1903年のライト兄弟の初飛行、ツィオルコフスキーのロケット理論発表後、約120年の間に世界の航空宇宙工学は著しい発展を遂げました。その中で、1920年に東京帝国大学工科大学(現 東京大学工学部)に創設された航空学科(現 航空宇宙工学科)は、2020年に100周年を迎えます。
その間、本学科の卒業生は戦後初の国産航空機YS-11の実現や、「はやぶさ」など宇宙活動の展開を通じて、わが国の航空宇宙分野の先駆的な役割を果たしてきただけでなく、自動車産業など、その技術を活かした関連産業の発展にも大いに貢献してきました。その活躍の場は地上から宇宙まで広範囲にわたり、競争と協力の国際関係のなかで指導的立場にあります。
航空宇宙工学を志す学生および若手研究者は国際性を身につけ、海外の研究者・技術者と積極的に交流する必要があります。このため、2020年の航空学科創設100周年を機に、当該学生および若手研究者に海外渡航費や滞在費を経済的に支援する「航空宇宙研究教育支援基金」(愛称:世界に羽ばたく「ソラびと」を育てよう)を東京大学基金に設置しました。
航空学科創設100周年を祝い、次の100年への期待を込めて、ご支援をお願い申し上げます。
1903年 | ライト兄弟初飛行、ツィオルコフスキーのロケット理論 |
1918年 | 東京帝国大学工科大学航空学講座設置 |
1920年 | 航空学科創設 |
1945年 | 活動休止 ~1954年 |
1954年 | 航空学科再開、航空学専修・原動機学専修の2コース制 |
1963年 | 宇宙工学専修設置により3コース制 |
1993年 | 航空学科を航空宇宙工学科に改組 航空宇宙システム学専修と航空宇宙推進学専修の2コース制 |
2020年 | 航空学科創設100周年 |
次の100年を牽引する優秀な学生および若手研究者の海外武者修行のために、渡航費や滞在費等を支給する基金です。ぜひご協力ください。
【事業内容のお問い合わせ】
航空宇宙会事務局
E-mail:kokukai★aero.t.u-tokyo.ac.jp
( ※電子メール送信の際は、 ★を@に直してください。)
URL:http://www.aerospace.t.u-tokyo.ac.jp/alumni
2024年03月27日(水)
私は2022年10月から2023年3月までの半年間、ドイツのミュンヘン工科大学(TUM) Department of Aerospace and Geodesy Bachelorに交換留学しました。この度、航空学科創設 100 周年事業・航空宇宙研究教育支援基金ソラびとプログラムに採択され、奨学金を受給したことにより交換留学が実現したこと、深く感謝申し上げます。
大学入学以来、英語を勉強する対象としてではなく、実践的に第二言語というツールとして使うこと、そして海外でのキャリアに興味があった私にとって交換留学、そしてその実現を援助していただけるソラびとプログラムは願ってもない絶好の機会でした。実は以前、まだ前期教養にいたころ、1年生の春休みに短期留学プログラムに参加予定だったのですが、コロナの流行によって中止となってしまいました。今回、長いコロナ流行の時代後やっと掴んだ海外渡航の機会となりました。
ミュンヘン工科大学での交換留学生活では、主に以下の3つのことが得られました。
1. 実践的なプロジェクトへの参画
ミュンヘン工科大にはWARRと呼ばれる大規模な学生団体が存在し、Aerospaceに興味のある学生が各プロジェクトに取り組む意欲的なグループとなっています。6つのグループ(学生ロケット開発、宇宙エレベータ検討、月ローバ検討etc…)のうち、私はMOVEプロジェクトという1UのCubeSatプロジェクトに参画しました。現在、MOVEプロジェクトとして3機の1UCubeSatを打ち上げており、次機としてスペースデブリ検証をミッションとした6U衛星を2025年打ち上げ目標で開発している状況です。
私は軌道上で既に運用中のMOVE-IIという1U衛星の運用チーム(MCC)に参画し、CubeSatの衛星をどのようなプロセスで運用・管理するのかというところを、実際のプロジェクトに入り、衛星へのコマンド送信・ダウンリンクなどの実務に加え、修士の学生(学生MCCチームリーダー)からの直接のOJTを通じて学びました。MOVEプロジェクトはTUM Department of Aerospaceと協働しており、CubeSatの実際の開発については、多くの部分をAerospaceの学科に所属するProf. Walter研究室のExternal ResearcherであるDr. Messmannからの助言・指示を受けていました。個人的にMOVE-IIプロジェクトに関する研究テーマを彼から与えてもらったので、次項で説明したいと思います。
