神がないように見えますね。

私が東大に寄付をするに当たって、会社にいる東大の後輩達にも「みんな、頼むよ」と声を掛けて寄付を集めました。そうやって寄付を集めるのは良いことだと思うけど、寄付以前に「国立大学法人化」ということが外部の我々には良く分からないんだね。東大が法人化された。国から独立した。そうなると、私大とはどう違うのか? 大学にはそのあたりをよく説明してもらいたいね。

私個人の寄付の理由としては「東大が世界に冠たる大学だと思っているから」ということが大きいですね。かっこよく言うならば「母校であり、世界に冠たる大学である東大が少しでも発展してもらうためにそのお手伝いを」というところかな。寄付したお金の使い道に関しては、とやかく言うつもりはありません。お金にはあまり色をつけないほうが良いと思うからね。大学側の思うところにどんどんお使いいただきたい。

今後、東京大学に期待すること

小宮山総長は「課題先進国・日本の抱える課題を解決に導くために大学が役に立つ」とおっしゃっていますね。たしかにそうだ。日本はいろいろな課題を抱えている。それらの課題には、学問として解決しなければならないものもあれば、我々企業が解決しなければならないものもある……私達の会社も様々な課題を抱えているので、状況を変えようと頑張っていますよ。一エンジニアとして大学に希望を言うならば、特に基礎的な研究においては企業と手を携えてやっていただきたい。企業側からすれば、大学との連携には「少ない投資で基礎的な研究をやれる」という大きなメリットがあるんです。

それから、教育機関としての大学に希望を言うならば、「学生の資質を見定めて進路を示唆する」という役割に期待しています。学生の能力を伸ばすことも大切だけど、それ以上に学生の能力の質を見極めることも大切だと思う。学者に向いている人には学者への方向付けを、ビジネスマンに向いている人にはビジネスマンへの方向付けをして、社会や学界に送り出してほしいね。なぜ、そんな風に思うかと言えば、我々の会社にも「この人はあの分野に進めばもっと能力が生かせたかもしれないな」と思うことが多々あるから。仕事をしていて最後にモノを言うのは、持って生まれた能力。だから、「自分の能力は何に向いているのか。どの分野に進めば能力を生かすことができるか」を知ることが大切。大学はそのサポートをしてほしい。

総合大学ならではの「教養」が役に立つ

東京大学は学術俯瞰講義などを始めて「教養教育」を重視するようになってきていますね。私個人の考えを言うとね、教養を積むという行為は、食べ物を食べる行為と同じだと思っているんです。普段、いろいろな食べ物を食べることによって、現在の身体が出来上がっている。だから、教養に関しても「いろいろなモノを食べなさい」と言いたいね。学生時代は本を読んだり人に聞いたりすることでどんどん学んでいくことが大切。大学時代はせいぜい4、5年間だから、卒業してからの人生のほうがずっと長い。その長い人生を「どう生きたか」が一番大切だと思うんですよ。だから、大学時代はいろいろなモノを吸収して「生き方」をしっかり学んでほしい。それが「教養を積む」ということだと思っています。

東大に入学した頃、「自分はすごく数学が出来る」と思い、「理学部に進んで数学の勉強をしよう」と思っていました。ところが、大学の幾何学の講義で「n次元」という概念を教わって戸惑っちゃったんですね。1次元は線で、2次元は面、3次元は立体……そこまでは容易にイメージ出来る。でも、n次元なんて言われても私は解らなかった。解らないので先生に聞きに行きましたよ、「n次元を黒板に図示してください」ってね。そしたら、先生はグシャグシャグシャっと線を書いて、「これだ」、と(笑)。それで、もう解らなくなりました(笑)。だから、理学部に進むのはやめて工学部に行き、実学に就こうと思いました。工学部を選ぶと「同じ専攻の人とばかり付き合っていると考え方が偏るな」と思ったので柔道部に入りました。柔道部には理系文系、いろいろな学科の人間がいましたからね。あの柔道部生活が今でも私の人生に役立っています。いろいろな学部学科の人と話をすることができたのは本当に良かった。東大以外にも良い大学はたくさんあるけれど、東大の一番の魅力は「総合大学であること」ですね。実に幅広い分野の人が集まっている。幅広い分野の人々と話して自分なりに教養――「生き方」を掴んでいったことは本当に良かったと思う。今の学生諸君にも、在学中に総合大学としての良さを享受してほしいと心から思っています。(談)

※寄付者の肩書きはインタビュー当時のものです。

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