
皆さんはバイオロギングという言葉を知っていますか?バイオロギングができる前は、自然の中で観察したり、動物を飼育したりすることで生態を調べようとしていました。しかし、海の中や森の中、空の上まで野生動物を追いかけていくことはできませんし、飼育されている動物は野生の状態とは違った動きをしているかもしれません。そこで、動物への負荷を配慮した小型の計測器を動物に搭載し、その計測器を回収することでデータを得て動物の自然な姿や行動を調べるバイオロギングという手法が編み出されました。バイオロギングができて以来、様々なナゾが解き明かされています。
バイオロギングによる研究が進む一方で、長期的な調査の重要性が高まっています。バイオロギング研究の主な対象であるクジラ・ウミガメ・ウミドリなどは寿命が数十年と長いため、彼らの生活史を明らかにするためには長期にわたり調査を継続させる必要があります。たとえば、アカウミガメの研究では2008年に屋久島で生まれたウミガメを、なんと10年後の2018年に岩手県大槌町で発見しました。この粘り強い研究のおかげで、アカウミガメの子どもは孵化してからの10年間で甲羅の長さが60cmになるまで成長することが世界で初めてわかりました。しかし、これでもまだ子どもです。何歳になったら大人になって産卵のために砂浜に上陸するのか、何歳になったら寿命を迎えるのか、といったウミガメの一生の全貌はまだ明らかになっていません。しかし、一般的な研究資金は2~3年間であり、10年以上の長期間の野外調査を継続するのは難しい状況です。長期的かつ安定した財源が確保できないと数十年以上にわたるであろうウミガメの一生は明らかになりません。同じように、寿命が30年にもなるオオミズナギドリの夫婦の絆は何年間続き、何回くらい浮気(!)が起こるのでしょうか。あるいは、日本周辺海域のマッコウクジラはどのような経路を回遊するのでしょうか。このように、腰を据えた研究ができなければ明らかにできない生態の謎は山積みです。これらの謎に挑むためには従来の予算だけではなく、長期的に柔軟な活用ができる皆様からのご寄付が必要不可欠なのです。
現在多くの海洋生物が絶滅の危機に瀕しています。そんな動物たちを保護するために有効な手段を講じるためには、例えば、どこで何を食べているのか、といった基礎的な生態の正しい知識が必要不可欠です。バイオロギングはこれまでわかっていなかった動物たちの様々な基礎生態を明らかにしています。それぞれの研究については、詳細なコラムを連載中です。
バイオロギングの活動を身近に感じていただくことができる
様々な特典をご用意いたしました
研究を発展させ、動物たちの生活を明らかにするためには長期的かつ安定した財源が必要です。あなたからのご支援により、研究者たちはこんなことができるようになります。また基金が貯まることで中長期的に研究を支える様々なことができるようになります。
定年退職した後も調査を続けます!下のイラストは、バイオロギングで学位を取った木下千尋さんが描いた「教授の将来の夢」です。毎年、岩手の海でウミガメ亜成体の体内に個体識別用のタグを挿入して放流しています。放流を初めて10年が経ちますが、どこの砂浜からもまだ連絡はありません。いつかこのウミガメが大人になって、砂浜に産卵上陸するのを見届けようと思っています。
右から2人目が佐藤教授(の将来の姿)
バイオロギングによって、動物から大量の情報が得られるようになってきたことを受けて、これらの情報を海洋環境の把握にも役立てることが出来るのではないかと私たちは考えるようになりました。
陸上では全てのモノがインターネットにつながる Internet of Things により、多種多様なビッグデータが生み出され、利活用されるようになりつつあります。Internet of Thingsとは、インターネットに接続されたセンサーを様々なものに搭載することで、大量の情報を収集し、世の中を良くしていこうという考え方です。ただし、現状では海洋に多くの情報収集端末を設置することは出来ていません。
これまでの研究によって、海洋動物を使って海面下の水温や塩分に関する情報を得たり、海表面流や波浪、さらに海上風の測定が出来るといった、思いがけない成果が次々と得られています。この海洋動物由来の情報をリアルタイムでインターネットに配信できるようにすれば、情報空白地帯であった海洋からも大量の情報を収集することが可能になります。動物は日々餌を求めて自律的に動き回るので、少数の端末からでも生物生産性の高い海域に関する有用な情報を効率的に集めることが可能です。このようなことが実現すればまさに Internet of Things ならぬ Internet of Animals と言えるでしょう。従来の人工衛星や自動昇降ブイを使った観測手段と相補的なやり方で情報を集めることで、より正確に海洋環境を把握して、精度良い予想ができるようになり、台風や干ばつなど海を起点とした自然災害による被害を低減させることが出来ると考えています。
Internet of Animalsが実現した世界では
様々な動物たちがリアルタイムで海洋の貴重な情報を教えてくれています
イラスト:木下千尋
2022年03月03日(木)
当研究室で学位を取得し、現在東京農工大学の博士研究員である福岡拓也さんが、昨年夏に岩手県大槌町の東京大学大気海洋研究所国際沿岸研究センターにおいて、アオウミガメの糞からマスクが発見されたことを論文にして公表してくれました。
東京農工大学と東京大学大気海洋研究所からプレスリリースがなされました。
・新型コロナウイルス感染拡大に由来するとみられるプラスチックゴミをウミガメが摂食していることを確認しました。
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2021/20220210_01.html(東京農工大学)
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2022/20220210.html(東京大学大気海洋研究所)
論文内容は各種新聞紙面で紹介されたほかに、テレビのニュース番組でも取り上げられています。
・ポイ捨てマスクの“誤飲”増加 散歩中の犬やウミガメにも…
https://news.ntv.co.jp/category/society/0e3da31ef43e42b28654a7f9ca060df5
2022年01月28日(金)