2. 研究経験
前述したとおり、1UCubeSatの運用チームに参画しており、MOVE-II衛星に関する研究テーマに取り組んでいました。内容としては、衛星姿勢・軌道の解析、モデリングです。姿勢制御装置として磁気トルカーのみを持つMOVE-II衛星は、太陽光発電の際の電磁誘導に因する磁気と地磁気の相互作用によりSpin Rateを増しており、Sun pointingとdetumblingによって回転をなんとか制御していました(衛星運用で実際にこれらのコマンドを頻繁に送信していました)。しかしSpin Rate増加のふるまいとして単調増加することが直観的に予想されるのに対して、実際の衛星データをプロットするとSpin Rateは振動しながら増加していました。この振動運動がなぜ起こるかがわからなかったため、Simulinkを用いて様々なシミュレーションを試すという研究テーマを与えてもらいました。形になるところまで研究を持っていくことは叶わなかったのですが、実際の衛星ミッション・データに準拠した研究テーマに従事させてもらうという貴重な経験を得られました。
3. 英語で生活・学業を行う環境
交換留学の要の部分として、異なるバックグラウンドを持った人々が集まる環境で学習・研究・プロジェクト参画を実践するという環境があります。異文化・言語下の環境に飛び込み、圧倒的なマイノリティとして日々を過ごすことは英語(だけではない)コミュニケーション能力の向上にとって非常に重要だと考えています。
東大で航空宇宙の授業を受講し、航空宇宙分野の学習を深めたタイミングだからこそ、東大以外の、特に文化圏も言語も全く異なるという環境で航空宇宙という軸を中心に学習・研究・プロジェクト参画などの活動を行うことで得られた知見はたくさんありました。加えてドイツは世界で最も移民を受け入れている国の一つであり、留学生や外国人に対してopen-mindedであるという日本とは対照的な特徴を持っているということも、新たな価値観や考え方の違いに触れるという意味で、非常に好環境だったと思います。こうした様々な活動・経験を通して見えた新たな水平線、景色がたくさんあり、「海外に出る」ということに対する認識の解像度が格段に高まりました。
また、衛星プロジェクトに従事することで、日常会話(比較的簡単な語彙を用いた双方向コミュニケーション)や講義(語彙は難しいがlisteningのみの一方向コミュニケーション)とはまた異なった、「専門用語(高度な語彙)を用いた双方向のコミュニケーション」の能力を鍛えることができました。将来国際学会での発表や海外の研究者とのコミュニケーションの機会が訪れたとき、この素養が非常に役立つと考えています。
改めて、この留学を通して得られたものは本当にたくさんあり、かけがえのない貴重な経験となりました。海外でキャリアを形成するとはどのようなものなのか、異文化理解とは、言語の壁を乗り越えるコミュニケーションとは何か、たくさんのことを学ぶことができました。まさに私にとって、海外に出るとはこういうことなんだよという知見を与えてくれる、Heads up!な体験となりました。これらの経験を血肉として、これからの航空宇宙業界でのキャリアに活かしていきたいと思います。ありがとうございました。
安福 亮
工学部航空宇宙学科4年(留学当時)
2024年03月27日(水)
この度、航空学科創設 100 周年事業・航空宇宙研究教育支援基金ソラびとプログラムよりご支援をいただき、ドイツのミュンヘン工科大学へ留学に行くことができました。ここに深く感謝の意を表します。初めての海外1人生活の中でたくさんの苦悩もありましたが、貴重な経験を得ることができました。稚拙ながらその学生生活を報告させていただきます。
