東京の未来は、果たしてどのような姿になるのか?
これは、私たちが建築の設計を考えながら常に抱き続けている関心です。東京の街は、世界のどんな都市にもない潜在的な魅力と可能性に満ちている。これも、私たちが常に確信を持って東京という都市に向けてきた眼差しです。この東京という都市に今、大きな変革が訪れようとしています。
一つには、自動運転やスモールモビリティ※1、パーソナルモビリティ※2、さらにはドローンや古くから親しまれてきた自転車などが、都市の主要な移動手段として存在感を増していることです。これは、かつて電車や自動車、飛行機などが発明された際に、人々の働き方、住まい方、都市が大きく変わったことにも匹敵する大きな変革だと、私たちは捉えています。
もう一つには、covid19の世界的な感染拡大によって、移動に大きな制限が課されているという今日の状況があります。これは、グローバリゼーションを支えた大量/高速の移動手段と、それ に伴う働き方、住まい方の限界が露わになったとも言えるでしょう。 この二つの事象が同時に起きていることは、決して偶然ではありません。「移動」は、人間の自由を支える基本的な権利です。そのあり方を再考する最大のチャンスが訪れているのです。
私たちは、この「移動」の未来を、東京を舞台に構想/発展させてきました。それは、拡大成長を前提とした20世紀的な方法ではなく、既存の都市を読み替え(別の視点から見、その新たな可能性を模索し)、使い倒す想像力に支えられた、これまでにない「東京計画2021」、学生たちが中心となって描かれる未来の東京のかたちです。
模型製作風景
この度、スペインのグッゲンハイム美術館ビルバオで開催される「Motion. Autos, Art, Architecture」展は、この「東京計画2021」を世に問う絶好の機会です。東京という世界に例を見ない都市から立ち上げた構想が、これからの「移動」、働き方、住まい方を考える契機となり、さらには東京という都市の魅力を世界に発信するまたとないチャンスです。 この展覧会への出展に向け、皆様方からの暖かいご支援、ご協力を必要としています。学生たちが中心となって描く未来の東京をかたちにし、世に問い、そして展覧会を通じた海外経験の支援ができますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻
教授 千葉学
※1 スマートモビリティとは
「モビリティ(mobility)」とは「流動性」や「移動性」を意味する言葉。つまり「スマートモビリティ」とは、AIや新しいテクノロジーを用いて、交通や移動をよりスマートにする新たな技術、またはその概念。代表的な物としては自動車運転技術やカーシェアリング。
※2 パーソナルモビリティとは
町中での近距離移動を想定した 1~2人乗りの小型電動コンセプトカーなどを指す次世代自動車の概念。
グッゲンハイム美術館ビルバオ
グッゲンハイム美術館ビルバオは、バスク市行政とソロモン・R・グッゲンハイム財団との前例にない強い連携により創設された。
1997年10月の開設から25年の時を経て、博物館は、ビルバオ市とその周辺地域に都市的、経済的、社会的再生をもたらし、今やビルバオ市の象徴的な存在となった。設計は建築家フランク・ゲーリーによるもので巨大なチタン、石、ガラス彫刻が用いられている。
2022年4月から9月まで、グッゲンハイム美術館ビルバオにおいて、世界を代表する建築家ノーマン・フォスター卿が企画・展示を行う「Motion. Autos, Art, Architecture」展が開催されます。その中の「The Future」室では、世界から15大学が招かれ、未来をテーマに展示が行われます。東京大学では、工学系研究科建築学専攻の千葉研究室が中心となり、モビリティ革新の時代における未来の都市像を、「東京計画2021」として展示します。
展覧会出展にあたり、展示作品の製作費およびプロジェクトに参加する学生の渡航費を支援する 「グッゲンハイム美術館ビルバオ展示支援基金」を立ち上げました。 モビリティの変革、コロナの世界的な感染拡大を受け、新たな都市の移動、働き方、住まい方を探るべく立ち上げた「東京計画2021」は、東京の銀座地区を中心に展開しています。特にAIによる最適化を核とした自動運転車やドローンが交通、物流を変革し、古くから世界中で親しまれてきた自転車が、インフラに頼らない簡便さと自由さ故に、既存の都市をフィールドに移動の様相を刷新しつつある今、東京という都市は、果たしてどのように描くことができるでしょうか。その未来を私たちはいくつかのプロジェクトに結実させました。
ビルクライムのイメージ
