国際水産研究教育基金

—水産学×経済学で持続可能な水産業の実現へ—

PJ画像

プロジェクト設置責任者

大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 准教授
阪井 裕太郎

今年度寄付総額
258,100円
今年度寄付件数
6件
現在の継続寄付会員人数
2人
累計寄付総額
1,340,500円

このプロジェクトに寄付をする

今年度目標金額
1,000,000円

東京大学へのご寄付には税法上の優遇措置が適用されます。

English

動画サムネイル.jpg
画像をクリックして動画をご覧いただけます。

プロジェクトについて

当研究室では、経済学やデータサイエンスを用いて、漁業管理から消費者行動に至るまで広範な領域を包括的に研究対象とし、持続可能な水産業の実現に向けた具体的な解決策を模索しています。

世界的に水産資源の過剰漁獲が深刻な問題となっています。一見すると、この問題は漁獲量を制限すれば解決できるように思われるかもしれません。しかし、不用意に漁獲量を制限すると、漁業者間での先取り競争が激化してしまいます。競争が激化すると漁獲量の監視が困難となり、結果的に資源を守れない事態が生じる可能性もあります。持続可能な漁業を実現するためには、人々の行動を深く理解し、それに基づいた制度設計が求められます。当研究室では、フィールドワーク、経済理論、ビッグデータ解析を組み合わせて、有効な漁業管理システムの構築に取り組んでいます。

水産物消費に目を向けると、世界では水産物に対する需要が増大しているのに対し、我が国では長期にわたって魚離れが進んでいます。また、欧米では持続可能な漁業に由来する水産物に対するエコラベルに価格プレミアムがついているのに対し、我が国ではエコラベルの認知度も低く、価格プレミアムが付いているという報告もありません。これらの違いが何に起因するかはまだ解明されていません。当研究室では、インタビュー調査、アンケート調査、経済実験などを通して、消費者行動の解明に取り組んでいます。

当研究室の消費者研究において近年大きなテーマとなっているのは、水産物の鮮度の価値の解明や鮮度表示の効果測定です。我が国における魚離れの原因が「情報の非対称性(消費者が十分な情報を得られていない状況)」の悪化であるとのオリジナルの仮説に基づき、鮮度表示がこの問題を緩和できるのではないかと考えています。2024年には民間企業と提携して店舗での実証実験を行いました。

漁業の環境負荷を減らすことも重要な研究課題です。当研究室では、様々な漁業や漁網リサイクルの取り組みに関して※LCA分析を行い、環境負荷を低減する具体的な方法を探っています。また、スマート水産業の導入とその効果検証(船団間での情報共有、過去の操業データの記録と利用、定置網への魚探の設置等)にも取り組んでいます。これらの技術は、操業の効率化だけではなく漁業の環境負荷の低減につながり、持続可能な水産業の実現に寄与すると考えています。

※LCA(ライフサイクルアセスメント)分析とは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法である。

image1new.png
まき網船団の航跡
image2.png
渋谷ヒカリエにおける刺身試食実験
image3.png
民間企業と提携した実店舗での鮮度表示販売実験

寄付の必要性

2018年の漁業法改正を契機に、日本政府は水産業を再び成長産業として位置づけ、その発展を目指しています。この重要な変革期において、日本の水産業が持続可能な形で発展し、国際的な競争力を持つためには、今こそ最先端の研究と教育体制を整える必要があります。私たちの研究室では、経済学やデータサイエンスを駆使し、漁業管理や消費者行動に関する革新的な解決策を提案し、日本の水産業が直面する課題に取り組んでいます。しかし、これを達成するには十分な研究資金と人的リソースが必要です。

■日本の水産業の未来を支える若手研究者の育成
特に、若手研究者の育成は急務です。日本国内で水産経済学を専門とする若手は数少なく、彼ら・彼女らの育成を通じて日本の水産業の未来を支える人材を確保することが求められます。優秀なポスドクを雇用するためには、少なくとも年間600万円以上の予算が必要ですが、その規模の資金を確保するためには大型の科研費を獲得しなければなりません。しかし、科研費の競争は非常に厳しく、安定した資金を確保することは容易ではありません。そのため、安定的かつ持続的に研究を進めるための寄付が重要な役割を果たします。

■国際的な研究活動への取り組み、研究連携の強化
国際的な研究活動にも積極的に取り組む必要があります。欧米での国際学会に参加するためには、学会参加費・渡航費・宿泊費で1回につき1人当たり40-50万円程度が必要になります。世界レベルの研究を行うためには、海外での学会に継続的に参加し、最先端の研究に触れるとともに、最先端の研究者とのネットワークを築くことが不可欠です。しかし、限られた資金ではこれらの費用を捻出することが難しく、十分な対応ができていないのが現状です。寄付により、これらの活動を積極的に推進し、国際的な研究連携を強化することが可能になります。

■幅広い産業を視野に入れた総合的な海の利用を目指して
さらに、今後は研究対象の幅を広げていく必要があります。例えば、沿岸漁業の生産性を高めるためには、川の上流で行われる農業や林業との連携が実は重要だと言われていますが、この点は未だに十分に解明されていません。また、海を利用するのは漁業だけではありません。観光業、海運業、洋上風力発電、さらには海底資源の開発など、海には様々な産業が関わっています。海洋国家としては、漁業を中心にしつつ、これらの産業も視野に入れた総合的な海の利用を考えていくことが求められます。こうした包括的な視点から研究を展開していくためには、それを支えるための資金が必要です。

image4.png
長崎県における旋網漁業者へのヒアリング

いただいたご支援の使途

ご寄付により、当研究室では日本の水産業の未来を切り拓くためのさまざまな取り組みを進めています。具体的には、以下の活動を展開し、持続可能な水産業の実現に向けた具体的な解決策を模索しています。

・若手研究者の育成
ポスドクや大学院生の支援を通じて、次世代の研究者を育てる取り組みを行っています。

・グローバルな研究活動の推進
海外での学会参加や国際共同研究を推進し、グローバルな視点での研究を強化しています。

・フィールドワークを通じた現場調査の強化
現場での調査を通じて、実践的なデータ収集と分析を行い、研究の信頼性を高めています。

・研究対象の幅を広げる新たな取り組み
農業や林業との連携、他の海洋産業との協働など、総合的な視点からの研究を展開しています。

これらの取り組みを通じて、日本の水産業が再び成長産業として世界に誇れる存在となるための基盤を築いています。

image5.png
世界のトップ漁業経済学者が集う北米漁業経済学会(NAAFE)

ご支援のお願い

ご寄付により、当研究室の活動が充実・加速することで、長期的にいくつかの重要な成果が期待されます。

まず、日本の水産業が成長産業として再び確立されることが期待されます。当研究室では、漁業管理と消費者行動の両分野を総合的に研究し、持続可能で高収益な水産業の実現を目指しています。この包括的なアプローチにより、業界全体の成長が促進され、企業にとっても安定的かつ持続的な供給基盤が強化されることが期待されます。日本の水産業が国際的な競争力を持つ基盤が築かれ、関連企業にとっても新たなビジネスチャンスが広がることが期待されます。

次に、当研究室が世界における研究教育の拠点として確立されることが期待されます。水産経済学や社会科学の最高峰の講義・指導を提供する場として発展し、業界にとっても重要な人材供給源となります。若手研究員の雇用が確保され、博士課程に進学する学生が増加することで、企業が求める高度な専門知識を持つ人材が育成され、業界全体の競争力が向上することが期待されます。

さらに、持続可能で豊かな海産物が次世代に引き継がれる未来が期待されます。サンマやスルメイカなど、現在不漁となっている魚種が再び豊富に供給され、地域ごとの豊かな食文化が守られるとともに、多くの人々が美味しい魚を適正な価格で楽しめる社会を目指します。これにより、地域の基幹産業として漁業が維持され、地域コミュニティの活力が保たれます。地域経済の安定とともに、消費者にとっても豊かな食生活が保証されることが期待されます。

皆様のご支援が未来の水産業と地域社会に持続可能な発展をもたらす力となります。温かいご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

image6.png
石川県における定置網漁業のフィールド調査

このプロジェクトに寄付をする

石川県に定置網の調査に行ってきました(第5回報告)

2026年07月23日(木)

皆さまこんにちは。修士1年の田中大輔です。私たちの研究室では、漁業資源管理に関する研究に取り組んでいます。今回定置網に乗船する機会を得るとともに、現地ヒアリングを目的として石川県へ出張しました。本報告は乗船体験の記録であると同時に、修士2年の小髙が進めているクロマグロのIQ(個別割当方式)枠の融通に関する研究とも関わりのある内容です。関連研究の一端としてお読みいただければ幸いです。

今回の出張では、石川県水産課の皆さまが日程を調整してくださり、底びき網漁業者、定置網漁業者、加工・流通まで手掛ける経営者の方々など、立場の異なる漁業関係者に幅広くお話を伺うことができました。本プロジェクトではこれまでにも石川県での調査について3回の出張報告を掲載しており、今回はその続編にあたります。まだお読みでない方は、ぜひ過去の報告もあわせてご覧いただき、現地調査の積み重ねと研究の広がりを感じていただけましたら幸いです。(第1回報告第2回報告第3回報告第4回報告

出張ではまず、石川県漁協金沢支所にて底びき網漁業者の方々にヒアリングを行いました。沖合底びき網漁業を営む金沢地区の船団長や小型底びき網漁業の船長など複数名にお集まりいただき、ズワイガニ漁を巡るTAC(漁獲可能量)管理の実態についてお話を伺いました。県内では昨年度から初めて地区別のTAC目安量が設定されましたが、現場からは配分方法への戸惑いの声が多く聞かれました。船の性能や乗組員数、借金の有無といった個々の事情が配分に反映されない不公平感に加え、漁場や市場が地区ごとにきれいに分かれているわけではないため、隣接地区との操業を巡るあつれきも生じているとのことでした。特に、船団を組まず個別に出漁する慣行が残る地区が早いペースで漁獲を積み上げてしまい、他地区の水揚げ時期に価格がつかなくなるといった問題も指摘され、TACという制度が現場の協調の仕組みとどう噛み合っていくべきか、考えさせられるヒアリングとなりました。こうした声を受けて、県の水産行政と県内の底びき網漁業関係団体等が意見を交わしながら、対策を共に検討していく動きも進んでいるとのことで、現場と行政が一体となって課題に向き合おうとしている様子もうかがうことができました。

写真1:底びき網漁業者の方々へのヒアリングの様子.jpg
▲写真1:底びき網漁業者の方々へのヒアリングの様子

同日には、石川県庁水産課の方々とも打ち合わせの機会をいただきました。研究で利用させていただく水揚データ、量と価格、魚種について確認したほか、国から県、県から漁業者へと漁獲枠が追加・留保される際の情報伝達のタイミングについても詳しく教えていただきました。制度上の枠の動きが現場にどのように、どのタイミングで伝わっているのかを把握できたことは、今後の分析を進める上で大きな助けになりそうです。

写真2:石川県庁水産課の方々との打ち合わせの様子.jpg
▲写真2:石川県庁水産課の方々との打ち合わせの様子

水産課での打ち合わせを終えた後、次の明朝、定置網に乗せていただきました。実際に網を上げてみると魚がしっかりと入っており、水揚げの様子を間近で見学することができました。何より収穫だったのは、クロマグロのIQ枠が現場で実際どのように運用されているのかを、この日の乗船を通して具体的に理解できたことです。網に入ったクロマグロをどのタイミングで、どれだけ水揚げするかという判断が、資料や制度の説明だけでは見えてこなかった生々しい現場感覚を伴っていることを実感し、小髙の研究テーマであるIQ枠の融通の議論が、まさにこうした一回一回の操業判断の積み重ねの上に成り立っていることを肌で理解できた乗船となりました。

写真3:同行した定置網の様子.jpg
▲写真3:同行した定置網の様子

続いて、いきいき魚市の重福水産にて、定置網漁業者の方々にヒアリングを行いました。マグロの漁獲規制が定置網漁業の現場にどのような影響を与えているのか、日々の操業を踏まえた率直なお話を伺うことができました。漁期や海況によって入網する魚のサイズや量は大きく変動するため、限られた漁獲枠の中でどのように出荷や放流の判断を行うか、現場ならではの工夫や難しさについて理解を深めることができました。株式会社重福は漁から加工、卸、小売までを一貫して手掛ける事業モデルを築いており、品質へのこだわりが飲食店をはじめとする取引先からの信頼につながっているとのことで、漁獲制限の中でいかに付加価値を生み出すかという点で多くの示唆をいただきました。

