現在、アジアは世界人口の6割以上を占め、世界の過半の資源を消費しているといわれています。人類の存続を脅かす様々な危機が噴出している現代世界において、西洋中心主義的な諸概念のみならず、アジアに根差した不確実性に対応する知恵をアジアの経験から体系化、普遍化して世界に開くことは社会的要請となっています。
東洋文化研究所は、最高水準のアジア研究環境を整備し、世界に開くことで、国際的ハブ拠点機能をさらに強化します。そして、SDGs達成に資する最先端のアジア研究を推進するとともに、国際的な視座を持ったアジア研究者を育成することで、アジア研究の新しい知的展開を促進させるため、このたび特定基金を設置しました。
皆様の温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
東京大学東洋文化研究所
所長 中島 隆博
東洋文化研究所は、「東洋文化に関する綜合的研究」実施のために1941年に創設された東京大学の附置研究所で、80年以上の歴史があります。
研究の主な対象地域はアジア諸言語を用いる地域で、西は北アフリカを含むアラビア語圏から東は日本まで、北はロシア連邦を含むアルタイ諸語圏から南はインドネシアまで、ユーラシア大陸を中心に広大な範囲が含まれます。同時に、学問のグローバル化の中、研究の連携地域はユーラシア大陸を超えて、その他の大陸にも及んでいます。
学問分野としては政治、社会、法律、経済、宗教、思想、文化、人類、歴史、考古、文学、美術など多岐にわたっています。
東洋文化研究所図書室はアジア地域に関する図書70万冊の所蔵を誇ります。特に、24万冊の漢籍を中心とする東アジア関係資料はアジア研究のための第一級資料です。正平本「論語」(14世紀前半、日本で仏教経典以外では最初の木版印刷の書籍)や「哲学の導き」注解書の写本(13世紀、アラビア語)など、国内外機関でも所蔵していない、今日では収集困難な貴重書、コレクションも数多く所蔵します。
これらの資料は、現在、貴重書庫において適正に管理された環境のもとで保管されていますが、その空調の維持や更新には多大な費用がかかります。
また、戦前、戦後の現地調査の写真も数多く保存しています。これらの調査写真に収められた建築等については、現存しないものも多く、その資料価値は世界的にも高い評価を得ています。これらの貴重な資料や漢籍を国内外の多くの方が閲覧できるようにするため 、目録作成といった資料化に併せて高画質なデジタルアーカイブ化をすすめます。
東京大学インド史跡調査団
シェイフ=シハーブッディーン=タージ=ハーン墓、デリー
世界が「分裂」の危機にあふれている今、「分裂」の当事者として歴史を歩んできたアジアの地域研究者は、地域や学界の枠組みを超えて「アジアの経験」に根ざした新しい視点の研究を世界へ発信することが求められています。
本研究所は、これまで培ってきたアジア研究・教育連携ネットワークを活用してアジア研究のアジア化、普遍化を推進する、Global Asian Studies(GAS)プロジェクトを2022年度に独自に立ち上げました。
地球規模の諸課題をテーマに世界の研究者らとの対話の場を創出して、アジアの相互理解やあたらしい発見を促していきます。また、その成果をブックレットとして刊行していきます。
特に国際交流基金と共同運営しているJF-GJSフェローシッププログラムでは、アジアの日本研究者と日本のアジア研究者の対話を促進すべく、毎年数名のポストドクターを訪問研究員として受入れています。 GAS活動を通じて世界のアジア研究者との交流をさらに活性化します。
詳細はこちら↓
・GAS
本研究所は2つの大きな出版事業を展開しています。1つめは平成16年度から刊行開始している『International Journal of Asian Studies』。アジアに関する人文・社会科学研究成果を世界から募集し、東洋文化研究所が編集してCambridge Univ. Pressより英語で出版しています。優れたアジア研究の到達点を英語圏の研究者に紹介する役割も果たしています。
2つめは日本の優良なアジア研究成果を英訳し、一流英文出版社であるSpringer社から出版する『The University of Tokyo Studies on Asia』。現在、出版準備をすすめており、第1刊は近日中に発行予定です。
どちらの出版事業もオープンアクセス出版となっており、世界中の研究者と知識が共有され、東京大学発の最先端リベラルアーツを全世界の若者へ国際発信することで平等な学びの経験を提供しています。
皆様からいただいたご寄付は大切に活用させていただきます。
・アジア研究資料の保全、デジタル化
・国際連携活動の促進
・研究成果国際発信の促進
・研究人材の育成 など
2024年12月12日(木)
東洋文化研究所は国際交流基金と2022年に協定を結び、JF-GJSイニシアチブという総称のもとで、様々な共同作業をおこなっています。
その一環として、2024年11月8日(金)に、東京大学伊藤国際学術研究センターで、日本各地で学んでいるJF日本研究フェローたちが一堂に会したイベント「JF-GJS日本研究フェロー・カンファレンス2024」を開催しました。当日は東洋文化研究所が受け入れているJF-GJSフェロー2名を含む49名の日本研究フェロー、それに民間財団や基金の関係者などを含め、合計で140名近い人びとが集まりました。
