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我が国が世界に誇る最先端の光源技術はアト秒レーザーパルスの発生を可能としました。アト秒パルスを用いれば、物質変化や化学反応の根源を明らかにするとともに、高解像顕微イメージングが可能となります。今、アト秒科学研究の国際的中核拠点として、アト秒レーザー科学研究施設(Attosecond Laser Facility: ALFA)の設置に大きな期待が寄せられています。
ALFAでは、我が国の研究者・技術者が長年にわたって培ってきた最先端光源技術を集約し、互いに同期したアト秒レーザー(3種)とアト秒自由電子レーザーを併設し、国内外の理学、工学、産業界のユーザーに、それぞれの応用にカスタマイズした最適なアト秒光パルスを提供します。
人類の知のフロンティアを大きく拡大するとともに、次世代の研究をリードする若手人材の育成の場となるALFAの設立にご支援を賜りたく、ここにお願い申し上げます。
今、まさに「アト秒科学」と呼ばれる、物質科学と生命科学を含む広い基礎研究のフロンティアが拓かれようとしています。
アト秒とは、非常に短い時間の単位で、0.000000000000000001(10の-18乗)秒です。フェ ムト秒は10の-15乗秒(1000兆分の1)、ピコ秒は10の-12乗秒(1兆分の1)、ナノは10の-9乗秒(10億分の1)です。
近年、レーザー技術が進展し、2018年ノーベル物理学賞につながった「チャープパルス増幅」のおかげで、フェムト秒領域の極めて短い時間幅で非常に強い光を出せるようになりました。そして、そのフェムト秒パルスの高次高調波を発生させることによって、100アト秒を切る時間幅のパルスを出すことが可能となりました。
世界は今、人類がこれまで成し得なかった、最も短い時間領域での物質の観測を行うことによって、究極の時間応答を持つデバイスの開発などへの応用、光触媒や太陽電池などの光機能材料の物性研究と新しい材料開発、医療診断技術を含む生体観察技術の開発につながる新しい研究分野の誕生など、アト秒レーザー科学の成果を積極的に活用することによって、物質科学や生命科学における知のフロンティアが開拓されようとしています。
アト秒レーザー科学は、物理・化学・生物・医学の分野を包含した学際領域です。
海外では次々と大型施設の建設計画や運用が開始されつつあり、アト秒パルス光を用いた新しいフロンティアの開拓に世界の注目が集まっています。
ALFAの運用が開始されれば、物理学や化学における超高速現象の観測と、それにともなう物質変化の根源的な理解を深めることができるという、基礎科学の発展に資することは言うまでもなく、アト秒領域での物質応答を活用して超高速応答が可能となる次世代半導体デバイスの開発など、電子工学分野への貢献にも期待が寄せられています。
イメージング、化学反応追跡・制御
分子に対するアト秒時間分解計測から分子内の電子波束発展や多電子系における電子間の相互作用のメカニズムが解明されます。高度に制御された電子波束によって誘起される化学反応を、アト秒時間分解分子イメージング法で実時間追跡することによって、究極の化学反応追跡・制御技術の確立が期待されます。
物質材料開発・超高速エレクトロニクス技術開発
分子性固体における電荷分布の非局在化過程や界面における電子移動の初期過程が解明され、その時間領域の知見をもとに、有機デバイスや高機能触媒、太陽電池などを開発する際の新たな設計指針が得られると期待されます。また、金属ナノ構造体中の協奏的な電子運動によって誘起されるプラズモン増強電場の時間発展が解明され、ナノサイズの超高速電子デバイスが実現されると期待されます。さらに、アト秒精度の光波合成技術を確立することによって、ペタヘルツオーダーの整形電場による超高速エレクトロニクス技術の発展が期待されます。
生物学・創薬・医療への応用
軟X線領域のアト秒パルス光を用いることによって、高い空間分解能での顕微イメージングが可能となります。特に水の窓領域 (2–4 nm)では水が透明となるため、生物細胞中のオルガネラの構造を調べることが可能となります。さらに、時間分解計測を組み合わせることによって、広く創薬・医療分野の研究開発に資するものと期待されます。
国内の研究者・技術者が長年にわたって培ってきた先端の技術を集約した
アト秒レーザー科学研究施設(ALFA)
ALFAには、国内の研究者・技術者が長年にわたって培ってきた超短パルス光源の技術と軟X線領域の自由電子レーザーの技術に基づき、互いに同期されたアト秒レーザービームライン(3種)とアト秒自由電子レーザーを設置します。これは他に類を見ない独自の先端光源施設です。
①【加速器棟】
・全長170 mの線型電子加速器および電子ビームダンプ部を収納。
・新技術の導入したコンパクトな設計。