写真4:重福水産代表・川島氏へのヒアリングの様子.jpg
▲写真4:株式会社重福代表・川島氏へのヒアリングの様子

出張の締めくくりとして、能登町小木港の永宝水産株式会社の6代目代表・小川氏に、イカ漁業を切り口とした能登の漁業についてお話を伺いました。大和堆という好漁場が持つ安全保障上の役割や、外国漁船による違法操業の問題など、資源管理にとどまらない能登の漁業の位置づけについて理解を深めることができました。また、スルメイカ資源の減少という厳しい状況の中で、冷凍技術の活用によって生鮮品の流通制約から解放し、大手流通・外食との連携や輸出などを通じて販路を多様化し、競りに依存しない価格決定力を確保していくという経営戦略のお話は、水産資源が減少局面にある中でどのように漁業者の収益を確保していくかという、本研究にも通じる重要な視点をいただきました。

写真5:永豊富水産株式会社の6代目代表・小川氏へのヒアリングの様子.jpg
▲写真5:永宝水産株式会社の6代目代表・小川氏へのヒアリングの様子

今回の出張では、ズワイガニのTAC管理からクロマグロのIQ枠、そしてスルメイカ漁業の経営戦略まで、対象とする魚種や制度は異なるものの、いずれも資源管理の枠組みと現場の経営判断・働き方がどのように結びついているのかという共通の問いに触れることができました。特に初めての定置網乗船を通じて、漁獲枠を巡る判断が一回一回の操業の中でどれほど重い意味を持つのかを肌で感じられたことは、今後の研究を進める上で貴重な経験となりました。
このように継続的に現場に入り込み、漁業者の方々や石川県水産課の皆さまから率直なお話を伺いながら研究を深めていけるのは、日頃から本プロジェクトや研究室の活動を支えてくださっている皆さまのお力添えがあってこそです。現地で得られた学びを少しでも社会に還元できるよう、今後も調査・研究を重ねていきたいと思います。

私たちの研究室では、昨年度に引き続き、石川県以外にも様々なフィールドを舞台とした研究を行っています。これからも温かいご支援をいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

真珠漁具リサイクルに関する論文が出版されました

2026年07月23日(木)

こんにちは。東京大学大学院農学生命科学研究科、国際水産開発学研究室、博士課程1年のテン ジョンホ(TIAN Zhonghe)です。今回は、私たちの研究論文が国際学術誌 Journal of Cleaner Production に掲載されましたので、その内容をご紹介します。

真珠と聞くと、多くの方は美しい宝石やアクセサリーを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、真珠が生産されるまでには、アコヤガイなどを海中で育てるためのさまざまな道具が使われています。その一つが、貝を収容し、外敵などから守るための「真珠養殖カゴ」です。

このカゴは、主に鉄製の枠とプラスチック製の網からできています。長年使用された後、適切に回収・処理されなければ、海洋ごみやマイクロプラスチックの原因になる可能性があります。また、回収された場合でも、焼却や埋立てには環境負荷が伴います。

一方で、カゴをリサイクルするには、回収や運搬、分別、加工などの費用がかかります。環境に良いというだけでは、現場で継続的に導入することは簡単ではありません。

そこで私たちは、次の二つの疑問について調べました。
一つ目は、廃棄された真珠養殖カゴをリサイクルすると、環境負荷をどの程度減らせるのか。二つ目は、そのような環境改善に対して、消費者が追加的な価値を感じるのか、という疑問です。

この二つを同時に明らかにするため、本研究では、環境への影響を評価する「ライフサイクルアセスメント」と、消費者の選択を分析する「離散選択実験」を組み合わせました。環境評価と消費者評価を別々に行うのではなく、一つの研究の中で直接結びつけたことが大きな特徴です。

3つのカゴ処理方法を比較

環境評価では、廃棄された真珠養殖カゴ1,000kgを処理する場合について、次の3つのシナリオを比較しました。
「フルリサイクル」では、鉄製の枠を再生鋼材として利用し、プラスチック製の網をRPFと呼ばれる固形燃料に加工します。
「部分リサイクル」では、鉄のみを再資源化し、プラスチックは焼却・埋立て処理します。
「リサイクルなし」では、鉄とプラスチックの両方を廃棄し、新しいカゴには新たな原料を使用します。

写真1.png
▲写真1:廃棄された真珠養殖カゴ

分析の結果、フルリサイクルは、温室効果ガス排出量、エネルギー消費量、水域の富栄養化への影響という三つの指標すべてで、最も環境負荷が小さい方法となりました。

フルリサイクルと比べると、温室効果ガス排出量は、部分リサイクルで43%、リサイクルなしでは142%多くなりました。つまり、鉄だけでなくプラスチックも含めて再資源化することが、環境負荷の削減に大きく貢献することが分かりました。

図1.png
▲図1:本研究で比較した三つの処理シナリオ

重要なのは、リサイクルの効果が、単に廃棄物の量を減らすことだけではないという点です。

回収した鉄を再生鋼材として使えば、新たな鉄鋼原料の使用を減らすことができます。また、プラスチックから作られたRPFを利用すれば、石炭などの化石燃料の一部を代替できます。このように、廃棄物を別の資源に置き換える「資源代替効果」が、環境負荷の削減に大きく貢献していました。
輸送距離やリサイクル効率、代替する燃料の種類を変更した場合についても分析しましたが、フルリサイクルが最も環境負荷の小さい方法であるという結論は変わりませんでした。

環境に配慮した真珠を、消費者はどう評価するのか

次に、環境負荷の違いを消費者がどのように評価するのかを調べました。
調査の設計にあたっては、真珠の生産者6名、販売関係者5名、消費者15名にインタビューを行いました。真珠を購入するときに何が重視されるのか、環境情報はどのように示せば理解しやすいのかなどについて意見を聞きました。
その結果を踏まえ、真珠の「照り」「大きさ」「価格」に加え、先ほどの環境評価から計算した「廃棄カゴの処理に伴う温室効果ガス排出量」を商品情報として提示しました。

その上で、日本国内の600名を対象に、条件の異なる複数の真珠から、購入したいと思うものを選んでもらいました。回答者のうち480名は真珠を購入した経験があり、120名は購入経験のない人でした。

分析の結果、真珠の購入経験者は、「リサイクルなし」から「フルリサイクル」への移行に対して、真珠1粒当たり中央値1,438円の追加支払意思を示しました。

図2.png
▲図2:真珠1粒当たりの追加支払意思額

これは、消費者が真珠の見た目や大きさだけでなく、その生産を支える道具がどのように処理されているかにも、一定の価値を感じる可能性を示しています。

ただし、この1,438円は、アンケート上の仮想的な選択から推定した金額の目安です。この金額だけでリサイクル費用をすべて回収できることを意味するものではありません。

環境への関心は、消費者によって異なる

さらに詳しく分析すると、真珠の購入経験者は、大きく三つのグループに分かれました。

一つ目は、真珠の照りや大きさを特に重視する「審美性重視層」です。二つ目は、品質や価格とのバランスを考えながら、環境への配慮も評価する「環境配慮バランス層」です。三つ目は、提示された真珠を購入しない選択をする傾向が強い「購入消極層」です。

特にフルリサイクルを高く評価したのは、環境配慮バランス層でした。一方で、審美性を重視する消費者にとっては、環境への配慮だけを強調しても、必ずしも商品の魅力にはつながりませんでした。

この結果から、環境に配慮した真珠を普及させるためには、「環境に良い」という説明だけではなく、真珠本来の照りや品質、産地、職人技などの価値と組み合わせて伝えることが重要だと考えられます。
また、消費者が環境情報を信頼できることも欠かせません。どのような方法でカゴを回収し、どの程度環境負荷を減らしたのかを、第三者認証や分かりやすい環境表示によって示す必要があります。

真珠産業を循環型に変えるために

本研究では、廃棄された真珠養殖カゴをリサイクルすることにより、環境負荷を削減できることが示されました。また、真珠の購入経験者の中には、その環境改善に追加的な価値を認める人がいることも分かりました。

これまで、廃棄物のリサイクルに関する環境評価と、消費者が環境に配慮した商品をどのように評価するかという研究は、それぞれ別々に行われることが多くありました。本研究では、実際の環境評価の結果を消費者調査に直接取り入れることで、「環境負荷をどの程度減らせるのか」と「その改善を消費者がどう評価するのか」を一つの枠組みで分析しました。

ただし、真珠養殖カゴのリサイクルを実際に広げるには、まだ検討すべきことがあります。回収や運搬、分別、RPFへの加工にどの程度の費用がかかるのかを明らかにする必要があります。また、生産者だけに負担を集中させないため、リサイクルへの補助、製品を生産・販売する側の責任のあり方、環境表示の仕組みなども考える必要があります。

美しい真珠を持続的に生産するためには、真珠そのものだけでなく、それを育てるために使われる道具の「使い終わった後」にも目を向けることが重要です。

今回の研究が、真珠養殖の現場で使われる資源をできるだけ循環させ、環境と産業の両方を持続可能にしていくための議論につながればと考えています。今後は、他の漁網の回収・リサイクルに関する環境影響や、環境表示が消費者の現実の購買行動に与える影響についても研究を進めていきたいと思います。皆さまの温かいご支援を、引き続きよろしくお願いいたします。

<関連情報>
論文情報
Tian, Z., Xia, Z., Yagi, N., Mo, Z. & Sakai, Y.
Transition to a circular economy in pearl aquaculture: Environmental impacts, consumer preferences, and willingness to pay.
Journal of Cleaner Production, 572, 148898 (2026).
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2026.148898

未利用魚に関する論文が出版されました

2026年06月29日(月)

こんにちは。博士2年の志賀智寛です。今回は、私の研究論文が国際学術誌 Fisheries Science に掲載されましたので、その内容をご報告いたします。

研究の原点は、私の経験から着想を得たものでした。私は小さい頃から魚が大好きで、市場に通い詰めてはいろいろな魚を食べ歩いてきました。市場では、普段あまり目にしない珍しい魚との出会いも大きな楽しみでした。日本で漁獲される魚は多様で、そこにこそ面白さと豊かさがあると私は感じていましたが、スーパーや飲食店で流通している魚種は、ごくわずかに限られているのが現状です。このギャップの間には、漁獲されながらもマス市場に回らなかったり、廃棄されたりしてしまう「未利用魚」が一定数存在します。魚好きとして、この問題に研究から貢献したいと思ったのが、このテーマに取り組んだきっかけです。

未利用魚とは、漁獲・水揚げされながら廃棄されたり十分に利用されなかったりする魚のことです。日本では「未利用魚」「低利用魚」と呼ばれ、近年その活用が注目されるようになっていますが、実はこれまで体系的な研究も、世界共通の定義もありませんでした。研究者によって対象範囲がバラバラで、議論が噛み合いにくい状態が続いていたのです。
そこで本研究では、農業分野で注目されている「未利用作物種(NUS)」という概念に着目しました。NUSとは、かつては地域で食べられていたのに、食の均質化・グローバル化の中で顧みられなくなってしまった作物のことです。気候変動への対応策として近年改めて注目されています。水産分野でも全く同じことが起きているのではないか、そう考えて、NUSになぞらえた「NUF: Neglected and Underutilized Fish」という概念を新たに提唱することにしました。そして、そのNUFが発生している状況、トレンド、そして定義について包括的にまとめたのが本研究です。

研究を進めるにあたっては、静岡県、三重県、岩手県の3つの漁村に何度も足を運びました。実際に定置網の船に乗せていただき、漁の現場を体感させていただいたことは、何物にも代えがたい経験でした。網を引き上げると、本当に多種多様な魚たちが現れます。その豊かさには毎回感動しました。
(写真1)。

写真2.jpeg

▲写真1:引き上げられた定置網

一方で、漁獲された魚が実際に未利用魚の扱いになっている様子も見えてきました。調査で見えてきたのは、日本の漁業の特徴に起因する構造的課題でした。全国各地の小さな漁村で、多品種が少量ずつ混ざって獲れるため、単一品目を大規模に扱うマーケットと比べるとスケールメリットが生まれにくく、販売の効率化には限界があります。さらに、買受人数が少なくなっている小規模な産地市場では競争が起きにくく魚価が下がっており、近年高騰が続く輸送コストが販売価格を上回ってしまう魚も出てきます。そのような場合には、無理に販売をしたりしないのが適切な経営判断だと言えるでしょう。現地でフィールドワークを行った結果、このような構造的課題が見えてきました。

また、消費サイドにも大きな要因があります。かつて日本には地域ごとに多様な魚食文化がありましたが、加工食品の普及や食の均質化によって、消費される魚種はどんどん少なくなっています。実際に、2000〜2017年の家計消費データを分析した研究では、主要都市での魚種多様性が低下していることが先行研究で示されています(Oishi et al. (2021))。消費者になじみのない魚は買ってもらえないので流通業者は仕入れたがらず、流通業者が仕入れない魚は漁業者も無理に出荷をしない、という連鎖が生まれているのです。

