
童謡「メダカの学校」に歌われるように、メダカは、我が国にひろく分布しており、古くから日本人に親しまれた野生生物です。しかし1980年代あたりから野生のメダカが各地で減少し、2003年にレッドデータブックに絶滅危惧種として指定されたことはマスコミでも大きく取り上げられ、各地で環境保全の動きを加速しました。
一方で、観賞用や教育教材用のメダカの放流などにより、屋外の野生メダカが本来の地域集団と遺伝子的に異なっている地域も多く確認されています。
東京大学大学院新領域創成科学研究科では、1985年から日本、中国、韓国で採集された野生のメダカを飼育して、地域ごとの遺伝的多様性を保存した形で系統維持事業を継続しており、数多くの学術研究に活用してきました。今般、研究科からの予算措置が困難となり、かけがえのないこれらのメダカの保全活動を継続するためには、基金を設置し、広くご支援を求めざるをえない状況になっています。
絶滅危惧種であるメダカを絶やすことなく、保全活動を続けて次の世代に引き継いでいくには、皆様からの長期的かつ継続的なご支援が必要です。私たちが多様な生物と共存し、暮らしている自然の記録を未来へ伝えていく活動にご協力をお願いいたします。
東京大学柏キャンパスでは、600㎡にわたるスペースに60Lのプラスティク性コンテナ約300個を設置し、野生集団由来のメダカ81系統および実験用メダカ約20系統の系統維持を行なっています。1985年度より文部省の予算によって、本郷キャンパス理学部2号館屋上にてメダカ自然野生集団の系統保存が開始されました。
2002年には柏キャンパスに現在の屋外飼育場が設置され、厳重に飼育維持されて現在に至っています。これらの自然野生メダカが地域固有集団であり、その遺伝的多様性を維持してきたことは、DNAレベルでも確認されています。
近年ゲノムプロジェクトが進み、ゲノム編集技術も確立されるなど、メダカのモデル生物としての有効性がますます有望視されているところですが、2020年度からは予算の見直しにより事業継続が困難となりました。これらの系統維持を継続し研究を継続するためには、皆様からの温かいご支援が必要です。
1.メダカの保全
当時の採集地の多くではすでにメダカが絶滅しており、野生メダカ系統は、失えば二度と取り戻すことのできない「生物誌」の記録になっています。本プロジェクトでは野生集団メダカ80系統の維持管理を行い、野生生物がもつ遺伝的多様性を次世代に受け渡します。
学術的には、新規遺伝子機能、環境適応能力の解明や進化の原動力に迫る研究に活用されます。また、小中高校からの施設見学受入や出前授業により、生物多様性や環境問題をローカルからグローバルに考える機会を提供します。
2.メダカを使った研究の推進
現状の野生集団メダカ80系統を維持管理し、メダカを使った以下の研究を進めます。
・低線量(率)放射線の長期被ばくが生物に与える影響の研究
1)生殖機能を含めた次世代への影響
2)抗酸化能などの生理的影響
・自然に健康に生きるための研究
1)自律神経と免疫の関連
2)食と運動が動物の健康に与える影響
・進化のメカニズムの研究
1)エピジェネティクスによる表現型の可塑性と自然選択
2)突然変異による適応的表現型のゲノムへの固定
3.野生メダカの遺伝子鑑定による日本列島のメダカ史の解明
メダカは、日本人が日本列島に来たよりもずっと昔から日本列島に住んできました。今までに氷河期、大津波、毎年の洪水、あるいは日照りによる水不足など、季節の変化が激しい日本列島の自然の中で栄枯盛衰を繰り返しながら現代まで生き抜いてきたことが少しづつわかりつつあります。野生メダカの歴史を解明し、日本列島の大先輩から進化のコツを学んで社会の皆さんに伝えてまいります。
4.屋外飼育しているメダカの毎日を通して気候変動への警鐘
南のインドネシアに起源がある Oryzias 属の中で唯一日本の冬を超える能力をもっているメダカは、冬の間は氷の張ったコンテナの底の泥にもぐってひたすら春を待っています。春になって暖かくなると、水温の上昇と日長とを合図にして産卵の準備を始めます。ですが、例年よりも早く暖かくなったり、4月に寒の戻りがあったりすると、メダカの産卵のサイクルが乱れます。屋外飼育場のメダカの生活は日本の四季と強くリンクしているので、気候変動の影響を敏感に教えてくれます。メダカの暮らしという視点から、気候変動を情報発信してまいります。
我が国の淡水に生息する野生メダカは、400万年以上の昔に大陸より日本列島にやってきて、多くの遺伝子が異なる地域集団が各地の水系ごとに生き続けてきた貴重な野生動物です。しかし人為的に放流されたブラックバスなど外来種によって捕食されたり、生息場所である用水路などの護岸工事によって繁殖ができる環境が失われるなど、生息環境の急激な悪化によって生息数が激減しました。
同時に、メダカが生息する環境を保全する目的で放流された異なる産地のメダカが、各地域にもともとすんでいたメダカと交配することによって、地域固有の遺伝的背景をもつメダカが次々といなくなる現象も起こり、1999年2月には環境庁(現 環境省)の絶滅危惧種に指定されました。
私たちにとって昔から親しみ深い動物であるメダカは、生命科学における有用な実験動物として国内外で広く活躍しています。実験動物としてのメダカは以下のような特徴が挙げられます。
・人間と同じ、脊椎動物である
・飼育が容易である。実験室において継代的に飼育が可能である
・卵膜が透明なので、体ができる発生の過程を容易に観察できる
・成魚も体躯の透明度が高いので、体の中を容易に観察できる
・交配(かけあわせ)の遺伝学的実験法が確立している
・遺伝子組換えメダカ、遺伝子ノックアウトメダカの作製が容易である
・種内の遺伝的多様性が極めて高い
・表現型の種内多様性が極めて高い
突然変異がどのように生まれるのか、またゲノムがどのように変化=進化していくのかに注目してメダカの研究を進めることで、生物の種分化、進化のメカニズムの解明に至りたいと考えています。
さらに、近年ゲノムプロジェクトが進み、ゲノム編集技術も確立され、モデル生物としての有効性がますます有望視されています。ヒトゲノムプロジェクトは全ゲノムのシークエンスが終了し、 見つかった約 3 万個の遺伝子の個々の機能を生理的に解析する第二段階に入っています。マウスよりも小回りが効くメダカは、ポストゲノムシークエンス時代における次世代モデル生物として非常に有用であると考えています。
2020年11月25日(水)
10月24日にオンライン開催された柏オープンキャンパスで、「メダカ自然集団の保全支援事業基金」の三谷教授と尾田准教授が公開イベントを行いました。「生物多様性の中のメダカ」というテーマで、生物多様性の実際とその意義について研究者と参加者が一緒に考える場となりました。
公開イベントの様子は、以下のリンクから動画でお楽しみいただけます。メダカを取り巻く最近の環境を知ることができ、先生方のメダカへの想いを感じられる内容です。是非ご覧ください。
https://webpark1015.sakura.ne.jp/Egami_Collection/newpage4.html
メダカ研究の発展をお祈りします!
<メダカ自然集団の保全事業支援基金>
<メダカ自然集団の保全事業支援基金>
<メダカ自然集団の保全事業支援基金>
当たり前の古き良き日本の光景が失われないよう、微力ながらご支援できればと思いました。
<メダカ自然集団の保全事業支援基金>
<メダカ自然集団の保全事業支援基金>