②【実験棟】
・最先端のアト秒ビームライン(汎用、高繰り返し、高輝度、次世代)
・精密計測装置を設置し、ユーザーに提供。
③【研究棟】
アト秒科学の国際的研究拠点。オープンイノベーションラボとしての活用など、バリアフリー、ダイバーシティに配慮した共創の場
~次世代を担う若手人材の育成のために、理想的な研究環境を~
国際研究交流拠点としての「ALFA」
国内外のユーザー(大学、研究機関、企業の研究所等)にアト秒ビームラインを提供することによって、ALFAを物理学、化学、生物学の学際フロンティアであるアト秒科学研究の国際的中核拠点とするとともに、国際的な環境の下で次世代の研究をリードする我が国の若手人材の育成を目指しています。
最先端光源を用いた学際的な研究を推進することを目指す研究者がユーザーとして利用研究を推進することによって、ALFAが国際的な研究者コミュニティーのための中核研究交流拠点となります。
このような国際的な場は、次世代を担う優秀な若手人材の育成にとって理想的な研究環境であり、ALFAが海外の大型先端施設とともに国際的なネットワークの一翼を担うことを通じて、学際的研究分野であるアト秒科学を推進します。
当機構は、2022年11月1日に全学組織として学内9部局の支援を受け、総長室総括委員会の下に設置されました。
東京大学が中核となって国内の大学、研究所、企業の研究者が連携して取り組み、我が国が長年にわたって培ってきた先端光源の技術を集約した「アト秒レーザー科学研究施設(Attosecond Laser Facility; ALFA)」の設置と運営を目指しています。
~5つのミッション~
1.アト秒レーザー科学研究施設(ALFA)の建設、および、共同利用・共同研究施設としての運営体制構築を支援
2.世界最先端のアト秒ビームライン(汎用、高繰り返し、高輝度、次世代)のため独自光源研究開発の推進
3.物質科学・生命科学・環境科学分野の研究者がいち早く最先端光源と計測装置を利用できるビームラインの構築
4.ALFAを国際的教育・研究の中核拠点とするための準備
5.アト秒レーザー光源と最先端計測技術の研究開発のための他関係機関との連携体制の構築
2025年02月18日(火)
2024年度は、東京大学150周年関連イベントとして2024年9月26日(木)から27日(金)の2日間にわたり「アト秒科学*の祭典」を実施いたしました。1日目は安田講堂にて2023年にノーベル物理学賞を受賞されたピエール・アゴスティニ教授(オハイオ州立大学)を招聘した特別講演会、2日目は化学講堂にて国内外の有識者らによる国際シンポジウムを開催いたしました。
「アト秒フロンティア基金」のご支援により、アト秒科学分野ならびに「アト秒レーザー科学研究施設(ALFA)」に関して学生や教職員の方々だけでなく、広く一般の方々に関心を寄せていただける貴重な機会となりましたこと、心より御礼申し上げます。
特別講演会の模様は、「学内広報」 NO.1587 (表紙はアゴスティニ博士)や理学部ニュース、在日フランス大使館SNSなどでも取り上げていただきました。また、理学系研究科・理学部YouTubeチャンネルにてアーカイブ映像を公開いただいています。オープニングには貴重なプレイエル(ピアノ)による世界初演の美しいイメージテーマ曲「ALFA」もお楽しみいただけますので、ぜひご視聴ください。
研究活動においては、2024年度よりALFAのための設備費の一部が予算措置されたことにより、8月から9月にかけて本郷キャンパス・浅野キャンパスにある既存のレーザー設備や光学定盤などを駒場リサーチキャンパス(駒場II)へ移設する作業が行われました。10月31日には先端科学技術研究センター杉山正和所長、三村教授、機構関係者らによる『ALFAプロトタイプ施設』の開所式が行われました。このプロトタイプ施設は、アト秒レーザーパルスを幅広い分野の研究者に提供するためのレーザービームラインや計測装置の着実な整備を目的として設置されました。
アト秒科学は、アト秒レーザーパルスの生成が行われるようになった20程前から注目され始めた学際的な学術分野であり、国際的にそのフロンティアが急速に拡大しています。私どもにいただきましたご支援に心より御礼申し上げますとともに、これからも本活動へ変わらぬご声援をお願いいたします。
*「アト秒科学」とは
物質の変化の根源を決定する電子および電荷分布の運動を時々刻々追跡し、あらゆる物質変化の機構を明らかにするとともに、物質変換の制御を達成することを目指す学術分野です。2023年、ノーベル物理学賞は、アト秒パルスの生成とキャラクタリゼーションに貢献のあった3名の研究者に授与されました。今まさにアト秒パルスの物質科学・材料科学・生命科学などの先端研究分野への応用が期待されているところです。
■関連リンク