現地調査と並行して、全国紙3紙について、過去150年分(約4000万記事)の新聞記事も分析しました。「未利用魚」「低利用魚」「廃棄魚」というキーワードで検索すると、258件の記事がヒットしました。面白いのは、この言葉が使われ始めたのが1977年だということです。つまり、未利用は決して新しい言葉ではありません。しかし、2021〜2023年の3年間だけで、それ以前の累計とほぼ同数の記事が出ています。それだけ急速に社会的な関心が高まっているということです。

また、記事の文脈も時代とともに大きく変化しています。1970年代は「新たな水産資源の開発」として語られていた未利用魚が、2000年代には地域活性化や食材開発の文脈へ、そして近年はSDGsやフードロス削減の文脈で語られるようになっています。2015年のSDGs採択、2019年の食品ロス削減推進法の施行が大きな転換点になっているようです。単なる水産業の中での問題ではなく、社会全体の課題の一つとして認識されるようになってきているのを感じます。
(写真2)。

写真3.png

▲写真2:未利用魚等の新聞記事掲載数の推移

こうした調査を踏まえて、まずは研究分野としての基礎を設定すべく、未利用魚(=本研究におけるNUF)の分類枠組みを世界で初めて提案したのが本研究です。ポイントは、これまでのように「魚種」で分類するのではなく、「その魚に何が起きたか」という結果で分類するという点です。同じアジでも、地域や季節、その日の漁獲量によって未利用魚扱いされることもあれば、高値で売れることもある。だからこそ、魚種ではなく個体レベルの結果で見ることが重要なのです。

具体的には、①最終用途(人が食べるか、そうでないか)と②市場価値(値段がつくかどうか)という2つの基準を組み合わせた4分類を提案しました(図2)。この枠組みを使えば、研究者や政策立案者が「どの範囲をNUFと呼ぶか」を明示した上で議論できるようになります。世界各地での比較研究や、政策立案に活かされることが期待されます。
(写真3)。

写真.png

▲写真3:NUF定義のために新たに提案した4分類

この研究はまだ研究が進むための土台を作ったに過ぎません。見えてきた課題に実際にどのようにアプローチできるか、引き続き考え、研究を続けていきたいと思っています。皆さまの温かいご支援が、その大きな力となっています。どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。

<関連情報>
論文情報:Shiga, C., Yagi, N. & Sakai, Y. Neglected and Underutilized Fish (NUF): status, trends, and definition. Fish Sci (2026).
https://doi.org/10.1007/s12562-026-01987-6
プレスリリース:捨てられる魚はなぜ生まれるか――未利用魚の構造的問題を解明し、世界共通の定義を提唱――

令和8年度水産学会春季大会に参加しました!

2026年05月01日(金)

こんにちは。
国際水産開発学研究室修士1年の圓林悟です。
今回は、令和8年度日本水産学会春季大会への参加報告をいたします。

2026年3月26日~29日にかけて、東京都品川区にある東京海洋大学を会場に、令和8年度日本水産学会春季大会 が開催されました。本研究室からは、私を含めた学部生4名、大学院生6名、研究生1名、教員1名が発表者として参加したほか、阪井裕太郎准教授が大会総務幹事を務め、八木信行教授が大会実行委員長を務めました。

写真1.jpg

▲卒業研究の内容を発表する学部4年(現修士1年)落合

研究発表の主な形式は、口頭発表とポスター発表です。大学内の10の会場で、生理学や生態学、養殖業、遺伝子、生化学、社会科学と、水産に関する多様な研究の発表が並行して行われます。

本研究室からの参加者は、(私以外)社会科学のセッションで研究発表を行いました。12分の発表と3分の質疑応答が一人当たりの持ち時間です。質疑応答ではほかの発表者など会場の参加者からの質問が飛び交い、活発な議論が行われました。特に、消費者研究の実験などではモデルにおける変数の設定や、実験参加者の属性などについての質問が多かったです。

写真2.jpg

▲卒業研究の内容を発表する学部4年(現修士1年)圓林

私は漁業のセッションに参加し、卒業研究の研究内容を発表しました。このセッションの発表者は、水産系の大学研究者の他、各地の水産研究所の研究者や自治体の水産課職員などもおり、様々な観点の研究を見ることができました。私の研究内容は中型まき網漁業の漁獲行動分析に関するものでしたが、こちらについては漁船ごとの航行の特性についての質問が出、地域による操業形態の違いを考えさせられる機会となりました。

写真3.jpg

▲研究発表を行う博士3年Mo

他にも、体育館の会場では中高生によるポスター発表も行われており、中には大学生顔負けの実験数や精密さを感じさせるものも見られ大いに刺激になりました。

また、2日目夜には大学の食堂を会場に懇親会も行われました。日中のセッションは分野ごとに分かれていましたが、ここでは分野を超えて様々な研究をしている方々と交流する機会があり、大変興味深かったです。私のいたテーブルの周囲には企業の方も多く、DNA解析の事業内容や業界のトレンドなどについて話を聞くことができました。また、他大学の大学院生ともお互いの研究内容について共有しあうことができました。

写真4.jpg

▲学生優秀ポスター発表賞を受賞した修士2年樋詰

今大会での研究室の実績としては、修士2年の樋詰萌華さんがポスター発表部門において、日本水産学会学生優秀ポスター発表賞を獲得したことが挙げられます。こちらの賞は、学生会員の研究意欲の向上および大会の一層の活性化を目的として、優れたポスター発表を行ったものを選出し、表彰するものです。

総じて、初めて参加する学会の場でしたが、改めて自分の研究分野を相対的に見返す時間となり、大学院での研究に向けたモチベーションの高まる機会ともなりました。

今後も、こうした研究発表の場についてもご紹介していきたいと思います。

引き続き皆様の温かいご支援をいただけますと幸いです。

鮮度表示に関する研究が出版されました

2026年04月08日(水)

こんにちは。国際水産研究教育基金の設置責任者の阪井裕太郎です。今回は、4年かけて(!)やっと出版することができた鮮度表示実験についてご報告いたします。

我々消費者は一般的に鮮度のよい魚を好む傾向があります。その理由は「新鮮なものほど美味しいから」ですよね?でもちょっと待ってください。魚は少し寝かせた(熟成させた)方が美味しいという話もききます。これは新鮮な方が美味しいという説明と矛盾します。単に、新鮮な魚が好きな人と熟成させた魚が好きな人がいるということなのでしょうか。

そもそも、我々の味覚というのは思ったほどあてにならないことが知られています。同じものを食べても、与える情報次第で味の感じ方が変わります。例えば、これは高いワインだと言われると急に美味しく感じたりします。鮮度についても同じようなことが起きているのではないか、というのが今回の実験で調べたことです。「鮮度がいいと美味しい」のではなく、「鮮度がいいと言われると美味しく感じる」のではないかというのが仮説です。

この実験をやりたいと思ったのは、まだコロナ禍の2021年でした。魚を試食させないといけないので、対面である程度の人数を集める必要があります。クラスターが起きたらどうするのか。心配事は尽きませんでしたが、好奇心が勝りました。学内の倫理審査で承認をもらい、感染対策・衛生対策を入念に行った上で、実験を実施しました。マスクを着け、フェイスシールドを付け、黙食ステッカーを貼りまくり、体温チェックをし、椅子も机も入念に消毒をしました。実験にご参加いただいた100名あまりの方には深く感謝申し上げます(写真1)。

写真1.jpg

▲写真1:実験会場の様子

この実験を行うためには、そもそも魚の鮮度を測れないといけません。そこで、たびたびお世話になっている大和製衡株式会社のフィッシュアナライザを使用しました。この機器は4秒程度で魚の鮮度を5段階で判別することができます。鮮度が落ちると細胞膜が崩れて水分が出てきます。これに伴って電気抵抗が変化することを利用して鮮度を判別しています(写真2)。

写真2.png

▲写真2:フィッシュアナライザによる鮮度測定の様子

実験には養殖マダイを用いました。消費者に人気があり、鮮度低下が遅いので実験的に鮮度の差を作り出すことが可能で、かつ実験当日に必要な量を確実に揃えられる、という条件を満たしたのが養殖マダイでした。実験では、まず鮮度情報を与えない状態で高鮮度と低鮮度の刺身を食べてもらい、それぞれの味を評価してもらいました。次に、全く同じ高鮮度と低鮮度の刺身を再度提供し、今度はどちらが高鮮度でどちらが低鮮度かを伝えたうえで、再び味を評価してもらいました。同じものを食べているので、評価も同じはずですよね?(写真3)

写真3.jpg

▲写真3:実験参加者の様子

分析の結果、大変興味深いことが分かりました。まず、鮮度情報を伏せたブラインド条件では、平均的には低鮮度のマダイの方が高く評価されました(図1左)。マダイのような白身魚では、ある程度鮮度が落ちた方が旨味が出てきて美味しいのです。私自身も食べ比べてそう感じました。ここまでは想定通りです。驚いたのは、どちらが高鮮度かを参加者に伝えると評価は逆転し、高鮮度の刺身の方が美味しいという評価になったことです(図1右)。

図1.png

▲図1:実験結果

ちなみに、味の評価だけでなく、「いくらまでなら支払ってよいか」という支払意思額も同時にききました。やはり、ブラインド条件では低鮮度の方に多くお金を払うという回答が得られたのに対し、鮮度情報開示後は高鮮度と表示された刺身の方に多くお金を払うという回答が得られました。つまり、鮮度情報は味の感じ方だけでなく、経済的な評価にも影響していたのです。

この実験結果は、「鮮度が高い」という情報が消費者の認識を変える力を持つことを示唆しています。鮮度が高い魚を純粋に美味しく感じる消費者も多くいますが、それだけではなく、鮮度が高いという情報自体に美味しく感じさせる効果があるようです。このことから、鮮度に自信のある小売店や飲食店は、その鮮度を客観的に表示することでより売り上げを伸ばせる可能性があると言えそうです。

今回の研究は、消費者行動を実験的に明らかにすることで、水産物の表示のあり方や販売戦略を考えるうえで重要な示唆を与えるものです。同時に、このような研究は、実験機材の活用、試料の準備、会場運営、学生の研究参加など、多くの支えによって成り立っています。特定基金によるご支援は、こうした挑戦的な研究を進め、若手研究者や学生が実践的な経験を積むための大きな力となっています。今後も、水産物の価値を科学的に明らかにし、持続可能な水産業と消費のあり方に貢献する研究を続けてまいります。どうぞ引き続き温かいご支援を賜れますと幸いです。

本研究の詳細につきましては、こちらよりご覧いただけます。

MSC認証ラベルに関する論文が出版されました

2026年02月20日(金)

PJ画像5
▲実験を運営した研究室メンバー

こんにちは。修士2年の魚谷和史です。前回の活動報告では、私の修士研究である石川県の定置網漁業に関する現地調査についてご紹介しました。今回は、学部時代に取り組んでいた水産物の消費者評価に関する研究論文が、国際学術誌 Fisheries Science に掲載されましたので、その内容をご報告いたします。

これまでの活動報告では、漁業現場に焦点を当てた内容が中心でした。今回は、弊研究室が同様に力を入れている消費者行動研究についても、皆さまに知っていただく機会になれば幸いです。

水産物をめぐっては、水産資源や環境に配慮した漁業で獲られたことを示す認証制度が世界的に広がっています。なかでも、世界的に最も広く利用されているのがMSC(Marine Stewardship Council)認証です。MSC認証は欧米を中心に普及してきた制度ですが、日本でも認証マークが表示された商品を見かけるようになっています(写真1)。

一方、日本では店頭でMSC認証ラベルを目にしても、その意味が十分に理解されず、水産物の評価向上につながりにくいという課題があります。本来、将来の資源を見据えて持続可能な漁業に取り組むことは重要ですが、その取り組みを客観的に証明するための認証取得や維持には多大な費用がかかります。それにもかかわらず、消費者から十分な評価が得られなければ、生産者の意欲が低下し、持続可能な取り組みの継続が難しくなる可能性があります。

写真1.jpg

▲写真1:MSC認証ラベル付きの商品(著者撮影)

そこで本研究では、持続可能な漁業に取り組む生産者の水産物が適切に評価されるための情報提示の方法として、国内の農産物で活用されている「生産者の写真」に着目しました。MSC認証ラベルだけではなく、その背後で持続可能な漁業に取り組んでいる生産者(漁業者)の存在が伝わることで、消費者の受け取り方が変わり、評価が高まる可能性があると考えたためです。

本研究では、生産者の写真がMSC認証水産物の評価に与える影響を検証しました。さらに、生産者の写真単独の効果に加え、MSC認証表示と組み合わせた場合に効果が強まるのか、あるいは一方が他方の印象を弱めるのかといった点についても分析しました。

