バイオロギング支援基金

海洋動物を使って情報空白地帯をカバーする Internet of Animals (IoA)

PJ画像

プロジェクト設置責任者

大気海洋研究所 行動生態計測分野 教授
佐藤 克文

今年度寄付総額
263,000円
今年度寄付件数
6件
現在の継続寄付会員人数
6人

このプロジェクトに寄付をする

東京大学へのご寄付には税法上の優遇措置が適用されます。

新着ニュース

 東日本大震災から10年。岩手県大槌町にある東京大学大気海洋研究所沿岸センターの当時の様子とそこからの再出発について佐藤克文教授の記事が公開されています。ぜひご覧ください。
「津波にあった大槌の研究所、海洋動物研究の3.11とそれから」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/360768/022600044/
佐藤克文教授が研究の成果や今後の期待などについて答えているインタビューがFMヨコハマの番組内で特集されました。下記URLよりお聴きいただくことができます。
https://kanagawa-mamorou.uminohi.jp/archives/category/podcasts/

動物の生態調査の新手法、バイオロギングとは?

 皆さんはバイオロギングという言葉を知っていますか?バイオロギングができる前は、自然の中で観察したり、動物を飼育したりすることで生態を調べようとしていました。しかし、海の中や森の中、空の上まで野生動物を追いかけていくことはできませんし、飼育されている動物は野生の状態とは違った動きをしているかもしれません。そこで、動物への負荷を配慮した小型の計測器を動物に搭載し、その計測器を回収することでデータを得て動物の自然な姿や行動を調べるバイオロギングという手法が編み出されました。バイオロギングができて以来、様々なナゾが解き明かされています。
   バイオロギングによる研究が進む一方で、長期的な調査の重要性が高まっています。バイオロギング研究の主な対象であるクジラ・ウミガメ・ウミドリなどは寿命が数十年と長いため、彼らの生活史を明らかにするためには長期にわたり調査を継続させる必要があります。たとえば、アカウミガメの研究では2008年に屋久島で生まれたウミガメを、なんと10年後の2018年に岩手県大槌町で発見しました。この粘り強い研究のおかげで、アカウミガメの子どもは孵化してからの10年間で甲羅の長さが60cmになるまで成長することが世界で初めてわかりました。しかし、これでもまだ子どもです。何歳になったら大人になって産卵のために砂浜に上陸するのか、何歳になったら寿命を迎えるのか、といったウミガメの一生の全貌はまだ明らかになっていません。しかし、一般的な研究資金は2~3年間であり、10年以上の長期間の野外調査を継続するのは難しい状況です。長期的かつ安定した財源が確保できないと数十年以上にわたるであろうウミガメの一生は明らかになりません。同じように、寿命が30年にもなるオオミズナギドリの夫婦の絆は何年間続き、何回くらい浮気(!)が起こるのでしょうか。あるいは、日本周辺海域のマッコウクジラはどのような経路を回遊するのでしょうか。このように、腰を据えた研究ができなければ明らかにできない生態の謎は山積みです。これらの謎に挑むためには従来の予算だけではなく、長期的に柔軟な活用ができる皆様からのご寄付が必要不可欠なのです。

バイオロギングでなにができるのか?

 現在多くの海洋生物が絶滅の危機に瀕しています。そんな動物たちを保護するために有効な手段を講じるためには、例えば、どこで何を食べているのか、といった基礎的な生態の正しい知識が必要不可欠です。バイオロギングはこれまでわかっていなかった動物たちの様々な基礎生態を明らかにしています。それぞれの研究については、詳細なコラムを連載中です。

研究者が奮闘する様子やその成果を発信しています。ぜひご覧ください。
 第1回:ウミガメは年齢不詳?
 第2回:暗視カメラは捉えた!オオミズナギドリ浮気の瞬間!
 第3回:データを求めてどこまでも? 怒涛のカジキ調査
 第4回:カメはのろまではない
 第5回:ウミガメとプラスチックゴミ

ご支援のお願い


バイオロギングの活動を身近に感じていただくことができる
様々な特典をご用意いたしました

 研究を発展させ、動物たちの生活を明らかにするためには長期的かつ安定した財源が必要です。あなたからのご支援により、研究者たちはこんなことができるようになります。また基金が貯まることで中長期的に研究を支える様々なことができるようになります。

