海洋を取り巻く問題は、海洋の利用開発の進行、ステークホルダーの顕在化、国家間の海洋権益の確保などに伴い、多様化・複雑化していると同時に、持続可能な社会を形成するためのサステイナビリティ学にも深く関 わっています。これらの問題に対処するためには、海洋に関する自然科学と技術工学に、海洋法や海洋政策といった社会科学を加えた文理融合が不可欠で、それぞれの学問分野にリテラシーを持った人材の育成が急務です。
私どもは、東京大学のすべての大学院生が専攻の別にかかわらず参加できる「海洋学際教育プログラム」を実施しています。学生が所属を超えて海洋に関連する科目を広く履修できるプログラムです。そのなかでも、必修科目である「海洋問題演習」で実施するフィールドワークや、海外の国際機関や国内関係省庁で2~3か月まとまった期間実習に参加するインターンシップは、学生にとって実際に起こる問題の現状やその解決に関わる現場に生で触れることのできる貴重な機会です。しかしながら、現状の予算が限定的であるため、海洋問題演習のフィールドワークもインターンシップの場も経験できる学生が限られています。
本基金で集まった寄付金は、より多くの学生に学びの機会を広げるべく、フィールドワークやインターンシップに参加できる学生の人数を増やし、国際的に活躍できる学生の教育を行うために活用してまいります。海洋の抱える多様かつ国際的な問題に対処できる人材育成の重要性に共感いただける皆様からの温かいご支援を賜りたくお願い申し上げます。
海洋を取り巻く問題は、地球温暖化や海洋汚染、新たな海底資源の探査や開発、海上輸送の安全保障や水産資源管理など、多くの領域にわたっており、特定の専門分野だけでは解決できません。それぞれの専門家が協力すると同時に、全体を俯瞰し世界の場でリーダーシップをとれる優秀な人材が求められています。
しかしながら、現在の学校教育では、高校生のような早い段階から「文系」「理系」の枠に分かれて、大学に進むとさらに物理、生物などのように細分化していきます。海洋が抱える諸問題を解決するには、海洋科学の観点からこれらを統合し、海洋に関するバランスのとれた教養と高い専門性をあわせもつ人材を育てる必要があります。
海洋学際教育プログラムは、現代社会が抱える海洋にかかわる諸問題に立ち向かうため、学生が所属を超え、海洋に関連する科目を広く履修できる部局横断型のプログラムです。学生の問題意識にあわせて現地調査を行うフィールドワークや、海洋関連の国際機関や国内関係省庁におけるインターンシップを中核としています。学際的な海洋問題に即応可能とする高度海洋人材の育成を目指し、日本の大学院教育における海洋リテラシーの全体的な底上げをリードしています。
海外インターンシップの派遣先である国際連合工業開発機関(UNIDO)にて
海洋学際教育プログラムの中核であるフィールドワークおよびインターンシップの2つをこれまで以上に充実した形で実施し、これらの人材育成活動をより円滑に推し進めるために、活用いたします。
社会課題の解決に取り組む「海洋問題演習」でのフィールドワーク
プログラムの必修科目「海洋問題演習」は、第一線で活躍する学内外の専門家による講義を通して社会的な問題の現状を知るSセメスター(春学期)と、少人数のグループワークで議論を深めるAセメスター(秋学期)で構成されます。フィールドワークはAセメスターで実施します。実際に社会的問題の事例が起きている地方自治体や関連団体を現地視察し、現場の声を聞くことを最大の目的としています。これまでの実施例として、琉球大学と協力のうえ行った沖縄の海岸での海洋プラスチックゴミの調査、石狩湾や長崎・五島列島における洋上風力発電の成功事例の調査などがあります。実際に現地に足を運び、そこで起きている問題にかかわる複数の立場や生活する住民の声を聞くこの実習を通して、複線的な視座で1つの問題を掘り下げ、海洋問題を学際的に解決へ導く高度海洋人材の育成につなげます。
長崎・五島の洋上風力発電を船上から見学
海の現場を知る国内外のインターンシップ
海洋に関する高度な専門性と国際的ネットワークをもち、世界で活躍する人材育成に向けた教育システムを確立することを目的としています。海洋学際教育プログラムの大学院生を2〜3カ月の間国際機関や海外研究機関に少数精鋭で派遣してインターンシップを実施します。国際機関での貴重な実務経験、そして受入機関のスタッフや他のインターンシップ生との交流によって、学生の将来に向けたキャリアパスと人脈の形成に役立つことが教育効果として考えられます。
2024年02月06日(火)
「プロジェクト概要」で申し上げたように、みなさまからのご寄付は、海が抱える社会問題の解決を目指す「海洋学際教育プログラム」のなかで、その中核である必修科目「海洋問題演習」と国際機関へのインターンシップに活用させていただいております。
海洋問題演習の目的は、研究志向の強い本学において、とかく関心の外になりがちな社会問題の現場を大学院生に体験させ、その解決への道筋を、文理の別にとらわれず自分たちの力で考えさせることにあります。