評価は、「いくらまでなら支払ってもよいと思うか」という金額面の評価と、実際に食べた際の味の評価の2点から行いました。参加者には、MSC認証ラベルも生産者の写真もない刺身パックと、MSC認証ラベルや生産者の顔写真を掲載した刺身パック(図2)の2種類を提示し、それぞれについて支払意思額を回答してもらいました。また、提示された刺身を実際に試食してもらい、味の印象を7段階で評価してもらいました。なお、後者の刺身パックについては、参加者ごとに表示内容を変えました。MSC認証ラベルのみ、生産者の写真のみ、両方を表示したもののいずれか1つを提示し、表示の違いによる評価の変化を比較しました。提示した魚の品質はすべて同一であるため、評価に差が生じた場合、それは魚の品質差ではなく、表示の違いが影響した可能性が高いと考えられます。

実験には、株式会社臼福本店のMSC認証取得済みの大西洋クロマグロを使用しました。倫理的配慮の観点から、実際に認証を取得している水産物を用いる必要があったためです。株式会社臼福本店の臼井壯太朗社長には、試食用サンプルや写真のご提供に加え、MSC認証を取り巻く現状について現場の視点からご講義いただきました。深くお礼申し上げます。

写真2.png

▲図2:実験で参加者に表示した刺身パックの一例

実験は、築地市場の魚河岸スタジオを2日間借りて実施しました(写真3)。アンケートはタブレットで回答してもらい(写真4)、日本人以外の参加者も想定して英語版も用意しました。資材の搬入(写真5)、会場設営、当日の呼び込みなど、多くの準備と人手が必要でしたが、研究室メンバーが協力して進めることができました。

写真3.png
▲写真3:会場の様子
写真4.png
▲写真4:実験参加者の様子
写真5.jpg
▲写真5:会場への資材搬入の様子

分析の結果、日本人参加者では、生産者の顔写真がある水産物をより高く評価する傾向が確認されました。一方、海外参加者では生産者の写真への反応はほとんど見られず、MSC認証ラベルの有無をより重視する傾向が見られました。また、MSC認証ラベルと生産者の写真のそれぞれに対して消費者が評価する傾向は確認された一方で、両者を併記することでMSC認証ラベルに対する評価が上がるという相乗効果は今回の実験条件下では見られませんでした。

本研究は、生産者の顔写真を用いた「顔の見える」情報提示が、日本人消費者に対して持続可能な水産物の価値を伝えるうえで有効なのではないかというアイデアを検討したものです。実験条件を変えて引き続きこの仮説の検証を続けていきたいと考えています。また、顔写真やMSC認証ラベルの受け取り方が国や文化によって異なることも示されました。今回は海外参加者の出身国別の人数が限られていたため、大まかな傾向の比較にとどまりましたが、今後、国別に検証を進めることで、より詳細な文化差を明らかにできると考えています。

本研究の成果は、持続可能な水産物の普及に向けた情報表示政策やマーケティング戦略の検討に資するものと期待されます。また、弊学農学部のX(旧Twitter)でも紹介され、「店頭より通販で効果が大きいのではないか」「写真の漁師の見た目によって効果は変わるのではないか」といった多くの反応をいただきました。こうした関心は研究を進めるうえで大きな励みとなっています。

実験研究は、アンケート調査のみの研究と比べ、実際の購買状況に近い環境を再現できるという利点があります。その一方で、会場運営や物品準備、論文出版費用など、一定のコストがかかります。本論文の出版にも約10万円の費用を要しました。今後も実態に即した消費者研究を継続していくために、皆さまのご支援が大きな力となります。引き続き温かいご支援を賜れますと幸いです。

本稿では研究の背景と主な結果をご紹介しました。より詳しい内容にご関心をお持ちの方は、下記の論文本文(英語)およびプレスリリース(日本語)もあわせてご覧いただければ幸いです。

<関連情報>
論文情報:Uotani, K., Yagi, N. & Sakai, Y. The effect of a producer’s photo on the value of MSC-certified seafood. Fish Sci 92, 245–255 (2026).
https://doi.org/10.1007/s12562-025-01937-8
プレスリリース:顔が見える水産物を高く評価するのは日本人ならでは?
〜生産者の顔写真がMSC認証水産物の価値に与える影響〜

生産者の写真及び試食実験サンプルを利用させていただいた生産者様:株式会社臼福本店 臼井壯太朗 様

2025年活動報告
-挑戦と成果の1年-

2026年02月10日(火)

はじめに
 2025年も、多くの皆様のご支援に支えられ、研究活動を大きく前進させることができました。とりわけ、大型研究費の獲得、新たな調査フィールドの開拓、新しい研究手法の確立など、重要な成果を挙げることができた一年でした。本報告では、この1年間の主要な活動と成果についてご紹介します。

大型研究費の獲得
 2025年10月より国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業に採択されました。研究テーマは「文化的差異を加味した新たな漁業管理理論の構築と実証(研究代表者:阪井裕太郎)」です。国や地域によって文化の違いというものが存在します。これにより、同じ政策がある国ではうまくいくけれども他の国ではうまくいかないといったことが生じます。有効な政策の策定や実施には、各地の文化的背景に沿うような調整が必要です。この原則は漁業においても同じなのではないか。本研究の着眼点はここです。国や地域ごとの漁業者の文化的価値観の違いを定量化し、漁業管理に組み込むという壮大なテーマに挑みます(写真1)。

写真1プレスリリース.png

写真1:研究科プレスリリース画面

新たな調査フィールド:福井県&北海道斜里町
 2025年から、福井県および北海道斜里町で新たに研究を開始しています。福井県では、福井県水産試験場および福井県立大学との共同研究の枠組みのもと、漁業者の価値観や文化を測定する研究に着手しました。一般の方を対象に価値観・文化を測定する試みは世界各地で数多く行われていますが、漁業者を対象とした研究は国際的にも例がほとんどありません。背景には、「実験へ協力していただけるだけの信頼関係を漁業者と築くこと自体が容易ではない」という事情があると考えられます。当研究室では、現場に繰り返し足を運び、自分の目で状況を確認し、漁業関係者の声に丁寧に耳を傾けることを研究の大前提としています。こうした地道な積み重ねがあるからこそ、漁業者の価値観を測るという世界最先端の取り組みを実現できていると言えます(写真2)。

 北海道斜里町では、日本事務器株式会社との共同研究の枠組みのもと、同社が提供する情報共有アプリ「+Rec.」が定置網漁業の経営に与える効果検証を開始しました。あらゆる産業と同様に、水産業においてもデジタル化による生産性向上は喫緊の課題です。特に、沿岸漁業の要である定置網漁業の経営改善は我が国の漁業にとって優先的に取り組むべき課題と言えます。本研究では、どのようなデジタル技術が、どのような条件下で効果を発揮するのかを明らかにし、スマート水産業政策に資する実証的な知見を提供することを目指しています(写真3)。

写真2.jpg
写真2:福井県での実験の様子
写真3.png
写真3:北海道斜里町でのヒアリングの様子

新しい研究手法の開拓:oTreeを用いた経済実験
 2025年には「oTreeを用いた経済実験」を初めて実施しました。簡単に言えば、コンピューター上にゲームを構築し、実験参加者にプレイしてもらう形式の実験です。たとえば、水産資源を皆で共有している状況を想定し、参加者には漁業者として意思決定を行ってもらいます。参加者は、いくつの網を仕掛けるかを選びます。網を多く仕掛ければ当年の漁獲量は増えますが、全員が同じ行動を取ると乱獲に陥り、翌年以降に資源が減少してしまいます。こうした状況をゲーム内で再現することで、「どのようなルールを導入すれば水産資源を持続的に利用できるか」という問いを、実験的に検証できるようになります。

 これまで私たちの研究は、現場で話を伺い、現場のデータを分析するというスタイルが中心でした。このアプローチは、過去に現場で起きたことを評価するうえでは有効ですが、「もしこうしたらどうなるか」という将来に関する問いに答えることは得意ではありません。そこで、経済実験という手法も組み合わせながら、政策や制度設計の可能性を検討する必要が出てきました。例えば昨年はゴーストギア(遺失した漁具が資源や生態系にダメージを与え続ける現象)の予防策として複数の政策の効果を比較検証しました(写真4)。

 もっとも、新しい手法を習得するのは簡単ではありません。昨年は2回実験を行いましたが、1回目は大きく躓きました。最初のセッションではプログラムが想定どおりに動かず、せっかく集まってくださった参加者の皆様に、開始10分でお帰りいただくことになってしまいました。それでも、手法にこだわっていては必要な研究を進められません。試行錯誤は大変でしたが、研究手法の幅を広げられたことは、大きな一歩だったと考えています。実験に参加してくださった皆様には感謝申し上げます。

写真4.png

写真4:oTreeの操作画面

トップジャーナル掲載論文への反証
 2025年も、重要で興味深い消費者研究に取り組みました。テーマは、「周囲からの視線」によって人の食選択が変わりうるのか、という検証です。環境に配慮した行動は、周りの人に見られているかどうかによって変化し得ることが知られています。たとえば、見られている場面ではごみの分別に気を配ったり、節電に努めたりするといった具合です。一方で、食選択についても同様の効果が生じるのかについては、まだコンセンサスが得られていません。2023年に環境経済学のトップジャーナルであるJournal of Environmental Economics and Managementに掲載された研究では、他者の視線があっても環境に優しい食品が選ばれるとは限らない、という実験結果が報告されています。私たちはこの研究の実験デザインに課題があると考え、新たな実験によって再検証を行いました。詳細は論文の刊行後に改めてご報告しますが、既存研究の結論を覆し得る結果を得たと考えています(写真5)。

写真5.png

写真5:実験で使用したサバサンドイッチの写真

若手研究者の成長:国内外での受賞
 2025年は、国内外で当研究室の活動が表彰を受けた年でもありました。皆様のご支援のおかげで、若手研究者が着実に育っております。

 3月に米国サンディエゴで開催された北米漁業経済学会では、博士課程1年の志賀智寛君が学生ポスター賞を受賞しました(写真6)。水産経済分野の最高峰の学会に初参加で、いきなりの受賞となりました。ポスターのデザインが圧倒的によかった&質疑応答もしっかりこなした、と高く評価されました。当研究室では発表の技術を非常に重視していますが、その技術が世界で通用することが示されたと言えます。なお、この学会への参加費は、皆様のご支援なしには賄うことができませんでした。深くお礼申し上げます。

 9月に武蔵大学で開催された環境経済・政策学会では、修士1年の桑野竜乃介君がBest Speed Talk賞を受賞しました(写真7)。多くの博士課程学生が参加する中での受賞であり、大きな快挙と言えます。桑野君の研究は、中型まき網漁業へのICT機器「ISANA」導入効果の検証です。スマート水産業政策に資する知見として、発表だけでなく研究内容自体も高く評価されたものと考えています。また私自身も、同学会より奨励賞をいただきました。「Sakai, Y., Tada, T., Nomura, T., & Yagi, N. (2024). The Welfare Value of Freshness: A Hedonic Price Analysis in the Retail Seafood Market in Japan. Marine Resource Economics, 39(1), 21-38.」という論文が高く評価されたものです。

 さらに2026年1月には、LCA日本フォーラム表彰において、博士課程1年の田衆和君の研究成果が奨励賞を受賞しました。題目は「真珠養殖カゴの循環型で持続可能なリサイクルスキームの構築とCO2削減プロジェクト」です。昨年度、真珠輸出組合からの依頼を受け、阪和興業株式会社の協力を得て実施した分析を取りまとめたものです。LCA日本フォーラムは2004年に発足した表彰制度で、ライフサイクルアセスメント(LCA)に関わる産業界・学界・国立研究機関の関係者が集うプラットフォームとして機能しています。当研究室の取り組みはアカデミアにとどまらず、より幅広い領域へとインパクトを広げつつあります。

写真6.jpg
写真6:北米漁業経済学会の学生ポスター賞
写真7.jpg
写真7:環境経済・政策学会のベストSpeed Talk賞

まとめ
 2025年は、新しいことに多くチャレンジし、研究の活動の幅を大きく広げることができた1年でした。これもひとえに、皆様の温かいご支援のおかげです。2026年も、さらなる研究の発展と社会実装を目指し、引き続き尽力してまいります。今後ともご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。

福井県越前町における小型底曳網漁テスト操業への同乗調査報告

2026年01月13日(火)

PJ画像7
荷捌き場の見学

はじめまして。学部4年の大道麻優子と申します。私は、福井県における小型底曳網漁業者の操業行動や資源管理意識について研究しています。持続可能な漁業を実現するためには漁業者の考え方や判断の仕組みを理解することが不可欠で、この研究は有効な漁業管理方策を検討するうえでの基礎資料となります。

その一環として、10月31日に福井県越前町で行われた、越前ガニ漁解禁前の小型底曳網漁のテスト操業(綱延ばし)に同乗しました。今回お世話になった第三昭栄丸(14トン、小型底曳網漁船)は、越前町小型底曳組合に所属しています。小型底曳網漁は、海底近くを大きな網で曳いてカニや底魚を漁獲する漁法です。越前ガニ漁解禁直前の綱延ばしでは、実際に海へ出て網の調整や漁具の状態確認、安全な操業ができるかどうかを確かめています。