今年度、42件で総額388万7千円を寄付していただきました。活動報告として毎月HP上にてお伝えしたとおり、昨年度から引き続きコロナ禍で様々な活動が滞りがちな中で、岩手県をはじめ、国内各所における野外調査を遂行することができました。
海外においても、研究室から旅立っていった博士研究員の後藤佑介さんがフランス留学中にインド洋に浮かぶエウロパ島へ赴き、グンカンドリの調査を行うことができました。皆様のサポートを受けて実施した野外調査の結果は、現在大学院生達がとりまとめ中です。今年度は計8名もの修士課程修了者がいるため、現在2月上旬の発表会に向けて毎日夜遅くまで研究室は賑わっています。他にも、今年度は2名が博士号を取得予定です。
2021年は計15本の原著論文を公表する事ができました。その中でも2021年3月に研究室を旅立ち、4月に名城大学に助教として着任した楢崎友子さんが5月にiScienceに公表した論文 “Similar circling movements observed across marine megafauna taxa(複数の海洋大型動物にみられた共通の旋回行動)”は国内外で大きな反響がありました。本基金のサポートを受けている特任研究員の木下千尋さんは、論文をイラストで紹介する海洋生物研究者として、2021年6月15日付けの朝日新聞朝刊「ひと」欄で紹介されました。
バイオロギングカレンダーは、継続支援をして下さった方と3万円以上のご寄付をいただいた方へ年末にお送りしたところです。コロナ禍の収束がなかなか見えてこない状況ではありますが、来年度の各種野外調査も着実に実行できるよう、今から準備を着々と進めています。
上の画像は昨年夏に人工衛星発信器をつけて岩手から放流した3頭と、高知から放流した2頭の回遊経路です。ご支援をいただいた方に「日本スピンドル2号」と命名していただいた395番の個体と、「所さん」と名付けた396番の個体を含む岩手発の3頭は太平洋を優雅に航海しています。高知から放流した2頭のうち、399番の個体は理由はわからないのですが、2021年11月20日を最後に通信が途絶えています。もう一頭の398番は東シナ海で深度150mの潜水を繰り返しています。
2022年01月05日(水)
私は佐藤研究室で学位を取り、現在フランスでポスドクをしています。今回は日本とフランスの共同研究で、2021年9月から10月下旬までグンカンドリという鳥の調査に行ってきました。場所はマダカスカル島とアフリカ大陸の間にあるエウロパ島です。大きさは直径約6km、周囲をサンゴ礁に囲まれています。本土からは離れていますがフランス領です。島に住んでいる人間は島の警備を行うフランス陸軍15名、自然保護員2名、そして島に45日間短期滞在する私と共同研究者のシャーリー・ボスト(フランス国立科学研究センター)さんだけです。この島は有数のアオウミガメの産卵地、また今回の調査対象であるオオグンカンドリの一大繁殖地として知られています。
グンカンドリは日本ではまず見ることがない鳥ですが、図鑑やドキュメンタリー番組などで喉に風船のような赤い袋を持った奇妙奇天烈な黒い鳥をご覧になったことがある方は多いのではないでしょうか(写真右)。その特徴的な外見もさることながら、この鳥は全1万種ある鳥類の中でもとりわけ“宙に浮き続ける”ことに特化したユニークな生態で知られています。まず、グンカンドリはもっぱら海上で餌をとる、れっきとした海鳥でありながら、海面に降りることがありません。これは他の海鳥と違い羽の防水機能が低いためと言われています。そのため、海面から飛び出たトビウオや、他の鳥を空中で驚かして彼らが吐き出した魚やイカを、空中で巧みにキャッチして食べます(写真右)。また、トビなどのように、上昇気流を使ってくるくると旋回上昇した後に滑空を繰り返すサーマルソアリングという飛び方を繰り返すことで海面に降りることなく長距離を移動できます。グンカンドリの渡りを追跡した最近のバイオロギング研究では、彼らが数ヶ月にわたり海面に降りることなく数1000kmの距離を飛び続けてたことが報告されています。
しかしこれまでグンカンドリの詳細な3次元飛行経路を記録できた研究はなく、空中での餌取りやサーマルソアリング中の行動はまだ多くが謎に包まれたままです。今回の私たちのミッションはグンカンドリの飛行の非常に詳細な3次元経路データを得ることです。そのために用意した秘密兵器が“Ninja”ロガーです。このロガーはJAXAの成岡優博士が作った装置で、高い時間解像度で鳥の位置(5Hz)、加速度(100Hz)、姿勢(5Hz)を記録できる世界で唯一といってもよい装置です。さらにこの装置に、アタッカート社と日本スピンドル社のサポートを受けて新規開発されたリチウムイオン電池を搭載しています。既存の電池に比べて蓄電容量が1.4倍にもなる優れもので、そんな電池をハイブリッドカーとかではなく、海鳥調査に用いているのです。ちなみに、Ninjaという名前は “忍者のように、どんな環境でも動物の行動を記録できるロガー”ということで佐藤克文先生によって命名されました。
調査期間中は毎日、グンカンドリの巣が密集したコロニーへ行き、雛のいる巣の親鳥を捕まえてロガーをつけ、ロガーをつけた鳥が巣に帰ってきていたら再度捕獲してロガーを回収する、という作業を繰り返しました。データはロガーの中に記録されているので、データを得るにはロガーをつけた鳥を再捕獲する必要があります。文章にすると簡単そうですが、グンカンドリは調査が非常に難しい鳥です。ミズナギドリ、アホウドリ、ペンギンなど多くの海鳥は穏やかな性格のため捕獲は比較的簡単で、100%に近い確率でロガーを回収できます。しかしグンカンドリはロガーの回収率が極めて低く、通常40%程度と言われています。その理由の一つは捕獲の難しさです。非常に警戒心が強いため、人が巣に近づくと簡単に巣から飛び立ってしまいます。また、雛がある程度大きくなると、親鳥は雛に餌を与える数分以外は巣にいないため、ロガーを付けた次の日以降、親が巣に現れず捕獲できない事態もよく起こります。さらに、繁殖成功率が低いのも調査を難しくする要因です。調査中に、いくつものグンカンドリの雛がカラスに食べられたり強風で巣から落下してしまい、半分近くの巣が繁殖に失敗していました。
実は私は三年前にも、グンカンドリにNinjaロガーをつけるべくエウロパ島にやってきましたが、たった1羽のデータしか得られませんでした。そのため、つぶらな瞳でこちらを見つめてくるグンカンドリ親子を眺めていると、三年前越しのリベンジという意気込みよりも、“果たして今回は何羽のデータを持って帰れるかしらん、せめて1羽でいいからデータがとれたらいいなぁ、、、”などという弱気な考えとともに不安でお腹がキリキリと痛くなってくるのでした。