ビルクライム※3は、高度経済成長期の車移動を支えたKK線(東京高速道路)がその役割を終えつつある今、そのインフラをリノベーションして全長2キロ、標高240メートルの丘としてのビルを作り、その屋上をサイクリストの聖地にしようというものです。さらに巨大地下駐車場を銀座の新しい物流/マーケットの拠点に、立体駐車場を都市農園に、またビル群の屋上は、ドローンポートやスポーツコートなど、第二の地面として再生し、地上は車だけでなく様々なモビリティが共存するフィールドにする計画です。
地球温暖化が深刻な状況である今、低炭素社会や自然共生社会、循環型社会を構築するうえで、自転車利用の促進や多様なモビリティの共存、その先に描くことのできる新しい働き方や住まい方を視野に入れた社会を構想することは、とても重要なことだと私たちは考えています。世界的に注目を集めるであろう本展覧会において、こうした構想を千葉研究室の学生が模型を作成、グッゲンハイム美術館ビルバオにおいて展示することにより、多くのフィードバックを得るとともに、同テーマを通じた世界的な交流が活性化することを私たちは期待しています。
展覧会への出展を成功させるため、研究成果を十分に表現する展示作品の製作と参加学生の海外経験の支援ができるよう、皆様のあたたかいご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
※3 自転車では坂や峠を上ることを「ヒルクライム」といい、タイムを競う人気の大会もあります。「ビルクライム」では役目を終えたビルの高低差を活かした坂を上ることをイメージしています。
ノーマン・フォスター卿
建築家。イギリス、マンチェスター生まれ。銀行、美術館、空港から地下鉄に至るまで世界中で多様なプロジェクトを手がける。主な建築作品に「香港上海銀行・香港本店ビル」「ドイツ連邦議会新議事堂」「ロンドン市庁舎ビル」「大英博物館グレート・コート」「ミヨー橋」等。
東京には「センチュリータワー」がある。
高松宮殿下記念世界文化賞、建築部門のノーベル賞とも言われるプリツカー賞など受賞多数。1990年に英国騎士の称号、1999年には爵位を受けている。
ノーマン・フォスター財団
建築、デザイン、テクノロジー、芸術を結びつけ、研究やプロジェクトを通じた総合的な教育を促進するために、新世代の建築家、デザイナー、将来有望な都市計画の専門家の学際的思考を身に着けること、研究を奨励している。グローバルのその活動を展開、本部はマドリッド。
AIによる最適化を核とした自動運転車やドローンなどモビリティ分野の技術革新が起こるなか、20世紀的な高速/大量移動を象徴する自動車や鉄道から、新たな「移動」のあり方へと再考する時期を迎えています。
一方、古くから世界中で親しまれてきた自転車が、インフラに頼らない簡便さと自由さ故に、既存の都市を活用する際の小さなモビリティとして注目を集めています。しかし、我が国の現状を見れば、いまだ自動車や鉄道が交通の中心にあり、自転車レーンなどの街中のインフラは整備されているとは言い難い状況です。低炭素社会や自然共生社会、循環型社会を構築するうえでも、自転車利用を促進するとともに多様なモビリティが共存することが重要であると考えます。個別のモビリティの研究にとどまらず、モビリティが共存する未来の都市の姿を描くことを通じ、これからの時代に相応しい「移動」のあり方、そこに必要となる知見や技術、さらには新たな建築や都市の使い方/デザインの開発にも繋がると考えています。
世界的に注目を集めるであろう「Motion. Autos, Art, Architecture」展において、これまで発展させた内容を含め研究成果を展示することで、多方面より多くのフィードバックを得ることのほか、同テーマにおける世界的交流が期待できるでしょう。
また、コロナ禍で活動が制限されるなか、学生が海外の関係者と交流することは貴重な海外経験となると考えています。
東京都生まれ。2001年千葉学建築計画事務所設立。2013年より工学系研究科建築学専攻教授。スイス連邦工科大学(ETH)客員教授、東京大学副学長、ハーバード大学(GSD)デザインクリティークなどを歴任。
代表作に「日本盲導犬総合センター」「大多喜町役場」「工学院大学125周年総合教育棟」。学内では「安田講堂改修」や「目白台インターナショナルビレッジ」の設計(東京大学キャンパス計画室)などがある。日本建築学会賞、BCS賞、ユネスコ文化遺産保全のためのアジア太平洋賞など受賞。主な著書に「そこにしかない形式」(TOTO出版)、「人の集まり方をデザインする」(王国社)など。
2023年03月10日(金)
皆様のご厚志により無事グッゲンハイム美術館ビルバオでの展示を終えたのち、ドイツのAutostadt Museum, Wolfsburgへの巡回展に参加する事ができました。