当日の調査は、朝の市場見学から始まりました。第三昭栄丸は直前の操業で甘エビ(ホッコクアカエビ)やガサエビを漁獲して帰港したところで、水揚げや選別の作業が進められていました。こうした日々の水揚げが地域の食と生業を支えていることを改めて実感する場面でした。

写真2.jpg

第三昭栄丸の水揚げの様子


その後、船の準備が整い、午前9時ごろ出港しました。およそ1時間かけて沖合へ向かい、到着後に浮標(ブイ)を投入して網を繰り出します。網が海底近くまで沈むと、船は速度を落としておよそ1時間かけて海底に沿って網を曳いていきます。曳網中には、船員の方々が船内で休息をとっており、長時間操業の体力管理や作業配分の工夫を垣間見ることができました。十分に網を曳いた後、船長の合図とともに巻き取りが始まります。大型のウインチ(巻揚機)を用いてロープが順に引き上げられ、やがて海面に網が姿を現しました。その周囲にはカモメが集まり、海底での営みが一気に水上に現れる迫力を感じました。網から取り出された漁獲物は、スルメイカ、ユメカサゴ、アカムツ(ノドグロ)、アカガレイ、ソウハチガレイ、アンコウなど多様で、テスト操業であっても底曳網漁がさまざまな魚種を対象としていることがうかがえました。

写真3.jpg
ブイの投入
写真4.jpg
ウインチでロープを引き上げる

揚網後はすぐに魚種ごとの選別作業が始まりました。大きさや種類ごとにかごへ仕分ける一方で、小型魚を海へ戻す場面も多く見られました。こうした対応は、資源管理が現場レベルで日常的に実践されていることを示していると感じました。選別と甲板の洗浄が終わると港へ向けて帰航し、出港からおよそ3時間で一連の操業が終了しました。全体の流れを通して、一つひとつの工程に明確な役割があり、効率性と安全性、そして資源への配慮が両立されていると感じました。

写真5.jpg
揚網の様子
写真6.jpg
選別の様子

今回の同乗調査では、漁具の操作や乗組員の方々の連携、船内の様子など、文献だけでは把握しきれない現場の視点を学ぶことができました。作業の合間には乗組員さんに漁業とのかかわり方なども伺うことができ、漁業者の選好や協調行動を理解するうえで重要な示唆となりました。現場で得られたこれらの一次情報は、将来的な漁業管理の検討に役立てていくうえで大きな糧になると感じています。

本調査は、皆さまからの温かいご支援により実施することができました。ご協力いただいた第三昭栄丸の皆さま、越前町小型底曳組合、福井県水産試験場の皆さまに厚く御礼申し上げます。引き続き現場の声を研究に反映し、漁業の持続的な発展に貢献できるよう努めてまいりますので、今後とも何とぞよろしくお願い申し上げます。

石川県に定置網の調査に行ってきました(第4回報告)

2025年12月23日(火)

PJ画像8
同行した定置網漁業の様子

皆さまこんにちは。修士1年の小髙慎太朗です。私は学部4年の頃より、太平洋クロマグロに対して導入された漁獲可能量の融通制度が、定置網漁業の現場にどのような影響を与えているのかをテーマに研究を続けています。

今回ご報告する出張は、主に同じ研究室の修士2年・魚谷によるクロマグロの放流・漁獲枠消化に関する意識調査と、博士1年・志賀による定置網魚探の導入に対する意識・活用実態の調査を目的として実施した現地調査です。私はその一員として石川県の定置網漁業の現場を訪れ、総会への参加や乗船見学、漁業者の方々へのヒアリングに同行しました。

本プロジェクトでは、これまでにも石川県での調査について3回の出張報告を掲載しており、今回の報告はその続編にあたります。まだお読みでない方は、ぜひ過去の報告もあわせてご覧いただき、現地調査の積み重ねと研究の広がりを感じていただけましたら幸いです。(第1回報告第2回報告第3回報告

出張初日は、石川県内の定置網漁業者の方々が一堂に会する総会に参加しました。会場では、博士1年の志賀と修士2年の魚谷から、それぞれクロマグロの放流・漁獲枠消化に関するアンケートと、定置網魚探の導入・活用に関するアンケートの趣旨説明と協力のお願いを行いました。アンケートには協力的な漁業者の方が多く、一部の設問については「もう少し聞き方を工夫した方がよいのでは」といった率直なご意見もいただき、研究の側からの前提と現場の感覚のずれを見直す良いきっかけとなりました。

写真2.jpg

船上でのヒアリングの様

翌早朝には、操業に同行し、定置網漁業の現場を見学しました。今回乗船した定置網は、これまで私が見てきた中でもとくに大規模なもので、魚を囲い込む網の広さや揚げ網のスケールに圧倒されました(記事最上部の写真)。網を少しずつ手繰り寄せていく作業にも一部加わらせていただき、乗組員の方々が息を合わせて作業を進める様子を間近で見ることができました。

操業の合間や帰港後には、船上や事務所でヒアリングの時間もいただき、クロマグロが実際に入網したときの放流・水揚げの考え方や、定置魚探の情報をどのように操業判断に生かしているのかについて貴重なお話を伺うことができました。
 

写真3.jpg

ヒアリング会場となった漁協支所

操業を終えたあとは、別の漁業者の方にヒアリングを実施しました。たくさんのお話を伺った中で、特に印象に残った話が二つあります。一つ目は、朝に同行した定置網に取り付けられていた「金庫網」と呼ばれる設備に関してです。金庫網は箱網(通常の操業で揚げる網)の先に設置する小さな網で、石川県では主にブリを一時的に生かしておき、出荷のタイミングを調整するために利用されています。ブリは比較的丈夫な魚であるため金庫網の中で活かしておくことができますが、クロマグロやサワラのような擦れに弱い魚種は、狭い空間に入ると傷ついてすぐに死んでしまうそうです。クロマグロの来遊は不安定で、一度にまとまって入網することがある一方で、次も同じように入るとは限りません。こうした状況では、まとめて揚げれば価格は下がってしまうかもしれないが、次のチャンスがあるとは限らないという難しい局面に向き合わざるを得ず、限られた漁獲枠の中で判断を下していくことの重さを改めて考えさせられました。

二つ目は、定置魚探についてです。この話題についても、率直なご意見をいただきました。魚探を導入すれば、魚群の接近状況を把握しやすくなり、操業や出荷の判断材料が増える一方で、「常に魚探の反応を気にしなければならず、従業員の拘束時間が長くなってしまうのではないか」という懸念も示されました。とくに若い世代ほど、休み方や私生活との両立を重視する傾向がある中で、働き方も変えていかなければ人が集まりにくいのではないか、という問題意識が印象的でした。操業効率だけでなく、次の担い手にとって魅力ある職場であり続けられるかどうかという観点も含めて、漁業と技術の関わり方を考える必要があると感じました。

今回の出張では、これまでのヒアリングやデータ分析で得てきた知見を踏まえつつ、クロマグロの資源管理制度や定置魚探が、日々の操業判断や働き方の悩みとどのように結びついているのかを、より高い解像度で捉え直す機会となりました。このように継続的に現場に入り込み、漁業者の方々から率直なお話を伺いながら研究を深めていけるのは、日頃から本プロジェクトや研究室の活動を支えてくださっている皆さまのお力添えがあってこそです。現地で得られた学びを少しでも社会に還元できるよう、今後も調査・研究を重ねていきたいと思います。

弊研究室では、昨年度に引き続き、石川県以外にも様々なフィールドを舞台とした研究を行っておりますので、今後も皆さまの暖かいご支援を賜ることができましたら、大変幸甚に存じます。何卒よろしくお願いいたします。

北海道の斜里町に調査に行ってきました(第2回報告)

2025年11月26日(水)

PJ画像9

はじめまして、修士2年の樋詰萌華と申します。私は、水産業のデジタル化が漁業に与える影響についての研究を、日本事務器株式会社様および斜里第一漁業協同組合様と共同で進めております。

今回は、その現地調査のために北海道斜里町へ出張いたしましたので、ご報告させていただきます。今年7月にも、弊研究室の修士1年・牛島より北海道出張の様子を報告いたしましたが、今回はその続編となります。

MarineManager +reC.とは
MarineManager +reC. は、日本事務器株式会社が開発した漁業支援アプリで、日々の漁の記録や海水温・潮流といった環境データを手軽に入力・共有できるツールです。 漁師の「勘と経験」をデジタルで支え、過去の漁獲や海況を振り返ることで、次の操業判断に活かすことを目的としています。

定置網漁への同乗調査
今回の調査では、秋鮭漁において +reC. がどのように使われているのかを明らかにするため、斜里第一漁協所属の北龍丸さんと北洋丸さんの定置網漁の船に同乗させていただきました。

夜明け前に出港し、沖合で巨大な定置網を引き上げる様子はまさに圧巻で、漁師の方々の熟練した連携と体力に圧倒されました。

写真2.png北洋丸さんに同乗させていただいた際の様子

船上では、漁師さんが携帯を操作し、ブイの情報や前日の漁獲データを確認しながら操業判断を行っていました。漁の最中には漁獲量などをその場でアプリに入力し、組合全体で共有することで、次の操業や他船の判断にも役立てているとのことでした。

地球温暖化による水温上昇の影響で、近年は鮭の回帰時期や漁獲量に変動が生じており、データをもとにした柔軟な判断の重要性が一層高まっています。さらに、同じく水温上昇の影響でクラゲの発生が増加しており、網の中に大量に入り込むことで漁の効率を下げたり、鮭の選別作業に支障をきたすなど、新たな課題となっています。こうした環境変化の中で、漁業者は経験とデータの両面から漁の最適化を模索しています。

写真3.jpg

魚とクラゲの選別をしている様子

また、斜里第一漁協では、鮭のブランド価値を高めるため、船上での「活じめ(活魚の締め処理)」を徹底しており、品質向上へのこだわりが印象的でした。

競りの見学
漁港の競りの現場も見学させていただきました。鮭は漁獲直後に選別・等級分けされ、色合いやサイズなどによって価格が決まります。等級ごとに異なる値付けのプロセスを目の前で見ることで、漁師の努力が市場でどのように評価されるかを実感しました。

こうした現場での観察を通じて、デジタルツールの導入が漁獲から流通までの効率化や透明性の向上に寄与していることを学びました。

写真4a.jpg

水揚げされた鮭

現地に足を運び、漁師の方々の声を直接伺うことで、デジタル技術がどのように現場の判断や地域の協働を支えているのかを肌で感じることができました。こうした調査を通じて得られる気づきや学びは、机上の研究では得られない貴重なものです。今後もデータ分析と現場観察の両面から、水産業の持続可能な発展に貢献できるよう研究を続けてまいります。

国際水産開発学研究室の研究の進展は、皆さまからの温かいご支援のおかげで成り立っております。 改めて心より感謝申し上げますとともに、今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

ホームカミングデーで鮮度測定体験コーナーを出展しました

2025年10月23日(木)

はじめまして、修士2年の河本誠一です。私は学部4年生の時から国際水産開発学研究室に所属しており、漁船GPSデータや漁獲量/漁獲金額の公開データの分析を行っています。今回は、弊研究室が参加させていただいた東京大学ホームカミングデー2025での活動報告と御礼をさせていただきます。

10/18(土)に本郷キャンパスにて、東京大学ホームカミングデー2025が開催され、たくさんの方にご来場いただくことができました。弊研究室は「東大の未来を応援!トークテントで現役学生と話してみませんか?」の企画に参加し、13:10〜14:30の時間帯で来場者の皆様と交流させていただきました。

写真1.jpg

トークテント参加メンバー

当日は、1週間前に締めた真鯛と前日に締めた真鯛を見た目で比較いただいたのち、Fish Analyzerを用いて、鮮度を定量的に測定する実験を体験いただきました。Fish Analyzerは、水産現場での活用を想定した携帯型機器で、魚体を傷つけずに短時間で鮮度や脂肪含量を評価できます。弊研究室でも刺身の試食実験や締め方による鮮度変化を比較する実験等で日常的に使用しており、今回来場者の皆様にも体験していただくことで、私たちが行っている研究に親しみを持っていただけたのではないかと考えております。

写真2.jpg

Fish Analyzerを用いた鮮度測定の体験

「魚を買ってみたら期待したほど美味しくなかった」という経験はないでしょうか。天然のお魚はそもそも品質にばらつきがあります。その上、お魚は生鮮流通が多く、鮮度低下に伴って味が大きく変化します。鮮度などの品質が消費者から判別できないと、「買ってみたら美味しくなかった」という結果になってしまいます。そこで、Fish Analyzerのような機械で品質を客観的に測定・表示することで、消費者の不安をやわらげれば、魚食拡大につながるのではないか、というのが当研究室の研究テーマの一つになっています。

弊研究室のトークテントにお越しくださった皆様、ありがとうございました。こういった機会を通して、少しでも水産業や水産に関する研究に興味を持っていただけますと嬉しいです。