基調講演はシンガポール国立大学日本研究学科長であるLIM Beng Choo教授。
「日本研究の現在地:その向かうべき方向性を探る」をテーマに、LIM教授は「学際的な挑戦的研究こそ日本研究が進むべき道である」と主張し、この講演をめぐって3名の東文研関係者中心となってラウンドテーブル形式で討論を行いました(写真は国際交流基金の提供による)。
午後はフェローによる研究発表。全体の司会は中島隆博東文研所長が行い、3名のフェローが自身の研究成果を発表しました。最初にフィリピン出身のTANA Maria Thaemar(JF-GJSフェロー)さんは「日本の外交・安全保障政策:進化する戦略姿勢における人間の安全保障」というテーマで報告をし、次にアメリカ出身のDECKER Joseph Lyndon(JF日本研究フェロー/インディアナ大学大学院)さんは「聖なる巡礼道から世界遺産へ:熊野古道再生と巡礼ツーリズム」というテーマで報告しました。最後にAHUJANisshtha(JF日本研究フェロー/デリー大学大学院)さんは「訪日女性外国人の目に映った近代日本人女性像」というテーマの報告をしました。外交や宗教、女性などそれぞれにキーワードが異なるものの、これらの報告に、東文研の3名の教員がそれぞれ討論者となり、研究の深化のために必要な深堀作業を行いました。
また今後の連携をより強める場として、並行してポスター・ネットワーキング・イベントも開催されました。各フェローの研究をまとめたペーパーを多目的スペースに張り出し、フェローたちはそれを見つつ、活発な意見交換を行っていました。
東洋文化研究所基金は、このようなアジア/世界と日本の知的対話を促進する活動を支える大切な財源です。皆様からの温かいご支援をお願いいたします。
~東文研教員から~
アジア大洋州における日本研究とその未来
アジア大洋州地域における日本研究は、その歴史や研究教育環境、日本との関係、各国政府の姿勢や市民の関心の違いなどによって、多様な発展パターンを示しています。しかも、その活動は多様な言語でなされ、日本研究の「現地化」とでも評すべき現象が起きているので、全体像を捕まえることは容易ではありません。
草創期の日本研究は、その多くのエネルギーが日本語理解と日本語教育に使われました。日本に対する知的関心は、日本語習得に向かうのが通常ですから、日本研究の歴史が厚く、多様な研究者を抱える東アジアにあっても、現地市民の日本語学習へのニーズに呼応すべく日本語教育を専門にする研究者が多い状況にあります。
1960年代の日本の高度成長期には、アジアにおける「雁行的発展」のトップを日本がリードしていたこともあって、経済に強い関心が注がれました。アメリカの日本研究ばかりか、日本国内における「西側から見た日本」への強い関心にも支えられ、経済発展であれ社会組織であれ、他のアジア地域と異なる(しかも欧米とも異なる)日本の「特殊性」に関心が向けられていたのです。
1990年代後半になると、日本の経済的プレゼンスは影を潜め、アニメやマンガといった日本の大衆文化のプレゼンスが大きくなります。そしてアジア大洋州の若者は、日常的な接触から日本への知的関心を喚起するようになります。日常的に日本の大衆文化に接する中で作られる日本への関心は、1960年代のそれとは当然のことながら異なっていました。
では、現在はどうでしょう。アジアの一部では、日本研究を志す学生の減少と研究者自身の高齢化といった問題や、政府や民間機関による日本研究への支援の減少、日本研究がもつ魅力・訴求力の低減や日本研究に対するニーズの変化といった現象が生まれており、その見通しは決して楽観視できません。日本の経済的プレゼンスの大きさや、魅力的な大衆文化のみでアジア大洋州の日本研究を成長させることができる時代は終わっています。これからの日本研究の未来は、質の高いユニークな、しかし多くの人々に裨益する研究をいかに生み出し、その魅力・訴求力を高められるかにかかっているといってよいでしょう。
そのためには、現在進んでいる日本研究の国際連携を一層強化し、各国の日本研究の強みを磨いてもらうこと、日本国内の人文社会研究の水準を高め、魅力・訴求力のある研究を生み出す、そして、自らの学知をアジア大洋州に開き、現在進行している国際連携の輪に加わることが必要です。
そのような状況下で、国際交流基金と連携し、アジア各国、世界各国で行われている次世代の日本研究者の育成に関わることは、本研究所にとっても大変意義ある活動だといえます。「東洋文化の総合的研究」を理念に掲げる東洋文化研究所は、今後ともアジア研究者の育成に積極的に加わり、アジア研究の世界的ハブとなれるよう活動を続けていきたいと思っています。
・GASの活動の詳細を知りたい方はHPをご覧ください。(英語のみ)→GAS
・園田教授のインタビューが掲載されている「東洋文化研究所News Letter」はこちら。 →NewsLetter2024秋季号
現場にいても局部しかわからない。
その上政治的・感情的バイアスがかかる。
文化も統制を受けていましたが、時がたつと
文化的なことはバイアスが弱まるように感じますが?
文化の現地・現物・現実の記録は宝と思います。
<東洋文化研究所基金>
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