そんな難しい調査の心強い相棒がシャーリー・ボストさんです。シャーリーさんは様々な海鳥、特にペンギンのバイオロギング研究で世界的に有名な研究者です。“グンカンドリを調査するのは初めてだけど、心配することはないよ。まずは装着回収のテストをしてみよう”というシャーリーさんの提案の下、まずは3羽の親鳥にロガーのダミーのプラスチック片を装着し、数日後に回収を試みました。しかし、結果は失敗。1つの巣では風で巣が壊れ、2つの巣では親鳥が巣に滅多に帰ってこず捕獲ができませんでした。ただし、親鳥は餌を与えに巣には帰ってきており2羽の雛は調査終了まですくすくと育っていました。また、鳥の背中につけたダミーは一定期間がすぎると換羽で自然に鳥から脱落します。
やばい、ひょっとすると今年は一羽もデータが取れないんじゃなかろうか、、、。三年前の悪夢を思い出しながら、フランス軍のコックの兄ちゃんが作ってくれた美味しいパスタを言葉少なに口へ運ぶ私に、“OK、ユースケ。どうすればいいか大体わかった。明日からロガーを装着しよう”と冷静なシャーリーさん。翌日、50個近い候補の巣を見回ると、“うーん。この鳥と、この鳥、あとこの鳥がいいと思うよ”と、シャーリーさんが選んでくれた鳥たちにロガーを装着すると、その言葉通り、数日後には無事ロガーを回収することができました。シャーリーさん曰く、“最初のダミーを使ったテストのおかげで、鳥の性格と巣の場所が大事なことがわかった。何個も鳥の巣がある木から(グンカンドリは多い時で1本の木に20個以上の巣を作ります)、一番おとなしそうな鳥を選んでみたらうまくいったよ”、とのこと。最初は私には鳥の性格の違いを見分けるのは難しかったのですが、シャーリーさんに教えてもらい徐々にロガーをつけるのに向いている巣とよくない巣の目利きができるようになっていきました。
結果として今回の調査では、当初の予定をはるかに上回る13羽の個体からデータを得ることができました。図を見ると上昇気流に乗って、螺旋状に旋回しながら上昇している様子が記録されています。中には2000mの高度に到達している個体もいました。このような詳細なスケールでのグンカンドリの飛行を記録したデータはおそらく世界で初めてのものです。今後、これらのデータから、グンカンドリのサーマルソアリング時にどのくらいの強さの上昇気流の中を飛び、どのように飛び方を調節しているかといった、グンカンドリの驚異的な対空能力の秘密を明らかにしていきたいと考えています。
2021年12月06日(月)
皆さん、自分の心拍数がどのくらいか知っていますか?学校や会社の健康診断など、誰しも一度は心電図を取った経験があるのではないでしょうか。個人差がありますが、成人の安静時の心拍数は1分間におよそ60~100拍と言われています。では、クジラの心拍数は一体どのくらいだと思いますか?
クジラの心拍数を測定したい! そう思っても、クジラは健康診断のように診察台の上に乗ってくれません。そこで活躍するのがバイオロギングです。動物の心電図を記録できる心電図ロガーを使えば、気軽にその心拍数を測定することができるのです。私は「くじらの町」として知られる和歌山県太地町に滞在し、太地町立くじらの博物館の協力のもと、クジラの心拍数を測定する調査を行ってきました。
昨年の夏、同博物館に飼育されているクジラを対象に、まずは安静時の心拍数を測定しました。朝の給餌のとき、熟練の飼育員さんの手で心電図ロガーを吸盤で装着してもらい、水面でじっとしているクジラの心拍数を測定しました。
2021年11月16日(火)
ウミガメを求めて北へ南へ
今年度も私たちの研究室では7/1~9/30までの約3カ月間岩手県大槌町にて調査を行ってきました。私の研究対象はウミガメです。皆さんはウミガメに触れたことはあるでしょうか?全国様々な水族館でウミガメは飼育されているため1度は見たことはあるかと思いますが、今年入学した私にとって、実際に触れるという経験は初めてです。第1印象は汚いということ。水族館のウミガメは綺麗に掃除されていたんだとすぐに分かりました。野生のウミガメの甲羅には様々な生物が共生しています。フジツボ、海藻、ワレカラ、ヨコエビ、等々。元々のカメの甲羅が見えなくなるほどの個体もいるほどです(サムネイル写真)。そんなウミガメを用いて、私はウミガメの甲羅に重りを取り付けると潜水様式はどのように変わるのかという実験を行いました。重りをつけたほうがたくさん空気を吸うことができ、その分長時間潜水できるのではないか?そんなことを確かめるための実験でした。現在、得られたデータを鋭意解析中です。
しかし、今年度は本当にアカウミガメが不漁な不思議な年でした。例年は3カ月間で数十匹は捕獲されるアカウミガメですが今年はアオウミガメの捕獲連絡ばかりで一向にアカウミガメ捕獲の連絡が入りません。8月中旬になっても実験に必要な数のアカウミガメが捕獲されなかったため、焦った我々は高知大学の先生に協力を求めました。大槌でアカウミガメが全然取れないので、高知でアカウミガメが取れた際にはその個体を用いて実験をさせてもらえないかといった趣旨の連絡をいれたところ、快く協力を引き受けてくださり、アカウミガメが捕獲された際には連絡をいただけるという手はずになりました。よかった何とか実験ができそうだと胸を撫で下ろした我々ですが、そこから1カ月経過し、9月下旬になっても高知からアカウミガメが捕れたという連絡はありません。高知でも大槌でもアカウミガメが捕獲されないのです。アカウミガメはどこへ行ってしまったのでしょうか?10月に入りこのままでは今年の実験ができないと焦っていると高知から待望の捕獲連絡が入りました。待ちに待ったアカウミガメです。
高知で行った実験は9月の活動報告で記載したものと同じもので、ウミガメの回遊経路や潜水行動を人工衛星経由で送ってくる発信機を取り付けたものです。同時に、3日後に自動的に切り離される重りをウミガメの甲羅に取り付け、潜水行動にどのような変化が見られるかを調べました。この発信機を取り付ける作業は、作業自体は手順も簡単で高度な技術も必要としないものですが、接着剤が乾くまでにとても時間がかかるため待ちの時間が長くなります。その合間に装着作業をお手伝いに来てくれていた高知大学のウミガメ同好会かめイズムの方々と合同のゼミを行うことが出来ました。我々が普段どのような実験を行っているのか、一方高知大学では普段どのような調査を行っているのか、同じウミガメという生物を研究しているにも関わらず全く異なった研究内容であり大変有意義な交流となりました。
