初めまして、経済学図書館長の石原俊時です。経済学部資料室では100年以上にわたって、日本の歴史を語る上で欠かすことのできない資料の収集・保存に努めてきました。経済分野においては質・量ともに国内有数の本資料室所蔵資料は、まさに日本が誇る文化遺産といえます。これを後世に残さなくてはいけないという思いから、本基金を立ち上げました。そのための第一歩として、デジタルアーカイブ化や歴史資料の収集・保管を担う専門職であるアーキビストを育成したいと考えております。皆様の温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
歴史資料というと公文書をイメージされる方が多いかもしれませんが、公の歴史に関わる資料だけでなく、民間の歴史に関わる資料にも着目しなければ、この国の歴史、特に近現代史を語る上では不十分です。経済学部資料室では大正時代から、官公庁や各種団体の資料にとどまらず、企業資料を収集し、現在では数十万点に及ぶ資料を所蔵しています。
経済学部資料室では特に、産業に関わる一次資料を、経営者(「企業」)、労働者(「労働」)、統制者(「国家」)の三方向から満遍なく収集しています。特に企業など民間の資料については、公的保存機関が無い上に、その維持管理は資料の生成主体の浮沈と密接に関係するため、そもそも長期的に保存されること自体が稀なものです。資料室では各種ルートを通じてこうした保存困難な資料の収集に努めており、その所蔵数は日本でも屈指の量を誇ります。
当資料室では産業資料に加えて古今東西の社会科学関係の古典籍も収集しており、われわれが所蔵する最も有名なコレクションに「アダム・スミス文庫」があります。1920年、当時東京大学の教授で国際連盟の理事も兼ねていた新渡戸稲造がイギリス滞在中に、「経済学の父」とも称されるアダム・スミスの旧蔵書のうち約300冊を古書店で購入し、経済学部の独立を記念して寄贈しました。
アダム・スミスは、生前に原稿を全て焼却処分してしまったために、著作以外の活動についてわからない点が非常に多いとされています。スミスの蔵書分析を通じて、これまで謎とされていたスミスの知的世界の理解が大きく進むという点でこの文庫は極めて貴重です。
こうした歴史資料は、デジタルアーカイブを活用することによって、資料の破損・劣化防止はもちろんのこと「特定の場所に行かないと見ることができない」といった時間的、地理的な制約はなくなり、世界中のより多くの人がデータを共有でき、多くの研究に役立てることができます。
しかしながら、経済学部資料室が所蔵する数十万点におよぶ資料群のうち、媒体変換が必要な資料のデジタル化を完了するには、技術者の雇用・育成、撮影機材の拡充がまだまだ足りていないという現状があります。
デジタル化を含む資料保存には、1ページあたり約100円の経費が必要です。皆様からのワンコインのご寄付が歴史資料の保存・修復・デジタル化への第一歩につながります。
「アーキビスト」という職業をご存知でしょうか。アーキビストは文書の管理・保存の専門家です。図書館司書、博物館学芸員とともに日本の歴史資料の保存を担う専門職の一つで、資料にとってみれば総合的な判断を下せる医師(ホームドクター)のような存在でもあります。貴重な資料を次の世代に繋げるには、デジタルアーカイブのほかにも、文書管理・保存のプロフェッショナル「アーキビスト」の存在が欠かせません。
しかしながら、日本ではまだ認知度が低く、また、学芸員や司書は国家資格であるのに対し、アーキビストには資格もありません。資料の収集・保存を専門の知識を持たない一般の職員が行っているケースが非常に多いという実情を踏まえ、公文書や行政資料に関する制度は整えられつつあるのですが、企業など民間の資料に関する制度の整備はまだまだ遅れています。このような状態が長く続けば、後世に残していくべき貴重な資料が失われていくことになります。企業資料を多く所蔵する当資料室だからこそ、その欠落部分を補うことができると考えています。
貴重な文化遺産を未来に残すためには、アーキビストを育成し、その役割をもっと知ってもらうことが必要です。
経済学部資料室では、企業史料協議会をはじめとする各種関連団体と協働し、アーキビスト育成プログラムの確立に貢献していきたいと考えております。 また、学部学生や院生に対して全学体験ゼミナールなどを通じてアーキビストの営みに直接触れる機会を設けると同時に、公開講演会等の開催によりアーキビストの社会的役割をなるべくたくさんの方に知っていただく活動をさらに展開してまいります。
