
世界的な感染拡大や金融危機に、想定を超える巨大災害。未曽有に感じられる出来事に直面する時、現在の危機を理解し乗り越える手がかりを求めて、私たちは過去と向き合い歴史を紐解きます。歴史に遡って考えることは、現在を理解し、未来を構想するための足がかりとなるはずです。
目指すべき未来社会の設計やイノベーションにおいても、工学や医学をはじめとする諸分野の学問と並んで、歴史を振り返る視点が果たす役割は小さくありません。「温故知新」という故事成語が表すように、過去を振り返り現状を的確に把握する作業が、新たな発想や将来構想には不可欠だからです。ビジネスにおいても科学技術開発においても、そして政治や政策立案においても、これは共通しています。
歴史を学ぶ意義はそれにとどまりません。
歴史研究が培ってきた「背景への想像力」は、実はメディア・リテラシーそのものでもあります。過去の事実を理解・認識しようとする時、歴史研究者は当時の人々が遺した手紙や記録を読み解き、過去を再構築します。その過程では内容そのものを鵜呑みにせず、まずそれらの史料が生み出され、受け継がれてきた背景にも目を凝らします。情報が生み出される現場を理解し、その信憑性を評価することは、あらゆるメディアをつうじて情報が飛び込んでくる現代社会において、必須の情報リテラシーと言えるでしょう。
さらには、過去を生きた人々がおかれた境遇をエビデンスに即して誠実に理解しようとすることは、現在の私たちが、物事の背景を想像し、他者に共感し、現在の「あたりまえ」から距離をとって自分たちのあり方を反省することにもつながります。歴史的思考を身につけた人が増えることは、社会をより豊かに、より公正に、より活力あるものとするための基本条件なのです。
こうした社会の活性化に必須である思考の方法を実践し、実際の研究成果を発信し、そこで培われたスキルを書物や授業を通して社会と共有するための「ベースキャンプ」となるのが歴史研究です。
社会と経済の活性化のために不可欠であるはずの歴史的思考は、先細りしつつあります。長らく文系学問が軽視されてきた現在の日本では、歴史学や歴史的思考を担う若手研究者の育成に十分な資源が投じられず、研究者の数は減り孤立しがちです。その知見や研究成果の社会還元は個々の研究者に委ねられており、教員の待遇と労働環境が悪化する中で、社会への知識の発信は滞り、財源とロールモデルの減少によって若手研究者も減り続けるという負のサイクルが起こっています。社会を活性化するために過去から学ぶ、という活動の基盤が失われつつあるのです。
こうした現状を改善し、歴史研究を盛り上げ、歴史的思考法とその成果を社会に還元するために、私たちは2016年から「歴史家ワークショップ」という事業を行ってきました。当ワークショップは東京大学経済学研究科を拠点とし、日本各地と国内外の歴史研究者有志によって運営されています。設立から5年間、私たちは大学院生を中心とする全国の歴史系研究者を対象に、初めての英語発表から英文原稿の推敲と査読のノウハウ、一流国際誌への投稿、一般向け講演の技術と実践まで、国内外で最高水準の研究者に期待される成果発信の工程をシームレスに支援し、学術成果を社会と共有する場を提供してきました。
歴史系の研究者は、文学部に在籍する日本史や西洋史研究者に限らず、医学の歴史ならば医学部に、法と政治の歴史であれば法学部に、理系・文系の諸分野をまたがる多くの学部に点在しています。こうした様々な学問領域において活躍する歴史研究者が有志として集い、専門分化した学会・研究室や個別研究者単位の努力を補完する活動を行なっています。全国の若手研究者を支える私たちのこれまでの活動の成果は、オックスフォード大学出版局の発行する歴史学分野のトップジャーナル Past & Present誌への日本人研究者として40 年ぶりの掲載決定(2022年刊行予定)という形でも現れています。
専門的研究を支援するだけでなく、歴史研究を広く内外に発信し、世代を超えた知識の継承を可能にするために、100年続く学問の基盤を形成したい。過去の出来事やその意義を多様な史料を手掛かりに誠実に解き明かそうとするあらゆる人や組織と協働し、歴史的に思考することの価値や楽しさを社会と共有したい。歴史学分野のみならず、人文社会科学分野全体の活性化に寄与することも、私たちは企図しています。過去を振り返り、良い前例に学び過ちを繰り返さないよう思考し行動することの価値と必要性が、実感を伴って受け継がれていく社会。歴史的背景を考えることが汎用性の高いスキルの一つとして認知され、奨励され活用される社会。そのような社会の実現を、私たちは目指しています。
組織と活動の詳細はこちらをご覧ください。