私は2022年10月から2023年9月までの約一年間ドイツのミュンヘン工科大学(Technische Universität München 通称:TUM)にて交換留学をしておりました。ミュンヘンはドイツの南部に位置し、バイエルン州の州都です。ドイツの中でも3番目に大きな人口規模を持つ都市で、アルプスも近く治安もよくとても豊かな街です。ドイツといえば、ビール、ソーセージを思い浮かべると思いますが、バイエルンは特にその文化が強くオクトーバフェスが開催される街でもあります。歴史的にも、バイエルンはナチスドイツの活動拠点だったこともあり、街中にもその面影を少し感じることができます。今では人権運動のデモ抗議が行われている場所が、ヒトラーがかつて演説をしていた場所だったことが後でわかることがあり、歴史に触れている感覚を味わえます。また工業が盛んな街でもあります。ドイツの中でも航空宇宙産業が盛んな街で、例えばミュンヘンを本拠地とするBMWは自動車―メーカとして日本のトヨタやホンダなどと肩を並べる存在ですが、元々は飛行機エンジンを製造する会社です。また民間ロケットを製造するスタートアップや幾つもの航空機エンジン企業が集まっています。
私が通ったTUMは、日本の東大にあたる大学で、ドイツ国内でも人気が高く特に航空宇宙分野を学べる大学として、数少ない大学のうちの一つです。日本と異なり、修士課程の学生は講義ベースの授業スタイルで、日本の修士生活のように毎日研究室に通い、時折授業を受ける形とは全く異なりました。基本的には学部時代のように、授業をとり講義を受けておりました。授業形態は主に二種類あり、演習系と講義系があります。特に講義系は日本の授業と大きく異なることなく、教授の説明を聞き、わからないことがあれば挙手の方式で質問ができます。日本と大きく異なるのは、どの授業も丁寧に教えられ比較的わかりやすい点です。特に東大では、東大生ならわかるよねと、行間を自分で読む必要があることが多く、さらに学生も学生で真面目な学生は「やってやる」という人が多く、不真面目な学生は諦めるため文句を直接言う人はいなかったと思います。ドイツでは、不満や改善して欲しい点があると、しっかり意見する人が多く、またそれが理に適っていれば意見が通ることが多く面白い経験でした。ただしルールや規則は絶対で、理に適っていても規則に従っていないと頑なに受け入れられないことも多かったです(特に事務的な処理)。
授業では通常の講義のほかに、民間の企業の方が講師として開講される授業があり、アリアングループというアリアンロケットの生産を行う企業の方の話を聞く機会がありました。ロケットエンジンの仕組みや、製造法などより実用に近いことを学びます。東大在学時にも卒業設計を通じて同様の内容を既習しておりましが、視点が異なることから教えられる重点や範囲も若干異なります。特にミュンヘン近郊では、ロケット燃焼室の冷却溝を制作しており、その作成法を勉強するだけでなく実際に工場で見学できたことは貴重な体験でした。
ドイツ語の授業ではドイツ人がおらず国際的な雰囲気が楽しめました。ペアでディスカッションをする時間があり、アメリカ人の男の子と「食堂ではベジタリアンやビーガンの食事だけを提供すべきだ」と言うテーマで議論することになりました。自分は語学の練習と割り切っていたのですが、彼は彼自身がビーガンであることもあり、かなり情熱的に議論してきました。自分も熱が入り、そうではない、こうではないと頑張って伝えましたが、結局言い負かされ終わりました。拙いドイツ語でも簡潔に明確に意見を伝える彼に感服しながら、自分自身に不甲斐なさも感じました。意見を伝えることは、もちろん言語能力も必要ですが、精神的な面や慣れも必要だと強く感じました。
私は授業と並行して、PHDの方につき、PHDの方の研究を手伝う形で研究に携わっていました。そのため修士の研究においては、教授の方と話す機会は殆どなくPHDの監督の下、今後の方針や質問を聞くことになります。テーマに関してはメタン酸素ロケットエンジンの燃焼室におけるCFD(数値流体計算)のモデル改善とその実装を行いました。計算ベースの研究であることから、ひたすらコンピュータと睨めっこし、うまくいかなければPHDの監督に意見を聞きます。このCFD計算は計算量が非常に多く、TUMにあるスーパーコンピューターを使って計算を行いました。それでも必要な結果を求めるのに一日丸々待たなくてはいけないことも多く、私はドイツ語の教科書を片手に研究を行なっておりました。時々研究室でピザパーティや映画観賞会がありPHDの方のお誘いもあり何度か参加し、教授や他のPFDのかたとお話させていただく機会があり、日本の研究室との違いを強く感じました。特に驚いたのは、教授はドイツ人の方ですが、他の学生は全員ドイツ以外の国出身であったことです。また研究室内の人間関係も割とドライで、ピザを食べ終えたり映画を見終わると皆それぞれの仕事にすぐ戻る人が多かったです。