このようにウミガメ調査には実際に調査地に出向き現地の人と交流を行いながらデータを得ることが必要不可欠です。装着する発信機代はもちろん交通費滞在費等調査には多額のお金が必要になります。どうぞ皆様のお力添えをよろしくお願いします。
岩手から放流した3頭は沖合いを回遊中。11月11日NHK番組「所さん大変ですよ」で紹介された「日本スピンドル2号」と「所さん」も気ままな回遊を満喫中に見えます。一方、高知県で放流した2頭は沿岸沿いを南下し、398番は屋久島周辺に滞在中、399番は沖合いに泳ぎ出た模様です。今後の5頭の動きを一緒に見守り続けてください。
2021年11月12日(金)
東京大学基金活動報告会2021 第2部オンライン交流会グループAの冒頭にて行いました、プロジェクト活動報告の動画です。
2021年10月14日(木)
皆さんは海鳥についてどんなことを知っていますか?海上を飛び海面に魚を見つけると舞い降り捕食する、漁師さんの船によってきて魚を横取りする、海洋汚染によってプラスチックゴミを誤飲してしまうことが問題になっている、なんてこともご存じかもしれません。しかし、海鳥はその名の通り海洋で生活し、餌として海洋生物を食べているために実際に観察をすることが難しく、生態を詳しく調査することが困難でした。そんな海鳥を調査するために、データロガーを取り付けてデータを収集するバイオロギングはぴったりの手法です。私たちは、岩手県の船越大島で海鳥の一種であるオオミズナギドリの調査を続けています。
岩手県にある船越大島は、タブノキの生育北限である岩手県天然記念物の無人島です。オオミズナギドリは東南アジアでの越冬を終えると、毎年この自然豊かな島へと繁殖のため帰ってきます。オオミズナギドリは性成熟に達して繁殖可能になってから10年以上繁殖を続けます。毎年同じ巣穴で繁殖をし、雌雄ともに協力して子育てを行い、夏が終わるとまた越冬の地へと旅立っていきます。私たちは数か月間続くオオミズナギドリの繁殖期の中でも育雛初期の時期に合わせ、毎年8月から9月に船越大島に訪れ、調査を行っています。
修士1年である私は今年の夏の調査が初めてのフィールドワークでした。昨年から新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、感染予防には細心の注意を払いながら調査を行いました。具体的には、調査の始まる半月ほど前から岩手に滞在して自主隔離を行い、コロナに感染していないことを明確にしてから調査を始めました。調査を始めるにあたり、水や食料などの生活必需品を、自分たちで無人島の山の中にある拠点へと運んでいきます。島には真水が存在しないため、運ぶ水は文字通り私たちの命の水です。大切に物品を運び込み、拠点にテントを張って、生活基盤を整えます。以前に調査地の無人島内でクマの目撃情報があったため、万が一にもクマが出てこないよう、上陸直後にはまずクマよけの爆竹を鳴らします。生活可能な拠点が出来上がってから、オオミズナギドリの調査開始です。昼間、親鳥は餌を取るため海へ行き、巣を留守にしています。その間に私たちは、巣でお留守番をしているヒナの体長や体重を計測させてもらいます。そして夜に帰ってきた親鳥を見つけ、データロガーの取り付けや回収、計測を行います。
2021年09月13日(月)
2021年9月6日、岩手県の大槌湾から、アカウミガメ2頭を放流しました。このウミガメには回遊経路や潜水行動、あるいは経験した水温データを人工衛星経由で送ってくる機能を備えた発信器を取り付けました。1頭には「日本スピンドル2号」という名前がつけられています。これは、本基金にご寄付いただいた日本スピンドル製造株式会社様による命名です。ご支援有り難うございました。もう1頭のウミガメには某有名人の名前を勝手につけてしまいました。10月頃に放映される予定のテレビ番組取材班がカメを放流する様子を撮影しています。放映をお楽しみに。(詳細は追って「活動報告」にてお知らせします)
これらのアカウミガメは大槌湾近隣の定置網で捕獲された個体です。定置網は海岸沿いにカーテンのように網を張り巡らせて、岸沿いに回遊する魚が入ってくるのを捕らえるといった受動的な漁法です。大槌町内のスーパーの鮮魚売り場を毎日のぞいていると、地元産のブリやスルメイカ、あるいは珍しいところではマンボウなどが店頭に並びます。だから、スーパーで買い物をしていると今どんな魚が大槌湾にやってきているのかが分かります。ウミガメは漁師さんにとっては漁獲対象ではないため、網の外に逃がしていまうのが常ですが、私達がお願いした結果、港まで運んできて、連絡してくれるようになりました。ありがたい限りです。
ウミガメが再び定置網に入ることがないように、船で湾口付近まで運んでから放流しました。いつもだと、潜って一目散に逃げていくのですが、今回の2頭は網にかかった後、東京大学大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターの水槽内で2ヶ月近く飼育していたためか、いつまでも海面近くに浮かんでボーッとしていました。「水槽の中で与えられるスルメイカを食べる生活が気に入ってしまったのだろうか?」と不安に思いながらしばらくウミガメを眺めていましたが、やがて泳ぎ去ってくれたのでホッとした次第です。
翌日、早速ウェブ経由で個体から送られて来た情報を見たところ、無事湾の外にまで出て、その後、南に向かって泳ぎだしたことが分かりました。下の図は放流から丸3日間が経過した時点のウミガメの位置を表しており、どちらの個体も仙台沖を泳いでいました。395番が日本スピンドル2号です。バッテリー寿命は1年なので、うまくいくと今後1年間の回遊経路と潜水行動、そして泳いでいる現場の水温データを得ることができます。運が悪いと再びどこかで網にかかってしまうなどの理由で、データ送信が途絶えてしまいます。今後も引き続きこの活動報告のページで2頭の状況をお知らせしたいと思います。2頭が何事も無く回遊していくさまを、私達と一緒にドキドキしながら見守り続けて下さい。
2021年08月12日(木)
今年も岩手県大槌町にある大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターでウミガメ調査が始まりました。今年は例年よりやや早く5月からウミガメが捕まりはじめました。これは、今年は大量のカメが捕れる予兆ではと学生共々色めき立って調査を開始しました、ところが7月になっても数は増えず、8月になっても捕れません。現在の捕獲頭数は、アカウミガメ7頭、アオウミガメ8頭で、これは過去最低の捕獲数であった昨年を彷彿とさせる低いペースです。まだ調査は終わっていないので、これからどうなるか分かりませんが、引き続き9月末までモニタリングを続ける予定です。つい数年前には一夏で100頭以上のアカウミガメが捕れたこともあるのですが、去年と今年はなぜだか少ないのです。この変動をもたらす要因が何なのか、引き続き調べていこうと思います。