1万円:無人島で数日間にわたってウミドリを調査できます。
3万円:ウミガメやクジラ、カジキにカメラをつけることで海中での行動を1日中探索できます。
10万円:あなたが名付けたウミガメにタグをつけて大海原に放流します。あるいは、クジラ調査を丸一日実施できます。
30万円:熱帯のジャングルへ行ってヒメウミガメの調査をしたり、亜南極の島へ行ってワタリアホウドリの調査活動をしたりできます。
100万円:あなたが名付けたウミガメの回遊経路や潜水行動を約1年間追跡できます。
測器開発
 バイオロギングの歴史は測器開発の歴史でもあります。より小型で長期間の測定ができる装置、これまで得られなかった新しいデータを測定する装置の開発を常に進めています。装置の小型化により、動物への負荷もより軽減できます。
若手研究者支援
 数年前に小学校や中学校の国語教科書にバイオロギングが登場し、若い世代における知名度は年々上がっています。嬉しいことにバイオロギングをやりたいといって進学してくる学生の数が年々増えています。プロのバイオロギング研究者として独り立ちする為には論文を書かねばなりません。ところが、研究成果が論文にまとまるのには普通数年を要します。特にバイオロギングではこれまでご紹介した通り息の長い研究となることが多いため、成果が出るまでの間、若手研究者の生活と研究活動を経済的に支援することが必要です。

佐藤克文教授の意気込み

 定年退職した後も調査を続けます!下のイラストは、バイオロギングで学位を取った木下千尋さんが描いた「教授の将来の夢」です。毎年、岩手の海でウミガメ亜成体の体内に個体識別用のタグを挿入して放流しています。放流を初めて10年が経ちますが、どこの砂浜からもまだ連絡はありません。いつかこのウミガメが大人になって、砂浜に産卵上陸するのを見届けようと思っています。

HP用教授の将来の夢.jpg

右から2人目が佐藤教授(の将来の姿)

コラム:社会への応用 "Internet of Animals" とは!?

 バイオロギングによって、動物から大量の情報が得られるようになってきたことを受けて、これらの情報を海洋環境の把握にも役立てることが出来るのではないかと私たちは考えるようになりました。
 陸上では全てのモノがインターネットにつながる Internet of Things により、多種多様なビッグデータが生み出され、利活用されるようになりつつあります。Internet of Thingsとは、インターネットに接続されたセンサーを様々なものに搭載することで、大量の情報を収集し、世の中を良くしていこうという考え方です。ただし、現状では海洋に多くの情報収集端末を設置することは出来ていません。
 これまでの研究によって、海洋動物を使って海面下の水温や塩分に関する情報を得たり、海表面流や波浪、さらに海上風の測定が出来るといった、思いがけない成果が次々と得られています。この海洋動物由来の情報をリアルタイムでインターネットに配信できるようにすれば、情報空白地帯であった海洋からも大量の情報を収集することが可能になります。動物は日々餌を求めて自律的に動き回るので、少数の端末からでも生物生産性の高い海域に関する有用な情報を効率的に集めることが可能です。このようなことが実現すればまさに Internet of Things ならぬ Internet of Animals と言えるでしょう。従来の人工衛星や自動昇降ブイを使った観測手段と相補的なやり方で情報を集めることで、より正確に海洋環境を把握して、精度良い予想ができるようになり、台風や干ばつなど海を起点とした自然災害による被害を低減させることが出来ると考えています。

サムネイルイラスト.png
Internet of Animalsが実現した世界では
様々な動物たちがリアルタイムで海洋の貴重な情報を教えてくれています

イラスト:木下千尋

このプロジェクトに寄付をする

泳ぎ方から分かってしまうクジラの肥満度:子育てで失われた肥満度は数カ月の摂餌では回復しない

2021年06月14日(月)

PJ画像0

大気海洋研究所・助教・青木かがり

研究成果のまとめ:何が分かったの?

 海洋の食物連鎖の頂点である鯨類の栄養状態は、海の豊かさに大きく影響される。海に餌がたくさんあればよく太り、餌が少なければ痩せてしまう。しかし、海で自由に遊泳するクジラの栄養状態をそのまま調べることはできない。そこで私たちは、動物に取り付けた記録計によって泳ぎ方から肥満度を推定する手法を開発した。脂肪は水の密度より軽いので、クジラが太っていれば浮きがちな泳ぎ方に、痩せていれば沈みがちな泳ぎ方になる。この方法で推定された肥満度には、摂餌海域(餌を食べるためにいる海域)にいる間に順調に太っていくクジラの季節変化が現れていた。また、授乳中のメスが最も痩せており、数カ月間餌を食べただけでは子育てにより低下した肥満度は元には戻らないこともわかった(図1)。

図1 - コピー.png
図1.ザトウクジラの肥満度の季節変化と繁殖状態との関連.授乳中のメスが最も痩せており、
数カ月間の摂餌では子育てにより低下した肥満度は回復しないことが分かった。
(イラスト:木下千尋)

 

この研究によって動物を傷つけずに肥満度を推定する方法が確立したことで、クジラの栄養状態を通じて海の状態を知ることや鯨類の保全にも役立つと考えられる。
*より詳しく知りたい方はこちら(https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/topics/2021/20210330.html

