私等、工学系研究科 化学・生命系三専攻(応用化学専攻・化学システム工学専攻・化学生命工学専攻)およびバイオエンジニアリング専攻では、新しい化学・生命系の学問領域を創造すると同時に、それをもって新しい社会創造を牽引する人材育成を目指しております。
現在、我々が長年拠点としてきた工学部5号館の大改修工事が行われております。この改修工事予算は政府からの援助によるものですが、現在の計画では建物の強度補強および経年劣化した電気・水道系インフラの更新だけが予定されております。今回の改修工事は、新しい時代に即した講義や教育コンテンツを提供するための設備を整備する絶好の機会ですが、現在の予算措置だけではその実現は難しく、現状では旧来の講義室を維持するだけとなっております。
上記の四専攻では、専攻長を中心に「ウィズコロナ社会・ポストコロナ社会において、新しい化学・生命系の学問領域を創造・牽引するする人材育成には何が必要なのか?」「そのためには改修後の講義室および研究スペースにはどのような機能が備わっているべきなのか?」を徹底的に議論しました。
その結果、講義室に関しては、机や椅子を最新のものに更新するとともに、オンサイトとオンラインの講義を有効に融合し、さらに講義室間も自由にバーチャル接続できる機能を有する次世代型講義室を整備する必要があるという結論に至りました。また、育成された若手研究者等が新しい化学・生命系の学問領域を創造する取り組みを可能とするための創造化学センターを整備する必要があるという考えに至りました。このセンターは、複数の若手グループが互いに連携・刺激しながら自由闊達に研究することを強力に後押しするために、基盤的な研究環境をあらかじめ整備した共通実験・居室スペースを用意します。加えて、組織運営に関しても若手が自由に研究テーマを設定し集中できる仕組みを整備します。このように、学部学生から大学院生・若手研究者までが伸び伸びと創造的研究に取り向ける環境を整備したいと考えております。このような取り組みは、これまでの東京大学の化学系・生命系の組織では殆ど整備されておりません。
我々は、上記の趣旨にご賛同いただき、我々が考える理想の教育・研究環境の実現にご協力いただける個人・法人からのご寄付を心からお願いする次第です。
新社会を創造する化学系人材の育成のため、まず手掛けたいと考えているのは、 With/Postコロナ社会に即した講義スタイルを具現化するための講義室等の整備です。これらの整備が完了したのちも、継続的に寄附を募集し、若手育成にも活用していきます。
■工学部5号館51~57号講義室のICT化を行い、最先端講義室にします。
この最先端講義室の整備により、 With / Postコロナ社会で求められているオンライン授業とオンサイト授業の同時対応が可能となり、複数ある講義室を全て繋ぐことによる大講義室化も可能となります。このような最先端の設備が備わることによって、大規模な講義や中規模以上の研究会・学会が開催できることになり、若手人材の育成機会が拡大します。
■工学部5号館に新しく「(仮称)未来創造化学センター」を設置します。
「(仮称)未来創造化学センター」とは、若手教員による自由な発想に基づく創造的な研究を推進することを目的とした専攻横断型組織です。複数の若手教員グループに基盤的な研究環境を整備した共通の居室および研究スペースを提供します。この取り組みを通して、将来の化学・生命系研究分野を牽引する若手教員の発掘・育成にもつなげます。
小宮山 宏 様
元東京大学総長
三菱総合研究所理事長
20年以上前のことでした。MITの学長だった故チャック・ベスト氏にどうやって寄付を集めるのか、極意をうかがったことがあります。答えはファンドレイザーでした。「MITには135人のファンドレイザーがいる」と聞いて、「そんなにいるのか」と驚いたら、「MITは少ないんだ、ハーバードは400人を超える。ファンドレイザーは多いほど良い。彼/彼女らは、必ず給料以上に稼ぐ」と、アメリカ人らしい答えが返ってきたのを思い出します。
先日、渉外本部の方にうかがったのですが、現在、ハーバードのエンダウメントは5兆円に近いそうです。運用と毎年集める寄付とでエンダウメントは増え続けます。たしか、運用状況に関わらず4%使うと決めているはずですから、年2000億円です。東大の運営費交付金が800億円を割り込みました。
アメリカ有名私立大学の財務を考えると嫌になるのですが、東大も渉外本部をエンジンに、昨年はほぼ100億円の寄付を集めました。ファンドレイザーも20名を超えたそうです。渉外本部を作ったのは私なのですが、ともかくここまで来たか、頑張れ東大です。
東大の時代に寄付集めに苦労したからでしょう。日本に寄付文化を醸成しようと、今もいろいろ活動しています。毎年12月には寄付月間を催しています。私は会長で、東大渉外本部からも理事に入ってもらっています。標語は「欲しい未来へ、寄付を贈ろう。」、いい言葉でしょう。