また、研究と並行して支援者の方への特典の準備も進めています。10万円以上の寄付者の方へは以下のようなウミガメの写真を謝意の印としてお送りしています。寄付者の方にはモニタリング用ウミガメの名付け親となっていただき、名付けたウミガメが放流される際にこのような命名証明書を発送しています。このウミガメにはタグが付いており、いつかどこかで見つかれば、何年でどこへ移動したのか、放流した時からどのくらいの大きさに成長したのか、といったことがわかる仕組みです。名付けたウミガメが見つかった際には、名付け親になっていただいた寄付者の方に発見場所や成長記録をお送りする予定です。気が長い研究ですが、このようなモニタリングを根気よく続けることで皆様と一緒にウミガメの生態の解明に一歩ずつ近づくことができます。バイオロギング研究を実際に体験していただくことができる貴重なチャンスとなっておりますので、ご支援いただけますと幸いです。
※なお、ウミガメは大人になるまで性別が分からないので、男の子の名前を付けてしまったカメが、産卵のために砂浜に上陸した(雌だった!)という事も起こりうることはご了承下さい。
2021年07月05日(月)
小船でクジラに忍び寄り、棒の先につけた装置を吸盤で背中に貼り付ける
ザトウクジラは世界中に分布するヒゲクジラ類の1種で、日本近海でも見ることができます。大人になると体長15メートルにもなる大きな動物です。ザトウクジラについてバイオロギングを使ってこれまでたくさん調べられてきました。バイオロギングで動物が何をしているのかを調べるときは、動きのわかりやすい餌捕り行動に注目しがちになります。ザトウクジラの研究の多くも餌捕りを調べたものです。たしかに「餌捕り」は動物が生きるための重要な行動の1つですが、一方で睡眠を含む「休息」も動物が生きていく上で欠かせない要素の1つです。つまり動物の生態を理解するには、餌捕りと同じように休息についても調べる必要があります。そこで、ザトウクジラの休息行動を調べるために、360度(水中では270度)撮影可能な全天球カメラと行動記録計をクジラに取り付けました(図1)。
図1:クジラの背中に取り付けたカメラと記録計(写真中央)
取り付けたビデオには、他の2頭のザトウクジラが水中で尾ビレを動かさずに漂う様子が撮影されていました(図2)。その間の記録計を装着したクジラは、水中で尾ビレをほとんど動かさず、ゆっくりと泳いでいたことがわかりました。記録計を装着したクジラおよび他の2等のクジラが尾ビレを動かさずゆっくりと泳いでいたことや、他のクジラが常にそばにいたことから、ザトウクジラが水中で仲間と一緒に休息をしていたことが明らかになりました。これまでの研究ではザトウクジラは水面で休息することが報告されていました。ザトウクジラは海の状況や、クジラの栄養状態によって変化する自分の浮力の変動に合わせて、休息場所を変えている可能性が考えられました。
この研究では、広い角度で撮影できるカメラ(リコー社のTheta)を使い、映像で他のクジラの様子を記録したことで、ザトウクジラの休息について新しい知見を得ることができました。このように全天球カメラのような広い角度を撮影可能なカメラで、競争相手や仲間、餌の分布などを撮影できれば、これまで観察が難しかった動物の生態の理解が深まることが考えられます。
2021年06月14日(月)
大気海洋研究所・助教・青木かがり
研究成果のまとめ:何が分かったの?
海洋の食物連鎖の頂点である鯨類の栄養状態は、海の豊かさに大きく影響される。海に餌がたくさんあればよく太り、餌が少なければ痩せてしまう。しかし、海で自由に遊泳するクジラの栄養状態をそのまま調べることはできない。そこで私たちは、動物に取り付けた記録計によって泳ぎ方から肥満度を推定する手法を開発した。脂肪は水の密度より軽いので、クジラが太っていれば浮きがちな泳ぎ方に、痩せていれば沈みがちな泳ぎ方になる。この方法で推定された肥満度には、摂餌海域(餌を食べるためにいる海域)にいる間に順調に太っていくクジラの季節変化が現れていた。また、授乳中のメスが最も痩せており、数カ月間餌を食べただけでは子育てにより低下した肥満度は元には戻らないこともわかった(図1)。
この研究によって動物を傷つけずに肥満度を推定する方法が確立したことで、クジラの栄養状態を通じて海の状態を知ることや鯨類の保全にも役立つと考えられる。
*より詳しく知りたい方はこちら(https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/topics/2021/20210330.html)
研究成果をまとめるまでの道のり:自分の子育てとともに
当時、スコットランドにあるセントアンドリュース大学の研究員であった私は、ザトウクジラの行動生態を調べるために、野外調査地であるノルウェーやカナダに行く予定であった。しかし、調査地に行く頃にちょうど出産することになり、調査に行くことが難しくなってしまった。せめて、子供を生む前にクジラ調査に必要な調査器材を準備、無いものは作成し、調査に行く共同研究者に託すことにした。
図2.吸盤タグ。クジラに行動記録計や動物ビデオカメラを吸盤で貼り付ける。数時間から1日たつと、クジラの体から自然と吸盤が剥がれ落ち装置全体が海面に浮き上がる。発信機から発信される電波を頼りに、回収する。黄色の部分がフロート。
クジラの遊泳行動を調べるために、吸盤タグというものを手作りする(図2、3)。吸盤タグを成形するために、ボール盤やグラインダーと呼ばれる工具を使う。フロートに行動記録計や動物ビデオカメラがぴったりと収まるように穴を開けたり削ったりするためだ。しかし、お腹が大きくなると、手を伸ばしても、お腹が邪魔をして工具を上手く操作することができなかった。工具に手が届く位置を探すために、斜めに立ってみたり座り込んでみたりしながら、吸盤タグを作成した。
図3.吸盤タグが取り付けられたザトウクジラ。写真左の赤いものがタグ。
撮影者 岩田高志(神戸大学)