また、日頃から弊研究室の活動にご協力いただいている関係者の皆様、寄付者の皆様にも、この場を借りて改めて御礼申し上げます。今後とも弊研究室をよろしくお願いいたします。

富戸定置網乗船・セリ見学報告

2025年09月02日(火)

皆さま初めまして。学部4年の圓林悟です。私は2025年4月より国際水産開発学研究室(LGFS)に配属され、漁業資源管理に関する研究に取り組んでいます。今回、静岡県伊東市・城ケ崎海岸の富戸定置網に乗船する機会を得ました。本報告は乗船および競り見学の記録であると同時に、資源管理の現場実態を理解する一助となることを願い記したものです。関連研究の一端としてお読みいただければ幸いです。

画像1.png

定置網漁船にて

私たちは8月18日午前2時ごろに富戸漁港に到着し、午前4時半頃に出港する漁船に同乗させていただきました。漁では様々な魚を見ることができました。網の表層を漂っていたソデイカやスルメイカは玉網を用いて別途漁獲されたり、大型のクエ1尾が生け簀に収容されたりするなど、種類に応じて様々な対応がされている様子を確認しました。他の漁獲物は氷で野締めされ、メジ(クロマグロの幼魚)の姿も見られました。そのほか、マアジ、ムロアジ、オアカムロの3種のアジ類をはじめ、多様な魚が揚がりました。網内の魚がすべて船に移されたのち、午前5時半ごろに漁港に戻りました。

画像2.png

水揚げの様子

帰港後は魚の仕分け作業を見学しました。地元の方々は欲しい魚を自らバケツに入れ、量り売りで購入していました。我々も一部の魚を分けていただき、氷と海水をクーラーボックスに入れて冷やしました。午前6時ごろ富戸漁港を出発し、その後はいとう漁協にて競りを見学しました。

競りでは、富戸のアジ類を中心とする魚種に加え、他の定置網から揚がったイナダやイサキ、さらには釣り漁獲のクロムツやオナガダイ、メダイなど10kg級の魚も出されていました。魚は大きいサイズから順に競りにかけられ、箱ごとに重さを記した紙が貼られていました。業者は事前に魚を見定め、競りは非常に速いテンポで進行します。単価の高いクエやイシガキダイ、メイチダイなどは活かした状態で出荷されていました。

画像3.png

市場の様子

漁協の方のお話によると、定置網では40〜50種、多い時には100種以上の魚が漁獲されますが、競りにかけられるのは重量ベースでおよそ4割に過ぎず、残りは代引き(小型魚や市場で重要性の低い魚をまとめて箱単位で取引する方法)などに振り分けられるそうです。業者によっては注文に応じて多少高値でも購入する必要があり、価格が吊り上がる場合もあるとのこと。

また、8月上旬に数日間南西風が吹いた影響で、黒潮が沖合に蛇行し沿岸湧昇が発生し、水温が26℃から21℃程度に急変したとのことです。それに伴い、漁獲される魚種構成も変化すると伺いました。定置網は魚道に仕掛けられた大規模な受動的漁法であるため資源に比較的やさしいとされますが、同時に自然環境の変動に大きく左右される漁法であることを実感しました。

画像4.png

港からの景色

今回の見学を通じて、定置網漁業の仕組みとともに、漁獲から流通、そして市場での取引に至るまでの流れを総合的に把握することができました。富戸の定置網が明治時代から変わらぬ場所に設置されてきたことも含め、地域の漁業と環境の結びつきの深さを学ぶ機会となりました。現場での貴重な体験を今後の研究に生かしていきたいと考えております。ご協力くださった関係者の皆さまに心より御礼申し上げます。

石川県に定置網の調査に行ってきました(第3回報告)

2025年07月31日(木)

PJ画像12
定地船乗船の様子

皆さま初めまして。学部4年の落合凜です。2025年4月より国際水産開発学研究室(LGFS)に配属され、漁業資源管理に関する研究に取り組んでいます。今回、初めて定置網に乗船する機会を得るとともに、現地ヒアリングを目的として石川県へ出張しました。本報告は乗船体験の記録であると同時に、修士2年の魚谷が進めているクロマグロのIQ(個別割当方式)枠の融通に関する研究とも関わりのある内容です。関連研究の一端としてお読みいただければ幸いです。

乗船日は午前2時に出航し、2か所に設置された網を順に揚げました。2隻の船が向かい合いながら息を合わせて網を絞り込み、魚を追い込む作業は迫力がありました。途中、網が絡まるハプニングもありましたが、乗組員のみなさんの迅速な対応で無事に揚網作業が完了しました。

揚がった魚はアジ、サバ、タイ類など多種にわたり、活気ある水揚げの現場に圧倒されました。日によっては100kg級のクロマグロが入ることもあるとのことで、釣りで一尾ずつ魚を扱ってきた自分にとってはスケールの大きさが衝撃的でした。
 

写真4.jpg

水揚されたサバ

漁後には魚種別の仕分け・選別作業も見学させていただきました。流れるような手際と段取りの良さは、現場経験の重要性を実感させられるものでした。この日は七尾市の市場が休市であったため、金沢までトラック輸送される流れも併せて確認することができました。操業から陸揚げ、仕分け、輸送までの一連のサプライチェーンを現地で通しで見学できたことは大変貴重でした。ご協力くださった定置網漁業関係者の皆さまに心より感謝申し上げます。

乗船後、漁業者の方々にヒアリングを実施しました。内容は、修士1年の小高による第2回報告に続く形で、クロマグロが混獲された際の水揚げ/放流判断の基準を中心に伺いました。
 

写真2.jpeg

事務所内でのヒアリング

お話によると、クロマグロが意図せず混獲されるケースは少なくないとのことでした。その際、水揚げするか放流するかの意思決定は、

当日の市場価格・見込み価格、
その時点で残っているIQ枠(個別割当量)の残量、
今後の漁期中に見込まれる漁獲状況(経験に基づく判断)
などを総合的に考慮して決めることが多いそうです。

「資源を守りながら収益も確保する」ことは、実務上容易ではありません。それでも現場の漁業者の方々は、定められたルールを踏まえて操業し、地域として持続可能な漁業を目指して工夫を重ねています。研究者の立場から、こうした現場の知恵や制約条件を正しく理解し、資源評価や制度設計の改善に少しでも貢献したいと改めて強く感じました。
 

写真3.jpg

今回のヒアリングメンバー

私たちLGFSでは、石川県をはじめ全国各地の漁業現場と連携し、データ分析にとどまらず現場実態を反映した研究を進めることを重視しています。継続的に質の高い研究を行うためには、現地調査の受け入れやデータ提供など、皆さまのお力添えが不可欠です。引き続きご指導・ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

北海道の斜里町・網走市・サロマ湖に調査に行ってきました

2025年07月23日(水)

PJ画像13
同乗させていただいた斜里第一漁協北洋丸さんの船

皆様、初めまして。修士1年の牛島明音と申します。

私たちの研究室では、新技術を活用した効率的な水産業「スマート水産業」や「漁業の協業化」の研究にも取り組んでおります。今回は、それらの研究の一環として、現場の課題や導入効果を理解するため、日本事務器株式会社様とともに北海道の斜里町、網走市、そしてサロマ湖へ出張調査を行いましたのでその報告をさせていただきます。

はじめに、スマート漁業の一例として日本事務器株式会社様の提供する「+reC.(プラスレック)」というアプリを紹介します。漁業では、水揚げ量や網の位置などの様々なデータが各地域で収集されています。その共有方法は様々で、電話で行っているものからITを用いているものもあります。スマホアプリ「+reC.」は、漁業者さんたちが情報の共有と記録をアプリ上で行うことにより、記録やその蓄積を容易にし、日々の漁業活動の効率性の向上、漁協内での連携強化などが期待されています。

画像3.png

+reC.の活用イメージ(出典:日本事務器株式会社HPより切り抜き)

今回はその効果を検証する研究を想定し、現地でお話を伺うことで使用状況を知るために、まず斜里町の斜里第一漁協に伺いました。こちらでは、+reC.を3年前から全ての漁業経営体に導入しており、情報共有の迅速化や記録の電子化に取り組まれています。私自身、導入の効果として、当初は情報共有による漁獲効率の向上を想定していました。しかし、実際にお話を伺うと、それに加え、入港前に荷捌きの準備が可能になることや、仲買業者への情報共有の迅速化など、入港時間が遅い斜里町特有の利点を多く実感されていることがわかりました。これは、斜里町に行き、お時間をとっていただいてお話できたからこそわかったことだと思います。

画像4.png

斜里第一漁協でのヒアリングの様子

また、2日目の朝には、斜里第一漁協の北洋丸さんのご厚意でます定置網漁の船に同乗させていただき、競りの現場も見学させていただきました。それにより現場の状況をイメージしやすくなりました。北洋丸さんは、鮭やますのブランド化や広報にも力を入れていらっしゃり、胃洗浄や活締めといった徹底されたこだわりがとても勉強になりました。

画像5.png

斜里第一漁協北洋丸さんに同乗させていただいた際の様子

続いて訪れた網走市では、漁協全体での協業化という全く異なる取組を学ぶことができました。網走漁業協同組合では、30年以上前から定置網漁において、船や網、燃料などの資源を共有し、プール制を用いた独自の評価制度による利益配分が行われています。私たちは、協業化の実際の仕組みや効果に興味を持っていました。今回お話を伺ったことで、漁獲効率の向上、漁業者の収入増加などに加え、若手人材の増加や、トラブル対応力の強化、資源管理のしやすさなど、多面的な効果を実感されているとわかりました。特に、朝に発生した網の破損を、80名もの漁協内の人が協力して修理をし、その日の夜には網を入れられたというエピソードは、協業の力を如実に物語っており印象的でした。

画像6.png

ヒアリングさせていただいた網走漁業協同組合様の事務所

最終日に訪問したサロマ湖では、養殖分野でのスマート水産業の事例を拝見しました。お話を伺ったサロマ湖養殖漁業協同組合では、3年前からホタテの養殖に+reC.を導入しており、水温や塩分等の環境データ、漁獲情報がデジタル化されリアルタイムで可視化されていました。事務所のモニターには環境詳細なグラフが常に表示されており、現場での情報活用と共有に対して高い意欲を持っていらっしゃることが伝わってきました。

画像7.png

ヒアリングさせていただいサロマ湖養殖漁業協同組合の調査研究センター

このように、今回の北海道調査では、それぞれの地域で経営効率の向上や、情報共有のために様々な工夫がなされている様子や効果の実感を直接お聞きしました。漁協や漁業者の皆様との会話の中で、情報からの推測だけでは捉えきれなかった、地域ごとの背景や現場の実情・思いを肌で感じることができました。今後の研究においてデータの解釈や分析を行う上で、重要な視点を得られた非常に有益な調査となりました。

私たちの研究室では、今後もこのように様々なフィールドに足を運び、現場の実態を踏まえた実証的な研究を心がけてまいります。引き続き、皆様の温かいご支援を賜ることができましたら、誠に幸いに存じます。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

続編「北海道の斜里町に調査に行ってきました(第2回報告)」もご覧ください

石川県に定置網の調査に行ってきました(第2回報告)

2025年06月24日(火)

PJ画像14
定置網乗船見学にて

皆さま初めまして、修士1年の小髙慎太朗です。私は学部4年時より、クロマグロに関する資源管理導入の効果について、特に石川県の事例を対象とした研究に取り組んでいます。

今回はその調査のため、石川県へ出張に行って参りましたのでその報告をさせていただきたいと思います。昨年度11月にも石川県出張について、弊研究室修士2年の魚谷から報告させていただきましたので、今回はその続きと思って読んでいただけますと幸いです。

今回の調査の内容に入る前に、研究の背景にある課題について少し説明させてください。

画像2.jpg

太平洋クロマグロの親魚資源量の推移
(出典:水産庁「太平洋クロマグロの資源管理について」

ニュースなどで目にしたことがある方もいるかも知れませんが、近年クロマグロが獲れすぎることによって漁業者は苦しめられているのです。他の多くの資源では、過剰利用による枯渇が問題となっている中、逆に過剰であることが問題となっているというのは違和感があるかもしれません。実は、かつてはクロマグロも他の資源と同様に枯渇が問題であったのですが、その後導入された国際的な漁獲制限によって急激な回復を遂げたのです。

しかし、再び乱獲により資源状況が悪化することへの懸念から漁獲制限はあまり緩和されていません。そのため、たくさん獲れるが獲ってはいけない、獲れた場合には海に返さなくてはいけないという問題が生じているのです。特にこの問題は能動的に魚種を選択して漁獲することができない定置網漁業では深刻です。石川県の定置網では冬季の寒ぶりが大きな収入源となっていますが、クロマグロのせいで全て放流せざるを得ない状況も起こっています。

