現代の日本は課題先進国と呼ばれています。たとえばその一例としては、少子高齢化で代表されるように、急激に人口構造が変わる中、社会保障制度をどう維持するのか、人々の基本的な生活保障を提供していきた家族の機能はどう変化するのか、高齢化のみならず女性雇用が増加した環境にあって家族のケアをだれが提供するのか、といった課題です。このように、人口構造ひとつとっても日本は多くの課題を抱えています。一方で、裏を返せばこのような課題に世界に先駆けて直面して対応している貴重な研究フィールドであるとも考えられます。このようなテーマは日本だけでなくアジアでも欧米の先進国でも共通して重要になってきます。また、人口変動だけではなく、環境汚染も感染症も、現在の諸問題は国境を超えます。そこで、特定の国の特殊事情を超えて国境を跨ぐ世界共通の課題にどう取り組み、対応するかについて日本の「今」に関する研究成果や学術的知見を発信することが、極めて重要になってきています。
しかしながら、日本国内で進んでいる現代の日本に関する人文学的・社会科学的な研究の国際的な発信力は決して強いとは言えません。これは、そういった場や機会がまだまだ少ないということもありますが、日本の「今」という国際的にも非常に重要な対象を研究しているにも関わらず、それを「現代日本研究」として捉える枠組みがなかったことも大きく影響しています。このような問題を踏まえて、日本の「今」に関する研究を「現代日本研究」としてとりまとめ、世界に発信していく拠点となるために現代日本研究センターが設立しました。
現代日本研究センター(TCJS)は、2020年7月に設立された全学的な組織です。TCJS設立の背景には、国籍や所属に関係なく、新しい時代に生きるそれぞれが、現代の日本社会の“課題”に対する独自のアイデアを表現して、世界の課題解決に貢献する姿を応援したいという気持ちがあります。そこで、まずは「現代日本」を一つの共通項として、東京大学の多種多様な分野の研究者や大学院生が集まって、自由闊達にアイデアを交換し合うプラットフォームを創り出すことから始めました。
現在、学内からは法学政治学研究科、経済学研究科、人文社会系研究科、教育学研究科、農学生命科学研究科、工学系研究科、総合文化研究科、新領域創成科学研究科、情報学環、公共政策大学院、社会科学研究所、先端科学技術研究センター、生産技術研究所、東京カレッジ、ヒューマニティーズセンターの15部局が分野の壁を越えてこのプラットフォームに参加しています。
また、この活動をグローバルに展開するためには海外有力大学との協力関係が欠かせません。TCJSでは、ハーバード大学、コロンビア大学、コロンビアビジネススクール、オックスフォード大学、カリフォルニア大学バークレイ校、プリンストン大学、ソウル国立大学校といった大学のトップ研究者が国際諮問委員として参画しています。また、設立にあたっては、海外有力大学の代表的な日本研究者10人ほどからも強力なエンドースメントレター(=支持表明書)をいただきました。このように、日本と世界のトップ研究者や優秀な若手研究者同士を結び付ける場がTCJSの活動によって整いつつあるのです。
このようなプラットフォームを成熟させていくことで、東京大学の文理の領域を超えた最先端の研究成果をグローバルに情報発信し、東京大学として世界の諸課題に対する解決の道筋を示していく拠点となることを目指します。
このようなグローバルな活動を拡大していくためには皆様のご理解とご支援がどうしても必要です。今後は、東京大学の優秀な若手研究者を海外への“武者修行”へ送ったり、逆に海外大学の優秀なポスドクを東京大学に招いたりすることで、若手研究者同士が交流し、お互いを高めあう場にしていきたいと考えており、そのためにはまだまだ資金が足りていない状況です。
新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大により、日本を含めた世界各国の社会の不安、経済の混乱、個人の心身面への影響が懸念される中、小さくスタートした当センターではありますが、自由闊達な意見交換や交流の場を大きく育てて、躍動感のあるポジティブなムーブメントを展開しつづけていきたいと考えています。皆さまのご理解とご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。