現地の調査メンバーは私の出産報告をとても喜んでくれた。出産翌日から、私は子供の世話に合間に、現地で調査する共同研究者とメールで頻繁に連絡をとった。夜中の授乳の合間、現地はちょうど日中だ。自分の子育てが適当か不安になって、グーグルで子供の生後週数と成長を検索しながら、調査手法について論文を検索する日々が続いた。どちらも上手くいくのか不安だったが、研究成果は論文として出版され子供も無事に成長している。
私は自分の子育てを通し、クジラの子育てに心から共感するようになった。北半球のザトウクジラは夏に冷たい北の海で餌を食べ、冬から春にかけて南の暖かい海で繁殖を行う。回遊中と繁殖期間中はほとんど餌を食べないと言われているので、北の海でどれだけ餌を食べることが出来たのかが、生き残りやどれだけ子供を産み育てられるかに大きく関わってくる。繁殖海域から摂餌海域までの子連れでの数千キロの長旅、そして授乳しながらの摂餌はさぞかし大変に違いない。授乳と育児にどれくらいのエネルギーを費やすのだろうか・・・。泳ぎ方から肥満度の指標を推定するために、クジラ一頭一頭のデータを見つつ、そんなことに思いを巡らせながら、データを解析した。妊娠中と授乳中の肥満度の指標から、次の妊娠までに必要な期間をおおまかに見積もると、カナダ沖合いのザトウクジラでは従来よりも長い期間が次の妊娠までに必要であるようだった。地球温暖化などの影響を受け、クジラの子育てがますます大変になってしまう海域があるのだろう。引き続き、モニタリングされることが期待されている。
2021年05月10日(月)
(サムネイルイラスト:東京大学大気海洋研究所 木下千尋)
海を漂うプラスチックゴミが様々な海洋生物に及ぼす悪影響が懸念されています。人々がこの問題を認識するようになるのに、鼻にストローが刺さったウミガメのかわいそうな写真も一役買っているようです。
私達もバイオロギング調査でプラスチックゴミに対するウミガメの反応について、岩手県三陸海域に来遊するアカウミガメとアオウミガメを用いて調べています。普段、藻類を食べているアオウミガメは、海中を漂うプラスチックゴミに遭遇した際に誤ってそれを飲み込んでしまう割合が62%と高く、一方、クラゲを主食としているアカウミガメ亜成体の割合は17%と低く、遭遇しても食べないことが多いということが分かってきました(Fukuoka et al. 2016 Scientific Reports)。
ウミガメのプラスチックゴミに対する反応には、種差があることは分かりましたが、飲み込んでしまったプラスチックゴミは、ウミガメにどのような影響を及ぼすのでしょうか。次のページに記してあるように、この続きについて、引き続き私達は調べていきます。
バイオロギング研究を支えるため、こんな調査もしています!ウミガメの解剖について
<文章:大気海洋研究所 行動生態計測分野 修士2年 河合萌>
私たちは、バイオロギングという手法を用いて動物の行動や生理を調べています。バイオロギングでは、生きている動物の生態を観察することができますが、私たちは、これに加えて死亡した個体の解剖調査も行っています。死んでしまった個体でも細部を観察することで、例えば、臓器の状態から死因を推定したり、同じ種でも個体ごとに食べている餌が違うことや、体内から発見されるゴミの形や質感が多様であることなどが明らかにできます。また、観察していると稀に消化管内部に傷跡や瘢痕が見られる個体がいます。そういった場合は、消化管に海藻などの内容物が見られないため、治癒するために絶食しているものと考えられます。このように、解剖をすることで新たに発見できることもあり、バイオロギングを支える地道な調査も重要なのです。
NPO法人エバーラスティング・ネイチャー(ELNA)の方々にご協力いただき、ウミガメの死亡個体が得られたという連絡を受け次第、現地に向かい解剖調査を行っています。死亡個体は、日にちが経過すると腐敗が進行してしまうため、発見次第できる限り早く調査を開始します。ときには、解剖している最中に雨が降りだしてきたり、立っているのもやっとな程の強風に見舞われたりすることもあります。しかし、天候が悪くても、ウミガメの臭いが体から落ちなくなっても、そういったことは気にせず、知りたい一心で作業を続けています。
亡くなったウミガメの解剖調査の様子
遺体が漂着したという連絡を受けるとすぐに駆け付けます
私たちは、主にウミガメの食性とゴミの誤飲について調査をしていますが、回を重ねることで面白いことが見えてきました。アオウミガメは、どの個体にも共通して食べている海藻種が存在し、嗜好性があることが分かりました。地域によって、生息する海藻は異なりますが、複数の地域で共通して食べられている海藻が存在し、それらはアオウミガメが選択的に食べていると考えられます。また、消化管からゴミも発見されることがありますが、ウミガメから発見されたゴミについて地域ごとに比較してみると、ゴミの出現頻度や量が異なっていました。これは、地域ごとに出るゴミの違いなのか、ゴミの誤飲率の個体差があるのか、今後も調査を続けていきたいと思っています。
ウミガメ類は、現在7種全種がレッドリストに掲載されており、その中で6種は絶滅危惧種に指定されています。これまで解剖調査を行ってきたアオウミガメも絶滅危惧種に指定されているうちの1種です。世界中で絶滅が危惧されているウミガメですが、保護していく為にも生態を明らかにするための調査を継続していく必要があります。
皆様のご支援により、調査を続けていくことができますので、ご協力の程よろしくお願いいたします。
2021年04月12日(月)
「もしもし亀よ、亀さんよ ♪」と唄われ、3歳児でも知っている亀に対して、のろまな動物という印象を皆さんお持ちではないでしょうか。駆け競べでウサギに勝ったのも、ウサギが油断していたからで、所詮ノロノロとしか動けない哀れな動物だなんて思っていませんか。
バイオロギングで調べたところ、ウミガメが大海原を泳いでいる時の速度は秒速50cm程度で、秒速1〜2mで泳ぐ海鳥類や海棲哺乳類に比べて遅いのは確かです。しかし、その速さ(遅さ)にはきちんとした理由があることを博士研究員である木下千尋さんが明らかにしてくれました。
以下の写真は、釣りをしている風景ではなく、2020年のウミガメ調査風景です。海に浮かぶ船上という3密からほど遠い状況においてもマスクをするのは非科学的かもしれません(立っているのが木下千尋)。しかし、感染者がまだ一人も出ていない大槌町民に対して、万が一どころか、億が一にもウイルスをうつしてはならないという我々の心構えの表れです。
ところで、これは調査と書きましたが、間違いではありません。ウミガメの背中に取り付ける速度記録計を深度50mにまで沈め、電動リールを使って何通りかの速さで水面まで巻き上げています。巻き上げに要した時間から曳航速度を得て、記録計で測定されるプロペラ回転数との換算式を得るという観測風景なのです。