この課題への改善策として導入されているのが、「各都道府県で制限されているクロマグロの漁獲量(=漁獲可能量)を余っているところから足りないところへ移せるようにする制度(=融通制度)」です。 私たちの研究では、この制度が果たしてどれほどの利益を生んでいるかということを調べています。
今回の出張では、実際の定置網漁業への同行を通じたクロマグロの入網・放流状況の調査と、ヒアリングを通じた制度の活用状況について調査しました。ヒアリングでは、漁獲可能量の残量と漁業者の行動の関係性についての新しい発見が得られました。

画像3.jpg

漁業者へのヒアリングにて

ヒアリング以前、私たちは漁獲可能量の残量と漁業者の行動について以下のように考えていました。
・漁獲可能量に余裕がある場合:積極的にクロマグロを水揚げする
・漁獲可能量が逼迫している場合:やむをえずクロマグロを放流する

しかし、今回のヒアリングを通じて、この関係は実際に存在するが、その程度には漁業者間で大きな乖離があることがわかりました。常に漁獲可能量の残量を把握し、どの時期に漁獲を行えば収益が最大化されるかを考え、放流と漁獲を調整しながら行う漁業者もいれば、網に入ったものは全て揚げると言う漁業者、逆によくわからないから全て放流してしまう漁業者など、漁業者ごとに決められた資源管理制度の中でどのような戦略を取るかには大きな違いがあるそうです。

この差を生み出している大きな要因の一つとして、一部の漁業者では親方(=会社の経営責任者)と船頭(=海での現場責任者)が分かれており、経営面と漁業面での連携が取れていないことが挙げられるといいます。漁獲金額を上げることを重視する親方と漁獲量を増やすことを重視する船頭の連携が取れなければ、定められた資源管理の枠組みの中で収益を上げるための行動が取られないのです。

融通制度の効果の分析の際には、こうした漁業者間での意識の違いとそれに応じた行動の違いについても考慮しなければ、正しい結果は得られないことがわかり、非常に有益なヒアリングとなりました。

私たちは、このような現地実施する調査やヒアリングを通じて、漁業の現場を正しく理解することで、データ分析のみによらない、現場の実情を反映した研究を行うことを心がけています。

弊研究室では、昨年度に引き続き、石川県以外にも様々なフィールドを舞台とした研究を行っておりますので、今後も皆さまの暖かいご支援を賜ることができましたら、大変幸甚に存じます。何卒よろしくお願いいたします。

三重県・愛媛県の真珠養殖場での現地調査

2025年04月02日(水)

PJ画像15

初めまして、修士2年のZhonghe Tianと申します。私は環境影響評価手法の一つであるLCA(ライフサイクルアセスメント)を活用し、環境に配慮した水産業のあり方を研究しています。今回は、三重県伊勢市および愛媛県宇和島市の真珠養殖場での現地調査についてご報告いたします。

この調査の目的は、真珠養殖における漁具の処分方法が環境に与える影響を評価し、持続可能な養殖手法を検討することです。特に、養殖カゴや設備のリサイクル実態と課題に焦点を当て、現地の養殖業者へのヒアリングや作業工程の見学を通じて、データを収集し、実践的な知見を得ることを目指しました。

■ LCAとは?
LCA (Life Cycle Assessment)は、製品やサービスが環境に与える影響を、原材料の採取から製造、使用、廃棄に至るまでの全過程で評価する手法です。この手法を用いることで、「どの段階で環境負荷が大きいのか」「リサイクルによってどれだけ負荷を軽減できるのか」を科学的に分析できます。私の研究では、LCAを活用して真珠養殖資材の環境負荷を数値化し、改善策を提案することを目指しています。

■ 調査の背景
真珠は豊かな自然環境があってこそ育まれる宝石であり、持続可能な環境保全が真珠業界にとって重要な課題です。伊勢市や宇和島市は日本を代表する真珠養殖地ですが、使用済みのカゴや網の廃棄・リサイクルが課題となっています。例えば、養殖カゴは鉄フレームとプラスチック製の網で構成されており、廃棄時の焼却や埋め立てが環境に与える負荷が懸念されています。

一方で、日本真珠輸出組合などが提唱する「カゴ to カゴ」というリサイクルコンセプトでは、廃棄カゴの鉄やプラスチックを再利用する取り組みが進められており、循環型社会やカーボンニュートラルへの貢献が期待されています。

■ 現地調査の様子

写真2.jpg

写真2:伊勢市の養殖場にて(撮影:Zhonghe)

伊勢市では、カゴが海中で使用される様子や廃棄に至るまでの状態を観察しました。これにより、データだけでは見えない現実の状況を把握することができました。例えば、カゴの劣化具合や海中での管理方法など、LCAの評価精度を高めるための貴重な情報を得ることができました。

写真3.jpg

写真3:宇和島市の養殖場にて(撮影:Zhonghe)

宇和島市では、養殖業者へのインタビューと現場の見学を行いました。特に印象的だったのは、使用済みカゴのリサイクルに向けた取り組みです。多くの業者がカゴの再利用に努めており、漁網の修理を工夫することで廃棄量を減らし、環境負荷の低減に取り組んでいました。実際の作業風景からは、現場ならではの工夫や努力が感じられました。

■ 今後の展望
今回の調査を通じて、真珠養殖における環境負荷低減の可能性を具体的に捉えることができました。今後は、収集したデータを基にLCAによる定量的な評価を行い、持続可能な養殖手法を提案する予定です。また、私の研究室では真珠養殖に限らず、他の水産業にも同様の視点でアプローチし、環境負荷低減策を探っています。

研究をより深め、信頼性の高い成果を導くためには、皆様のご支援が不可欠です。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

福岡県の漁業者様にヒアリング調査を実施させていただきました

2025年03月31日(月)

皆さま初めまして、学部4年の桑野竜乃介でございます。船舶機器データを共有するシステムが漁獲効率に与える影響について研究しており、今回ヒアリング調査を実施した漁業者様にデータをご提供いただいております。

第一回の活動報告では石川県での定置網調査の様子をご紹介いたしましたが、今回は福岡県、まき網漁業者様へのヒアリング調査についてリポートいたします。弊研究室では「データ分析」という、統計学を主とした研究を主としていながらも、頻繁に現地調査を行っております。現地調査を行う目的は様々ですが、「データ分析で導かれた結論を説明するためには、データの裏側にある実態まで理解する必要がある」と私は考えております。

今回のヒアリング調査の目的は、私の研究に役立てるための情報収集でした。冒頭述べた私の研究を簡潔に表すと、「船舶で行うデータ収集を、複数の協力船舶間で共有可能にすることによって、漁獲効率を高めることができるのかを検証する」研究です。

写真1.jpg

写真1:訪問したまき網船団様の様子

漁業船舶は、魚を獲るために様々なデータを収集しています。ソナーのデータによって魚群を探知する他、潮流計によって潮の流れを観察することで網を張れるかどうかを判断するなど、海の様子を明らかにする機器は、漁業において必要不可欠なものです。一方で、「漁撈機器」と総称されるこのような機器は、船舶ごとに独立して管理されています。まき網漁業では複数の船舶が連携して漁を行うのですが、その間での情報共有は無線による限られたものであったため、うまく連携しきれない状況も多くみられます。そこで生まれたのが、株式会社ライトハウス開発の漁撈機器データ共有システム「ISANA」です。「ISANA」は、漁撈機器データの船舶間リアルタイム共有を可能にするシステムで、情報共有の量と質を向上させることによって、船舶間の連携を高め、漁獲効率の向上に寄与するとされています。そこで、実際にISANAを導入している福岡県のまき網船団様にご協力いただき、ISANAの効果を実地検証する運びとなりました。

写真2.png

写真2:ISANAの動作イメージ
(出典:株式会社ライトハウスHPより転載)

そんな研究において重要なのは、ISANAが「どのように」影響をもたらしたのかを理解することです。「ISANA導入前後で変化があったこと」は、統計ソフトで様々な計算をすれば簡単に示すことができます。しかしながら、真に理解するべきは、ISANAが影響をもたらしたメカニズムです。効果があったと数値で示されただけでは、ISANAが意図した通りに動作したことによって効果が出たことまでは証明できません。思わぬ形で作用していたり、はたまた全く別の原因によって効果が出ているように見えてしまっていたり、様々な「真実」が考えられます。ISANAが「あるべき形で」効果をもたらしていることを確かめるために、現地調査による実態把握が非常に重要なのです。

今回のヒアリング調査では、ISANAが実際に役立っているかどうか、そしてどのような場面で活躍しているのかをお聞きしました。簡単な事前分析の結果と、そこから想像されるメカニズムを漁業者様に共有したところ、「概ね体感と一致する」というご意見をいただくことができました。それだけでなく、まき網漁業における船舶の行動パターンや季節ごとの漁獲ターゲットなど、より詳細な分析をするうえで理解する必要のある情報もご提供いただいたため、今後の分析が楽しみになる調査となりました。予定していた漁への同行は天候不順により叶わなかったものの、非常に実りある訪問であったかと存じます。

写真3.jpg

写真3:漁撈機器の動作観察

このように、現地調査でしか得られない、漁業の実態に関する情報は、研究を進めるうえで不可欠です。弊研究室では、他にも様々なフィールドを舞台とした研究を行っており、現地調査に係る費用も安いものではありません。皆さまの暖かいご支援を賜ることができましたら、大変幸甚に存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

2024年活動報告
-躍進の一年-

2025年02月21日(金)

はじめに

2024年も、多くの皆様のご支援に支えられ、研究活動を大きく前進させることができました。特に、消費者研究、漁業管理研究、LCA研究の各分野で目覚ましい進展がありました。本報告では、この1年間の主要な活動と成果についてご紹介します。

消費者研究
2024年にはカーボンフットプリント(CFP)ラベルに関する大きな実験を2つと、鮮度表示に関する実証実験を1つ行うことができました。いずれも当研究始まって以来の規模や試みであり、大きな躍進であったと言えます。

CFPトラベルの価値

水産業の強みの一つとして、一般的に畜産業に比べてCO2排出量が少ないことが挙げられます。従って、CO2排出量・削減量の見える化は、水産物に対する消費者の需要を高められる可能性を秘めています。

このような背景から、2024年1月、約8,000人の参加者を対象にオンライン選択実験を実施しました。本実験では、CFPラベルのデザイン、位置、表示形式が消費者の支払意思額に与える影響を検証しました。この規模の実験は当研究室としては初であり、また先行研究でも多くはありません。この成果は2024年3月の日本水産学会で報告済みであり、本年中に出版予定です。

さらに2024年3月には約240人の参加者を募って対面でのリアル選択実験を行いました(写真1)。リアル選択実験は、参加者に実際に選んだものを購入してもらうという実験デザインであり、信頼性の高い結果が得られるものです。この実験ノウハウを有している研究室は日本全体でも数えるほどしかなく、水産分野では当研究室が日本で唯一となっています。この手法を用いて、CFPラベルに対する支払い意思額がどうすれば高まるのかについて、様々な介入の効果を検証しました。この結果は、本年3月の北米漁業経済学会にて報告予定です。

写真1.jpg

写真1 リアル選択実験の様子

鮮度表示と魚食の拡大

鮮度表示によって水産物消費が拡大するのではないかというのは、当研究室で掲げているオリジナルの仮説の1つです。鮮度を表示することで、品質に関する当たりハズレを減らすことが重要ではないかという予測です。この仮説を検証するために、2024年3-6月にマックスバリュ東海株式会社との店頭販売実験が実現しました(写真2)。民間企業との実証実験は当研究室初の試みです。当研究室の学術的な知見が現実世界からも注目され始めています。

写真2.jpg

写真2 鮮度販売実証実験の様子

漁業管理研究

水産資源を持続的に利用するためには、適切な管理が必要です。魚種数や漁業者数が非常に多い我が国において、どのような管理が最も有効なのかは未解明の課題です。2024年は、これまでの調査地域に加えて、新たに福岡県、石川県、福井県などでフィールド調査を行いました。当研究室の強みはデータ分析ですが、適切な分析を行うためには綿密な現地調査が必要不可欠です。

2024年6月には、研究室メンバー7名が石川県を訪問し、実際に船に乗って定置網漁の様子を視察しました(写真3)。調査では、クロマグロが大量に漁獲される様子を確認しました。定置網は我が国の主要な漁業種類の1つです。海に固定した網に入った多種多様な魚を獲る受動的な漁法であるため、魚種ごとの漁獲量制限(これが政府の推進している管理)との相性が極めて悪いです。当研究室では定置網の適切な管理を世界に先駆けて研究しています。

2024年9月には福岡県と長崎県の中型まき網漁業のフィールド調査を行いました(写真4)。まき網は我が国の中核的な漁法です。この漁法は複数の船で協力して漁獲を行う船団方式です。船団内での情報共有を円滑にすることが操業の効率化の鍵であると考えられ、それを可能にするのがライトハウス株式会社のISANAです。同社との共同研究により、この機器の効果検証を進めています。