交換留学後、私はミュンヘン工科大学に再入学しこちらの大学に残る決断をいたしました。様々な文化の違いや、大学院生活や研究を経験しながら精神的にも成長できたと感じております。改めてこのような機会に恵まれたこと、支援をしてくださったことに感謝申し上げます。しばらくはドイツで生活することになりますが、今後も日本の航空宇宙分野の発展に寄与できるように精進してまいりたいと思っております。
森 映樹
大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士2年(留学当時)
2024年03月27日(水)
航空宇宙研究教育支援基金ソラびとプログラムのご支援により、昨年度前期に、ミュンヘン工科大学のFaculty of Aerospace & Geodesyに交換留学をし、流体力学やプレゼンテーション、異文化理解などの授業を履修しました。そして、昨年度後期に、フランスのグルノーブルにあるLaboratory of Geophysical and Industrial Flows (LEGI) にて研究インターンシップを行いました。
留学を決めた理由はたくさんありますが、航空宇宙工学という分野では今後特に国際協力が重要度を増していくと考え、海外で働く経験を積んで将来に備えたいと思ったのが大きな理由です。授業でもインターンシップでも、日本と同じところもあれば違うところもあり、日本の良さと改善点を客観的な視点で見ることができました。また、労働環境に加え、自分が将来本当にやりたいことも併せて、自分と向き合って深く考える時間を過ごすことができました。
LEGIでの研究では、安全な再使用ロケットエンジンの開発を目指し、燃料流体による材料への衝撃ついて扱いました。ロケットエンジンでは燃料中に気泡が発生するキャビテーションが生じ、崩壊するときには衝撃力が生じることが知られています。衝撃が繰り返されると近傍の材料表面が損傷するため、運用期間が長い再使用ロケットでは損傷の可能性が高まります。よって、その予防のために衝撃力を予測する数値計算手法の構築を目指しました。この手法は、気泡の発生状態の予測と、そこから生じる衝撃力の予測の2段階に分けられそれぞれに課題がありました。前者では、実験で一定になると観測されている気泡の最大発生範囲が、周期的に変化してしまうことがあり、後者では、計算対象とすべき空間の範囲がわかっていませんでした。よって、5ヶ月間の研究を通し、これらの課題を解決する仮説を立てました。残念ながら他の形状周りの流れでも仮説を検証する段階まではできませんでしたが、長年の課題の解決の糸口を見出すことができ嬉しく思います。研究中のコミュニケーションにおいては、フランス人の指導教員も私も英語が母語ではないため詳細な意見や質問を正確に伝えるのが難しかったですが、伝わりやすくする工夫を試行錯誤する良い機会となりました。
空き時間には、支援金のおかげでアルバイトをする必要がなかったため、他の学生との交流をたくさん行うことができました。様々な場所出身の学生と話し、彼らの私にはない面白い経験や知識を知る中で、自分ではなく他人の体験から知らなかった世界が広がる楽しさを味わい、人と知り合って話をするのが大好きになりました。
ドイツとフランスという2つの国で過ごし、勉強でも日常生活でも楽しいこと、大変なことなど本当に様々な経験をしました。今までの人生で1番充実した1年間を過ごすことができたと思っています。元々、ドイツに1年間滞在する予定でしたが、フランスでインターンシップを行いたいという希望を柔軟に受け入れて応援してくださったソラびとプログラムの皆様に感謝申し上げます。ドイツとフランスは隣国ではありますが、文化的にも産業的にも違いは大きく、日本と海外の共通点・違いにとどまらず、ヨーロッパ内での共通点・違いについても現地生活を通して身をもって感じとりました。何となく“海外”と括るのではなく、それぞれの場所に特色があり、異なる文化を持つ人々が異なる生活を送っているのだと学ぶことができ、本当に貴重な体験をさせていただいたなと感じています。
最後になりますが、留学直前から留学中にかけての急激な円安の進行や戦争による物価高騰などの中でも、1年間かけて留学とインターンシップを行うという目標を安心して遂行できたのは、ソラびとプログラムのおかげです。この場をお借りして皆様に深く感謝申し上げます。私の留学生活は多くの方の支援あってこそ成立したことを心に刻み、今後も日々の研究活動を頑張っていきたいと思います。