以下の写真は一転して室内実験の様子です。水槽の中にはアカウミガメが1頭入っており、板で覆われていない1箇所の水面から時々頭を上げて呼吸をします。その呼気の中に含まれる酸素濃度を分析機で測定することにより、ウミガメの酸素消費速度を調べている所です。
測定内容を理解してもらうため、木下さんが描いたポンチ絵を示します。まあ、こんな感じに実験しているのです。
ウミガメの酸素消費速度は鳥類や哺乳類に比べて12分の1程度と低く、抵抗係数はペンギンに比べて8.6倍ほどもありました。その結果予想されるウミガメの最適遊泳速度は,まさしく測定された遊泳速度と同じ秒速50cm前後であったのです。より詳しくは、以下にある木下さんが描いたイラストを見て下さい。
実は、私自身ウミガメの研究で学位を取得したという経緯から、ウミガメにはヒト一倍強い思い入れがあります。今回、私の元で学位を取得した木下さんがウミガメの優秀性を証明する研究成果を上げてくれたことを、内心誰よりも喜んでいるのです。
より詳しく知りたい人は、以下のサイトをご覧下さい。
https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/topics/2021/20210222.html
2021年03月11日(木)
<文章:大気海洋研究所 行動生態計測分野 修士1年 松田康佑>
「カジキ」と聞くとどんな生き物を想像しますか?大型で、沖合の海を移動し、長いツノ(口吻)を持つ魚といったところですね。それでは、水族館でカジキを見たことがありますか?高速で泳ぐといわれているカジキは特殊な形態をしているために飼育するのが難しく、この記事が書かれている時点ではこれまでに水族館でカジキが展示された例は2回しかなく、なかなか見られない魚と言えるでしょう。私たちの研究室では、カジキ類を対象としたバイオロギング調査を行ない、この魚の生態を明らかにしようと日々奮闘しています。今回は、昨年行なった高知での活動をご報告します。
筆者とマカジキ
調査の話に入る前に、この調査が行われるに至った経緯を少し記述します。世界中のカジキ釣り師の間で、釣ったカジキをリリースする際、衛星発信器(カジキの行動を記録して衛星経由で送信する装置)を装着して放流する「IGFA Great Marlin Race」が行なわれています。このレースは日本でも行なわれています。このレースでカジキに装着された装置は一定期間経過後に自動的に切り離されて海面に浮上してきます。海面に浮上すると、得られたデータを衛星に発信し、衛星経由で私たちはデータを確認することができます。衛星経由で得られるのは、蓄積されたデータの一部のみです。もしこの装置を回収できれば、カジキ類の詳細な生態を知ることができるのです。
2020年8月に静岡県沖で衛星発信器を装着して放流されたシロカジキが、12月に高知県沖の定置網で漁獲され、装置が水揚げされた漁港にあるとの連絡が入りました。提示されたのは見知らぬ土地の地図。「この漁港のどこかに発信器がある。電池が切れると回収できなくなる。電池切れまで残り時間が少ないから急いで高知へ飛べ」と教授からの指令を受けました。
実際に提示された地図。このどこかに発信機があるはず?
急いで支度して、連絡のあった日のうちに夜行バスに飛び乗って高知に向かいました。コロナの影響で、夜行バスの乗客はほとんどおらず、貸切に近い状態でした。目的の漁港についたのは次の日の昼過ぎ頃。発信器からの特殊な電波を受信するために、専用の受信機で発信器の探索をしました。その様子はまるで金属探知機を使った宝探し。30分ほど探索してゴミの山からようやく発信器を発見することができました。研究室に戻ってすぐに装置をパソコンに接続し、取れたデータを確認しました。
無事に回収された発信機。この装置の中には宝の山が!
得られたデータを解析してみると、発信器を装着したシロカジキが黒潮に逆らって泳いでいる様子が伺えました。しかし今回明らかになったのはカジキ類の生態のごく一部です。彼らの生態をより詳しく知るにはさらに多くのデータが必要です。皆様からのご支援によって研究を継続することが可能となりますので、どうかご助力のほど、よろしくお願いいたします。
発信機からわかったシロカジキの移動経路。
カジキの生態が少しずつ明らかになってきている。
2021年01月28日(木)
オシドリ夫婦という言葉が仲の良い夫婦を表すように、人々は鳥に対して「浮気なんかしない」という幻想ともいえる美しいイメージを抱いているようです。ところが、私達が海鳥の一種であるオオミズナギドリに対して最新のDNA分析技術を導入して調べたところ、期待を裏切る恐ろしい現実が見えてきました。
東京大学大気海洋研究所の臨海実験施設である国際沿岸海洋研究センターは、岩手県大槌町にあります。大槌湾の隣にある船越湾に船越大島という無人島があります。私達はここでオオミズナギドリの生態調査を行っています。オオミズナギドリは林床に巣穴を掘って、オスとメスが毎年1羽のヒナを育てます。3月頃、越冬地の東南アジアから戻ってきたオスとメスは、去年まで使っていた巣穴で再会します。その後、巣穴を補修しつつ時々海に行って餌を捕るのを繰り返し、5月から6月頃に交尾をします。メスが卵を産み落とすのが7月頃、オスとメスが交代で抱卵し、8月中旬から下旬に卵は孵化します。
巣の中で待つオオミズナギドリのヒナ
その後、オスもメスも毎日海に餌とりに行き、夜に巣に戻ってきてはヒナに餌を与えます。ヒナはすくすくと育ち、10月になると親と同じくらいの体重500gにまで成長します。そうなってくると親鳥は餌捕りに大忙しになります。自らの体重が落ちてくると時々北海道東部海域にまで出かけていき、そこでしっかりと餌を食べて自らのコンディションを回復します。哺乳類ではメスだけが子どもに授乳しますが、オオミズナギドリはオスもメスも同等に餌やりをします。メスにとって、子どもを巣立つまで育て上げるにはペアを組むオスの協力が必要不可欠なのです。オスは我が子を育て上げるために、文字通り身を削って餌捕りに奔走します。そんな繁殖形態を持つ海鳥では、オスとメスは生涯ペアを保ち、浮気なんか絶対にしないと思われていました。それなのに、DNAで分析したところ、年によっていくらか異なりますが10から20%のペアで、ヒナとオスの遺伝子が一致しないという真実が判明してしまいました。さらにバイオロギング研究を通じてオオミズナギドリの実際の浮気現場を捉えることに成功し、このDNA分析の結果が正しいことが証明されてしまったのです。