皆様の温かいご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。
2024年02月29日(木)
2023年は、前年に引き続き、資料保存のための人材育成や社会啓蒙活動を進めつつ、社会との対話をより重視し、東京大学経済学図書館・経済学部資料室の活動について国内外に広く周知を図るべく以下のような事業を展開しました。
(1)東京大学経済学部資料室フォーラム
学内外の識者を招いて当館の資料や東京大学にまつわる話題を提供いただく取り組みです。2023年はハイブリッド形式で以下のように2回開催しました。どちらも対面・オンライン合せて100名近い参加者を得ました。
・1月21日(土)「加賀藩士の江戸参府」本多俊彦氏(金沢学院大学文学部教授)
・3月4日(土)「グローバルスタンダードとローカルノリッジを繋ぐ : 図書館を通じた東南アジア地域研究の実践」大野美紀子氏(京都大学東南アジア地域研究研究所准教授)
(2)特別展「近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス):東京大学経済学図書館蔵ウィリアム・ホガース版画(大河内コレクション)のすべて」
本館が所蔵する18世紀イギリスを代表する画家ウィリアム・ホガース(William Hogarth)の版画(本学元総長・大河内一男と名誉教授・大河内暁男旧蔵コレクション)全71点を一同に公開しました。展示版画の周囲に観覧者が付箋で意見や質問を貼れ、また自由に誰でもそれに回答できるという、アナログな手法による情報共有・意見交換が可能な展示方法が話題を呼びました。会期中の総入場者数は2784名におよび盛況を博しました。
・会期:5月13日(土)より6月25日(日)
・会場:東京大学駒場博物館
・記念講演会:6月17日(土)
講師:大石和欣氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)、三浦篤氏(東京大学大学院総合文化研究科客員教授・駒場博物館館長)
このほか、前年に引き続き、東京大学学部前期課程の全学体験ゼミナール(https://catalog.he.u-tokyo.ac.jp/detail?code=31514&year=2023)、第28回ビジネスアーキビスト研修講座(https://www.baa.gr.jp/syousai.asp?id=729)、デジタル文書資料管理講座- 企業アーカイブズとデジタルをつなぐ -(https://www.baa.gr.jp/syousai.asp?id=714)、図書館資料保存アカデミー(https://www.lib.e.u-tokyo.ac.jp/?page_id=14768)など、学生教育や学内外の司書・アーキビスト・学芸員といった資料保存に関わる専門職への再教育を通じて、資料保存ための人材育成や社会啓蒙活動を推進しました。また、資料の修復やデジタル化に関しても劣化資料や絵画資料を中心に進めました。
2023年04月26日(水)
東京大学経済学図書館蔵ウィリアムホガース版画(大河内コレクション)のすべて
近代ロンドンの繁栄と混沌(カオス)
日時:2023年5月13日(土)~6月25日(日)*会期中火曜日は閉館
10時~17時 (入館は16時30分まで)
場所:東京大学駒場博物館(東京都目黒区駒場3-8-1)
本館が所蔵する18世紀イギリスを代表する画家ウィリアム・ホガース(William Hogarth)の版画(本学元総長・大河内一男と名誉教授・大河内暁男旧蔵コレクション)全71点を一同に公開します。 ホガースの銅版画は、同時期のイギリスの社会・文化・風俗などを批判的に描いたもので、当時の人々が争って購入したものでした。何気ない描写の端々に深い意味が込められた作品の背後には、18世紀ロンドンの繁栄と混沌(カオス)が凝縮されています。
◆開催記念講演会
2023年6月17日(土)14時~17時(ハイブリッド開催)【予定】
会場:学際交流ホール(駒場Iキャンパス アドミニストレーション棟3階)
講演(1) 大石和欣(東京大学大学院総合文化研究科教授)
講演(2) 三浦 篤(東京大学大学院総合文化研究科客員教授・駒場博物館館長)
※講演会の詳細は確定次第、改めて告知いたします。
◆関連イベント
東京大学駒場博物館・目黒区教育委員会連携講座:ワークショップ「ウィリアム・ホガースの版画を使って人文学研究の発想や手法を体験する」(2023年5月27日開催)