一般参加者に「研究者の問題関心」を知ってもらうとともに最新の歴史研究の知見を社会に還元するため、参加型ワークショップや連続講座などを企画・開催しています。英米圏のアカデミアで重視されつつあるパブリック・エンゲージメントを若手研究者が企画・実践する、ボトムアップの取り組みです。
2018~19年には、国立西洋美術館で開催中の美術展に合わせた講演会シリーズ「『ミケランジェロ展』を3倍楽しむ。」「『ルーベンス展』を3倍楽しむ。」「『ハプスブルク展』を4倍楽しむ。」を行いました。それぞれの芸術が生まれた時代背景を新進気鋭の研究者が解説し、好評を博しました。
2019~20年に2回開催した「史料読解ワークショップ」では、専門家による解説の後、事前配付された資料を用いて参加者同士が議論するグループワークを行い、過去の史料を読み解く楽しさと難しさを共有しました。
2020~21年に開催した連続講座「伝記の読み方を考える」では、歴史上の偉人のイメージの形成に伝記が果たしてきた役割について考えました。講演動画はYouTubeで配信され、講演録の書籍化も予定されています。
「歴史家ワークショップ」は卓越した研究者を輩出し、世界最高水準の研究成果を広く社会に還元することを目標に、事業の組織化と拡充を進めています。日本の歴史研究を活性化させ、その知見に基づいた未来社会像の構築を加速させる諸活動は、東京大学の重要なパブリック・エンゲージメントです。当事業の継続とさらなる発展のために、この度「歴史家ワークショップ支援基金」を設立し、皆さまからのご支援をお願いすることとしました。当基金を通じていただくご支援は大学発の社会貢献事業に活かされ、より良い未来社会の構築につながるでしょう。皆さまの温かなご理解・ご協力、そしてご支援を心よりお願い申し上げます。
2022年05月26日(木)
2022年01月25日(火)
歴史家ワークショップはユニークでシームレスな支援を通じて歴史学研究者の研究能力と発信力を高め、国際的にも評価される高度な研究成果を社会に還元することを目指し、
1)国際発信力強化
2)知識共有・ピアサポート
3)社会との成果共有
を3つの柱として、数多くのプログラムを実施しています。2021年4月から12月にかけて、いずれもオンラインで行われた事業は以下のとおりです。
1)国際発信力強化
◆リサーチ・ショウケース
・第13回リサーチ・ショウケース (2021年7月28・29日、発表者15名/参加者30名)
・第14回リサーチ・ショウケース (2021年11月9・10日、発表者13名/参加者25名)
◆フロントランナー・シリーズ:多言語論文執筆セミナー
・フロントランナー・シリーズ7(2021年5月20日、参加者45名)
・フロントランナー・シリーズ8(2021年7月15日、参加者35名)
・フロントランナー・シリーズ9(2021年9月8日、参加者63名)
・フロントランナー・シリーズ10(2021年11月17日、参加者20名)
◆英文校閲ワークショップ
・第4期英文校閲ワークショップ(2021年4月8日~8月19日、全9回、参加者各回9~60名/のべ179名)
・原稿検討会(2021年6月7日~8月9日、全8回、参加者各回約6名)
◆国際シンポジウム
・Health, Body, and the Profit Motive: Medicine as a Business in History(2021年11月19-20日、発表者14名/参加者40名)
2)知識共有・ピアサポート
◆コーヒータイム・シリーズ
・Coffee Time Series 5「あなたの研究を3分で」(2021年7月23日、発表者8名/参加者37名)
・Coffee Time Series 6「研究者のライフプラン:留学・博論・育児」(2021年9月24日、参加者38名)
◆スキル・ワークショップ
・「スライド道場 リターンズ!」(2021年10月25日、発表者2名/録画再生回数約200回)
・「歴史地図を描く:研究発表に使える作画法」(2021年7月27日、発表者1名/参加者95名)
「歴史地図を描く:研究発表に使える作画法」で作画を実践する講師
◆特別ワークショップ
・特別ワークショップ「日本の大学で西洋史学を教える:教室での実践から」(2021年5月15日、於武蔵大学、第71回西洋史学会と共催、参加者240名)
◆Tokyo Digital History
・Tokyo Digital History第2回研究会(2021年6月30日、参加者17名)
・Tokyo Digital History第3回研究会(2021年7月29日、参加者17名)
3)社会との成果共有
◆パブリック・エンゲージメント
・「配信時代のアウトリーチ」(2021年9月25日、録画再生回数約2,000回)