寄付月間の対談で川渕三郎さんが面白い話を紹介されました。堀田力氏の活動に賛同し、自分もそろそろ寄付でもしようかと、堀田さんに尋ねたのだそうです。「寄付をさせていただきたいのですが、いくらしたらよいでしょう?」、しばらく考えて堀田さんは、「少し痛いくらいの額でよいのじゃないでしょうか」。名言ですね。何と答えようか、とっさに「わたしなんか、かなり痛い額をやってます」と応じました。
実は、東大の百周年で百億円寄付事業が行われたとき、講師になりたての私は寄付をしませんでした。住宅ローンを抱え、二人の子供を育てながら、自分に寄付をして欲しいくらいだという思いでした。しかし、寄付の構造は、寄付額全体のほとんどは一握りの高額寄付者からのもの、寄付者のほとんどは低額寄付者です。多くの人が寄付をしなければ高額寄付者は現れないのです。総長になってから寄付の構造を勉強して知ったことです。あのとき、少し痛い額、三千円でも寄付しておけばよかったなあ。
現役の先生方が、教育研究力を高めようと、渉外本部と連携して寄付募集を始められました。皆さん、支援しましょう。私もかなり痛い額を寄付するつもりです。
橋本 和仁 様
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)理事長
総合科学技術・イノベーション会議(内閣府)議員
東京大学工学系研究科の化学・生命系専攻では、これまで世界トップの化学を習得した「化学人材」を輩出しており、現在も数多くのOB/OG達が幅広い分野で活躍しています。今後、Society5.0、カーボンニュートラルといった国家の重要な目標の達成において、ますます優秀な化学人材が求められることは間違いありません。化学・生命系専攻の元教員として、with/postコロナ時代に相応しい教室と若手研究スペースを整備するという試みに大いに賛同し応援します。多くの法人、個人がこの基金事業に賛同し、ご協力くださることを祈念しております。
■応用化学専攻(専攻長:山口和也教授)
現代の社会には、化学単独では解決できない問題が山積みのようにあります。応用化学専攻では、「化学を究める・広げる」をキーワードとして、そのような困難な課題に挑戦しています。化学の学問領域を深く掘り下げる研究と、化学を中心として機械、エレクトロニクス、医療、生物学といった他分野との融合領域へ広げる研究が共存し、未来社会への貢献を目指しています。
■化学システム工学専攻(専攻長:髙鍋和広教授)
「化学システム工学」という言葉には、これまでの化学や化学工学の枠を超えたアプローチを目指す、という私たちの想いが込められています。環境、エネルギー、医療などに関する様々な課題に対して、化学を基盤に、システム的思考を持って臨むことで、課題解決への具体的かつ永続的なビジョンを示すようになることを目指しています。
■化学生命工学専攻(専攻長:山東信介教授)
私たちが目指すものは、有機化学と生命工学の融合による「新物質・新機能の創造」です。次世代のサイエンスやテクノロジーは、従来独自に発展してきた「化学」と「生命」の研究領域が工学的センスの上に融合した「化学生命工学」においてはじめて築くことができます。 化学生命工学専攻においては、有機化学から生命工学までの”分子”を共通のキーワードとする幅広いスペクトルの研究・教育を行っています。
■バイオエンジニリング工学専攻(専攻長:酒井康行教授)
バイオエンジニアリング専攻は、少子高齢化が進み、持続的発展を希求する社会において、人類の健康と福祉の増進に貢献することを目指します。本専攻では、この目的を達成するために、既存の工学及び生命科学ディシプリンの境界領域にあって両者を有機的につなぐ融合学問分野であるバイオエンジニアリングの教育・研究を推進します。
2022年10月14日(金)
工学部5号館の改修工事が9月末で終了し、2022年10月3日(月)に工学部5号館1階51講義室で竣工式が開催されました。
竣工式には、染谷隆夫工学系研究科長、加藤泰浩工学系副研究科長、霜垣幸浩工学系副研究科長、石田哲也研究科長特別補佐、津本浩平研究科長特別補佐、櫻井明工学系研究科事務部長、山口和也応用化学専攻長、高鍋和広化学システム工学専攻長、山東信介化学生命工学専攻長、酒井康行バイオエンジニアリング専攻長が出席いたしました。
司会の高鍋和広化学システム工学専攻長からは、皆様方からの多大なご支援により、良好な学習環境が整えられた旨の披露がありました。
スタッフ一同、これからも本学の研究、人材育成に貢献することをめざして励んでまいります。引き続き、あたたかなご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
<新社会を創造する化学人材育成基金>
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