研究成果をまとめるまでの道のり:自分の子育てとともに

 当時、スコットランドにあるセントアンドリュース大学の研究員であった私は、ザトウクジラの行動生態を調べるために、野外調査地であるノルウェーやカナダに行く予定であった。しかし、調査地に行く頃にちょうど出産することになり、調査に行くことが難しくなってしまった。せめて、子供を生む前にクジラ調査に必要な調査器材を準備、無いものは作成し、調査に行く共同研究者に託すことにした。

図2 - コピー.jpg
図2.吸盤タグ。クジラに行動記録計や動物ビデオカメラを吸盤で貼り付ける。数時間から1日たつと、クジラの体から自然と吸盤が剥がれ落ち装置全体が海面に浮き上がる。発信機から発信される電波を頼りに、回収する。黄色の部分がフロート。

 クジラの遊泳行動を調べるために、吸盤タグというものを手作りする(図2、3)。吸盤タグを成形するために、ボール盤やグラインダーと呼ばれる工具を使う。フロートに行動記録計や動物ビデオカメラがぴったりと収まるように穴を開けたり削ったりするためだ。しかし、お腹が大きくなると、手を伸ばしても、お腹が邪魔をして工具を上手く操作することができなかった。工具に手が届く位置を探すために、斜めに立ってみたり座り込んでみたりしながら、吸盤タグを作成した。

図3 - コピー.jpg
図3.吸盤タグが取り付けられたザトウクジラ。写真左の赤いものがタグ。
撮影者 岩田高志(神戸大学)

 現地の調査メンバーは私の出産報告をとても喜んでくれた。出産翌日から、私は子供の世話に合間に、現地で調査する共同研究者とメールで頻繁に連絡をとった。夜中の授乳の合間、現地はちょうど日中だ。自分の子育てが適当か不安になって、グーグルで子供の生後週数と成長を検索しながら、調査手法について論文を検索する日々が続いた。どちらも上手くいくのか不安だったが、研究成果は論文として出版され子供も無事に成長している。
 私は自分の子育てを通し、クジラの子育てに心から共感するようになった。北半球のザトウクジラは夏に冷たい北の海で餌を食べ、冬から春にかけて南の暖かい海で繁殖を行う。回遊中と繁殖期間中はほとんど餌を食べないと言われているので、北の海でどれだけ餌を食べることが出来たのかが、生き残りやどれだけ子供を産み育てられるかに大きく関わってくる。繁殖海域から摂餌海域までの子連れでの数千キロの長旅、そして授乳しながらの摂餌はさぞかし大変に違いない。授乳と育児にどれくらいのエネルギーを費やすのだろうか・・・。泳ぎ方から肥満度の指標を推定するために、クジラ一頭一頭のデータを見つつ、そんなことに思いを巡らせながら、データを解析した。妊娠中と授乳中の肥満度の指標から、次の妊娠までに必要な期間をおおまかに見積もると、カナダ沖合いのザトウクジラでは従来よりも長い期間が次の妊娠までに必要であるようだった。地球温暖化などの影響を受け、クジラの子育てがますます大変になってしまう海域があるのだろう。引き続き、モニタリングされることが期待されている。

ウミガメとプラスチックゴミ

2021年05月10日(月)

PJ画像1

(サムネイルイラスト:東京大学大気海洋研究所 木下千尋)

 海を漂うプラスチックゴミが様々な海洋生物に及ぼす悪影響が懸念されています。人々がこの問題を認識するようになるのに、鼻にストローが刺さったウミガメのかわいそうな写真も一役買っているようです。
 私達もバイオロギング調査でプラスチックゴミに対するウミガメの反応について、岩手県三陸海域に来遊するアカウミガメとアオウミガメを用いて調べています。普段、藻類を食べているアオウミガメは、海中を漂うプラスチックゴミに遭遇した際に誤ってそれを飲み込んでしまう割合が62%と高く、一方、クラゲを主食としているアカウミガメ亜成体の割合は17%と低く、遭遇しても食べないことが多いということが分かってきました(Fukuoka et al. 2016 Scientific Reports)。
 ウミガメのプラスチックゴミに対する反応には、種差があることは分かりましたが、飲み込んでしまったプラスチックゴミは、ウミガメにどのような影響を及ぼすのでしょうか。次のページに記してあるように、この続きについて、引き続き私達は調べていきます。

