私たちの文明は様々な物質を活用することで成り立っています。半導体はコンピュータや電子機器に、磁性体はモーターの主用部品に、誘電体はメモリ等に広く利用され、現代社会の礎となっています。また、電気抵抗ゼロを実現する超伝導体は、MRIやリニアモーターカー、さらには未来技術としての量子コンピュータの実現に使われようとしています。未知の現象や物質の発見、そしてその基礎的理解が何らかの材料開発に結びついたとき、社会に大きなインパクトがもたらされ、世界が大きく発展します。利益につながる応用研究も重要ですが、真にブレークスルーをもたらす発見は常に長年にわたる基礎研究の先にあり、一見無益に見える研究も将来革新的な技術に繋がる可能性を秘めています。
東京大学物性研究所は、物理学と化学を基礎として物質科学を総合的に研究する世界的な研究機関です。様々な化学的手法を用いて新奇な物質を作製し、多彩な実験手段を駆使してその性質を調べ、理論・計算を通して現象の背後に潜む原理を明らかにしています。また、物性研が有する実験装置・設備や大型施設の利用を全国の研究者に提供し、毎年約1,000件の研究課題を受け入れ、物性研所属の約120名の研究者と約220名の大学院生・博士研究員とともに、物質科学の発展を夢見て共同研究を行っています。
これらの研究・実験は、主に国の予算や企業との共同研究経費によりサポートされますが、未知への挑戦や革新的な研究を試行する萌芽的な研究助成にはさらなる支援が必要となります。例えば、物質の電子状態を見極めるために、高額の液体ヘリウムで冷却し超低温状態をつくったり、パルスマグネットによって非常に強い磁場をかけたり、研究用原子炉装置で中性子やX線をぶつけて反応を調べたりすることが求められます。
そして、物性研のもう一つの重要なミッションは次世代の物質科学を担う優秀な若手研究者を育成することです。そのためにはできる限り多くの博士研究員を雇用し、最高の研究環境を供与するとともに、国内外で様々な経験を積んでもらうことが必要になります。
物性研は基礎研究の促進と物質科学の発展、そして未来の研究者を支えるために着実に進んで参ります。皆様のあたたかいご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
東京大学物性研究所長
廣井 善二
◆機器・設備・施設等整備費、研究環境改善費、萌芽的な研究への助成
◆物性科学の普及啓発、次世代へのアウトリーチ活動
物性研究所(物性研)は、1957年に東京大学へ附置された全国共同利用研究所です。戦後、立ち遅れていた日本の物性分野の研究を国際水準に高める拠点として設立され、多様な発想に基づいた新しい学術の展開を担う国内のコミュニティ拠点として、その意義を果たしてきました。時代の流れとともに、物性研究に求められるものも変化していく中で、機能物性研究グループや量子物質研究グループ、データ統合型材料物性研究部門などが次々と新設され、今もなお日本の物性研究を支える拠点として存在感を醸しています。
Missions
1.中・大型の最先端研究設備の開発・整備と、それらを用いた研究分野の開拓
To develop medium- and large-scale state-of-the-art research equipment for opening or advancing new research fields.
2.共同利用・共同研究拠点として、多様な発想に基づく、新しい学術の展開
As a Joint Usage / Research center, develop new fields of academic research based on ideas collected from a broad research community.
3.卓越した若手研究者の育成と人事交流の促進
Promote prominent young scholars and personnel exchange.
4.国際ハブ拠点として、物性科学のネットワークの構築
As an international research hub, develop networks in condensed matter physics and materials science.
5.基礎研究の成果を産学連携を通して社会に還元、基礎科学へのフィードバック
Contribute to the society by cooperating with industry and giving feedback on basic science issues.
物性科学の基礎研究はさまざまな応用研究へと発展し、社会貢献につながります。
これらの成果をより促進し、幅広く物性科学の発展を支える人材育成や基盤作りが必要です。
〇強靱で回復性に優れた「自己補強ゲル」が、人工靭帯や関節などの生体材料として期待されています。
〇独自に開発したレーザーを用いた微細加工技術が、次世代半導体の革新的技術として注目されています。
〇スパコンと自作計算ソフトウェアを駆使したシミュレーションでは、軟磁性材料を筆頭に多彩な材料の開発に貢献しています。
また、これまでに物性研の研究してきた技術が実社会に活かされた例として、MRIが挙げられます。1983年に東京芝浦電気株式会社(現:東芝メディカルシステムズ)が世界で初めて商用商品化したMRIは、物性研と東芝総合研究所(当時)、東芝医療機器事業部(当時)による共同研究の成果をもとに開発されました。
超強力な磁石と電磁波を用いて物質の構造を特定するNMRという手法を人間に応用し、身体内部の情報を可視化、取得できるようにしたのがMRIです。物性研は共同研究の過程で、磁場を発生させるコイルなどを製作し、試作の小型装置を作成。世界初の商用商品化に貢献しました。
世界に通用する若手研究者を育成する
物性研究所では、国際的な人材の育成を目的とした学生海外派遣という取り組みを2017年度に開設しています。大学院生が海外での共同研究を通じて豊かな経験を得ることが目的のプログラムで、物性研内の志望者の中から年に数人、数ヶ月間留学する費用補助を行っています。
同プログラムに参加した大学院生は、国内大学で研究活動を継続している方や留学先の外国企業に就職した方など、物性分野において世界で幅広く活躍しています。一方、予算上の制約から留学費用の支援には上限があり、現状では採択人数も限られています。基金により、さらに多くの志望者を採択できるほか、一人当たりの補助の額を増やすことができます。
若手研究者が予算にとらわれず自由に研究できる環境を整備
物性研究では、極低温環境下で測定する必要のある現象が多数存在します。物質を冷やすための手段として液体ヘリウムが用いられますが、ヘリウムは希少で高価な資源です。
物性研では、利用したヘリウムガスを再度液化するリサイクル事業を行っており、所内でも再液化したヘリウムを実験に活用しています。一方で、1週間で100リットル以上もの液体ヘリウムを要する実験もあり、リサイクルしてもなお高いコストがかかります。基金を活用することで、若手の研究者らがこうしたコストを気にすることなく実験に専念できる環境を作り上げます。
もっと知りたい!物性研のこと。
https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/docs/pamphlet_B5square_web_20221130.pdf
2024年12月06日(金)
10月25日から26日にかけて、東京大学柏キャンパス一般公開が行われました。 同イベントに付随して、物性科学研究教育助成基金(当基金)および物性研究所がともに寄付を募っている量子物質ナノ構造ラボ(Qナノラボ)プロジェクトの共同寄付報告を行いました。
プロジェクト設置責任者でもある物性研究所廣井善二所長が、物性研究所の概要および今後の資金使途について説明を行いました。当基金では、学生や若手の研究者が金銭的な不安を抱えることなく研究活動に専念できるサポート体制の拡充や、豊かな経験をもった国際人材を育成するために大学院生を海外へ派遣する「海外学生派遣プログラム」の拡充を推し進めていきます。
寄付活動報告後、寄付特典としてスペシャルキャンパスツアーを実施しました。 柏キャンパス一般公開でも見せていない施設について研究者の解説付きで案内し、物性研究所の研究について見識を深めていただける機会を設けました。
寄付報告およびスペシャルキャンパスツアーについては、今後も柏キャンパス一般公開に合わせて実施予定です。
<物性科学研究教育助成基金>
<物性科学研究教育助成基金>
<物性科学研究教育助成基金>
<物性科学研究教育助成基金>
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