東京大学基金ホーム > 史料編纂所所蔵「落合左平次道次背旗」保存修理完了のご報告
(史料編纂所基金)

史料編纂所所蔵「落合左平次道次背旗」保存修理完了のご報告
(史料編纂所基金)

史料編纂所所蔵「落合左平次道次背旗」保存修理完了のご報告
(史料編纂所基金)

 史料編纂所では、株式会社図書館流通センターからお寄せいただいた寄付金の一部を財源として、所蔵史料のひとつである「落合左平次道次背旗」の修理を実施いたしました。

落合左平次道次背旗 表面落合左平次道次背旗 裏面
落合左平次道次背旗 表面          落合左平次道次背旗 裏面
表裏は基本的に鏡像関係になっているが、裏面には胸骨の部分に短い横線が描かれていない。


 本史料は、戦国時代から江戸時代はじめの武将落合左平次道次(?~1620)が、合戦の際に背中にくくりつけたとされる旗指物です。道次は、徳川家康の配下で戦い、のちに家康の子である紀州藩主徳川頼宣に仕えました。
 旗に描かれている人物は、鳥居強右衛門(?~1575)といい、天正3年(1575)5月の長篠の戦いの時に、家康の将として長篠城(現在の愛知県新城市)を守った奥平信昌の家臣です。強右衛門は、武田勝頼の軍勢に包囲された長篠城を脱出し、援軍を要請する使者として、岡崎の織田信長・徳川家康のもとに向かいました。首尾よく役目を果たしたものの、帰路で武田軍に捕らえられてしまいます。強右衛門は武田軍の命令に背いて、援軍が到着することを味方に伝え、長篠城の危急を救おうとしました。決死の報告を受けて、城兵の士気は高まり、長篠城防衛を全うすることができましたが、強右衛門は、激怒した武田軍によって磔刑に処されました。
 落合道次は長篠の戦いに従軍し、強右衛門の磔刑の様子を実際に見たと伝えられています。強右衛門の義心に感動し、磔にされた姿を記録して、自身の旗指物に用いることにしたのです。
 この背旗は、もとは掛幅装とされていたものですが、平織絹製の旗本体(以下、本紙と表記)と表具裂や糊とのバランスが悪く、また巻いて保存されていたために、全体に大きな横折れが生じ、画面が擦れて絵具層が劣化するなど、多くの問題が見受けられました。今回全面的な修理を実施するとともに、解体時でなければ不可能な調査を行うことによって、多くの新しい知見を得ることができました。
 落合家に伝来する記録では、背旗には戦闘で用いられた際の傷や汚れがあるとされています。自然光下での観察によって、虫喰いとは異なる大きな穴は「矢・鉄砲・鑓疵」と判断され、またポリライト(波長可変型光源装置)を利用した調査の結果、強右衛門の右足元にある滲みが血痕であることが確認されました。これらの事実から、本背旗が、落合道次とともに実戦をくぐりぬけたことが証明されたといえます。さらに、裏打紙を除去したところ、旗の裏面にも表面と同様の人物像が描かれていることが判明しました。

ポリライトを利用した画像処理
ポリライトを利用した画像処理
タンパク質に対する蛍光反応で、血飛沫と思われる形が確認された。


 修理は、文化財修理業者の株式会社修美と史料編纂所との共同事業として行われました。修美の主任作業者・作業責任者と史料編纂所の作業監督者の三者が、作業工程ごとに打ち合わせと確認を行い、修理に関する情報を共有しました。主に作業監督にあたったのは、史料編纂所史料保存技術室で史料修理を担当する高島晶彦技術専門職員・山口悟史技術職員です。
 修理は、以下の手順で進行しました。①裏打紙や糊等を除去する ②本紙の欠失箇所を補修絹で補填する ③両面からの鑑賞を妨げず、かつ本紙を安定した状態とするために、ポリエステル織物を支持体として採用し、裏面全体を覆うように縫い付ける ④周囲にとりつけた補修絹に木製の角棒を接着して、額装の形に改装する。この額を、桐製の保存箱に納めたのですが、平常は本紙に負担がかからないよう平置きの状態で保管し、展示する際には、額に雲脚をとりつけて立て、表裏両面を鑑賞できるようにしました。修理完了後は、史料編纂所史料保存技術室で写真撮影を担当する谷昭佳技術専門職員・高山さやか技術職員によって、全図写真撮影を行いました。

修理作業① 裏打紙の除去  修理作業② 欠失箇所に補修絹を補填
修理作業③ ポリエステル織物の縫い付け作業  修理作業④ 本紙を木枠に貼り込む
 (左上)修理作業① 裏打紙の除去
 (右上)修理作業② 欠失箇所に補修絹を補填
 (左下)修理作業③ ポリエステル織物の縫い付け作業: 極細針と極細絹糸で縫い付ける
 (右下)修理作業④ 本紙を木枠に貼り込む: 本紙の伸縮に対応できるよう、遊びを設けた二重構造の額装とした


 修理後の画像は、史料編纂所データベース(ホームページ: https://www.hi.u-tokyo.ac.jp/index-j.html→データベース検索→所蔵目録データベースで「落合左平次道次背旗」を検索)でご覧いただけるほか、株式会社図書館流通センターの関連会社TRC-ADEAC株式会社が運営するデジタルアーカイブシステム「ADEAC」(https://trc-adeac.trc.co.jp/)にも搭載されています。今回の修理事業を可能としてくださった株式会社図書館流通センターのご厚意に、あらためて深く感謝いたします。

 史料編纂所は、日本前近代史の研究所として、100年以上にわたって日本史史料の研究・編纂を続けてきました。その過程で古文書・古記録その他の多くの史料を所蔵するところとなりました。現在、国宝1点・重要文化財16点を含む貴重史料約20万点を所蔵しています。これらの史料を保存・公開し、文化・研究の資源として長く伝えていくためには、さらなるご支援が必要です。みなさまのご理解とご協力をお願い申し上げます。

引き続きご支援をお願いします(史料編纂所基金)

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