バイオロギング研究を支えるため、こんな調査もしています!ウミガメの解剖について
<文章:大気海洋研究所 行動生態計測分野 修士2年 河合萌>

 私たちは、バイオロギングという手法を用いて動物の行動や生理を調べています。バイオロギングでは、生きている動物の生態を観察することができますが、私たちは、これに加えて死亡した個体の解剖調査も行っています。死んでしまった個体でも細部を観察することで、例えば、臓器の状態から死因を推定したり、同じ種でも個体ごとに食べている餌が違うことや、体内から発見されるゴミの形や質感が多様であることなどが明らかにできます。また、観察していると稀に消化管内部に傷跡や瘢痕が見られる個体がいます。そういった場合は、消化管に海藻などの内容物が見られないため、治癒するために絶食しているものと考えられます。このように、解剖をすることで新たに発見できることもあり、バイオロギングを支える地道な調査も重要なのです。
 NPO法人エバーラスティング・ネイチャー(ELNA)の方々にご協力いただき、ウミガメの死亡個体が得られたという連絡を受け次第、現地に向かい解剖調査を行っています。死亡個体は、日にちが経過すると腐敗が進行してしまうため、発見次第できる限り早く調査を開始します。ときには、解剖している最中に雨が降りだしてきたり、立っているのもやっとな程の強風に見舞われたりすることもあります。しかし、天候が悪くても、ウミガメの臭いが体から落ちなくなっても、そういったことは気にせず、知りたい一心で作業を続けています。

BL5-2記事内.png
亡くなったウミガメの解剖調査の様子
遺体が漂着したという連絡を受けるとすぐに駆け付けます

 私たちは、主にウミガメの食性とゴミの誤飲について調査をしていますが、回を重ねることで面白いことが見えてきました。アオウミガメは、どの個体にも共通して食べている海藻種が存在し、嗜好性があることが分かりました。地域によって、生息する海藻は異なりますが、複数の地域で共通して食べられている海藻が存在し、それらはアオウミガメが選択的に食べていると考えられます。また、消化管からゴミも発見されることがありますが、ウミガメから発見されたゴミについて地域ごとに比較してみると、ゴミの出現頻度や量が異なっていました。これは、地域ごとに出るゴミの違いなのか、ゴミの誤飲率の個体差があるのか、今後も調査を続けていきたいと思っています。
 ウミガメ類は、現在7種全種がレッドリストに掲載されており、その中で6種は絶滅危惧種に指定されています。これまで解剖調査を行ってきたアオウミガメも絶滅危惧種に指定されているうちの1種です。世界中で絶滅が危惧されているウミガメですが、保護していく為にも生態を明らかにするための調査を継続していく必要があります。
 皆様のご支援により、調査を続けていくことができますので、ご協力の程よろしくお願いいたします。

プロジェクト概要へ戻る

効率を重視して泳ぐウミガメ

2021年04月12日(月)

PJ画像2

 「もしもし亀よ、亀さんよ ♪」と唄われ、3歳児でも知っている亀に対して、のろまな動物という印象を皆さんお持ちではないでしょうか。駆け競べでウサギに勝ったのも、ウサギが油断していたからで、所詮ノロノロとしか動けない哀れな動物だなんて思っていませんか。
 バイオロギングで調べたところ、ウミガメが大海原を泳いでいる時の速度は秒速50cm程度で、秒速1〜2mで泳ぐ海鳥類や海棲哺乳類に比べて遅いのは確かです。しかし、その速さ(遅さ)にはきちんとした理由があることを博士研究員である木下千尋さんが明らかにしてくれました。
 以下の写真は、釣りをしている風景ではなく、2020年のウミガメ調査風景です。海に浮かぶ船上という3密からほど遠い状況においてもマスクをするのは非科学的かもしれません(立っているのが木下千尋)。しかし、感染者がまだ一人も出ていない大槌町民に対して、万が一どころか、億が一にもウイルスをうつしてはならないという我々の心構えの表れです。

船.jpg

 ところで、これは調査と書きましたが、間違いではありません。ウミガメの背中に取り付ける速度記録計を深度50mにまで沈め、電動リールを使って何通りかの速さで水面まで巻き上げています。巻き上げに要した時間から曳航速度を得て、記録計で測定されるプロペラ回転数との換算式を得るという観測風景なのです。
 以下の写真は一転して室内実験の様子です。水槽の中にはアカウミガメが1頭入っており、板で覆われていない1箇所の水面から時々頭を上げて呼吸をします。その呼気の中に含まれる酸素濃度を分析機で測定することにより、ウミガメの酸素消費速度を調べている所です。

船2.jpg

測定内容を理解してもらうため、木下さんが描いたポンチ絵を示します。まあ、こんな感じに実験しているのです。

イラスト1.jpg

 水生動物が泳いで移動する場合、水の抵抗に逆らって泳いだ仕事が移動に要するエネルギーコストとなります。理論的な考察の結果、この移動に要するコストを最小とする最適な遊泳速度というものがあり、それは以下の式で表されます。