2024年03月27日(水)
このたび、東京大学航空学科創設100周年事業・航空宇宙研究教育支援基金よりご支援をいただき、2023年の10月から11月にかけてドイツのシュツットガルト大に留学することができました。ここに深く感謝の意を表します。短期ではありましたが、異国の地で研究を行い非常に有意義な時間を過ごすことができました。本稿では、シュツットガルト大での研究生活について報告いたします。
シュツットガルトはドイツ南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州の州都で、ポルシェやメルセデスベンツの本社があることで有名な工業都市です。街の公共交通機関も2015年から一新されているようで、交通網が非常に発達しています。シュツットガルト大学の工学系キャンパスは市街地から電車で15分ほど離れた場所にあり、自然豊かで静かな、東京大学柏キャンパスを思わせるような雰囲気のキャンパスでした。私はこのキャンパスのStefanos Fasoulos教授(宇宙システム専攻専攻長)の下で1か月弱ほど滞在し、研究を行いました。こちらの研究室では、Georg Herdrich教授とともに宇宙推進技術に関する数多くの研究テーマ(PPT、MPD、無電極推進など)を取り扱っています。
滞在中、私はその中の水推進機研究チームで活動しました。シュツットガルトの水推進チームでは液体の水を小型衛星に搭載し、水を電気分解により水素ガスと酸素ガスを発生させ化学反応に伴う圧力上昇により推力を生成する水電気分解推進機を開発しています。私は日本で、小型深宇宙探査機EQUULEUSプロジェクトの推進系である水レジストジェット(AQUARIUS)の運用チームで学生PIを務めていたこともあり、同じ推進剤を用いた他の推進機に興味があったため、このチームで研究することにしました。水電気分解推進機は、AQUARIUSと比較して推力の大きさや推力発生原理など多くの面が異なる一方で、水貯蔵の仕方やパルス的な運用方法など共通している部分もありました。さらに、水電気分解推進機は開発フェーズ、AQUARIUSは運用フェーズとフェーズも異なっているため、それぞれの推進機についての議論を通して、お互いに多くの知見を得ることができました。滞在が短期間であったため、がっつり手を動かして実験するというようなことはできませんでしたが、実物を見て学びシステムを評価し、私の所属する小泉研究室で取り組んでいる他の水推進機とのシステム比較を行うことを通して、それぞれの推進機の強みや弱みを定量的に評価しお互いに学びを深めることができました。また、今回の私の滞在をきっかけとして、シュツットガルトの学部学生を共同で指導しないかという一種の共同研究のような話が進みつつあります。日本とドイツで別々で研究しながらも、こうして交わることで新たな価値が創出されるということ、すなわち国際協働の持つ力を身を以て体感した滞在でした。
シュツットガルトでは水電気分解推進機チームのほかに、ハイブリッドロケットを開発する学生チームや、衛星運用(EIVE)の現場を訪問する機会がありました。シュツットガルトの他にも、ミュンヘン工科大学、DLR(German Aerospace Center)、チューリッヒ応用科学大学なども訪問する機会にも恵まれました。やはり実物を目の前にして直接議論することは、インターネットでただ眺めるよりも入ってくる情報量が全然違うと実感しました。
シュツットガルトでは、ほかの日本人に会う機会はほとんどありませんでしたが、唯一お会いしたのは2023年に東大を定年退職され、現在シュツットガルト大と同じキャンパスのマックス・プランク研究所に勤務されている鹿野田先生です。鹿野田先生は日本とドイツの違いで驚いたことについて、一般的に実験装置の規模がドイツの方が大きいこと、そして研究費を得るのに申請書を出す必要がほとんどないことをあげておられていました。私が見学した限りでも、確かにドイツの真空チャンバの大きさや数は東大のそれを圧倒しており、計測装置やシステムが大規模でした。一方で、大規模であるがゆえに手を加えづらく、何十年も同じ装置を使用しており、カスタマイズ性に欠けるという点も滞在中に見受けられました。