2024年12月には福井県の底曳網漁業のフィールド調査に行きました(写真5)。日本海の底曳網漁業管理は我が国の漁業管理の成功事例とされています。ここをフィールドとすることで、我が国の地理的文化的背景を踏まえた有効な漁業管理のあり方が見えると考えています。福井県立大学や福井県水産試験場と連携し、2025年度から本格的な研究を始める計画です。

写真3.jpg
写真3 定置網漁業
写真4.jpg
写真4 まき網漁業
写真5.jpg
写真5 底曳網漁業

LCA研究

人間の経済活動に伴う環境負荷の大きさを測定するのがライフサイクルアセスメント(LCA)です。LCAにより、環境負荷を見える化したり、環境負荷が特に大きい活動を特定して対策を検討したりすることができます。2024年に当研究室は、業界団体との共同研究で新たに真珠養殖漁具のリサイクルに関するLCAを開始しました(写真6)。環境負荷を減らしていくことはあらゆる業界で求められており、水産業界も例外ではありません。当研究室では、学術的な研究だけではなく、業界のニーズに直接答えられるプロジェクトを積極的に展開しています。

写真6.jpg

写真6 真珠養殖の視察

国際展開

国際学会に参加することには3つのメリットがあります。自身の研究にフィードバックを得られること、最先端の研究に触れられること、一流研究者とのネットワークを作れること、です。2024年は皆様のご支援に支えられ、多くの学生が国際学会に参加することができました。

2024年6月3-7日には横浜で、PICES/ICESが主催する海洋社会生態システム(Marine Socio-Ecological Systems; MSEAS)シンポジウムが開催されました。当研究室からは私を含めて5名が参加しました(写真7)。

2024年7月15-19日にはマレーシアのペナン島において世界水産経済学会(The International Institute of Fisheries Economics & Trade; IIFET)が開催されました。当研究室とその共同研究者総勢6名のメンバーが発表しました(写真8)。

2024年9月9-12日にはイギリスのゲーツヘッドにおいてICESの2024年大会が開かれました。当研究室からは学生2名が参加しました(写真9)。

この他にも、日本水産学会や環境経済・政策学会などの国内学会にも精力的に参加した1年でした。世界と戦える研究を続けていくためには、このように積極的に学会に参加していくことが必要不可欠と考えています。

写真7.jpg
写真7 MSEAS
写真8.jpg
写真8 IIFET
写真9.jpg
写真9 ICES

まとめ

2024年は、オンライン・リアル選択実験を含む大規模な調査、企業との共同研究、新たなフィールドワーク、国際学会での発表など、多方面にわたる活動を展開した躍進の年でした。これもひとえに、皆様の温かいご支援のおかげです。

2025年も、さらなる研究の発展と社会実装を目指し、引き続き尽力してまいります。今後ともご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。

石川県に定置網の調査に行ってきました

2024年11月25日(月)

PJ画像18
定置網乗船見学にて

初めまして、修士1年の魚谷和史です。学部では水産物における消費者行動の研究、修士では定置網漁業の研究に取り組んでいます。

このプロジェクトにおける初めての活動報告ということで、ある種の緊張感を持ちながら活動報告を書いています。第一回の活動報告として、今回は先日石川県での現地調査に行った話についてご紹介させていただこうと思います。私たちの研究室では、この事例のほかにも漁業に関する研究を行っていますが、どの研究でも今回のように現地でのヒアリング調査を行っています。私たちの研究は手法としては統計学をベースにすることが多く、魚種ごとの漁獲量や金額などのデータをパソコン上で分析しさえすれば、数字を分析した結果自体は出すことができます。それなのに、今回のような現地調査を毎回行っているのはなぜなのでしょうか。この研究室の特徴でもある現地調査が私たちの研究にどのように役立っているかについて、先日の石川県での現地調査を取り上げてお話させてもらおうと思います。

画像1.jpg

今回乗船した漁船(撮影:魚谷)

まず今回の研究について説明します。今回の研究では、クロマグロの小型魚の漁獲枠(=1年間でクロマグロの小型魚を取ってもいい量)が増えると、定置網漁業を行う漁業者はクロマグロをわざわざ逃す必要がなくなり、負担が減るのではないか?ということの検証を行おうとしています。この背景には、近年クロマグロは資源回復を目指して、国際合意に基づき漁獲枠の管理を厳しく行っているという現状があります。

日本では日本全体として割り振られた漁獲枠を、水産庁が各漁業者に割り振っています。そのため、漁業者は1年間で自分に割り振られた漁獲枠を超えないようにクロマグロを獲る量をコントロールしています。しかし、その中でも定置網漁業は「獲らないようにする」ことが難しい漁業です。なぜなら、定置網漁業は魚を狙って追いかけるのではなく、固定された網に自然に入ってきた魚を獲る漁業だからです。そのため、定置網漁業ではクロマグロの小型魚が網に入っていた場合、他の魚を獲る前にクロマグロの小型魚を逃がすということをしています。漁獲枠があることで定置網漁業者はクロマグロを逃がすという作業が必要になるため、この漁獲枠が多くなれば定置網漁業者の負担が少なくなるのではないか、というのが今回の研究のポイントです。

画像2.png

定置網漁業の概略図(引用:ホクモウ株式会社)

この研究に際して現地調査が必要になる理由は、データや分析の結果を正しく理解するためです。例えば今回の事例では、クロマグロの放流をいつ、どのように行ったという記録をデータとして扱います。一見するとこのデータさえ見れば、分析ができるようにも思われますが、実際はそうではありません。例えば、クロマグロの小型魚は獲ることを禁止されているわけではないので、獲るか放流するかはどう判断しているのでしょうか。また放流する場合にも、具体的にはどのような作業をして、どれほどの負担になるのでしょうか。また、放流することで他の魚が逃げたりすることはあるのでしょうか。このように、データを見ているだけではわからないことはいくつもあり、それらを「多分こうだろう」という憶測で決めつけて分析を行うと、現実から離れた結果が出てきてしまいます。そのため、現地調査が必要になってくるのです。今回は11月14日から15日の1泊2日で能登島の漁師さんにヒアリング調査を行い、定置網漁業の船にも実際に乗船して漁獲の様子を見学させていただきました。石川県の定置網漁業は出船が早く、1:30に出船しました。現地調査の内容は現在進行形で取りまとめているところなので、調査の内容については次の報告で詳しく紹介させていただこうと思います。

画像3.jpg

ヒアリング先にて

このような現地調査により、私たちは漁業の現場を正しく理解でき、研究の信頼性を上げることができています。私たちの研究室では石川県の他にも多くの地域の漁業についての研究を行っており、今後も質の高い研究を継続的に行っていくには皆様のお力添えが必要です。何卒よろしくお願いします。

このプロジェクトに寄付をする

寄付目的・支援先を指定できます
お名前 日付 金額 コメント
******** 2025年08月02日 1,000円 日本の鮮度の良い魚、刺身は絶品、抜群なので

量産、増殖を

お願いします!! 

日本食の要、司令塔、日本食の特選、魚、水産業は世界1です。

(海外に行ったら分かります)
<国際水産研究教育基金>
******** 2025年04月08日 10,000円 この分野の明るい将来を是非切り拓いてください!
<国際水産研究教育基金>
******** 2024年12月21日 100,000円 食料問題は、これから世界的な大問題になると思います。本研究がその問題に資する研究の一助となることを期待しています。
<国際水産研究教育基金>
OGAWA Takeshi 2024年10月29日 1,000円 非常に大事な取り組みとは存じます。些少ですみませんが。
<国際水産研究教育基金>
千田 良仁 2024年10月28日 50,000円 国際水産経済学分野での若手の育成は急務です。この取り組みを応援します。
<国際水産研究教育基金>
1

このプロジェクトに寄付をする

PJ画像

プロジェクト設置責任者

大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻
准教授
阪井 裕太郎

今年度寄付総額
258,100円
今年度寄付件数
6件
現在の継続寄付会員人数
2人
累計寄付総額
1,340,500円

このプロジェクトに寄付をする

今年度目標金額
1,000,000円

東京大学へのご寄付には税法上の優遇措置が適用されます。

ご寄付の謝意・記念品

「東京大学基金」の謝意・記念品が適用されます。

このプロジェクトの謝意・記念品

ご寄付くださった全ての皆様

年1回(3月配信予定)のメールマガジンにて、研究室の活動報告や講演会等の告知を致します。

※一括10万円以上のご寄付の場合はフォームにて、「支援プロジェクト」を選択した後に、「ご支援先の内容を記入する。」チェックボックスにチェックをしていただきますと表示される「その他」欄にご希望の記念品をご入力お願いします。

【お申込み画面】.png

一括5万円以上のご寄付

上記に加え、寄付者様限定のオンライン交流会(3月に開催予定)にご招待いたします。最先端の研究成果から、普段は見えない研究の舞台裏まで、皆様の疑問にお答えしていきます。

一括10万円以上のご寄付

上記に加え、研究で関わった地域や漁業者さんの持続可能(※)な下記水産物・水産加工品の中から、当研究室おすすめのものをお一つお選びいただけます。持続可能な水産業を実現するための研究教育の応援をしながら、持続可能な水産物を作っている漁業者さんを応援できます。在庫があれば、寄付をいただいてから1か月以内に発送致します。

※持続可能かどうかは第三者認証もしくは当研究室の判断によるものとします。

①アジフライの聖地 松浦のアジフライセット(8枚入×2パック)※冷凍品
研究室コメント:「水産資源の持続性と環境に配慮している事業者を認証」するMarine Ecolabel Japan認証を取得したアジを主に使用しています。2024年東京大学五月祭において当研究室が販売し、初登場で食品部門3位に輝いた味を是非お試しください。

②第1昭福丸が漁獲した天然本まぐろ赤身(180グラム前後)※冷凍品
研究室コメント:「水産資源や環境に配慮し、適切に管理された持続可能な漁業に関する認証」であるMarine Stewardship Council認証を取得しています。2023年にエコラベルに関する経済実験で利用させていただきました。

③第1昭福丸が漁獲した天然本まぐろ中トロ(180グラム前後)※冷凍品
研究室コメント:「水産資源や環境に配慮し、適切に管理された持続可能な漁業に関する認証」であるMarine Stewardship Council認証を取得しています。2023年にエコラベルに関する経済実験で利用させていただきました。

寄付をする

一括100万円以上のご寄付

上記に加え、当研究室メンバーの解説付きで、静岡県で定置網乗船ツアー(1泊2日)にご案内します(希望者のみ)。

・夕方: 現地集合、夕食
・夜: 軽く睡眠
・早朝: 3時頃出港
・午前: 5時頃帰港、8時解散予定
詳細については、お問い合わせください。

寄付をする

関連プロジェクト

PJ画像

日本が誇る植物園を、世界へ

Life in Green プロジェクト(小石川&日光植物園)

PJ画像

最先端の物理、天文、数学の連携で宇宙の謎に迫る

日本発アインシュタイン:カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

PJ画像

三崎から世界へ!奇跡の海の研究を支える

マリン・フロンティア・サイエンス・プロジェクト

PJ画像

教育から社会をかえる ~100年後の地球のために~

One Earth Guardians(地球医)育成プログラム支援基金

PJ画像

~遊ぶように学ぶ プレイフル社会の実現に向けて~

プレイフル社会の理論構築と社会実装プロジェクト基金

PJ画像

日本と世界の変革を駆動する未来の人材育成へご支援を

変革を駆動する先端物理・数学プログラム(FoPM)支援基金

PJ画像

―「捕雷役電」 受け継ぎ育み、飛躍する―

東大電気系教育発信交流支援基金 ー捕雷役電150ー

PJ画像

東京大学から世界へ 飛び立つ学生を応援する

Go Global 奨学基金(東京大学在学学生留学支援・海外派遣事業)

PJ画像

次世代につなぐ長期生物多様性観測

ネイチャーポジティブ基金
(東京大学先端科学技術研究センター生物多様性・生態系サービス分野)

PJ画像

このプロジェクトは寄付募集を終了しました。

教育学部・教育学研究科教育研究創発基金「教育学部創立70周年記念基金」

詳細をみる

募集終了

PJ画像

このプロジェクトは寄付募集を終了しました。

新社会を創造する化学人材育成基金

詳細をみる

募集終了

PJ画像

このプロジェクトは寄付募集を終了しました。

未来構想ビヨンド2020プロジェクト

詳細をみる

募集終了

PJ画像

このプロジェクトは寄付募集を終了しました。

「スーパー酵母2024」プロジェクト

詳細をみる

募集終了

PJ画像

このプロジェクトは寄付募集を終了しました。

異才発掘プロジェクトROCKET基金

詳細をみる

募集終了

PJ画像

このプロジェクトは寄付募集を終了しました。

メダカ自然集団の保全事業支援基金

詳細をみる

募集終了