4月活動報告カメはのろまではない_3 - コピー.jpg

 ウミガメの酸素消費速度は鳥類や哺乳類に比べて12分の1程度と低く、抵抗係数はペンギンに比べて8.6倍ほどもありました。その結果予想されるウミガメの最適遊泳速度は,まさしく測定された遊泳速度と同じ秒速50cm前後であったのです。より詳しくは、以下にある木下さんが描いたイラストを見て下さい。
 実は、私自身ウミガメの研究で学位を取得したという経緯から、ウミガメにはヒト一倍強い思い入れがあります。今回、私の元で学位を取得した木下さんがウミガメの優秀性を証明する研究成果を上げてくれたことを、内心誰よりも喜んでいるのです。

イラスト2.jpg

より詳しく知りたい人は、以下のサイトをご覧下さい。
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/topics/2021/20210222.html

 

データを求めてどこまでも? 怒涛のカジキ調査

2021年03月11日(木)

PJ画像3

<文章:大気海洋研究所 行動生態計測分野 修士1年 松田康佑>

 「カジキ」と聞くとどんな生き物を想像しますか?大型で、沖合の海を移動し、長いツノ(口吻)を持つ魚といったところですね。それでは、水族館でカジキを見たことがありますか?高速で泳ぐといわれているカジキは特殊な形態をしているために飼育するのが難しく、この記事が書かれている時点ではこれまでに水族館でカジキが展示された例は2回しかなく、なかなか見られない魚と言えるでしょう。私たちの研究室では、カジキ類を対象としたバイオロギング調査を行ない、この魚の生態を明らかにしようと日々奮闘しています。今回は、昨年行なった高知での活動をご報告します。

マカジキ.png
筆者とマカジキ

 調査の話に入る前に、この調査が行われるに至った経緯を少し記述します。世界中のカジキ釣り師の間で、釣ったカジキをリリースする際、衛星発信器(カジキの行動を記録して衛星経由で送信する装置)を装着して放流する「IGFA Great Marlin Race」が行なわれています。このレースは日本でも行なわれています。このレースでカジキに装着された装置は一定期間経過後に自動的に切り離されて海面に浮上してきます。海面に浮上すると、得られたデータを衛星に発信し、衛星経由で私たちはデータを確認することができます。衛星経由で得られるのは、蓄積されたデータの一部のみです。もしこの装置を回収できれば、カジキ類の詳細な生態を知ることができるのです。

 2020年8月に静岡県沖で衛星発信器を装着して放流されたシロカジキが、12月に高知県沖の定置網で漁獲され、装置が水揚げされた漁港にあるとの連絡が入りました。提示されたのは見知らぬ土地の地図。「この漁港のどこかに発信器がある。電池が切れると回収できなくなる。電池切れまで残り時間が少ないから急いで高知へ飛べ」と教授からの指令を受けました。

地図.png
実際に提示された地図。このどこかに発信機があるはず?

 急いで支度して、連絡のあった日のうちに夜行バスに飛び乗って高知に向かいました。コロナの影響で、夜行バスの乗客はほとんどおらず、貸切に近い状態でした。目的の漁港についたのは次の日の昼過ぎ頃。発信器からの特殊な電波を受信するために、専用の受信機で発信器の探索をしました。その様子はまるで金属探知機を使った宝探し。30分ほど探索してゴミの山からようやく発信器を発見することができました。研究室に戻ってすぐに装置をパソコンに接続し、取れたデータを確認しました。

発信機.png
無事に回収された発信機。この装置の中には宝の山が!

 得られたデータを解析してみると、発信器を装着したシロカジキが黒潮に逆らって泳いでいる様子が伺えました。しかし今回明らかになったのはカジキ類の生態のごく一部です。彼らの生態をより詳しく知るにはさらに多くのデータが必要です。皆様からのご支援によって研究を継続することが可能となりますので、どうかご助力のほど、よろしくお願いいたします。

カジキの移動.png
発信機からわかったシロカジキの移動経路。
カジキの生態が少しずつ明らかになってきている。

暗視カメラは捉えた!オオミズナギドリ浮気の瞬間!

2021年01月28日(木)

PJ画像4

 オシドリ夫婦という言葉が仲の良い夫婦を表すように、人々は鳥に対して「浮気なんかしない」という幻想ともいえる美しいイメージを抱いているようです。ところが、私達が海鳥の一種であるオオミズナギドリに対して最新のDNA分析技術を導入して調べたところ、期待を裏切る恐ろしい現実が見えてきました。

 東京大学大気海洋研究所の臨海実験施設である国際沿岸海洋研究センターは、岩手県大槌町にあります。大槌湾の隣にある船越湾に船越大島という無人島があります。私達はここでオオミズナギドリの生態調査を行っています。オオミズナギドリは林床に巣穴を掘って、オスとメスが毎年1羽のヒナを育てます。3月頃、越冬地の東南アジアから戻ってきたオスとメスは、去年まで使っていた巣穴で再会します。その後、巣穴を補修しつつ時々海に行って餌を捕るのを繰り返し、5月から6月頃に交尾をします。メスが卵を産み落とすのが7月頃、オスとメスが交代で抱卵し、8月中旬から下旬に卵は孵化します。