「配信時代のアウトリーチ」では気鋭の研究者かつ人気ユーチューバーのお二人を講師に迎えました
各プログラムの詳細は、歴史家ワークショップウェブサイトをご参照ください。
皆さまからいただきましたご厚志は、これから実施される同様のプログラムに、大切に使わせていただきます。引き続き、温かいご支援をよろしくお願いいたします。
2021年12月14日(火)
歴史家ワークショップへの温かなご支援をありがとうございます。
この度、本会運営委員でもある安平弦司さん(日本学術振興会・武蔵大学・ユトレヒト大学)が執筆した論文、’Transforming the Urban Space: Catholic Survival Through Spatial Practices in Post-Reformation Utrecht’が、英歴史学雑誌Past & Presentオンライン版(advance access)に2021年12月13日(日本時間)に掲載されました。
1952年創刊のPast & Present誌は、英語圏でもっとも著名な総合歴史雑誌の一つとして知られ、本誌から論文を出版することに成功した若手研究者は、その分野の新たなリーダーとしてひろく認知されます。安平さんの論文はオープンアクセス化されており、末尾のリンクから全文を無料で閲覧・ダウンロードできます。紙媒体としては255号(2022年5月)に掲載予定です。
この度安平さんが公表された論文は、2019年10月から2020年3月にかけて開催されていた第2期英文校閲ワークショップや、2019年11月開催の原稿検討会にて検討したものです。歴史家ワークショップ一同、日本に拠点を持つ西洋史研究者としては前例のない安平さんの快挙を祝い、今後ますますのご活躍を期待しています。
論文要旨(和文)はこちらからご覧いただけます:https://historiansworkshop.org/2021/12/13/yasuhira_pp/
論文・論文要旨(英文)はこちらから:https://doi.org/10.1093/pastj/gtab014
2021年11月12日(金)
東京大学基金活動報告会2021 第2部オンライン交流会冒頭にて行いました、プロジェクト活動報告の動画です。
2021年09月14日(火)
歴史家ワークショップへのご支援をありがとうございます。2021年7月27日(火)に開催され、好評を博したスキル・ワークショップ「歴史地図を描く」の開催報告および録画動画をご覧いただけます。
拡大した白地図にマウスで境界線を丁寧に描いていきます…
「液タブ」だと描線も少し楽だそうです
歴史家ワークショップは高度な学問的訓練を持続可能な形で行うため、所属機関や専門分野を超えたコミュニティ形成とスキル共有のための若手研究者自身による企画を支援しています。京都大学博士課程に在籍する大学院生の企画・司会進行による上記イベントは、学生や研究者だけでなく出版編集者や高校教員など幅広い参加者約100名を集め、悩める人々の地図作成スキル向上に寄与しました。
*同じ企画者による「配信時代のアウトリーチ」(9月25日(土)21:00~23:00)では、YouTubeやSNSを駆使して研究成果の発信を行う気鋭の歴史家2名(藤村シシンさん、ヒロ・ヒライさん)をお招きします。歴史家ワークショップ公式YouTubeチャンネルで生配信しますので、ぜひご覧ください。
本プロジェクトは令和2年3月31日をもって寄付募集を終了いたしました。
ご支援ありがとうございました。
これまでの成果報告および基金残高の今後の活用方針につきましては、「活動報告」ページをご覧ください。
東京大学医科学研究所創立125周年・改組50周年記念事業「IMSUT One to Gogo基金」
募集終了
日本が誇る気鋭の歴史学者、山本浩司先生の利他的・献身的な社会貢献を微力ながら支援させていただくことができれば幸甚に存じます。
<歴史家ワークショップ支援基金>
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<歴史家ワークショップ支援基金>
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と聞くと、一名を除き「名前も知らない」ということでした。50歳台の管理職たちも「学徒動員」は聞いたこともないということでした。
右派左派で分裂した歴史観のため近代史を教えてこなかった現状は恐ろしい状態と思います。
歴史家ガンバレ。
<歴史家ワークショップ支援基金>
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