・学内広報No.1587(2024.10.25)
「ピエール・アゴスティニ博士特別講演会を開催」(表紙・記事)
・在日フランス大使館
「2023年ノーベル物理学賞受賞者ピエール・アゴスティーニ教授来日」
・理学部ニュース2024年11月号
トピックス「アト秒科学ノーベル物理学賞記念Pierre Agostini教授講演会」
・東京大学大学院理学系研究科・理学部 YouTube アーカイブ映像
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・先端研ニュース(2024.11.19)
「アト秒レーザー科学研究施設(Attosecond Laser Facility: ALFA)」プロトタイプが先端研4号館に設置」
2024年09月11日(水)
東京大学アト秒レーザー科学研究機構(I-ALFA)では、アト秒レーザーパルスを国内外の様々な分野の研究者に供給することができるユーザー利用施設「アト秒レーザー科学研究施設(Attosecond Laser Facility: ALFA)」を設立するために、2022年11月、学内9部局の協力を得て、総長室総括委員会の下にアト秒レーザー科学研究機構(Institute for Attosecond Laser Facility : I-ALFA)を設置いたしました。
国際的に開かれた共同利用施設であるALFAには、我が国で長年培われた最先端のレーザー技術を結集したアト秒パルスビームラインが設置される予定です。
ALFA において展開されるアト秒レーザー光を用いた先端的な基礎および応用研究は、物質中や界面に誘起されるさまざまな素過程や物性を解明するとともに、新たなイノベーションを創出するものと期待されています。
この度、そのフロンティアが急速な発展を遂げているアト秒科学を紹介するとともに、2023年にアト秒科学分野に与えられたノーベル物理学賞を記念するために、ノーベル賞受賞者である Pierre Agostini 博士をお迎えして、Agostini博士による講演会ならびに国際シンポジウムを東京大学150周年関連イベントの一つとして開催いたします。
皆様のご参加をお待ちしております。
当日のプログラム等の詳細はこちらをご参照ください。
2024年02月29日(木)
特定基金のご支援の下、KEK一般公開2023(2023年9月23日(土))にて、本学が中核機関として推進しているアト秒レーザー科学研究施設(Attosecond Laser Facility:ALFA)の展示ブースを初出展しました。展示ブースでは、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究者の方々と共同で開発を進めているアト秒自由電子レーザービームラインに焦点をあて、先端的加速器技術によるビームラインの概要とアト秒パルス発生の仕組みを紹介しました。
また、展示パネルには、2023年5月に発足したALFA支援のための連携協議会にご参加いただいた国内14機関のロゴマークを掲載し、本学物性研板谷研究室およびKEKの研究グループのご協力の下、光学部品や加速器に使われる導波管の展示解説が行われ、多くの来場者の方で賑わいました。
2023 年の大きな出来事は、「物質中の電子ダイナミクスを研究するためのアト秒パルス光の生成に関する実験的手法」の業績により、ノーベル物理学賞2023が3氏に授与されたことでした。長年にわたって発展してきたアト秒レーザー科学について国内外の関心が一気に高まり、本ALFA計画についても広く知られる契機となりました。
本機構が実現を目指すALFAは国際的に開かれた共同利用施設です。ALFAにおいて展開する研究によって、物質中や界面での電子運動によって誘起されるさまざまな素過程や物性が電子の動きに基づいて解明されるものと期待されています。本機構では、ALFAの実現を通じて、基礎および応用分野における学術のフロンティアの開拓とイノベーション創出を支援して参ります。
今後も、国内外のユーザーのためにアト秒レーザー光を提供する光源施設であるALFAの設立に尽力して参ります。
■関連リンク
「アト秒パルス光を発生する実験的手法」にノーベル物理学賞 | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp)
2023年04月06日(木)
本学学内広報誌(2023.03.27版)にアト秒レーザー科学機構長 山内薫教授による本機構の紹介記事が掲載されましたので、ぜひご覧ください。
少額ですが、研究の役に立てたらと思います。
<アト秒フロンティア基金>
<アト秒フロンティア基金>
<アト秒フロンティア基金>
但し、ミネラル・ビタミン・たんぱく質・オメガ3脂肪酸など栄養素の補給が重要です。
<アト秒フロンティア基金>
<アト秒フロンティア基金>