巣の中で待つオオミズナギドリの雛.jpg
巣の中で待つオオミズナギドリのヒナ

 その後、オスもメスも毎日海に餌とりに行き、夜に巣に戻ってきてはヒナに餌を与えます。ヒナはすくすくと育ち、10月になると親と同じくらいの体重500gにまで成長します。そうなってくると親鳥は餌捕りに大忙しになります。自らの体重が落ちてくると時々北海道東部海域にまで出かけていき、そこでしっかりと餌を食べて自らのコンディションを回復します。哺乳類ではメスだけが子どもに授乳しますが、オオミズナギドリはオスもメスも同等に餌やりをします。メスにとって、子どもを巣立つまで育て上げるにはペアを組むオスの協力が必要不可欠なのです。オスは我が子を育て上げるために、文字通り身を削って餌捕りに奔走します。そんな繁殖形態を持つ海鳥では、オスとメスは生涯ペアを保ち、浮気なんか絶対にしないと思われていました。それなのに、DNAで分析したところ、年によっていくらか異なりますが10から20%のペアで、ヒナとオスの遺伝子が一致しないという真実が判明してしまいました。さらにバイオロギング研究を通じてオオミズナギドリの実際の浮気現場を捉えることに成功し、このDNA分析の結果が正しいことが証明されてしまったのです。


陸上では、オスが次々と複数のメスと交尾する様子を観察出来ます。
果たして浮気はオスの習性なのか、それともメスの意図にもとづくものなのか、謎はまだ解明されていません。
なお、この調査を担当した女子大学院生は、調査機材である暗視カメラを買うために秋葉原に行きました。
熱心に暗視カメラを物色していると、ニヤニヤと笑いながら店員が、「浮気調査ですか?」と尋ねてきたそうです。
彼女は何の迷いもなく「ハイ、そうです」と答えつつ、
「何でこの店員は私が海鳥の浮気調査をしていることを知っているのだろう」と不思議に思ったとか。
そんな一途で純粋な若者たちが、青春時代の数年間を費やして調査に勤しんでいます。

 毎シーズン複数の雛を産み育てるスズメ目鳥類などの陸鳥では90%といった婚外受精の割合が報告されていますが、毎年1ないし2羽のヒナを協力して育てる海鳥としては驚くほど高い割合でした。さらに、浮気をされてしまったオスは、されなかったオスに比べて体サイズが小さいという傾向があることも分かりました。この発見をして学位を取得した女子大学院生曰く、「働き者の夫に子育てさせるのは重要だけれども、生まれてくる子どもが小さな体になってしまっては困る。だから、メスは意図的に婚外受精(浮気)をしているのだ」とのことでした。何とも冷静かつ恐るべき繁殖戦略です。

巣の入り口で見つめあうオオミズナギドリのペア.jpg
巣の入り口で見つめ合うペア
修羅場なのかもしれません・・・

 オオミズナギドリは非常に長寿です。私達は同じ岩手県の三貫島(釜石市)でも調査を行っていますが、2006年にすり切れそうになった古いアルミ製足輪を付けたオオミズナギドリを発見しました。問い合わせたところ1974年8月24日に、山階鳥類研究所によって三貫島で捕獲された若鳥に装着されたリングであることが判明しました。オオミズナギドリは3歳以降に繁殖場に飛来するといわれているので、おそらく35歳以上の個体であろうと推察されます。何割の個体が自分が生まれた島に戻ってくるのか?何歳まで繁殖に参加するのか?浮気をした相手は誰なのか?まだまだ興味深い謎が残されていますが、それを明らかにするには数十年間にわたって調査を継続していく必要があります。

鳥調査に没頭する大学院生.jpg
行き倒れているわけではありません
文字通り地べたに這いつくばって鳥調査に勤しむ大学院生の姿です

プロジェクト概要へ戻る

ウミガメは年齢不詳?