2023年度は、前年度に引き続き、「海洋ゴミ・プラスチック」「海洋再生可能エネルギー」「マリンバイオセキュリティ」「地域創成と海」「世界にコミットする問題発掘とその具体的対応行動」の5領域を設定しました。夏休み前の春学期には、各領域の現場を知る専門家を招いて講義を受けました。秋学期では、6グループに分かれた学生たちが、これらの領域のなかから自分たちでテーマをみつけ、フィールドワークを始めとする調査をもとに社会提言をまとめました。
「海洋ゴミ・プラスチック」の学生たち5人がまとめた提言は、「海岸清掃ボランティアの情報共有に向けたプラットフォームの提案」というタイトルです。
海岸にはどこも多くのごみが漂着しています。その清掃をボランティアが行っている事例も少なくありません。しかし、ボランティア個人が、いまどこの海岸に行けば活動できるかをインターネットで探そうとしても、そうした活動を積極的にアピールしている自治体とそうでない自治体の差は大きく、また、ボランティア清掃に関するリアルタイムの情報を入手できるサイトは国内にありません。
海岸清掃にかぎった話ではありませんが、文部科学省の2016年調査によると、ボランティア参加を阻害する要因として、「自分にどのような活動ができるかわからない」「どのようなボランティア活動の場があるか分からない」がその上位に挙げられています。情報不足ゆえにボランティアの志を生かし切れていないのです。
そこで、このグループは、全国の海岸清掃ボランティア募集情報をリアルタイムで掲示、更新できるネット上のサイト(プラットフォーム)を提案しました。「○○海岸で○月○日から○月○日までボランティアが○人必要」という情報が全国地図から簡単に得られ、募集する側の入力も簡便なサイトです。海岸清掃に関するこうしたサイトは、まだ日本にはありません。ボランティアによる海岸清掃の需要と供給の出会いの場となることが期待されます。
「北九州の洋上風力関連産業を発展させるためには」は、「海洋再生可能エネルギー」領域の学生がまとめた提言です。
多くの産業が関わる洋上風力発電事業には、大きな経済効果が期待されています。ただし、国内に風車メーカーはなく、将来の海外進出を見据えてサプライチェーンを築くことが必要です。北九州地域はすでに九州、アジアの自動車生産拠点になっており、さらに洋上風力発電の拠点とするにはどういう課題があるかを調べました。
このグループが注目したのは、海外展開に関する将来像を関係者が共有できているかという点です。経済産業省九州経済産業局や福岡県、北九州市、企業などにインタビューした結果、九州経産局と福岡県は海外展開を考えておらず、企業にも、国内派と海外派がありました。
これらの結果から、海外展開に向かう意識を関係者でそろえたうえで、日本にかならずしも有利といえない製造段階での認証システムを変えていくこと、国や県の補助で融資をうながすことの必要性などを提言しました。
このほか、大気中の二酸化炭素を海底などに「ブルーカーボン」として固定する事業を加速するため、そこに付随する社会的価値として教育効果に注目した「ブルーカーボン生態系がもたらすコベネフィットの『見える化』に向けて」、食材として人気の高いサーモンを外来の伝染病から守る防疫について養殖の規模と形態ごとに検討した「日本のサーモン養殖の課題と展望」、観光の視点を入れることによって漁村に新たな活路をみいだす「漁村とブルーツーリズム」、秋田県で洋上風力発電事業の運用と保守を担う人材を育てるための方策を検討した「秋田県における洋上風力 O&M人材の育成について」の4提言がまとまりました。
こうした提言をまとめるため、学生たちは青森県、秋田県、長崎県など全国各地に足を運んでいます。インタビュー取材の結果、新たな疑問がわいて、急ぎ取材を追加することもあります。学生たちのこうした試行錯誤に柔軟に対応し、東京大学という知を創造する場と社会との結びつきを皮膚感覚で学ばせるため、その旅費などにみなさまのご寄付を大切に使わせていただいております。
新型コロナウイルスの感染拡大でオンラインでの実施を余儀なくされた国際機関へのインターンシップは、2022年度から派遣を再開しました。22年度は国際原子力機関(IAEA)と国際水路機関(IHO)へ計2人の学生を、23年度はIAEAとIHO、国際海事機関(IMO)へ計4人の学生を派遣しました。
派遣された学生たちは、2~4か月の長期にわたる国際機関での実務経験を通じ、世界をリードする専門家たちの膨大な知識量や仕事に対する情熱に刺激を受けて帰国します。参加した学生のなかには、人生を左右する貴重な経験だったと述べる者も少なくありません。私たちを取り巻く海洋のリアリティーに触れ、そこで解決すべき課題を国際的な広い視野から考えるこうした機会を、より多くの学生に与えたいと思っております。引き続きみなさまからの温かいご支援をお願い申し上げます。
2023年02月07日(火)
「プロジェクト概要」で申し上げたように、みなさまからのご寄付は、海が抱える社会問題の解決を目指す「海洋学際教育プログラム」のなかで、その中核である必修科目「海洋問題演習」と国際機関へのインターンシップに活用させていただいております。