日本とドイツでの博士課程の在り方の違いも大きく感じました。ドイツでは、博士の学位を取得するのに修士取得後おおよそ5年はかかるものとされています。博士学生一人につき企業とのプロジェクトを複数抱えていたり、学部生や修士学生を指導する責任が生じていたり、授業を行ったりと多忙なことが原因の一つといえるかと思います。一方で、日本よりも収入や社会的地位も高いです。
このように日本とドイツでは様々な点でたくさん異なる点があるということを感じた滞在でした。また実際に生活をしてみて、どちらが良い・悪いというものではなく、ただ違うということなのだと認識しました。大事なのは、たくさんの違いがある中で自分にとってより良い形を模索し、現状に満足することなく考え続けていくことなのかなと思います。今回の滞在を通して、より広い視野、他分野の知見、人とのつながりなどたくさんのものを得ることができました。当初は自分が通用するのか多少不安に思ったこともありましたが、英語含めスムーズに共同で研究を進めることができ、自分により自信を持つことができるようになったかと思います。この滞在は自分の将来の選択肢の幅を広げてくれた機会となりました。今回の経験を糧にしつつこれからの研究生活に還元し、今後もますます精進していければと思っております。
2024年03月27日(水)
この度は、航空学科創設100 周年事業・航空宇宙研究教育支援基金ソラびとプログラムよりご支援をいただき、8月20日-8月30の期間中,ヒューストンへの短期留学に行くことができました。ここに深く感謝の意を表します。学部生時代に新型コロナウイルスの影響でアメリカへの交換留学が中止になった経験があったため,4年越しのリベンジを達成することができました。
私が参加した「Hasse Space School」は,NASA下部組織であるHASSEが提供しており,宇宙関連の大学、企業を訪れることによるSTEM教育に力を入れています。プログラムを通して得られた知見を日本に持ち帰ること,そして自身の研究のモチベーションに繋げる事を目的として参加しました。プログラムでは私を含め9人の様々な大学・専攻(宇宙工学,物理学,芸術等)の日本学生が参加していました。この9人が3チームに分けられ,毎日与えられるタスクをこなすことでポイントを獲得し,最終日に最優秀チームを決めるというコンペティション形式による教育プログラムとなっていました。これらのタスクには,英語でのスピーチや,宇宙関連企業のプレゼン,新型の宇宙機デザインなど多岐に渡り,毎日の施設訪問の空き時間で準備する必要があったため,非常に忙しかったですが,その分刺激的でした。以下に,10日間のスケジュールと,具体的な内容を示します。
・Day1 – ヒューストン到着:成田から台北を経由してヒューストンに到着。初めてのTex-Mex料理と地元のビールを楽しみました。
・Day2 – Opening:プログラムの詳細説明を受けた後、Lone Star Flight Museum訪問し,宇宙や航空機の展示を見学した後,フライトシミュレーターを体験しました。
・Day3 – ヒューストン大学にて宇宙建築講義:世界で唯一、宇宙建築に関する修士号を提供している「The Sasakawa International Center for Space Architecture (SICSA)」を持つヒューストン大学を訪問。Olga Bannova教授からの講義と新型月面ローバーのデザインを課題として受けました。また,夜には元NASA宇宙飛行士であるLeroy Chiao博士による講演を受けました。
・Day4 – NASAジョンソン宇宙センターVIPツアー:一般では入る事ができない様々な施設を見学。訓練で実際に使用した宇宙服に触れたり、アポロ時代とISSの両方のミッションコントロールセンターを訪れるなど、様々な体験をしました。
・Day5 – ヒューストン自然科学博物館でシミュレーション:ミッションコントロールシミュレーターを使用して、月や火星への着陸をシミュレートするアクティビティに参加しました。
・Day6 –型月面ローバーデザインコンペ:私たちのチームは日本の鉄道システムにインスパイアされた「Lunar-Dual Mode Vehicle(L-DMV)」コンセプトの月面ローバーを提案。未来的過ぎるという観点から順位は残念ながら2位となりました。