2020年12月22日(火)

PJ画像5
ウミガメの生態にはまだまだわかっていないことも多くあります。

 私達が主に扱っている海洋動物は、いずれも長寿で人と同程度もしくはそれ以上の期間におよぶ生活史を持っています。そんな動物たちの調査を継続していくのに、皆様からの長期にわたるご支援が必要不可欠なのです。
 「亀は万年」などといわれるウミガメ類ですが、実際何歳まで生きるのか、誰にも分かりません。寿命はおろか、卵から孵化した後、何年かけて性成熟に達するのかもよく分かっていない状況です。私達は、2005年から岩手県大槌町周辺の定置網に混獲されるウミガメ類の調査を進めてきました。アカウミガメとアオウミガメが主に捕獲されますが、甲羅の長さが60cm(アカウミガメ)もしくは40cm(アオウミガメ)前後の大きさで、いずれも産卵のために砂浜に上陸してくる成体雌に比べると小さいために、まだ性成熟に達する前の少年から青年期のウミガメであることが推察できます。

 「このカメは何歳ですか?」と地元大槌町の人々にしばしば尋ねられるのですが、「分からないんです」と答えざるをえませんでした。しかし、2018年の夏、ずっと待ち望んでいたアカウミガメが大槌町近辺の定置網で捕獲されました。甲羅の長さが61センチ、体重35kgのカメの体内に、ピットタグという個体識別用のチップが入っていたのです。ウミガメで学位を取得して、大槌町で地道に調査を継続してきた博士研究員の福岡拓也さんが発見しました。

活動報告202012.jpg
背中に人工衛星発信器を装着したアオウミガメを放流する福岡拓也さん

 これまで、岩手で混獲されたウミガメを放流する際に、四肢の付け根に取り付けるプラスチック製および金属製の標識以外に、ピットタグの体内挿入も行っていました。四肢の付け根に付ける標識は数年で脱落してしまいますが、ピットタグは一生体内に残ります。岩手県で混獲されたウミガメにピットタグを挿入する前に、念のため既に挿入されたピットタグが無いかを確認する作業を福岡さんは実直に続けていました。2018年8月27日に捕獲された個体に対し、いつものように専用読み取り機で確認作業を行ったところ、思いがけず反応がありました。番号を確認すると、私達が岩手県で取り付けたものとは異なるタグでした。そこで、ウミガメ関係者に問い合わせを行ったところ、2008年に屋久島で孵化した幼体に挿入されたものであることが判明したのです。我々が知る限り、卵から孵化した幼体が甲羅の長さ60cmになるまで10年を要したことを示す世界初の記録です。水族館で栄養が豊富な餌を与えて育てると4〜5年でその程度にまで育つことはわかっていました。野生では水族館で与えられているよりも栄養価が低い餌を食べているようです。その後も調査は継続していますが、ピットタグが挿入されていた個体はまだ発見されていません。

IMG_2994.jpeg

 私達は毎年数十個体の亜成体にピットタグを挿入して放流し続けています。ミトコンドリアDNAを分析した結果からは、岩手に来遊してくるアカウミガメは鹿児島県の屋久島産、アオウミガメは東京都の小笠原産であることが判明しています。2005年以降岩手からウミガメを放流し続けてきましたが、まだどこの産卵場からも連絡はありません。岩手から放流したウミガメが何年後にどこの砂浜に産卵上陸するのか、いつかくるだろうその日を心待ちにしながら、今後数十年にわたってウミガメ調査を継続していきます。
 このように気が遠くなるような継続調査は長くても5年で打ち切られてしまう競争的資金では難しく、より長期的かつ安定的な資金が必要となります。そのため、皆様からの継続的なご支援がバイオロギングの大きな支えとなるのです。

プロジェクト概要へ戻る

このプロジェクトに寄付をする

寄付目的・支援先を指定できます
お名前 日付 金額 コメント
******** 2021年03月12日 1,000円 震災から10年経ちました。新しい知見が幾つも積み重なったと思います。更に10年、2031年にはどの様な事が明らかになるでしょう。楽しみにしております。
皆さんが安全に気持ち良い研究を出来る様応援致します。
<バイオロギング支援基金>
佐々木 明彦 2020年12月29日 30,000円 家族が皆ウミガメ好きで、海洋動物の生態や保全にも興味があります。新たな発見につながることを楽しみにしています。
<バイオロギング支援基金>
******** 2020年12月28日 100,000円 子どもがカメが大好きです。研究によって海の世界の新しい知見が得られますよう、そして子供たちの世代にも命あふれる豊かな環境を残してあげられるよう期待しています。
<バイオロギング支援基金>
******** 2020年12月17日 10,000円 とても夢のある研究だと思います。ウミガメが天気予報の手助けをしてくれる日が来るのを楽しみにしています。
<バイオロギング支援基金>
******** 2020年12月11日 30,000円 海の生き物の不思議がさらに解明されていく、とてもわくわくするプロジェクトだと思います。生き物が大好きな娘たちも一緒に、家族で応援しております。
<バイオロギング支援基金>
******** 2020年12月07日 10,000円 ささやかですがお役に立てれば幸いです。
<バイオロギング支援基金>
1

