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「福島復興農業工学会議」活動報告(東日本大震災救援・復興支援プロジェクト)

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農地除染から農業再生に取り組む
~「農業工学」の研究を活かした現実的な除染技術開発への道~

 農学生命科学研究科の久保成隆教授、溝口勝教授を中心とする「福島復興農業工学会議」の研究チームでは、地元の農家およびNPO法人の協力のもと、福島県飯舘村で農地の除染技術の開発に取り組んできました。

 「農業工学」とは、あの忠犬ハチ公の飼主である上野英三郎先生が創設した農学と工学の双方に軸足を置いて教育研究を行っている分野です。東京大学農学部には、干拓や灌漑などの農業水利や農地整備に関する研究を通じ、長年蓄積された知識や技術の学問体系があります。東日本大震災後の放射性セシウムによる農地汚染からの農業・農村の回復という問題に対し、農業工学チームが精力的に活動しています。

左から溝口勝教授(農学国際専攻)、久保成隆教授(生物・環境工学専攻) 溝口教授

写真左:左から溝口勝教授(農学国際専攻)、久保成隆教授(生物・環境工学専攻)。        
写真右:溝口教授。冬の間に凍土を剥ぎ取る除染実験の実践。2012年1月8日撮影。

 今後も、福島県の農業の再生を目指して、現実的な除染技術の開発など、現地から情報発信していきます。こうした活動状況は随時溝口教授のウェブサイトでもご覧頂けます。

久保教授「最初は、津波による被害の状況を把握するために勉強会を行っていました。その後、原発事故による放射性セシウムの問題がより深刻であることが分かってきましたので、活動の重心を、津波から放射性セシウムの問題解決へと移すことになりました。農地の回復を行うのに、我々の分野がやらなければどこがやるのかという思いが、活動の原点にあります。」

2011年9月4日撮影。当研究チームによる現地調査 2011年12月3日撮影。設置されたモニタリングシステムの機器

写真左:2011年9月4日撮影。当研究チームによる現地調査。
写真右:2011年12月3日撮影。設置されたモニタリングシステムの機器。

 活動に必要な現地の正確なデータを得るべく、気象や放射線量を計測するモニタリングの機器を設置。飯舘村だけで設置ポイントは10カ所以上あり、研究に必要なデータを継続的に得ています。こうした観測はアメリカのセンサー企業や日本のベンチャー企業から農業農村工学会に寄贈された機器などによって行われています。また除染の実験を行うなかで、研究チームではNPO法人ふくしま再生の会のメンバーとともに、将来の農業再生に向け、試験的に水田での作付試験も行っています。

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写真左:研究室に貼られている東日本の地図。福島県の各地域の位置関係を示している久保教授。
写真右:2012年4月撮影。田車によって泥水を掃き出す除染実験(NPO法人ふくしま再生の会)

 農水省は『表土剥ぎ取り法』という除染法を推奨していますが、汚染された上層部の土を剥ぎ取った後、土壌の置き場さえ見つかっていないという状況から、研究チームでは「もっと現実的な除染方法を提案できないか」と考えたということです。そこで現在、溝口教授らは『代(しろ)かき強制排水埋設法』という「水田の横に穴を掘り、その溝に泥水を流し込む」という新しい除染法に取り組んでいます。

2012年4月29日撮影。田車除染法で掃き出した泥水を排水溝に貯める 2012年6月24日撮影。排水溝の泥水は地下浸透により自然に減容化される

写真左:2012年4月29日撮影。田車除染法で掃き出した泥水を排水溝に貯める。
写真右:2012年6月24日撮影。排水溝の泥水は地下浸透により自然に減容化される。

溝口教授「土壌からの放射線については、まだ一般に知られていないことが多くあります。土壌物理学の専門家にとっては常識的なことでも、一般の方からの心配の声があります。たとえば、泥を埋めた後の地下水汚染を心配する声には、泥水を濾過する簡単なペットボトル実験の動画をYoutube上で分かりやすく解説していますが、なかなか理解してもらえません。その他、測定データ上では安全な農作物であっても風評被害で売れない現実があります。こうした現実問題について、農学部の専門家はもっと真剣に取り組まないといけないと思います。」

また、作付をしなくなった現地の田は、雑草が繁茂しイノシシが荒らすなどの被害があるようです。久保教授は、水田に水を貯めておくことによって、それらの被害を防止するだけでなく、放射線量の低減効果を期待できるとし、農業再生のみならず住環境の再生のための水田の活用について、実験を行っています。

水田灌水実験。イノシシに荒らされた田に水を張り放射線計を設置。2012 年7 月29 日撮影 水田水位計の設置。2012年8月25日撮影

写真左:水田灌水実験。イノシシに荒らされた田に水を張り放射線計を設置。2012 年7 月29 日撮影。
写真右:水田水位計の設置。2012年8月25日撮影。

久保教授「私の研究室は、元々、水に関係する研究を行ってきましたので、水田に水を張ることによる放射線量低減効果の実験を行っています。水田には水を貯める機能がありますので容易に湛水できます。また、それにより雑草も抑えられます。水田でコメを作るかは別としても、水田に水を張ることによって、住環境への放射線量を低減出来るだろうと考えています。実験を行ってみると、実際に給水前よりも放射線量が減ったという結果が出ています。」

2013年5月25日撮影 2013年6月8日撮影。田植えの様子

写真左:2013年5月25日撮影。
写真右:2013年6月8日撮影。田植えの様子。

 今後は除染の方法論の提案のみならず、実際に「やってみせる」ことで農業の再生に取り組んで行きたいということです。

溝口教授「農業工学のような実学では、実際に現場で研究成果が使われないと意味がありません。論文を書いて終わり、後は現場の仕事です、という逃げは通用しません。納税者は、いざという時に力になってくれる研究者にこそ期待しているのではないでしょうか。 データを論文にすることは勿論ですが、こと震災復興に関しては、論文の掲載を待っていると、情報発信のタイミングを逃してしまいます。ですから、個人的にはウェブサイトで、随時データや現地の写真を配信しています。

 今年NPO法人のメンバーが田植えをしていた時、地元の農家の方がこっそり見に来ていたということがありました。『なるほど、こういう方法で除染ができるんだ。それなら自分でもやってみようかな』と言っていました。私が農学部の研究者で良かったと思えた瞬間でした。論文を書いただけでは、所詮は大学の先生が頭で考えたこと、と現場では信用して貰えないことがありますが、大学の研究が一般の方の信用を得る上で、自分たちが現場で実際にやってみせることに大きな意義があると思います。」

※溝口勝教授のHP 「福島土壌除染技術」に関するページはこちら

本活動は2013年度も継続予定です。このプロジェクトの活動には「東日本大震災救援・復興支援プロジェクト」へのご寄附が活用されています。ご支援を頂いた皆様に厚く御礼申し上げます。

引き続きご支援をお願いします(東日本大震災救援・復興支援プロジェクト: プロジェクト番号083福島復興農業工学会議)

※肩書きはすべて活動報告当時のものです。

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