陸上では、オスが次々と複数のメスと交尾する様子を観察出来ます。
果たして浮気はオスの習性なのか、それともメスの意図にもとづくものなのか、謎はまだ解明されていません。
なお、この調査を担当した女子大学院生は、調査機材である暗視カメラを買うために秋葉原に行きました。
熱心に暗視カメラを物色していると、ニヤニヤと笑いながら店員が、「浮気調査ですか?」と尋ねてきたそうです。
彼女は何の迷いもなく「ハイ、そうです」と答えつつ、
「何でこの店員は私が海鳥の浮気調査をしていることを知っているのだろう」と不思議に思ったとか。
そんな一途で純粋な若者たちが、青春時代の数年間を費やして調査に勤しんでいます。
毎シーズン複数の雛を産み育てるスズメ目鳥類などの陸鳥では90%といった婚外受精の割合が報告されていますが、毎年1ないし2羽のヒナを協力して育てる海鳥としては驚くほど高い割合でした。さらに、浮気をされてしまったオスは、されなかったオスに比べて体サイズが小さいという傾向があることも分かりました。この発見をして学位を取得した女子大学院生曰く、「働き者の夫に子育てさせるのは重要だけれども、生まれてくる子どもが小さな体になってしまっては困る。だから、メスは意図的に婚外受精(浮気)をしているのだ」とのことでした。何とも冷静かつ恐るべき繁殖戦略です。
巣の入り口で見つめ合うペア
修羅場なのかもしれません・・・
オオミズナギドリは非常に長寿です。私達は同じ岩手県の三貫島(釜石市)でも調査を行っていますが、2006年にすり切れそうになった古いアルミ製足輪を付けたオオミズナギドリを発見しました。問い合わせたところ1974年8月24日に、山階鳥類研究所によって三貫島で捕獲された若鳥に装着されたリングであることが判明しました。オオミズナギドリは3歳以降に繁殖場に飛来するといわれているので、おそらく35歳以上の個体であろうと推察されます。何割の個体が自分が生まれた島に戻ってくるのか?何歳まで繁殖に参加するのか?浮気をした相手は誰なのか?まだまだ興味深い謎が残されていますが、それを明らかにするには数十年間にわたって調査を継続していく必要があります。
行き倒れているわけではありません
文字通り地べたに這いつくばって鳥調査に勤しむ大学院生の姿です
2020年12月22日(火)
私達が主に扱っている海洋動物は、いずれも長寿で人と同程度もしくはそれ以上の期間におよぶ生活史を持っています。そんな動物たちの調査を継続していくのに、皆様からの長期にわたるご支援が必要不可欠なのです。
「亀は万年」などといわれるウミガメ類ですが、実際何歳まで生きるのか、誰にも分かりません。寿命はおろか、卵から孵化した後、何年かけて性成熟に達するのかもよく分かっていない状況です。私達は、2005年から岩手県大槌町周辺の定置網に混獲されるウミガメ類の調査を進めてきました。アカウミガメとアオウミガメが主に捕獲されますが、甲羅の長さが60cm(アカウミガメ)もしくは40cm(アオウミガメ)前後の大きさで、いずれも産卵のために砂浜に上陸してくる成体雌に比べると小さいために、まだ性成熟に達する前の少年から青年期のウミガメであることが推察できます。
「このカメは何歳ですか?」と地元大槌町の人々にしばしば尋ねられるのですが、「分からないんです」と答えざるをえませんでした。しかし、2018年の夏、ずっと待ち望んでいたアカウミガメが大槌町近辺の定置網で捕獲されました。甲羅の長さが61センチ、体重35kgのカメの体内に、ピットタグという個体識別用のチップが入っていたのです。ウミガメで学位を取得して、大槌町で地道に調査を継続してきた博士研究員の福岡拓也さんが発見しました。
背中に人工衛星発信器を装着したアオウミガメを放流する福岡拓也さん
これまで、岩手で混獲されたウミガメを放流する際に、四肢の付け根に取り付けるプラスチック製および金属製の標識以外に、ピットタグの体内挿入も行っていました。四肢の付け根に付ける標識は数年で脱落してしまいますが、ピットタグは一生体内に残ります。岩手県で混獲されたウミガメにピットタグを挿入する前に、念のため既に挿入されたピットタグが無いかを確認する作業を福岡さんは実直に続けていました。2018年8月27日に捕獲された個体に対し、いつものように専用読み取り機で確認作業を行ったところ、思いがけず反応がありました。番号を確認すると、私達が岩手県で取り付けたものとは異なるタグでした。そこで、ウミガメ関係者に問い合わせを行ったところ、2008年に屋久島で孵化した幼体に挿入されたものであることが判明したのです。我々が知る限り、卵から孵化した幼体が甲羅の長さ60cmになるまで10年を要したことを示す世界初の記録です。水族館で栄養が豊富な餌を与えて育てると4〜5年でその程度にまで育つことはわかっていました。野生では水族館で与えられているよりも栄養価が低い餌を食べているようです。その後も調査は継続していますが、ピットタグが挿入されていた個体はまだ発見されていません。
私達は毎年数十個体の亜成体にピットタグを挿入して放流し続けています。ミトコンドリアDNAを分析した結果からは、岩手に来遊してくるアカウミガメは鹿児島県の屋久島産、アオウミガメは東京都の小笠原産であることが判明しています。2005年以降岩手からウミガメを放流し続けてきましたが、まだどこの産卵場からも連絡はありません。岩手から放流したウミガメが何年後にどこの砂浜に産卵上陸するのか、いつかくるだろうその日を心待ちにしながら、今後数十年にわたってウミガメ調査を継続していきます。
このように気が遠くなるような継続調査は長くても5年で打ち切られてしまう競争的資金では難しく、より長期的かつ安定的な資金が必要となります。そのため、皆様からの継続的なご支援がバイオロギングの大きな支えとなるのです。
本プロジェクトは令和2年3月31日をもって寄付募集を終了いたしました。
ご支援ありがとうございました。
これまでの成果報告および基金残高の今後の活用方針につきましては、「活動報告」ページをご覧ください。
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生き物たちの世界のレポートも楽しく拝見しています。今後とも応援しています。
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皆さんが安全に気持ち良い研究を出来る様応援致します。
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