このプロジェクトに寄付をする

PJ画像

プロジェクト設置責任者

大気海洋研究所 行動生態計測分野
教授
佐藤 克文

今年度寄付総額
263,000円
今年度寄付件数
6件
現在の継続寄付会員人数
6人

このプロジェクトに寄付をする

東京大学へのご寄付には税法上の優遇措置が適用されます。

ご寄付の特典

「東京大学基金」の特典が適用されます。

このプロジェクトの特典

継続的なご支援への特典(年1回で1万円以上のご寄付の方)

PJ画像0
昨年のカレンダー(毎年内容が変わります)

 東大基金のアニュアルギフト(https://utf.u-tokyo.ac.jp/htd/annual)をご利用いただき、「毎年支援する」を選択し、年間1万円以上のご支援をいただいた方に特製カレンダーをお送りいたします。これは、野外調査に臨んだ研究者たちが撮影した動物写真を使って作られたものです。
 毎年10月末までにお申し込みいただいた方にその翌年のカレンダーをお送りいたします。また、 アニュアルギフトを継続していただいている間は毎年お送りいたします。毎年カレンダーの中身も変わりますので、継続的なご支援をよろしくお願いいたします。

一括3万円以上のご寄付への特典

20201125170008.png※クリックで拡大できます。

 バイオロギング特製カレンダーに加え、バイオロギングクリアファイルと、バイオロギングを担う若手研究者が作成したウミガメ研究記(シール付き)クジラ研究ワークブック(シール付き)の絵本からなるバイオロギンググッズセットをお送りいたします。

20201125171224.png
※クリックで拡大できます。

一括10万円以上のご寄付への特典

PJ画像2
タグを装着したウミガメ。タグの装着がウミガメに悪い影響を与えることはありません。

 岩手県で我々が行っているウミガメモニタリングでは年間数十から百頭ほどのウミガメ亜成体を捕獲し、標識を付けて放流しています。このウミガメがどこかで再び捕まったときにその行き先が分かります。このモニタリング用のウミガメに名前を付けていただくことができます。また、名付けていただいたウミガメの行き先が判明した場合にはメールなどでお知らせいたします。  ご希望の方は申込の際のご意見欄にウミガメに付けたいお名前をご記入ください。なお、ウミガメは大人になるまで性別が分からないので、男の子の名前を付けてしまったカメが、産卵のために砂浜に上陸した(雌だった!)という事も起こりうることはご了承下さい。 20201125173248.png※クリックで拡大できます。

一括100万円以上のご寄付への特典

PJ画像3
人工衛星発信機を装着したウミガメ

 人工衛星発信器を装着し、様々なデータを収集してくれるウミガメに名前を付けていただくことができます。あなたが名付けたウミガメが大海原を回遊します。回遊経路はHPで随時公開いたします。ご希望の方は申込の際のご意見欄にウミガメに付けたいお名前をご記入ください。その際にはモニタリング用のウミガメと発信機付きウミガメのどちらのお名前かがわかるようにご記入いただければ幸いです。20201125173332.png※クリックで拡大できます。

東京大学へのご寄付には税法上の優遇措置が適用されます。

関連プロジェクト

PJ画像

最先端の物理、天文、数学の連携で宇宙の謎に迫る

日本発アインシュタイン:カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

PJ画像

動物にも人にもやさしい世界一の動物病院を目指して

東京大学動物医療センター140周年記念基金(東大VMC基金)

PJ画像

難治性がんの克服を目指して

スキルス胃癌、膵癌、大腸癌に対する腹腔内化学療法の研究開発

PJ画像

イノベーションを産む奇跡の海

マリン・フロンティア・サイエンス・プロジェクト

PJ画像

三陸の水産業の復興をめざして

沿岸センター活動支援プロジェクト(大気海洋研究所)

PJ画像

― 環境に優しいクリーンな資源 ―

南鳥島レアアース泥を開発して日本の未来を拓く

PJ画像

ヒトの知性はどのように生じるか?

ニューロインテリジェンス国際研究機構(IRCN)基金

PJ画像

教育から社会をかえる ~100年後の地球のために~

One Earth Guardians(地球医)育成プログラム支援基金

PJ画像

変革を駆動する大学へ

未来構想ビヨンド2020プロジェクト

PJ画像

卓越性、多様性、包摂性を大切にした教育学研究をリードし、社会に貢献する

教育学部・教育学研究科教育研究創発基金「教育学部創立70周年記念基金」

PJ画像

東京大学から世界へ 飛び立つ学生を応援する

Go Global 奨学基金(東京大学在学学生留学支援・海外派遣事業)

PJ画像

東京大学のシンクタンク ~大学と社会を結ぶ新しい回路

未来ビジョン研究センター(※2019年4月1日をもちまして、政策ビジョン研究センター(PARI)は未来ビジョン研究センター(IFI)に組織統合いたしました。)

PJ画像

国際舞台で活躍する優秀な人材を社会へ輩出

PEAK奨学金制度(東京大学総合文化研究科・教養学部基金)