2023年02月13日(月)
2022年は、資料保存のための人材育成や社会啓蒙活動といった経済学図書館・経済学部資料室の活動の社会的認知を高めるための諸活動に力を入れました。人材育成の面では、2022年前半(Sターム)の授業において資料室所属の教員による全学体験ゼミナール「図書館・文書館・博物館の裏側に迫る:制度・経営・資料の保存の実際」を開講し、見学や実習を中核として図書館・文書館・博物館といった資料保存機関の社会的意義を実体験させる大学初年次教育プログラムを始動させました。また司書・アーキビスト・学芸員といった資料保存に関わる専門職への再教育についても、学内外の関係機関・団体や企業が主催するセミナーに協力する形で資料室所属の教員が出講しました。
・全学体験ゼミナールシラバス
https://catalog.he.u-tokyo.ac.jp/detail?code=31553&year=2022
・第5回東京大学学術資産アーカイブ化推進室主催セミナー「紙資料の保存管理の実際」
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/contents/archives-top/seminar#ap_6
・第27回ビジネスアーキビスト研修講座
https://www.baa.gr.jp/syousai.asp?id=705
・図書館資料保存アカデミー「図書館の環境マネジメント」
https://www.kihara-lib.co.jp/libraryfair2022/academy
さらに資料室の活動を一般の方々に知って頂くため、2022年2月7日はオンライン連続講座「知の継承(バトン)」第2回:海を渡った「アダム・スミスの蔵書」~西欧思想の伝播と日本」を、12月14日には、2022年度東京大学経済学部資料室フォーラム「知の寄席へおいでなさい」第1回を開催しました。前者は全国から548名もの申込みがあり、後者は対面・オンラインを合わせて100名近い参加者を得て、いずれも盛会に終えることができました。
オンラインセミナー
第1回資料室フォーラムの様子
前者のオンライン講座はYouTubeで公開しています。
2023年秋には、経済学部資料室が創設110年を迎えます。また2023年は経済学の祖と呼ばれるアダム・スミスの生誕300年にもあたります。このため東京大学経済学図書館・経済学部資料室では、人材育成や社会啓蒙活動などを通じて社会に広く貢献する活動により一層力を入れてゆく所存です。今後も益々のご支援をよろしくお願いいたします。
2022年09月07日(水)
常日頃からの当資料室の活動へのご理解ご支援、改めて感謝いたします。
さて、去る7月25日(月)、3年ぶりの東大基金活動報告会においてプロジェクト体験ツアーを執り行い、経済学部資料室も寄付者の方々にご見学いただきました。
今回は経済学部図書館にて実施、図書館ロビーに並べられたアダムスミス文庫から選定した資料及び『国富論』『資本論』『人口論』など経済学の古典の初版本についての解説の後、撮影室へ移動、資料室長代理の小島からの説明に続いて、貴重な資料を子々孫々に至るまで受け継ぐための撮影とデータ化の作業の様子をご覧いただきました。質疑応答では活発な質問も行き交い、我々としても大変嬉しく思いました。足を運んでくださった皆様、ありがとうございました。
今回は経済学図書館でのご案内となりましたが、当基金への寄付者の方への特典ツアーは小島ホールにある経済学部資料室にて開催し、当資料室にて保管している貴重な資料を更にご覧いただくと共に、資料保存の裏側についても様々にご案内することを計画しております。
是非ともご検討ください。
<経済学部資料室支援プロジェクト~貴重な資料を次世代に~>
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<経済学部資料室支援プロジェクト~貴重な資料を次世代に~>
<経済学部資料室支援プロジェクト~貴重な資料を次世代に~>
また、経済学図書館・経済学部資料室の蔵書に関心があります。
<経済学部資料室支援プロジェクト~貴重な資料を次世代に~>
ねつ造された事実も、ねつ造を暴く文書もありのままにさらけ出すのが良いように思います。
ただ整備するだけでなく、複眼思考の人が増えるようアクティブな情報発信を期待します。
<経済学部資料室支援プロジェクト~貴重な資料を次世代に~>