・Day7 – ライス大学での講義:NASAとの深い関係を持つライス大学での講義。CFD研究の権威であるTayfun Tezduyar教授の講義を受けました。
・Day8 – SpaceX StarBaseの訪問: SpaceX保有のStarbaseを訪問。Starships、Super Heavyを実際に目の当たりにしました。
・Day9 – Ad Astra社訪問:プラズマ推進エンジン技術の先駆者として知られるAd Astra社で、技術的な説明やビジネス的な展望について学びました。
これらの経験を通して得た学びと,日本の航空宇宙教育への提案を以下に示します。
① コンペ形式の授業の重要性: コンペ形式のプログラムを通して,チームマネジメント能力の必要性を感じました。技術的な知識は重要ですが、メンバーの適切な役割への割り当て,タイムマネジメント,ゴールの設定などのチームビルディング能力は,特にチームで複雑なシステムを作り上げる航空宇宙分野では重要です。日本の教育では座学や設計などが個人レベルで完結しており,チームビルディングの経験が足りないのではないかと感じました。よって,日本でも学生をチームに分け,順位をつけて競わせるようなコンペ形式の授業を行うことで,次の100年を担う学生を育て上げる事ができるのではないかと考えています。
② 宇宙コミュニティの強化: NASAでは,大勢の学生や子供たちが,アポロ時代の宇宙飛行士達や、宇宙機の設計にまつわる感動的なエピソードを見て目を輝かせていました。こうした宇宙にインスパイアされた大勢の子供がアメリカの宇宙開発に引き寄せられている事を考えると,アメリカの宇宙コミュニティの大きさと熱意に納得がいきました。日本でも,一般の方,特に次世代の子供たちへのアウトリーチを強化するべきであると感じました。技術的な紹介だけではなく,開発の裏に隠れた人の想いや,エピソードなど,感情的に影響を与えるような,例えば映像等による広報や教育が,日本ではもっと必要なのではないかと考えています。
この経験を踏まえて,今後の自分の研究をより良いものにしていくと共に,日本の航空宇宙業界にインパクトを与えられるような活動を行なっていきたいと考えています。
足立和司
大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 修士二年(留学当時)
2024年01月24日(水)
航空宇宙工学科・航空宇宙工学専攻同窓会「航空宇宙会」は、講師の方に航空宇宙関連のお話をしていただく講演会の開催や、会誌「航空宇宙会便り」の発行を行っています。また、2020年からは「OB・OG交流会」の開催を始めました。「OB・OG交流会」は学生と卒業生の交流の場であり、学生には、先輩の活動の様子を知ることで将来の目標を描くことができ、OB・OGには学生と意見交換することで若いころ抱いていた目標を再認識できる場として機能しており、非常に好評です。
基金による若手の海外渡航支援についても、意欲ある学生の支援ができています。いただいたご寄付を活用し、2023年は[B4]1名、[M1]2名、[M2]1名、[D1]1名、[D3]1名の合計6名の欧州(5名)、米国(1名)への短期留学・交換留学の渡航支援を行いました。
航空宇宙工学科同窓会「航空宇宙会」の総会や会誌「航空宇宙会便り」による活動報告を行い、2020年より開始した「OB・OG交流会」を継続しています。「OB・OG交流会」は学生と卒業生の交流の場であり、学生には、先輩の活動の様子を知ることで将来の目標を描くことができ、OB・OGには、学生と意見交換することで、若いころ抱いていた目標を再認識できる場として機能しており、好評でした。若手の海外渡航支援については意欲ある学生の支援ができています。昨年はM1、M2各1名、合計2名の欧州への短期留学・交換留学の渡航支援を行いました。
2022年10月19日(水)
田中直輝(令和3年3月 推進コース卒業)
この度、航空宇宙工学科100周年記念の海外渡航支援ソラビトプログラムを利用させていただき、ドイツ留学に行くことが出来ました。僕にとって人生初の海外渡航がこのような形で実現できたことを本当に嬉しく思います。貴重な経験を通して得たものは何だったのか、自分なりの回答を綴り渡航報告とさせていただきます。