https://www.autostadt.de/en/-/future-of-motion
会期:2023年2月17日~6月4日
2022年9月12~13日には、グッゲンハイム美術館ビルバオでのキュレーターであるノーマン・フォスター卿も参加してのシンポジウム「Future Mobilities Conference」にオンライン出席しました。
2023年2月16日には、マドリッド工科大学とのレクチャーイベントも行われました。当日の様子は近日中に国際交流基金マドリッドのウェブサイトにて公開される予定です。
日本においては、2022年10月21日~3月19日の会期にて、建築専門ギャラリーのTOTOギャラリー・間の企画展に関連作品を出展しています。
https://jp.toto.com/gallerma/ex221021/index.htm
ドイツでの展覧会終了後も更なる巡回展や凱旋展の話が出ておりますが、現在の資金状況では出展や日本へ持ち帰る事も難しいのが実情です。つきましては、引き続き皆様のあたたかいご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2022年08月22日(月)
皆様のご厚志により、プロジェクトに参画した学生 10 名のうち 5 名が渡欧し、長期間かけて作り上げた大型模型をグッゲンハイム美術館ビルバオに設置、無事に展覧会のオープンを迎えることができました。おかげさまで、私達の展示作品に対し来館者および美術館職員の方々が高い関心を持ってくださっている旨の報告を受けています。
~長い製作期間や輸送の苦労が報われた瞬間~
約4m四方の模型は、製作に半年を要しました。銀座のほぼすべての範囲を含むように模型の縮尺は300分の1、人間は米粒くらいの大きさです。
2000を超えるビルをひとつひとつ手作業でつくり、木々も一本ずつ立てていきました。
年末も作業に追われ、完成したのは2022年2月。日本で皆様にお見せする間もなくスペインに送り出されました。
国際輸送の関係上、大きな模型は7つに分割せざるを得ませんでした。現地ではそれらを再び組み合わせ、輸送中のダメージの修復作業が必要なため、千葉研究室から5名の学生がスペインへ渡航しました。
現地での製作中には、キュレーターであるフォスター卿にご挨拶する機会があり、コロナ禍における開催を喜び合うことができました。
設営風景
~今後の展望~
無事にスペインでの展覧会を迎えることができましたが、これでプロジェクトが完結したわけではありません。
銀座を敷地とするこの巨大な模型による私たちの提案は、日本の皆様に提示され、都市や街づくりに対する新たなきっかけづくりとなることで、はじめて意義があるのだと考えます。
ですから、私たちは日本での凱旋展示を開催したいと願っております。
それに向けて、この秋には千葉研究室の学生が再びスペインに渡航し、模型を日本に向けて送り出す必要があります。
現在の資金状況では、展覧会終了後の模型の撤収、梱包作業、日本への輸送等のために現地へ派遣する学生の人数を減らす事を余儀なくされます。世界的な美術館の舞台裏に関わるという貴重な瞬間をできるだけ多くの学生に経験してもらいたく、また、無事に模型を持ち帰り、日本の皆様にご覧に入れたいと切に願っています。
つきましては、引き続き皆様のあたたかいご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
2022年05月17日(火)
タイムアウト東京のご協力を賜り、文化、旅行、都市生活に関するさまざまな革新的なアイデアを紹介する『Tokyo meets the world』において、プロジェクト設置責任者である千葉教授が世界一の自転車王国であるオランダの駐日大使、ペーター・ファン・デル・フリート氏と日本とオランダの自転車事情、サイクリストのためのより良い東京をつくること等について対談した様子をご紹介いただきました。
そのなかで、千葉研究室が提唱する「ビルクライム」プロジェクトを世界の多くの方に見ていただくべく、現在、グッゲンハイムビルバオ美術館にて展示中であること、そして活動への支援を呼び掛けていただきました。
<グッゲンハイム美術館ビルバオ展示支援基金>
それから、都市計画も居住性を優先。
高木による日陰確保、ビル・マンションの自立型電源も。
福祉施設も居住性が良くなるとトラブルが激減する。
<グッゲンハイム美術館ビルバオ展示支援基金>
<グッゲンハイム美術館ビルバオ展示支援基金>
<グッゲンハイム美術館ビルバオ展示支援基金>
<グッゲンハイム美術館ビルバオ展示支援基金>
<グッゲンハイム美術館ビルバオ展示支援基金>