海洋問題演習の目的は、研究志向の強い本学において、とかく関心の外になりがちな社会問題の現場を大学院生に体験させ、その解決への道筋を、文理の別にとらわれず自分たちの力で考えさせることにあります。2022年度は、「海洋ゴミ・プラスチック」「海洋再生可能エネルギー」「マリンバイオセキュリティ」「地域創成と海」「世界にコミットする問題発掘とその具体的対応行動」の5領域を設定しました。夏休み前の春学期には、各領域の現場を知る専門家を招いて講義を受けました。秋学期では、6グループに分かれた学生たちが、自分たちで見つけたそれぞれのテーマについて、フィールドワークを始めとする調査をもとに社会提言をまとめました。
秋学期に企業養殖の取り組みについて調査している様子
「海洋ゴミ・プラスチック」の学生たちがまとめた提言は、「プラスチックのマテリアルリサイクル推進に向けて~自治体の事例研究から~」というタイトルです。日本ではいま国が法律を作り、レジ袋のような容器包装プラスチックだけでなく、製品自体に使われているプラスチックについてもリサイクルを進めようとしています。ところが、家庭からでるプラスチックごみの回収主体である自治体のうち、リサイクルを目的とした製品プラスチックごみの回収を実施している市町村は全体の1割もありません。なにが製品プラスチックのリサイクルを阻んでいるのか。それを調べるため、学生たちは各地の自治体にその事情を取材しました。
そうしてまとめた提言は、①製品プラスチックにも拡大生産者責任に関する仕組みをつくるべきだ②高度選別技術などの導入によってプラスチック処理フローの省力化を急ぐべきだ――の2点です。リサイクル費用をあらかじめメーカーが負担する「拡大生産者責任」の仕組みが製品プラスチックには適用されておらず、それが財政難の自治体の重荷になって前に進めなくなっています。また、ごみの選別には多くの人手が必要なため、かりに費用負担に耐えられても、そもそも関わる人材がいなくなってしまうこと。実際に、人手不足から、最近になってごみの分別そのものを断念した市もありました。
「海洋ゴミ・プラスチック」領域の学生がまとめた提言
「カーボンニュートラルな社会へ~沖合藻場と生きる日本~」は、「世界にコミットする問題発掘とその具体的対応行動」領域の学生がまとめた提言です。地球温暖化の進行を抑制するには、大気中の二酸化炭素量を減らさなければなりません。その有効な選択肢として注目されているのが海藻や海草です。青い海で育つこれらの植物が吸収、固定する二酸化炭素は「ブルーカーボン」とよばれています。現在、次世代のエネルギー源として、世界では海上風力発電が社会実装の段階に入っています。風車の土台群にロープを渡すことなどで海藻が育つ「藻場」をつくり、そこを、再生可能エネルギーの生成と二酸化炭素の吸収を一挙にこなせる場にしようというアイデアです。
各チームがまとめた提言を発表しました
このほか、一般の流通に乗らない未利用魚などの販路としてサブスクリプション(定期購入)の活用を提案する「サブスクは地域の水産業を救えるか?」、洋上風力発電事業の合意形成に若年世代を参加させ、地域社会のアイデンティティーを向上させる必要性を訴える「北九州洋上風力発電事業における合意形成」など計六つの提言が発表されました。すぐにも社会に実装できそうな提言から、将来を見越して本格的に検討してみたくなるような夢のあるアイデアまで、海に関係するさまざまな提言がまとまりました。
こうした提言をまとめるために、学生たちは北海道から九州まで全国各地に足を運んでいます。例えば「海洋ゴミ・プラスチック」領域の学生たちは、五つの市や区、企業にインタビュー取材しました。取材の結果、新たな疑問がわいて、急ぎ取材を追加したケースもあります。「世界にコミットする問題発掘とその具体的対応行動」領域では、北海道の石狩湾や長崎県の五島列島で実情を調査しました。学生たちのこうした試行錯誤に柔軟に対応し、東京大学という知を創造する場と社会との結びつきを皮膚感覚で学ばせるため、その旅費などにみなさまのご寄付を大切に使わせていただいております。
新型コロナウイルスの感染拡大でオンラインでの実施を余儀なくされた国際機関へのインターンシップは、2022年度から派遣を再開しました。国際原子力機関(IAEA)と国際水路機関(IHO)への各1名の派遣が決まっています。さらに4名について、国際連合食糧機関(FAO)を加えた3機関で派遣を調整しています。
派遣された学生たちは、2~4か月もの長期にわたる国際機関での実務経験を通じ、世界をリードする専門家たちの膨大な知識量や仕事に対する情熱に刺激を受けて帰国します。参加した学生のなかには、人生を左右する貴重な経験だったと述べる者も少なくありません。私たちを取り巻く海洋のリアリティーに触れ、そこで解決すべき課題を国際的な広い視野から考えるこうした機会を、より多くの学生に与えたいと思っております。引き続きみなさまからの温かいご支援をお願い申し上げます。
2022年01月26日(水)
<高度国際海洋人材育成基金>
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三現主義を貫いてこそ本当の人材が育つと思います。
日本のDXがうまくいかないのは、現実を見ようともせずに丸投げを繰り返すからでしょう。
<高度国際海洋人材育成基金>
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