昨年2021年の10月から12月までの3ヶ月間、シュツットガルト大学宇宙システム研究所のGeorg Herdrich研究室に留学生として滞在しました。シュツットガルトは、ドイツ南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州の州都であり、メルセデス・ベンツやポルシェの本社があることで有名です。中心部から少し離れたところに大学の工学系のキャンパスがあり、静かで研究をするにはとても良い環境です。
滞在中の活動としては、大気圏再突入を模擬したプラズマ風洞実験で宇宙機の破壊挙動を解析する研究に参加していました。低軌道からの再突入は落下地点の事前予測が難しく、パーツの分離や破壊の挙動を予測する必要があります。コンピューターシミュレーションのみでは予測が難しい箇所について実験を行い、破壊挙動のデータを取得することが研究の目的です。大気圏再突入チームのメンバーはアダム、ヨハネス、マルクス、クレメンスの4人でした。それぞれが小テーマを持っていましたが、実験が大掛かりなため、チームで協力して実験を行う方式でした。スイスからの留学生で3週間研究室に滞在していたアレクサンダーも一緒に実験を行いました。ランチの際の会話では、ドイツや日本の文化のことはもちろんですが、スペースエックスが開発中のスターシップのことや、ソユーズによる前澤氏の宇宙旅行のこと、日独仏で共同開発している再使用ロケット実験機CALLISTOのことなど、宇宙開発の話題で盛り上がりました。海外の学生に出会い、普段と異なる研究に触れ、宇宙開発について語り合うことで多くの刺激を受けました。
寮での生活では、研究室とは違う友人ができました。最初に仲良くなったのはインド人留学生のアルパンでした。部屋が隣だった彼とは渡航初日に知り合い、その日のランチを一緒に食べました。アルパンからアクシャイ、シダールタ、ロヒット、ジャナビと芋づる式にインド人の友人が増えていき、ものの一週間でインド人30人くらいのコミュニティに僕一人日本人という状況になりました。ここは実はドイツではなくインドなのではないかと錯覚してしまうこともありましたが、英語が母国語である彼らとのコミュニケーションは僕にとってはとても良い勉強になりました。彼らとの会話の中では将来のことについてよく聞かれました。日本で宇宙開発をやるよ、と説明しましたが、それ以上具体的に語るには自分の中に明確なプランがまだないことを痛感しました。
研究室が休みの土日には、いくつかの都市を旅行しました。特に印象的だったのはチェコの首都プラハです。赤い屋根の街並みの美しさも圧巻ですが、この都市はヨハネス・ケプラーとその師ティコ・ブラーエが天体観測をした場所としても有名です。旧市街広場の天文時計の横で夜空を見上げながら、ニュートンの法則が知られる前の世界で地道な観測結果のみから天体の運動に規則を見いだしたその偉業に思いを馳せました。かなりおこがましい気もしますが、自身の研究に対して身が引き締まる思いでした。
現在、宇宙開発の最前線としてはNASAを中心にESAやJAXAも参加して月、火星を目指すアルテミス計画が進行しています。スペースエックスをはじめとした多くの民間企業も宇宙開発をリードし始めています。今回のドイツ留学は僕にとって、自分が目指したい場所はどこなのか、そのために今やるべきことは何なのかを改めて考えるとても良い機会になりました。5年後や10年後に日本の宇宙開発の前線に関わっていたいという思いはより強くなりました。そして今回出会った友人たちと互いの分野で活躍する姿を見せ合えれば、この上なく喜ばしいことなのではないかと思います。将来のビジョンを見据えつつ、日々の研究に精一杯向き合いたいと思います。
2021年02月04日(木)
航空学科創設100周年記念事業に関連し、下記の活動を行いました。
また、皆様から賜りましたご寄付につきましては下記の活動に活用いたしました。
今後ともご支援のほどどうぞよろしくお願いいたします。
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
日本も、和をベースにしたJapaneseスタイリッシュジャンボプライベートジェットの生産を。
中型、大型のPJ、ビジネスジェットの生産を、日本も。
需要はある。
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
MSJの苦戦の現在はどちらを向いているのでしょうか
空も宙も次に目を配って
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>
<航空宇宙研究教育支援基金>